わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
カモネギ、とは言っても魔物との戦いだ。
野盗ならまだ「ぼっこぼこにされる程度」で許してもらえるかもしれないけれど、今回はよりによってオークである。
逆にシルヴィアたちは命まで取られないかもだけれど、ある意味、死ぬよりひどい目に遭わされかねない。
「準備は万全にしておかないとね……」
図書館でオークについて調べたり、神聖魔法のおさらいをしたり、神殿でお祈りをするついでに聖女アンジェリカへ『あるお願い』をしたり。
そうしているうちに遠征訓練当日がやってきて。
「すっかりご令嬢の仲間入りじゃないか、シルヴィア」
シルヴィアはアンジェと共に上級騎士学校一年生の面々に合流した。
軽装かつ旅用の丈夫な衣装ではあるもののスカートを穿いたシルヴィアにまず声をかけてきたのはくすんだ赤毛の少年。
かつて三度にわたって求婚を行ってきた──。
「ダミアン。顔を合わせるたびに嫌味を言うのやめてよ……」
「僕にまったく靡かない女なんかそれで十分だろう」
ふん、と、彼は顔を背けた。まったくかわいくない。
「マルグリット様、サラさん。どうぞよろしくお願いいたします」
「ええ、こちらこそ」
「いい遠征にしましょうね」
引率の責任者はマルグリットとサラだ。
遠征は人数的な問題で学年別。知り合いの固まっている一年生に彼女らが振り分けられた。
「それじゃあシルヴィアとアンジェ様はこちらへ」
「え、わたしたちも指導者側なんですか?」
「当然でしょう? 戦略家見習い様と聖女見習い様を生徒と同じ扱いはできないわ」
というわけで、上級騎士二名を含む正規騎士と一緒に並ばされる。
「我々はこれから徒歩三日の距離にある平原へと向かう!」
代表となったマルグリットが大きな声で宣言。
こういうところを見ると体育会系で育った女性だなあ、としみじみ感心。
と思っていたら演説の後に「では、遠征に同行する協力者からも一言いただきたい」と視線が。
「わたしたちも話すんですか!?」
「正式に戦略家になったらこんなのしょっちゅうよ?」
「うう……」
プレッシャーを感じつつ前へ。
「今回、皆様に同行させていただくことになりましたシルヴィア・トー男爵です」
旧知の者ばかりなので「知ってる」と野次が飛んでくる。やりやすいのかやりづらいのか。
「今回相手にするオークは人間以上の力と体力を持つやっかいな相手です。ですが、数と知能ではこちらが上。慌てることなく複数人で相手をするようにしてください。困った時はまず自分たちの身を守ることを最優先に」
最後に「必ず生きて帰りましょう」と締めると、無事に拍手をしてもらえた。
「突然振ったのに、きちんとできていたじゃない」
「心臓に悪いのでやめてください……」
演説の後は準備をして出発。
生徒たちは徒歩だけれど、シルヴィアとアンジェには馬車が用意された。湖行きで利用した荷馬車ではなく、貴族の移動用の座席つきのものだ。
「なんだか至れり尽くせりですね」
「非戦闘員に倒れられても困るもの」
約三年前──十歳の時は一日の距離を往復するだけだったのが今年は三日の距離を移動して魔物討伐、それから帰ってくるハードワーク。
確かに体力を温存しておかないと身体がもたない。
正規騎士たちから指示の声が飛ぶのを聞きながら、ありがたく休ませてもらうことにした。
「シルヴィア様。今回の遠征についてどの程度ご存知ですか?」
出発まで、そして出発してからも時間がたっぷりあったのでアンジェとそのあたりを確認。
「できる限りの情報は頭に入れてきました。これから向かう平原一帯にはオークがよく集落を作るようですね」
魔法と魔道具の力もあって土地の開墾は進んでいるものの、国境の端まで街道を整備したり街や村に丈夫な壁を作るほうが優先で、国内には未だ、普段人の立ち入らない場所がたくさんある。
前世の日本でさえ田舎に行くと熊や鹿が出てくるわけで。
気づいたら森に魔物が住み着いていたとか野道で魔物に出くわした、なんていう話は事欠かない。
「定期的に出没が確認されるので遠征訓練でもよく訪れる場所らしいです」
「遠征先が決まってからしばらく経ちますが、その間に討伐は行われていないのですか?」
「オークは発情すると人里を襲って女をさらいますが、そうでないとあまり暴れないんです」
性欲過多であると同時に臆病でもあるのだ。
なので、活動が活発化していなければある程度放置が可能。
ふらっと街道を外れた旅人が捕まるケースもあるので、集落の規模が小さいうちはそうした犠牲だけで満足してしまったりもする。
「ある程度集落に接近した後、斥候を派遣、正確な場所を突き止めたうえで包囲する予定だそうです」
アンジェはほう、と息を吐いて、
「さすがです。そこまで把握されるのは大変ではありませんか?」
「これでも戦略家見習いですからね。こういう時こそ頑張らないといけません」
今のところ事務作業をさせられることも多いけれど。
「もし、不測の事態が起こった場合には作戦立案にも関わることになるかもしれません。そうそう変なことは起こらないと思いますけど……」
「あら。そう言って毎回何かしらトラブルに遭っているじゃない」
下着が喋った。
「わたしたちを迎え撃った
「まあ、最悪でもあんたとその子くらいは守るから安心しなさい」
「我々はまず負傷者の治療を優先しましょう。微力ながら私もお手伝いいたします」
「ありがとう、ヴァッフェ。ゼリエも」
ゼリエも元巫女、さらに言えばシルヴィアの魔法行使を身近で見ているので現役時代よりもむしろ腕は上がっている。
神聖魔法使いが三人もいれば即死でない限り負傷者の対処はできるはずだ。
そうして移動、小休止、移動。
日が暮れてしまうより前に開けた場所にテントをはって野営。
シルヴィアたちのテントはマルグリット、サラと一緒だ。騎士や生徒たちが準備してくれ、食事の用意もしてくれる。本格的にやることがない。
「食事が物足りないのは我慢してちょうだいね」
「そんな。十分すぎるくらい美味しいです」
「このところ貴族学校の上等すぎる食事をとっておりましたので、逆にほっといたします」
「あはは、そっか。神殿も必要最低限の食事だもんね」
その貴族学校の食事に慣れているシルヴィアだけれど、前世の感覚的にこういう時の食事は「乾パンと水」でも特に違和感がない。
終わりの見えない粗食だったらそのうち暴れ出したくなるかもだけれど。
「今のところ他の魔物や野盗の影はありませんね」
「そうそう出くわさないと思うわ。奴ら同士でかち合う可能性も高いから」
被害を避けて縄張りを離すことが多いのだという。
と。
「こんばんは。お邪魔してもよろしいかしら?」
「あ、シルヴィア! ご飯足りてる? おやつあるよ? 食べる?」
「す、すみません。エリザベート様とクレールさんが聞いてくれなくて」
仲間たちが指揮官用のテントに顔を出した。
「ふふっ。本来なら『上下関係を弁えろ』って言うところだけれど」
「エリザベートたちは半分こっち側だからね」
三人は生徒ではあるものの別働隊というか班を分けられている。
実戦経験が豊富なうえに実力的にも上位、『銀百合』の中核メンバーでもある。むしろ指示を出したり他生徒のサポートを期待されているのだ。
「さすが、クレールたちはぜんぜん平気そうだね」
「もちろん! あたしたちはこういうところ慣れっこだし。むしろ落ち着くくらい?」
「では、騎士団発足の暁にはクレールへ優先的に外の任務を回しましょう」
「あれ? ねえエリザベート? それシルヴィアと会える時間が減らない?」
テントに満ちる明るい声。
これではなんだかいつもどおりだ。
だけど、そんな雰囲気がとても落ち着く。シルヴィアはこういう風景が見たくて騎士団設立に同意したのだから。
けれど。
この遠征訓練の果てには思わぬ強敵が待ち受けていた。