わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
──半年後。
騎士学校の隣にあたる敷地。
都を守る外壁の向こうに新たな壁が築かれていた。そして、その円形の壁の内側には白く大きな建物が鎮座。
「わ。……これは、すごいね!」
思わずテンションが上がってしまう。
それもそのはず。
この敷地の隣──騎士学校のさらに隣、上級騎士学校の敷地には赴いていたものの、こちらまで足を伸ばすことはなかった。なので、ちゃんと見るのは初めてなのである。
完成途中で見るより嬉しいだろう、と思ったのもあるのだけれど。
予想通り、自分たちで外観を考え、本職の手直しを加えて完成した『銀百合』の本部は荘厳さと美しさを兼ね備えていて、見ただけで喜びが溢れてくるほどだ。
「なかなかのものでしょう? 職人とあれこれ話し合った甲斐がありましたわ。……ねえ、リゼット様?」
「ええ。それもいい経験になりました」
頻繁に下見に来てはあれこれ指示出しをしてくれていた公爵令嬢コンビもどこか得意げな表情。
実働部隊であるクレールとラシェルは建物よりも併設された屋外訓練場のほうに興味津々で、
「うわ、広いね。騎士団で今まで使ってたところより広いかも」
「あたしたちがここ使っていいの!?」
「もちろん。そのために造ったんだから」
男性騎士に比べると人数が少ない女性騎士だけれど、今後人数が増えることも見越してかなり広く造っている。
騎士団の本部が騎士の人数増加で手狭になっていたという事実を考慮したのと、騎士以外の人間が訓練に参加する可能性を踏まえてのものだ。
攻撃魔法で寮の壁が吹き飛んだりしたら困るし。
「射撃用の場所も、こんなに……!」
「イズばかりに任せるわけにはいきませんもの」
的あて用のスペースは攻撃魔法の訓練にも使えるだろう。
「半年で完成するなんて、随分頑張ってもらっちゃったね?」
「まあ、費用は殿下持ちでしたし」
「あと、ぶっちゃけリゼット様が頑張ってくれたおかげだよね」
「わたくしは自分にできることをしただけですので……」
照れくさそうに頬を染めるリゼットだけれど、実際、彼女の貢献は大きい。
学校のある間の書類仕事を手伝ってもらったのはもちろん、魔法を使って土木作業までサポートしてくれたのだ。業者の手配にはプレヴェール公爵家の伝手も大きく影響している。
「ありがとうございます、リゼット様。ようやく楽になるはずですので、ゆっくり休んでくださいね」
「ありがとうございます、シルヴィア様。ですが、まだまだやることは山積みですよ?」
『銀百合』に関わるうちにさらなる経験を積み、ある種の貫禄が出てきた気がするハーフエルフのお姫様は、笑顔で首を傾げてみせた。
「まだ建物が完成しただけです。調度品の受け入れ、騎士団員への部屋の割り当て、その他スタッフの調整なども行っていかなければなりません」
「……そうでした」
図面ができた段階で家具なども発注を行っているものの、完成にはまだ時間がかかるものもある。
スタッフの中にはシルヴィアの両親もいる。
新しい店を作ると決めて一年以上。平民街の店は十分すぎるほど繁盛しているし、新しい主となるマリーもめきめきと腕を上げている。
もういつでも移ってこられる頃合いだ。
騎士団の中なら戦える人がたくさんいるし、今までよりはぐっと安全になる。早くそうしてもらうためには手続きを手早く終わらせなくては。
それに、全部終わったら騎士団の活動が始まるわけで、
「これ、いつのんびりできるのかな……?」
「そうですね。わたくしたちが名実共に騎士団の顔役となれば、細々した作業は部下に任せられるかと」
「それ、早くても十年は先じゃないですか?」
「あら、だから十年なんてあっという間だって言っているでしょう?」
ひらり、と、シルヴィアの肩に飛び乗った黒猫が笑う。
「簡単に言ってくれるなあ。人間は百年も生きられないんだよ?」
「じゃあ寿命を延ばせばいいじゃない」
それこそ簡単に言いすぎである。
これに、服の中からもう一人の魔族の声。
「出会って一年半でこれだけのことがあったんだから、まだまだこれからも楽しめそうね」
「ヴァッフェまでそんなこと言って。わたしはみんなでのんびりできればそれでいいんだけど」
「そうは言っても、騎士団である以上、厄介事は向こうからやってきましてよ?」
「そうそう。戦略家には頑張ってもらわないと」
親友で、大切な仲間で、それ以上の存在であるみんながそばにいる。
「そうだね。まだまだやりたいことはたくさんあるし」
のんびりするのも目標だけれど、他にもいろいろ目標はある。
言えるもの。まだ言えないもの。いろいろだ。
「みんな、力を貸してくれる?」
「なにを仰っているのですか、シルヴィア様」
騎士団内には小さいものだけれど祭壇も用意した。
神殿からの出向という形でこっちに詰めることになる聖女見習い──アンジェもにこりと微笑んで。
「これからも、皆で力を合わせて歩んでまいりましょう」
「そっか。……そうですね」
力を貸してもらう、なんて偉ぶりすぎだ。
みんなで協力して、話し合って、助け合いながら歩いていく。
みんなでいられる場所が今、こうして形になった。
シルヴィアの夢は一つ叶ったことになる。
これからはこの場所を守るために、そして、さらなる夢を叶えるために。
「……そういえばさ、クレールは夢ってないの?」
ふと気になって、シルヴィアは傍にいたパートナーに尋ねた。
前にも尋ねたことはある。
けれど、その時はまだ騎士学校にいたので「まずは卒業して上級学校に進んで、立派な騎士になることかな」という答えだった。
騎士になってそれからどうしたいのか、は、正直なところよく知らない。
上級学校の卒業まであと一年半。
徐々に背が伸び美しさが増して大人に近づいてきた──それでも明るさと人懐っこさを失っていない少女は「そうだなあ」と笑った。
「できたらいろんな国に行ってみたいな。あと、いろんな奴と戦ってみたい」
その答えは、シルヴィアの予想とは違っていた。
シルヴィアの傍にいられれば十分だよ、みたいな返事だと、なんの根拠もなく考えている自分がいた。
けれど、ちゃんとした夢がクレールにもあった。
当たり前だ。
一緒にいるのが楽しくて、幸せで、考える余裕がなかったけれど、自分の夢を叶えていくなら当然、みんなの夢だって叶えなくては。
シルヴィアは「そっか」と笑って、
「じゃあ、外国に行かせてもらえるくらい実績を挙げて認めてもらわないとね」
他の国に行けるようになれば、もしかしたらエルフの国を訪れる機会もあるかもしれない。
そうしたらリゼットを母親と引き合わせられる可能性が生まれる。
「イズの弓は掘り出しものが見つかったけど、みんなの武器ももっといいやつが欲しいよね」
「あー、それはあるなあ。普通の剣じゃ魔族には足りないし」
「さんざん馬鹿力であたしを斬った奴がよく言うんだけど」
「まあ、私が剣になったらシルヴィアの下着がなくなっちゃうものね」
「うん、それも困る」
「困るんですね……」
武器を新調するならやっぱりドワーフだろうか。
人間の国だから他の種族と交流する機会はどうしても少ない。リゼットだって半分人間だし、他の種族がどんなふうに暮らしているのか興味がある。
戦ったことのない魔物もまだたくさんいる。
第六王女イリスの立ち上げる商会のためにもいろんな素材が必要だし、そういう意味でも新たな出会いには期待だ。
そしてゆくゆくは、エルフや魔族以外の上位種にも。
「王族の方々にお披露目するのは家具が揃ってからになるのかな?」
「そうですわね。……ああ、でも、家具は自前でなんとかするから早く寮を使いたいという声はかなり届いていますわね」
「生活感が出てしまう前に一度お見せしたほうが良いかもしれませんね」
「クロヴィス殿下とイリス殿下には先に見てもらわないとだし、その時にでも相談すればいいかな?」
シルヴィアたちの本当の戦いはこれから始まるのかもしれない。