わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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でたらめにはでたらめで返そう 3

「《鳥居》」

 

 ぶっつけ本番で試した魔法がきちんと機能してくれた。

 結界の入口にどん、と立つ赤い門。

 

「これは現し世と神域を分ける象徴です。魔族の張った目眩ましですが、結界の張られているこの場所にはお誂え向きかと」

 

 鳥居は「神聖魔法の強化」と「範囲の規定」の二つの役割を兼ねる。

 

「私はなにをすればよろしいですか、シルヴィア様?」

「祈ってください。あらんかぎりの祈りと魔力で、聖なる光を重ねます。それを一気に解き放てば──」

 

 曖昧にも程がある説明に、けれどアンジェはしっかりと答えてくれる。

 

「初めての試みですが、やってみます」

 

 鳥居に向けて神の言葉を紡ぎ始める聖女見習い。

 彼女には文章を作ることはできない。けれど、持てる語彙を尽くして祈るだけで構わない。言葉が紡がれるたびに光が鳥居に集まって清浄な雰囲気が満ち始める。

 これにはさすがのティーアも慌て始めた。

 並みの騎士なら一瞬で葬られそうな猛攻がクレールとエリザベートを襲う。片手間にシルヴィアへと向かってきた攻撃をヴァッフェが弾いて、

 

「シルヴィア。いったん離れてあの子たちに手を貸すわよ!?」

「え、それわたし胸が丸出しになるんだけど!?」

「そんなこと言っている場合じゃないでしょう!? それにこの場には女しかいないわよ!」

 

 わかった、と答える前に飛び出していくヴァッフェ。

 空中で形態を変化させた彼女は一本の長剣となってクレールの手に収まった。

 

「力を貸してあげる。私ならあいつにも致命傷を与えられるはずよ」

「ありがと、ヴァッフェ。二刀流かあ。あんまり試したことなかったかも」

 

 言いつつもクレールは左の新たな剣をかるがると振るった。

 二刀流はマンガやゲームで見るほどすごい戦法じゃない。

 武器を二つ持つということはその両方を支えないといけない。うまく扱わないと攻撃範囲も狭まるので、相応しい人間以外は「一本だけの方がマシ」になりかねない。

 けれど、十分な筋力を持っている剣士が、魔力のような「重さと切れ味以上の威力」を備えた剣を振るうなら。

 

「これいいかも。ヴァッフェ、これからずっとこれでいこうよ」

 

 ティーアの攻撃をいなすスピードが倍以上に上がった。さらに、ヴァッフェに斬りつけられた傷は治りが遅い。

 

「馬鹿言わないで。大人しく鞘に収まっているくらいならシルヴィアの胸に触っているほうがずっといいわ」

「それ、すごく変態っぽいんだけど」

 

 さらに、ティーアの変則的な攻撃を、割って入ったサラの鞭が咎めていく。

 

「シルヴィアたちの邪魔になるし、私も参加させてもらうわ」

「この……っ、こんなところでっ!」

 

 相手が冷静なら「結界を解除する」という方法を思いついたかもしれない。あるいは戦いながらではできなかったのか。

 オークをけしかけようにもラシェルとマルグリット、イザベル、他の女性騎士たちがゴブリンと共にその進行を阻んでいる。

 そして、クレールたちが時間を稼いでいる間にシルヴィアたちの準備は進む。

 

「《天に召します我らが神よ》」

 

 マンガやゲームといった怪しい情報源からの聞きかじりのフレーズと共にシルヴィアは手を組み神に祈った。

 

「《生きとし生けるものすべての母よ。どうかわたしの祈りを聞き届けたまえ》」

 

 この世界の神様はだいぶ風変わりというか親しみやすい性格をしているらしい。

 前にもちょっとした手助けをくれたことがあるし、形式にはあまり拘らない。

 大事なのは気持ちと、神のために祈ったという事実だ。

 

「《我らの前に立ちふさがるのは悪しき者。命を奪い、それを楽しむ邪なる者》」

 

 うまくいくだろうか。

 

「《どうか、彼らの罪を許したまえ。どうか、彼らの心を清めたまえ》」

 

 うまくいったとして、十分な威力になるだろうか。

 詠唱と共に身体から力が抜けていくのを感じる。

 

「《どうか、彼らを包み込む聖なる光をこの地に》」

 

 この際だから全部持っていてくれ、とばかりに魔力を捧げると、鳥居に集まった輝きがついに溢れた。

 

 最初に生まれたのは輝線。

 結界の領域を囲むように光の線が円を描き、円の内側に複雑な紋様を描いていく。

 それはシルヴィアの目には漢字のように見えたけれど、全体像を見渡すことはできなかった。できても「これお経じゃん!」みたいなオチが待っていただけかもしれない。

 とにかく。

 

 圧倒的な聖なる力が結界の意味を書き換えていく。

 魔物や魔族の存在を隠すためのものではなく、魔物を浄化し、悪しき意思を消し飛ばすためのものに。

 光が満ちるほどにオークたちの動きが鈍り、ついでにゴブリンたちも苦しげにうめきはじめる。

 そして、ティーアもまた。

 

「人間ごときが……っ。神代の聖職者みたいな魔法を……っ!」

 

 重い身体を無理やり動かそうとするかのように、その攻撃が緩慢かつ甘いものとなる。

 クレールたちはそれをいなしながらも反撃はせず、ただ聖なる力に任せてくれた。

 オークたちが消えていく。

 ゴブリンも、同じように存在を保てなくなって、ゼリエはほっとしたように魔物の生成を止める。

 魔族の身体も少しずつほどけて形を保てなくなっていく。

 

「あ、ねえ、そういえばこれ、ヴァッフェってどうなるの!?」

 

 クレールの声には落ち着いた声で本人が答えた。

 

「安心しなさい、なんともないから。私は別に殺す気も暴れる気もないもの」

 

 シルヴィアたちが「魔族を消滅させてくれ」と願っていたらついでにヴァッフェも消えていたかもしれない。

 けれど、願ったのはあくまで敵対者を止めることと魔物の消滅だ。

 ティーアにしても、こちらと和解する気があれば力を削がれるようなことはないはず。

 けれど、少女魔族は納得がいかないというように、

 

「こんなのズルじゃない! 反則よ! 納得いかない! どうして神様はあんたたちなんかを贔屓するわけ!?」

 

 それは、前世のシルヴィアもたくさん叫んだことだ。

 こんなのはチートだ。

 ツールで不正をしているんじゃないか。

 オンライン対戦で理不尽な負け方をするたびにやりきれない想いを消化しようと根拠のないことを口にした。

 けれど。

 

「ズルなんてしてないよ。わたしたちはわたしたちにできることをやっただけ」

 

 精一杯に、必死に。

 

「勝てたのは、あなたがただ遊ぶつもりだったから。わたしたちが命がけで戦ったから。きっと、それだけなんだよ」

 

 現実的には人それぞれに運もある。ステータスの割り振りは任意に変えられるものじゃない。理不尽なんていくらでも転がっているけれど。

 神様が実在するこの世界では、ばちが当たってもおかしくない。

 

「この、こんな、あたしは──っ!」

 

 最後に、魔族ティーアはシルヴィアに手を伸ばして。

 悲痛な叫びと共に、凶悪かつ歪なその身体を消滅させた。

 きらきらとした光の粒が消えた先には、一匹の、小さな黒猫の姿だけが残った。

 

「結局、あなたも私と同じ末路ってわけね。まあ、あれだけ言ったくせに良心は残っていたみたいじゃない」

 

 同族が死ななかったことにか。

 あるいは、戦いが無事に終わったことにか。

 ヴァッフェが呟いたのが、戦いの終わりを知らせる合図になった。

 結界は、光が収まると同時に消えていた。鳥居もいつの間にかなくなっている。

 オークは一匹も残っておらず。

 仲間たちはそれぞれにほっと息を吐いて武器を下ろした。限界が来てその場に尻もちをつく者もいたし、傷を負っている者も少なくなかったけれど、致命傷を負っている者は誰もいない。

 

「……なんとか、勝てたね」

「はい。私たちの、勝利です」

 

 倒れそうになった身体をアンジェが支えてくれる。

 シルヴィアたちは疲れた身体に鞭打って一箇所へ集まると傷の治療を行い、それから人や物資が残っていないか確認するため要塞の中へと足を踏み入れた。

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