わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
土を固めただけの簡易的なものとはいえ、オーク集落には屋根がある。
一行はひとまず野営をすることにした。
オークの死体は一箇所に集めたあと、シルヴィアたちの神聖魔法で浄化する。魔力は消耗するものの、衛生的だし埋葬の手間も省ける。
そのうえで主要メンバーによる相談が行われて、
「可能性はあるけれど……。辺り一帯を捜索するにしても骨が折れそうね」
「リゼット様に無理を言ってでも来てもらっておけば良かったかも」
魔法の得意なリゼットがいれば風の魔法で飛行偵察ができた。
「マルグリット様たちは飛べませんか?」
「できないことはないけれど、長くは保たないわ。……まあ、ないよりはマシかしら」
「それなら、マルグリット様がサラさんを運んだ後、サラさんが飛ぶのはどうですか?」
残念ながら、これは無理だと言われてしまう。
「飛行魔法は持ち上げる物の重さが重要だから、いくら私が怪力でも関係ないの」
「むう……じゃあ、マルグリット様がサラ様を投げるとか」
「それは……できるわね?」
「待って、二人ともなんで乗り気になってるの!? それ絶対怖いんだけど!?」
上に放り投げられた後で魔法を使えと言われたサラは当然の如く拒否反応を示すも、
「残念。あたしが魔法使えれば喜んで飛ばされるのに」
「……後輩にそう言われるといいところ見せたい気もしてきたかも」
やるなら日の暮れないうちのほうがいい。
「マルグリット様、できるだけ真上に思いっきりお願いします」
「任せて」
「やっぱりやめておけば良かった……!」
「安心して。ちゃんと受け止めてあげるから」
一帯にサラの悲鳴が木霊して──上に投げ飛ばされた身体が風に乗ってさらに舞い上がっていく。
あれはなかなか気持ち良──怖いだろう。ぜったい怖い。
落ちてきたサラはマルグリットがしっかりキャッチして、
「どうですの? なにか掴めまして?」
「集落らしきものは見当たらなかった。……でも、向こうに一体だけオークが見えた」
指さされたのは村から遠ざかる方向だ。
「気づかないうちに逃がしていた……ということでしょうか?」
イザベルが首をかしげつつ口にするものの、みんな「そんなはずはない」という表情。
「ちょうど散歩や狩りに出ていた個体、ということならわかりますけれど、ここから逃がしたわけではないはずですわ」
「いちおう調べておいたほうがいいかもね」
早めに食事を済ませた後、少人数で偵察に出ることにした。
クレール、エリザベート、イザベル、それにシルヴィアとアンジェ。
「なにも二人まで一緒に来なくても」
「だって気になるんだもん。それに、そんなに距離はないはずだし」
「時間が経っていますからもう移動してしまっているはずですけれど、徘徊しているオークがいるなら狩っておいて損はありませんわね」
視界は照明の魔道具があるので暗い中でも十分に通る。
サラの指定した方角にまっすぐ歩いて──歩いて、歩いて。
「さすがにもう着いている頃だよね?」
「そうですわね。やはり逃げてしまった後だったと……」
「待ちなさい。あなたたち、歩く方向が途中で狂っているわ」
制止の声はシルヴィアの服の中から上がった。
「ヴァッフェ?」
クレールが不思議そうに近寄ってきて、
「リボン止めたのは知ってたけどいまどこにいるのさ?」
「言っていなかったかしら? シルヴィアの胸を包みこんでいるの」
「はあ!? なにそれ羨ましい──じゃなくて、なんかえっちなんだけど!?」
「いや、ほら、だって完全オーダーメイドの下着だよ? すごく快適なんだよ?」
「確かにそれは、いくらお金を積んでも作れませんけれど」
エリザベートにまで呆れられてしまったものの、今はそんなことを言っている時じゃない。
「歩く方向って狂いやすいものだけど……わたしたち、魔道具の方位計を使って歩いてたんだよ?」
常に北を示すコンパスのようなものだ。
高級品なので全員に配ったりはできないものの、こういう時には役立つ。
役立つ、はずなのだけれど。
「魔法的な欺瞞が施されているようね。……私もまさかとは思ったけど」
「人の感覚だけならともかく、魔道具まで誤魔化す魔法ですの?」
全員が不穏な気配を感じて黙り込んでしまう。
これは、ひょっとすると思った以上に。
「やっかいごと、だよね?」
「間違いありませんわね。誰かがなにかを隠すために高度な魔法を張っているのですわ」
「……ヴァッフェさん。その魔法って解除できるんですか……?」
「一時的に中和するくらいなら可能だけれど、それをしたら『気づいた』ことが相手にもバレるわよ?」
相手に「迎撃してください」と言っているようなものだ。
「一回帰って報告するしかないね」
「……ですわね。こんな情報、あまり持ち帰りたくありませんけれど」
話を聞いたマルグリットは「本当なの……?」と半信半疑。
「あなたたちにそんな魔法の心得はないでしょう? いえ、それ以前にいったい誰がなんのために、こんな場所に潜んでいるって?」
「ああもう、面倒だからこの二人にも明かしちゃいなさいよ」
「え、今誰が喋ったの!?」
秘密というのはこうして広がっていくんだろう。
シルヴィアたちはマルグリット、サラにもヴァッフェの存在を説明。
前にかけた神聖魔法で二人はシルヴィアに敵対できないため、騒ぐのは我慢してくれる。
「秘密にしていたのは理由があるんでしょう?」
「もちろんですわ。彼女の存在が露見すれば国は殺そうとするでしょうし」
「私もさすがに殺されるとなったら抵抗するしかないわね」
服や武具に化けられる魔族である。
殺されたフリをして誰かの装備に擬態、内側から騎士団を一人ずつ殺していく……とか、やろうと思えばできてしまいかねない。
「……はあ、とりあえず納得したわ。悪用するつもりならとっくにやっているでしょうし」
「すみません。信じてくださってありがとうございます」
もちろんこの秘密についても口外禁止を誓約してもらっておく。
これで情報の出どころは納得してもらえたところで。
「相手はいったいなんなんだろう? 悪の魔法使い、とか?」
「野に下った天才がいないとは言い切れないけれど、オークの出没と関わっていると考えると……魔物を操る魔法は人の手に余るでしょう」
これに関しては恩恵の力と考えればその限りではない。
現に、シルヴィアたちはゴブリンを生成する能力の持ち主を知っている。
「上位種なら魔物を操るくらいわけないわよ? あいにく私はそこまでの力を失っているけれど」
「つまり、エルフや」
「魔族」
背筋がぞくりとした。
そんなものが関わっているとすれば、これはもう陰謀のレベルだ。
気づかなかったことにしたい。
けれど、放置したところで事態がなくなるわけじゃない。
「……どうする?」
明らかにするか、都に戻って報告するか。
「報告に戻っている間に拠点を移される可能性もあるかもね。こちらが怪しい動きをしたことはバレているわけだし」
「調査団が派遣されてくる頃には一週間以上が経過している。……なんの痕跡も残っていない可能性はある」
残る選択肢はあまり多くなかった。