わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
翌朝、マルグリットが魔道具を使って騎士団本部と連絡を取った。
さすがに騎士団長(元副団長)も緊急事態は理解してくれ、国王への報告を約束してくれた。戻って直接話すよりはだいぶ速く済む。
『その間、お前達は現地の調査を行え。その程度ならばお前達でもできるだろう?』
「お待ち下さい、閣下。強力な欺瞞の結界を張り続けられる相手です。この場にいる戦力では不足が──」
『何も戦えと言っているわけではない。調査だ。情報を集めておけば良い。数も種類もわからないのでは対処のしようがなかろう』
「ですから、藪を突いて蛇を出さないためにも追加の兵力を!」
『ならぬ。不確かな情報で戦力を動かせばそれこそ危機を招きかねん』
向こうの言う事にも一理ある。
可能性としては低いが、こちらの状況自体が何らかの罠かもしれない。
手薄になった都、あるいは国王が狙われないとは言い切れない。
十分な戦力を動かすには国王の承認が必要、となると派遣には時間を要する。
「閣下は我々に死ねと仰るのですか?」
『お前達の無事を祈っている』
挑発に憤ったのか、最後の声には苛立ちの色があった。
マルグリットは通信の腕輪を外すと地面に叩きつけようとして、ぎりぎりで止めた。
「さすがにあの方も騎士複数名、上級騎士学校の一年生全員を死なせるつもりはないでしょう」
「報告を過小評価している。被害が出ても嫌がらせ程度で済む、と考えているのですわね」
「かなり正直に報告したんだからわかってくれてもいいと思うけど」
わからず屋というのは本当にどうしようもない。
「こちらも嫌がらせでそのまま帰還したいところだけれど」
「そんなことしたらボクたちが非難されますよね? それはあんまり面白くないなあ」
このまま国外逃亡できるなら考えなくもないけれど。
騎士団の長が腐っていようと、ここはシルヴィアたちの生まれ育った国。家族や友人を放置して自分たちだけ逃げるわけにはいかない。
騎士とは国のために命を張る仕事なのだから。
「他にできそうなのは……ここでなにもせず待機、とか?」
あまりにも危険と判断したのでこちらからは干渉しませんでした、なら、現場裁量の範疇でなんとかなりそうだけれど、
「この場に何日も留まって、敵に見逃してもらえればいいわね」
「ここぞとばかりに夜襲をかけてくる可能性もありますわね……」
「食料の問題もあるわ。数日はもつけれど、そうすると帰りの分が心許なくなる」
周辺で狩りをしたり、近くの村から融通してもらうにしても人を動かさないといけない。敵がまだいるとわかっていてそれをするのは危険だ。
「シルヴィア。なにか策はないかしら?」
「そう言われても……わたしだってまだまだ見習いで、経験なんてありません」
そのうえでじっと考えて、
「向こうから襲われるよりはこちらから向かうほうがまだチャンスがあると思います。……でも、生徒たちはまだ危険にさらすのを避けたいです」
「そうね」
上級騎士学校の生徒たちは授業の一環で来ているだけ。
なんだかわからない敵と死ぬかもしれない戦いをする、なんて言われて「はいそうですか」とは言えないだろう。
騎士の本分は知っていても、それを心に刻むために学んでいる最中なわけで。
「一日。……明日の朝まで状況を待ちましょう」
思案した末にマルグリットが出した結論は最大限の譲歩だった。
「今日のうちに生徒たちには事情を話し、都への退避を始めさせる。残るのは『銀百合』関係者だけで十分よ」
要するに気心のしれた仲間たち+女性騎士数名。
シルヴィアはそこで銀髪の聖女見習いを見て、
「アンジェ様も都に戻ったほうがいいと思います。さすがに危険すぎますし──」
その言葉が言い終わらないうちにシルヴィアの手がぎゅっと握られた。
「そんなことを仰らないでくださいませ。……私に、皆さまを見捨てろと仰るのですか?」
「でも、アンジェ様は」
「騎士が国のために命をかけるように、聖女もまた人を救うために身を捧げる役割です」
手は震えている。
それでも、少女は微笑を浮かべて。
「私にもお手伝いさせてください。少しはお力になれるはずです」
「いいんじゃない、シルヴィア。あたしたちだってもう長い付き合いでしょ?」
クレールが敢えて明るく助け舟。
「危険な時こそ一緒に助け合う。そのほうが仲間っぽいじゃない」
「……ん、そうだね。みんなで生き残ればいいんだもんね」
幸い、切り札もあるにはあるにはある。
ここまでやばい状況になるとは思っていなかったけれど、きっと役に立つはずだ。
方針は決まった。
後は敵がどう動くか、生徒たちが納得してくれるかどうかだ。
◇ ◇ ◇
「納得できません」
代表して声を上げたのはクレールやエリザベートを除くと学年の首席である少年、ダミアン・デュクロだ。
「僕達だって騎士の見習いです。危険に飛び込む覚悟ならできています。足手まといにはなりません」
やっぱり、すんなりと帰ってはくれないか。
こういう覚悟の決まった生徒がいるのは想定の範囲内。残るのが当然のようになっているクレールたちだって彼らと同い年なのだ。
けれど、
「デュクロ騎士見習い。それは一年生全員の総意ですか?」
「それは……」
振り返った先には不安そうな表情を浮かべている者も多くいた。
帰れるなら帰りたい。目で訴えている者だって少なくない。
「……だからって、誰かが犠牲になって終わりなんて」
「なに言ってんの、ダミアン。別にあたしたち死ににいくわけじゃないからね?」
答えたのはクレール。
「人数が少ないほうが周りを気にせず戦えるでしょ? ほら、あたしたちって一年くらい前に魔族倒してるし」
「……あの時よりは格段に強くなった自信がありますわ。かなりの大物が来ようとなんとかしてみせます」
「お前ら……」
くすんだ赤髪の少年はシルヴィアと、その傍に控えているよく似た髪色のメイドを見て、
「なら、シルヴィア。お前達だけでも一緒に」
「駄目だよ、ダミアン。わたしの神聖魔法だってこういう時は役に立つんだから」
「……っ」
少年は唇を噛み、うつむく。
人数としてはそう多くないものの、彼に同情的だったり賛同する生徒もいる。
けれど、これだけ言えば納得してくれるか……と。
「なら、せめてギリギリまで見届けさせてください」
少年は意外な提案、そして譲歩をしてきた。
「皆さんが何と戦ったのか、数はどのくらいだったか、見て報告する役が必要なはずです。敵と出会ったらすぐに逃げます。だから」
「……はあ。仕方ないわね」
マルグリットは特に血気盛んな三名を選び、結界を抜けるまで同行させることを決めた。
残りの生徒たちには正規騎士一名をつけて都へと帰らせる。
「悪いけど、残りの騎士には貧乏くじを引いてもらうわ。……もちろん、こんなところで死ぬつもりはないけれど」
同行していた女性騎士たちは「もちろんです」とはっきり答えてくれる。
「むしろ、私たちだけで敵を倒してしまえば大手柄ですよね?」
「騎士団長を痛い目に合わせるチャンスです」
なかなかに逞しい。
共通の敵がいると団結しやすくて助かる。これは怪我の功名だろうか。
「それじゃあ、明日までに少しでも戦力を整えましょうか」
できることはいろいろある。
装備の確認・整備、作戦の立案、体力と魔力の回復、そして。
「シルヴィア。悪いけれど、お願いできるかしら?」
「もともと『銀百合』が始まったらそうするつもりでしたので、大丈夫です」
戦闘に参加するメンバーに恩恵の使い方を教える。
そうすればたった一晩でもかなりのパワーアップが見込めるはずだ。