わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
彼は上機嫌だった。
目障りな女騎士どもに仕事を任せたところ、いきなり「自分達だけでは無理です」と泣きついてきたからだ。
たかが子供のお守りもできないとは。
報告内容の通りなら確かに問題ではあるものの、どうせ話を盛っている。自分達の手柄を大きくしようという魂胆が見え見えだ。残念だがその手には乗らない。
国王への報告は迅速に行うが、追加人員の派遣は承認を得てからとした。非力な女どもでも数日間、敵の動向を見張って動きを抑えるくらいはできるだろう。多少痛い目を見るかも知れないが、少しきつい灸を据えてやらねば自分達の立場を理解しない。
女など、子を産み家を守っていればいいのだ。
報告を受けてから約一日半。
国王は多忙にも関わらず、当日のうちに対応を取ってくれた。騎士五名と兵二十名、魔法使い二名の派遣。
ありがたいが、少し早すぎる。
彼は人員の選定に少し時間をかけることにした。通常業務を進めながら片手間に人員リストを作成、部下に招集を任せようとして、
「む」
通信の腕輪が机の上で音を立てた。
対になった腕輪はマルグリット上級騎士に預けている。
「ははは。早速泣きついてきたか」
いい気味だ。これで一つ貸しができる。もし何かミスでもしでかしていたらそれを理由に『銀百合』発足に文句をつけることも可能だろう。
笑みを浮かべながら魔石に触れ、互いの声を繋げて。
『ご報告いたします。敵地の偵察を行ったところ待ち伏せに遭い、魔族一名、およびオーク数百体と交戦。これを掃討した後、捕虜となっていた女性三名を保護しました』
「……は?」
予想外の報告に、思わずぽかん、と口を開けてしまった。
◆ ◆ ◆
「ティーアだっけ。ここで死ぬか、城へ差し出されて拷問に遭うか、シルヴィアと誓約して大人しくするか、どれがいい?」
「なんであたしがあんたたちの言うこと聞かなくちゃ」
「どれがいい?」
「……するわよ! 誓約する! それでいいんでしょ⁉︎」
要塞の中には囚われの女性が三名残されていた。
思ったより少ない。女性たちに話を聞いたところ、用済みになった人間はどこかに連れていかれて二度と帰ってこなかったという。シルヴィアたちは想像しただけで苦い顔になった。
探索中に目覚めたティーアはヴァッフェが自分自身でぐるぐる巻きにした。
神聖魔法で力のほとんどを失って黒猫の姿に固定された彼女は、クレールに剣を突きつけられるとようやく観念。
ちなみにシルヴィアの服は予備のに着替えた。
「シルヴィア・トーとその仲間たちに危害は加えない。不利益になることもしない。勝手に秘密を漏らさない。逃げ出さない」
「ありがとう。……代わりに城へ突き出すのはやめてあげるね?」
「当然よ! そんなところに連れて行かれたら殺されるの確定じゃない!」
魔族は人間を玩具みたいに思っているところがあるけれど、人間は人間で「ろくなことしてこない中ボス」みたいなイメージを魔族に持っている。ウザいし、逃すと厄介だからとりあえず始末しておこうかというノリである。向こうの方が強いからなかなかそんなチャンス巡ってこないし。
「……通信も終わったわ。団長ったらもの凄く驚いていたわ。いい気味よ」
「多少、気分が晴れましたわね。それで、この場所はどういたしますの?」
「検証のために人を送るからそれまで待機ですって。まあ、食糧の問題は解決したし、雨風も凌げそうだしね」
オークは全部消えてしまったし、いっぱい敵がいた証拠があまり残っていないため、敵の持っていた武器と地面にこびりついた血はそのままにしておく。
少なくとも大規模の戦いがあったこと、何者かが拠点を作っていたことは伝わるだろう。
シルヴィアはほっと息を吐いた後、黒猫の前にしゃがみ込んで、
「ねえ。結局、あなたはなにがしたかったの?」
「なにって、暇つぶしよ」
ぷいっと顔を背けながらティーアは答えた。
「人間って寿命が短いうえに何世代重ねても進化が見えないじゃない。玩具にするくらいがちょうどいいから、こっそりオークの軍団を作って襲ってやろうと思ったの」
「そんなことのために十年以上もかけたんですか……」
「? 十年なんてあっという間でしょ? それにオークたちがだんだん増えていくのも楽しいし」
別に本気で隠し通そうと思っていたわけでもなく、いつ気づくかなーとわくわくしていたらしい。それも含めて暇つぶし。
「なんか、前にも似たようなことを聞いた気がする」
「まあ、魔族なんて自分勝手で、人間を見下している種族だもの」
「ヴァッフェが言うと説得力あるね」
シルヴィアの前世だってペットの品種改良とか熱心だったわけで。そのうち自分たちと対等になってくれるかなー、って期待してる種族がいつまでものほほんとしていたら不満を覚えるのもわかる。
「ひょっとして、他にもこういうことしてる魔族ってけっこういる?」
「いるんじゃない? あたしも別に連絡とか取ってないけど、魔族の間じゃ『人間は進歩する気ない』っていうのが定説になってきてるし」
少なくとも伝承が風化して忘れられるくらいの期間は経っているわけで、そう考えると確かに長い。
「武器や魔法は進歩してるし個体として強いのはたまにいるけどさー、そうじゃないじゃない? ……ま、だから、そういう意味だとあんたたちはたしかにいい線行ってるかも」
「わたしたち?」
「女ばっかりで、恩恵を使いこなしてる。あんたたちが子供残して上手く育ててくれれば人間も進化できるかもね」
「なんの希望もないよりはいいでしょう? 一緒に見守りましょうか、ティーア」
ヴァッフェが拘束を解きながら呼びかけると、二人目の魔族は不快そうにしながらも伸びをして。
「ま、暇つぶしくらいにはなるよね。あたしのオーク軍団潰したんだから、その分くらいは楽しませること。いい?」
「うん、努力するよ」
ところでこの黒猫を誰が飼うのかというと、
「シルヴィアでしょ?」
「シルヴィアさんですよね?」
「シルヴィア以外にいませんわ」
「申し訳ありません。神殿内に魔族、しかも動物はちょっと……」
というわけでシルヴィアが面倒見ることになった。
「猫ですし、大目に見ていただけると思いますが、念のためカゴに入れたほうがいいですね」
「は? なによあんた? ゴブリンぽこぽこ産めるからって偉そうに。あたしはオークをいっぱい一から育てたんだからね?」
「はいはい。ティーア、喧嘩しないで」
オークの畑から食料を拝借したり、捕まっていた女性たちのケアをしながら待つこと三日。
都からの応援は思ったよりも早く現地に到着した。
途中で上級騎士学校の生徒たちと遭遇したことで移動速度を早めたらしい。おかげで馬はバテバテだったけれど、シルヴィアたちとしては助かった。
「……これは、確かにひどい」
「こんな建物があればとっくに気づいていたはずだ」
「血の量から考えても、全てが嘘とは考えられない」
騎士以外に魔法使いも混ざっていたおかげか、シルヴィアたちの証言はある程度信じてもらえた。
残りの検証は任せて良いということなのでありがたく都に帰りつき、
「何が起こったか、詳細な報告は調査を待ってからになるが……戻ってきた生徒達の証言を鑑みても、其方らの活躍は疑うべくもない。よくやった、『銀百合騎士団』」
「勿体ないお言葉でございます、陛下」
上機嫌な王と裏腹に騎士団長はとても不満そうな顔をしていた。
都に残っていた女性騎士によると、思うようにいかないからか訓練の場でも荒い言動が増えているらしい。
「……そろそろ、一部の男を取り込んで不信感を煽る時かしら」
「あら。マルグリット様もなかなか悪辣な手を使いますわね?」
「人聞きの悪いことを言わないで。私たちは騙したり脅したりはしないわ。ただ、そこにある感情を煽るだけ」
人当たりの良さを利用する技術や噂を利用した誘導はむしろ女の領分。
騎士団長の失敗を逆手に取った工作は一定の成果を挙げ、彼の信用は以降、徐々に落ち込んでいった。