わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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人材確保にも苦労がある 3

 新たに黒髪の新人メイド・スリスを雇ってからしばらく。

 シルヴィアはゼリエではなくスリスを連れてとある場所を訪れた。

 

「わ、私で本当に大丈夫でしょうか?」

「大丈夫。これから行くところは平民も多いから」

 

 職業柄、もともと平民にしてはかなり身ぎれいだったスリスだけれど、お仕着せに身を包み毎日身を清めるようになり、派手なものではなく落ち着いた化粧を始めると本当に見違えた。

 そんな彼女が見るからに緊張しているのは少し微笑ましくも面白い。

 これに同行者──というか今回のメインである少女がくすりと笑って、

 

「本当に構えなくとも良いのですよ。普通にしていればなんの問題もありません」

「は、はは、はい。ありがとうございます、リゼット公爵令嬢」

 

 雲の上の人からの「普通にしていろ」はかなりプレッシャーだったか。

 かなりの荒療治だけれど、こればかりは慣れてもらうしかない。今回のことも良い経験になるだろう。

 ちなみにリゼットのメイドも新たに雇い入れた新人である。

 こちらは公爵家のつてで探した由緒正しいメイドさん。ただし、

 

『雇用の際にはシルヴィア様や平民出身の人材に対して礼節を持てる者を最重要視いたしました』

 

 採用についてのリゼットの談である。

 

『でも、そうすると大変じゃありませんか?』

『いいえ。そもそもこの程度の条件を呑めないようでは安心して仕事を任せられません』

 

 おっとりしたお嬢様のようでいて、さすが公爵令嬢にして貴族学校の裏番長。締めるべきところはしっかりと締める。

 感心したシルヴィアへリゼットは「それに」と続けて、

 

『シルヴィア様とわたくしはもう運命共同体でしょう?』

 

 そう口にした少女の頭上にはシルヴィアの能力によって好感度が表示されており、その数値は『90/100』を示している。

 付記された状態は『恋愛感情』。

 あくまで目安であって恋愛的なラブが含まれているかは人によるのだけれど、それにしても、上がったものである。

 もちろん、シルヴィアとしても彼女の好意に嫌悪などあるはずもなく。

 

『はい。おばあちゃんになってもリゼット様と仲良しでいられたらとても素敵だと思います』

 

 なお、その返答によってリゼットの好感度はさらに1つ上がった。

 

「さあ、到着です」

「わ、ここが……」

「ええ。我が国における魔法の最先端、魔法使いギルドです」

 

 神聖な色として白が尊ばれるこの世界にあって、でん、と()()外壁を備えたその建物は独特の威容を放っている。

 シルヴィアがここを訪れるのは初めて。

 スリスほどではないけれど、少し緊張するのを自覚しながら建物に足を踏み入れて。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 なんというか、しっくりくる例えは「ちょっと古めかしい大学の構内」という感じ。

 できる限り清潔に保とうという気概は感じられるものの、どうしても「雑然」が勝ってしまっている。大量の本や謎のアイテムを抱える人がそこかしこに見受けられ、彼ら彼女らの格好も「お洒落は二の次」といった感じ。

 その様子にリゼットは苦笑を浮かべ、そのメイドは「ちょっとそこを掃除してきてもいいですか?」と言いだしそうな表情になるも、

 

「ちょっと落ち着くかも」

「シルヴィア様?」

「いえ、ただの独り言です」

 

 大学は大学でも理系、あるいはオタク気質の強い文系。

 前世ではインドア派でお洒落よりゲームだったシルヴィアは彼らの様子にどことなく親近感を覚えた。

 いいかもしれない、魔法使いギルド。

 戦略家よりも合っているかもしれない。残念ながらシルヴィアに魔法の才能はないのだけれど。

 

 才能で言うと、ハーフエルフであるリゼットは魔法の才に溢れている。

 

「リゼット様はこちらにはよく来られるのですか?」

「よく、というほどではありませんけれど。是非定期的に顔を出してほしい、と便りをいただくので時折訪れるようにしております」

「なるほど」

 

 リゼットは貴族学校の所属であって魔法使いギルドの所属ではない。

 

 『魔法使い』は魔法の使い手の総称であると同時に職業の名前でもある。

 職業としての魔法使いは魔法を使うこと、あるいは研究することを生業としている者。貴族は貴族学校や自宅で魔法を習い、中には凄腕もいるけれど、彼らの多くは職業的な魔法使いではない。

 逆に『神託』によって魔法使いになる平民もけっこう多い。

 国のため、民のために新しい魔法技術や新しい魔道具を開発することが魔法使いギルドの役目の一つだ。

 もちろん、単に魔法が好きな変人も多いらしいけれど。

 

「今回も手紙で呼び出しを受けたんですよね?」

「ええ。是非とも会って欲しい者がいる、と」

 

 向こうから会いに越させてもいいのだけれど、あまり貴族学校内にほいほい部外者を入れるものではない。騎士やその見習いなんかはわりと信用されるけれど、魔法使いは「なんかうさんくさい奴ら」と見なされがちだし。

 その理由はギルド内を歩いているとよくわかる。

 

「まずはギルド長へのご挨拶ですね」

「それはわたしもさすがに緊張しますね……」

「ふふっ。普通にしていれば問題ありませんよ」

 

 ギルド長は五十歳前後のおじさん? おじいちゃん? だった。

 リゼットは孫のように可愛がられているらしく、その顔を見ただけで頬が緩む。ついでにギルドへ勧誘を始めたあたりはさすがだったけれど。

 

「おっと、そちらは──」

「シルヴィア・トーと申します。どうぞお見知りおきを」

「……ああ。存じております。お噂はかねがね」

 

 シルヴィアを見る時は「ああ、例の、魔法の才能のない貴族だろ?」みたいな顔になった。扱いの差がひどい。

 シルヴィアの能力は「同性の好感度」しか見られないので彼がどの程度のスタンスかはわからないものの、まあ、たぶんこの人は魔法馬鹿だ。それも重度の。

 

「ところでギルド長。わたくしに面会を希望している者とは?」

「ああ。呼び出しているから直にやってくるだろう」

 

 噂をすれば、ギルド長室のドアがノックされて一人の女性が入ってくる。

 髪と瞳は濃いめのブルー。

 歳は二十過ぎくらいだろうか。寝癖なのか不摂生か、服も髪も乱れ気味。目は寝不足っぽく隈ができていたけれど、リゼットを見た途端にらんらんと輝き出す。

 子供みたいな笑顔を浮かべた後、彼女ははっ、と慌てて頭を下げて、

 

「は、初めまして、リゼット公爵令嬢様! 自分はアンと申します! 階級は三等魔法使いです!」

「アン三等魔法使い。声が大きい」

「も、申し訳ありません、ギルド長」

 

 ぺこぺこ謝るアン。

 それを見ながらシルヴィアは「そうかな?」と思った。勢い込んでいるわりには声が出ていなかった気がする。……ちょっと前まで体育会系の学校にいたせいで感覚が狂っているのかも。

 ともあれ、リゼットは動じることなく首を傾げて、

 

「そのお歳で三等魔法使い……ご立派な方なのですね」

「そ、そんな。自分なんて全然。ここからの昇進は絶望的だって言われていますし……」

「リゼット様に比べれば誰もが非才の身になってしまいますからな」

 

 ギルド長に「そうなのですか?」と尋ねると、彼は得意げに「もちろんだ」と頷く。

 

「彼女ならばすぐにでも一等魔法使いの地位を授けられる」

「リゼット様の魔法は素晴らしいですからね」

「その通り。なかなかに見る目がおありのようだ」

「ギルド長。シルヴィア様」

「すみません」

 

 紹介が済んだところで別室へ移動し、詳しい話を聞く。どうしてアンがリゼットに会いたがったのかというと、

 

「憧れだったからです。リゼット様が騎士団の補助人員を募集なさっていると聞いて、あなた様の傍で働けるなら、と」

 

 まさかの応募。

 魔法使いのメンバーが増えるのは願ってもない。むしろ大歓迎だけれど、

 

「けれど、わたくしの元で働くとなると今までと同じ待遇はできません。魔法の研究も滞ることになりますよ?」

「構いません! 自分、最近は成果が出ずに伸び悩んでいて、いっそ環境を変えたほうがいいんじゃないかって……」

 

 シルヴィアはリゼットと顔を見合わせた。

 魔法使いの才能の多寡はひとくちでは言い表せない。研究者、発明家としての面も持ち合わせているから尚更だ。

 なので彼女が本当に非才なのかはわからないのだけれど。

 リゼットは「わかりました」と頷いて、

 

「では、これから見聞きすることをあらゆる方法で他者に伝えないこと、伝えようとしないこと、記録に残さないことを誓ってくださいませ。そのうえで判断させていただきます」

 

 なんだかもう「いつものアレ」になってきたけれど。

 

「は、はい。わかりました」

 

 なんでこんなことをさせるんだろう? という顔のアンに誓ってもらい、恩恵の内容を見せてもらう。その結果は、

 

「……あ、面白いかも」

『あなたは知育パズルゲームだ』

 

 知育パズルゲームだ、ってなんだよ。

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