わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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でたらめにはでたらめで返そう 1

「……さあ、ここからよ」

 

 翌日、朝。

 敵の襲撃はないままに朝を迎えた。気づかれていないのか、それとも万端整えて待ち構えているのか。

 結界の境目はヴァッフェのおかげで認識できる。

 その付近に立ったシルヴィアたちは最後の確認をする。

 

「ダミアンたちはすぐに逃げてね? 絶対だからね?」

「わかってる。それだって重要な役割だ」

「わたくしたちも、逃げられるようなら逃げますわ。無理をする必要はありませんもの」

「でも、逃げられるほど楽な戦いじゃなければ──」

「倒してから帰るしかないよね……っ!」

 

 頷き合い、結界の中へ。

 途端、世界が変わったかのように視界に『それ』が映った。

 

 ()()

 

 レンガが何かを積み上げ、さらに塗り固めて作られた数階建ての巨大建造物。

 建物の前に並んでいる、さらには窓からこちらを覗いているのは、数えるのも馬鹿馬鹿しくなるような数のオークたち。

 要塞の周りには簡易ながら畑があり、動物まで放されている。明らかに管理された生活環境がそこにあった。

 

 

 

 

 

 一行はしばし絶句して、

 

「……オークにこんな知能、あるはずないですのに」

「あはは。これはさすがにボクでも蹴散らすのに苦労するかも」

 

 一人当たり何体を倒せば戦いが終わるのか。

 敵を数え、計算するだけで気が滅入ってしまいそうだ。

 もちろん、こんな数に襲われたらおそらく逃げ切れない。それ以上に、近隣の村でも襲われた日には──。

 

 ダミアンたち見届け役の生徒も驚愕から足を竦ませ立ち止まってしまっている。

 

「ダミアン・デュクロ!」

「っ!?」

「早く行きなさい! 一刻も早くこれを都に報告するの! でないと都だって──」

「は、はいっ!」

 

 マルグリットの一喝でようやく走り出す三人の生徒たち。

 それを見たオークたちが怒号を上げる。思い思いの武器を掲げ、前進してくる様は「集団」というよりももはや「軍」だ。

 シルヴィアたちも身構え、迎え撃つ準備をする。

 

 なんとしても、ダミアンたちは逃さなければ。

 

 そのためには敵の動向に注意して伏兵を許さないように──。

 

「っ!」

「クレール!?」

 

 剣を構えた一行のエースが突然身を震わせた。

 何事かと視線が集まるも、少女は「なんだ」と苦笑して。

 

「ただの蛇だよ、ほら」

 

 特に大きくも毒々しくもない、一匹の蛇が足に巻き付こうとしていた。

 クレールはそれを剣の先で払いのけようとして。

 

「待ちなさい、そいつは!」

 

 蛇の身体が()()()

 体長を倍以上に増加させながら剣に巻き付く。顎を開き、体液の滴る牙を少女の手のひらに食い込ませようとして、

 

「《聖なる光よ》!」

 

 シルヴィア、アンジェの魔法が飛ぶのと、クレールが剣から手を離すのが同時だった。

 蛇の周囲に防壁が生まれて聖光を無効化。

 

「ざーんねん。一人殺せると思ったのに」

 

 巻き付いた剣を手放しながら、蛇は明瞭な人の声を出した。

 否、蛇ではない。

 黒髪黒目の──シルヴィアたちよりも若干幼い程度の少女の姿へと見る見るうちに変貌していく。

 形態の自在な変化。

 ということは、やはり。

 

「魔族」

「そーいうこと。やっぱりわかってたんだ。もう、せっかくここまでオークを増やしたのに」

 

 結界の中にあったのは魔物を集めた要塞であり、牧場だったのだ。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「あたしはティーア。魔族だよ。よろしくね、お嬢ちゃんたち」

 

 お嬢ちゃんはお前だ、と言いたくなるような舌足らずの口調。

 けれど、その奥にあるのは狡猾で残忍な狩猟者の気配だ。

 

「ここを見つけたのは褒めてあげる。もう何年も──十年以上? だーれも気づかなかったっていうのにね?」

 

 少女の右腕が無造作に振るわれると、それが長い蛇に変わる。

 シルヴィアたちを襲いながらさらにけむくじゃらの剛腕に変化。凄まじい膂力を感じさせながら襲い来て──剣を拾いあげたクレールが渾身の一撃で叩き返した。

 

「わー、こわいこわい」

 

 ざっくりと裂けた腕を気にも留めず、元の少女の腕へと戻すティーア。

 クレールは『強撃』まで使って威力をブーストしたようなのに。

 

 どうやら、彼女は主に動物への形態変化を得意とするらしい。蛇などに変身した場合は毒も使えると考えるべきか。

 サイズすら自在に変化する上に身体の一部だけを変えることも可能。変幻自在のスタイルは「少しも気を抜けない」と瞬時に予感させた。

 

「このっ!」

「あははっ! いいよ、まずはあなたが相手なのね?」

 

 無数の蛇に変わった右腕をクレールの剣が次々と切り払う。

 強引に近づいて一撃を狙えば小さな身体がさらに小さく、背に翼を生やしながら変化、小鳥となったティーアは空に舞い上がる。

 追撃の刃をひらりと躱し、次の瞬間には全身を獅子へと変えて上から襲いかかる。

 大きく顎を開き、噛みつこうとした彼女にイザベルの矢が飛んで妨害、一瞬遅れた攻撃をクレールはなんとかはねのけ体勢を立て直す。

 

「なかなかやるねー。でも、こっちにばっかりかまってていいのかなー?」

 

 ブラフ、ではない。

 こうしている間にもオークたちが迫ってきている。

 迎え撃つべく先陣を切ったのはラシェルだ。愛用の槍を構えてオークたちの行く手を阻む。

 その姿は無双を通り越してただの無謀に見えるけれど、

 

「イズ! あなたは向こうを食い止めなさい!」

「でも!」

「いいから! この魔族はわたくしとクレールでなんとかします!」

 

 エリザベートが指示と共に白刃を閃かせティーアに挑む。

 少女魔族は遊んでいるのか、くすくすと笑いながら二人分の攻撃をいなしていく。

 

「あははっ、悪いけどあたしはそこで大人しくしてるお馬鹿さんとは違うよ?」

「馬鹿っていうのは私のことかしら?」

「他に誰がいるっていうのー? 人間ごとき、それも子供に負けたお馬鹿さん?」

「……殺してやろうかしら」

 

 呟くヴァッフェだけれど、今の彼女にそれが難しいことは本人もわかっているらしい。

 忌々しげなため息と共に、

 

「悔しいけど、あいつの力は本物よ。たぶん、生きてきた年月は私以上」

「そーゆーこと。ついでに言うとあたしはちまちま裏工作するようなのは趣味じゃないの」

 

 イザベルが矢を次々に放ってオークを足止め、マルグリットもラシェルの後を追うようにしてハンマーを手に走っていく。

 サラはシルヴィアたちの護衛として残りつつも剣と鞭を構えた。

 

「どうせやるなら派手にやらないと。そのためにこうやってオークを増やしてきたんだよ」

「増やすって、どうやったのさ!?」

「決まってるじゃない。繁殖させたの。おかげで優秀な子がいっぱい育ったんだから」

 

 悪趣味。

 

「上位種族の誇りはないのかしら。この変態」

「成人もしていない人間の服になっているような奴のほうがよっぽど変態だと思うけどー? まあ、そんなのどうでもいいよね」

 

 少女の笑みに嗜虐性が増して。

 

「どうせあんたたちみんなオークの餌食になるんだから」

 

 この状況はまずい。

 魔族がいるにしても自分から矢面に立ってくるとは思わなかった。しかも大量のオーク。乱戦に持ち込まれれば形態変化を持つティーアの危険度はさらに増してしまう。

 マルグリットの部下たちも迎撃に向かった。彼女たちにもそれぞれ恩恵を伝えてパワーアップしてもらった。それでも多勢に無勢すぎる。

 けれど。

 

「そうはいかないよ」

 

 クレールやエリザベート、ほか騎士たちのメイドは一般生徒と一緒に都へ返した。

 けれど、たった一人だけこの場に同行させたメイドがいる。

 シルヴィアと、そしてアンジェの視線が彼女──ゼリエへと向いて。

 

「ゼリエ。お願い、あなたの力を貸して」

「聖女見習いアンジェの名において許可します。あなたの恩恵を用いてオークの群れを打倒してください」

 

 遠征に向かうにあたって神殿で行った「準備」がこれだった。

 ゼリエの恩恵はゴブリンを()()して使役するという恐るべきもの。かつてそれによって騒動を起こしたため、神聖魔法の誓約を行い、聖女の許可がない限り使用できなくされた。

 だから、聖女アンジェリカから限定的な許可をもらってきたのだ。

 

『シルヴィアとアンジェが揃って許可を出した時に限り、恩恵の行使を認める』

 

 その力が、今ふたたび発揮される。

 

「かしこまりました、シルヴィア様。アンジェ様」

 

 答えたゼリエ。彼女の周囲へ次々と、小柄な二足歩行の魔物──すなわちゴブリンが生成され、オークの群れへと牙を剥いた。

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