わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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ピンチはチャンスでチャンスはピンチ 3

「シルヴィア様は、戦うのが怖くはないのですか?」

 

 揺れる馬車の中。

 尋ねられたシルヴィアは「そうですね……」と間を置いてから答えた。

 

「もちろん怖いです。でも、そうするべきだ、と思っているから戦えるんだと思います」

 

 ゲーム感覚──と言ってしまうと悪いことのようだけれど、この世界でいちいち戦いをまともに受け止めていたらやっていけない。

 街にいるぶんには基本的に平和だとはいえ、ある日突然ドラゴンがやってきて街が壊滅、なんていう可能性もゼロじゃない。

 そうでなくても魔物も悪党もお構いなしに襲ってくるのだし。

 多少鈍感になっているくらいでちょうどいい。

 

 アンジェは「そう、ですか」と胸を押さえて、

 

「私は怖いです。そして、今でも時折考えてしまいます。たとえ魔物でも、命を奪うことが本当に正しいのかと」

 

 聖女の素質を認められ、幼くして家族も名前も失った少女。

 聖女として「魔物は浄化すべし」と教えられながら、それでもなおそうして悩み苦しめるのは、逆説に彼女に豊かな素質があるから。優しく真面目である証拠だ。

 

「魔物には言葉も、神の教えも通じません」

 

 彼らには理解する気がないどころか、理解する能力がない。

 

「わかりあえず、共存もできない相手は敵とするしかありません。割り切ってしまったほうが楽だと思います」

「アンジェリカ様も同じようなことを仰っていました」

 

 聖女アンジェリカは年齢を重ねている分だけ現実を見ている。

 優しさだけでは世の中はやっていけない。

 理屈なく悪意を向けてくる相手も、別の正義で対立する者もいる。

 

「でも、アンジェ様が悩むのは良いことなのかもしれません」

 

 微笑んで告げると、少女は驚いたように目を丸くした。

 

「そう、なのでしょうか?」

「はい。きっとそれがアンジェ様の良さなんです。あなたの優しさがいつかなにかの役に立つかもしれません」

 

 神が人にそれぞれ役割を与えているのだとすれば、大きく間違ってもいないはずだ。

 

「力が足りない分は仲間の力を借りましょう」

 

 幸い、シルヴィアたちにはクレールたちがいる。

 アンジェリカが『銀百合』に協力してくれるのにはそういう意味があるのかもしれない。

 少女は「はい」と深く頷くと馬車の窓から遠くの空を見つめた。

 

「私たちの役目を必ずやり遂げましょう。オークによる犠牲者を一人でも減らせるように」

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 二日目は近隣の村の傍で野営をした。

 ついでに聞き込みを行うと、先日、一人旅の女性が村を立ち寄ったという。そして翌日、村人が周辺の見回りをしていると彼女の所持品が草原に落ちているのを発見した。

 オークに連れ去られたと見てほぼ間違いない。

 

「……まったくもう。女の一人旅なんて危険すぎるわ」

「マルグリット様、その方はまだ生きているかもしれません。移動を早めることはできませんか?」

「ごめんなさい、それはできないわ。無理をすれば疲れが出る。その分だけ戦いが不利になるもの」

 

 一人の人間のために若者たちを危険には晒せない。

 

「これが例えば、この村の危機だったなら考えたかもしれない。……人の命を天秤にかけるのは残酷だけれど、納得してちょうだい」

「はい。申し訳ありません、我が儘を言ってしまいました」

 

 答えて目を伏せる少女を見て、マルグリットはため息をつき、

 

「明日の出発を少し早めましょう。早起きになるけれど我慢してくれるかしら?」

「っ、はいっ!」

 

 三日目の午後には十分会敵できるペース。

 少し出発を早めたこともあって、翌日には昼食休憩を取りつつ斥候として数名を送り、敵の様子を探るところまでこぎつけた。

 斥候に選ばれたのは、

 

「みんな、くれぐれも気をつけてね?」

「大丈夫。なんならあたしたちだけでやっつけてきてもいいくらい」

「うん。イズの負担が大きくなりそうだからぜったいやめてね?」

「ひどい。オークの十匹くらい三人でもなんとかなるってば!」

 

 まあ、クレールたちなら実際無理ではないだろうけれど。

 

「見つかって逃げられない、とかなら仕方ないけど、そうじゃないなら無理する必要はないよ。……万が一だってあるんだから」

 

 右の握り拳を突き出すと、クレールも「そうだね」と同じように拳を出して。

 こつん。

 

「死んじゃだめだからね、クレール」

「心配しすぎだってば。……約束する。シルヴィアのところへ必ず帰ってくる」

 

 しんみりしすぎて逆に死亡フラグなんじゃ、とは後から思ったけれど。

 幸いクレール、エリザベート、イザベルの三人は無事に偵察をやり遂げた。

 

「確認できただけで敵は十二。気づかれてはいないと思いますわ」

「見張りはいたけど平常通りって感じだったよ。さらわれた旅人は見当たらなかった」

「集落の中に隠されているのかもしれないわね。大事なものを外に放置する意味もないし」

 

 マルグリットがこちらを見て、

 

「せっかくだからシルヴィアの意見を仰ぎましょうか。この状況、どう見るかしら?」

「そうですね……見晴らしのいい地形ですし、大人数で行ったら確実に気づかれると思います。こっそり包囲するのは難しいんじゃないでしょうか」

「そうね。となると正面突撃?」

「いえ、せっかくですから油断を誘いましょう。三分の一程度の先行部隊を送って敵が迎撃体制に入ったところで残りの部隊を送り込むんです」

 

 シルヴィアの作戦は日頃の勉強と前世で培ったゲーム知識の賜物だ。

 戦略SLGにおける作戦会議なんてフレーバーというか「今回のマップはこういう経緯で生まれたんですよ」という説明程度のものだけれど、ふーん、とか言いながらいちおう読んでおいてよかった。

 どうやら無策よりはマシな作戦が立てられたようで、マルグリットは「いいわ」と頷いてくれる。

 

「それで行きましょう。先行部隊を指揮するのは──」

「なら、ボクに行かせてください。人が多くなると実力を出しづらいので」

「そうね。それじゃあ、ラシェル・アランブール正規騎士を先行部隊の指揮官に任命します」

「はっ! 必ずや任務をやり遂げます!」

 

 後続部隊を大きく遅らせる必要はない。

 残りの三分の二も十分もしないうちに出発。けれど、その僅かな間が相手を油断させたらしく、生徒たちは見事、敵を逃がすことなく捕捉することに成功。

 

「一人で前に出ないで! 班の仲間と連携して一体ずつ倒しなさい!」

 

 数ではこちらが数倍。

 オークは人間並みの身長に人間を大きく上回る体格をしていてかなりタフであるものの、その動きはきちんと見ていれば十分かわせる。

 複数人で攻めるとあっさりその生命を刈り取られていく。

 

「うーん、ちょっと物足りないけど、仕方ないよね」

「この戦闘狂。……まあ、どうせならもう少し武功を挙げたかった、というのは同意見ですけれど」

 

 もちろんクレールたちは危なげのない大活躍。

 クレールはオークの太い腕と正面からやりあって勝てる怪力だし、エリザベートの速く正確な一撃は敵の心臓を見事に貫通、イザベルが身動きすらせずに放つ矢は味方をさりげなく的確に援護。

 少数の護衛と共にシルヴィアたちが到着した頃にはもう大勢は決していた。

 目に見えるところにオークがいなくなると、指揮官役のマルグリットは捜索を指示した。

 

「焦る必要はない! 生き残りに注意しながら集団で捜索せよ!」

 

 最終的に討伐されたオークは十五だった。全て活きの良い雄である。

 さらわれた女性の姿は──なし。

 報告を聞いたアンジェはほっと胸をなでおろして、

 

「さらわれた、というのは勘違いだったのでしょうか?」

「それならいいんですけど……なんだか少し引っかかるような」

 

 集落には子供がいない。それどころか老齢のオークも。

 繁殖意欲旺盛なオークが?

 もちろん、高齢に達する前に狩られているだけかもしれないけれど。

 

「別に集落がある、という可能性はないでしょうか?」

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