わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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人材確保にも苦労がある 4

 せっかくギルドに来たのでアンの研究成果を見せてもらう。

 紙にまとめられた資料と成果物の魔道具をリゼットと一緒に覗き込んで、

 

「……えっと、リゼット様。これは」

「そうですね。わたくしも他者の研究を評価する立場にありませんが……強いて客観的に申し上げるならば可もなく不可もなく、いたって普通な研究です」

 

 悪い言い方をすると「ありきたりで個性がない」ということだ。

 ばっさり評されたアンは「そうですよね」と肩を落とす。

 

「そうですよね。自分でもわかってはいるんです。私には才能がないって」

 

 才能。

 ふわっとしていてとらえどころのない言葉だ。けれど、シルヴィアも前世で似たような思いをした。

 対戦ゲームなんて互いの実力がはっきり出るジャンルだ。

 いったい何度「こんなゲーム」とコントローラーを投げそうになったことか。

 上手い人に言わせればきっと「どうしてできないのかわからない」ということになるのだろう。

 

「なにかつまづいている箇所があるんですか?」

 

 だから、せめてそう尋ねてみた。

 曖昧な答えが返ってきても全然おかしくなかったけれど、

 

「イメージはあるんです。でも、過程を作るのが……。上司からも『壊滅的に才能がない』と」

「魔法においては結果のイメージはもちろんですが、過程のイメージも重要になります。どういう現象を経て結果が導かれるか、正確であればあるほど効果は高まるのです」

 

 手のひらに大きな火の玉が生まれるイメージと一口に言っても、ぽん、といきなり発生させようとするより、体内の魔力の流れ、小さい火の玉が大きくなるイメージをするほうが上手いということ。

 魔力があれば結果のごり押しもできるけれど、そんなことができるのはよほど特殊な恩恵の持ち主か上位種族の血を引く者くらいだ。

 研究物においても、作りたいものが明確にあるのに作り方がさっぱり、では致命的だ。

 

「どうお思いですが、シルヴィア様?」

「そうですね……。せっかくの人材ですから逃したくはありません」

 

 『銀百合』の知名度と期待は高まってきているものの、まだ実績が足りていない。

 特に魔法の使い手に関してはわざわざ外部から騎士団に来る理由が薄い。貴族の中には騎士を野蛮と考えているものもいるし、魔法使いはギルドにいたほうが研究しやすい。

 

「それに、強い個性がないのは悪い事ではないと思います」

「ど、どういうことですか?」

 

 無個性を褒められるのが珍しいのか、アンが濃い青色の目を向けてくる。

 

「尖っていないほうが誰かに合わせやすいでしょう? もし『銀百合』に来ていただくのならリゼット様の下についていただくことになりますし」

「なるほど。……研究方針で助手と揉めるのは困りますものね」

「助手。私が、リゼット様の?」

 

 シルヴィアは微笑んで答えた。

 

「もし、アンさんが仲間になってくださるなら、ですけれど」

 

 彼女は一も二もなく頷いた。

 ちょっと不安ではあるけれど、新しい人材ゲットである。

 アンには引き継ぎ等が終わり次第、仮本部で無難な書類仕事や訪問者の対応などをお願いすることにした。リゼットが外に出して問題ない研究成果を提供してくれたので、暇な時間にはそれを眺めてもらう。

 お給料がいいわけでもないのにアンは楽しそうで、なんだか、もう少しなにかしてあげたくなった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「シルヴィア様はああやって、困っている人に新しい道を教えているのですね」

 

 貴族学校の自室へと戻ってきたところで、同行していた新人メイド──スリスがしみじみと呟いた。

 ちょっと過大評価しすぎではないか。

 苦笑して「そういうわけじゃ」と口を開くと、

 

「その通りです。人材を拾い上げ、育てるのがシルヴィア様の美点なのです」

「あの、ゼリエ? 恥ずかしいんだけど」

「事実でしょう。そのことをスリスはよく知っているはずですが」

「はい。シルヴィア様には私も大変お世話になっております」

 

 なんだか「困っている人を助けて回っている優しい人」みたいな評価だ。それじゃ神殿の聖女様みたいである。

 

「わたしは安くて良い人材を都合よくこき使ってるだけだよ。……できるだけお給料とかで報いてはあげたいけど」

 

 無条件に信頼しているわけでも、人助けのためにやっているわけでもない。

 

「スリスにはときどき本部へアンの様子を見にいってもらおうかな」

「かしこまりました。きちんと仕事ができているか抜き打ち調査、ということですよね?」

 

 話が早い。慣れているのかと尋ねると「元の職場でもそういうのはあったので」とのこと。

 なんでも覗き穴から仕事ぶりをチェックされるらしい。こわい。というか恥ずかしい。

 

「あとは……アンに本領発揮してもらう方法かなあ」

 

 彼女の恩恵『知育パズル』はなかなかに特殊である。

 ここでいうパズルとはたぶん、電源ゲームの落ち物系などではなく、小さい子が遊ぶ積み木やブロック等々のことだろう。

 まさかのアナログゲームだけれど、ボードゲームやTRPGもゲームの一種であるように、もちろんゲームには違いない。

 シルヴィアももちろん遊んだことがある……前世で、しかも小さい頃に、だけれど。

 むむむ、と頭を悩ませているとゼリエが不思議そうに、

 

「シルヴィア様でもお悩みになることがあるのですね」

「もう、わたしをなんだと思ってるの」

 

 恩恵文を読めるからといって力のいい使い方を思いつくとは限らない。

 特にアナログゲームはデジタルゲームほど遊び方がきっちり決まっていない。パズルともなれば尚更だ。それを魔法や研究に活かすには?

 知育パズル。

 

「……そういえば、あれもいちおう知育パズルなのかな?」

 

 大人でもハマる人が数多くいる、世界的に有名なブロックパズル。テーマパークまで存在するすごいやつ。

 小さなパーツを工夫して積み重ねることでほぼあらゆるものを表現できる。中には何千、何万といったパーツを使って巨大なオブジェが作られることもある。

 シンプルなものから複雑なものが生まれる。

 構成要素を単純化して一つ一つ組み上げていく。

 

「一度、リゼット様に相談してみようかな」

「なにを相談なさるんですか?」

 

 首を傾げたスリスに「魔法だよ」と答える。

 

「わたしの専門外だから、どんなことができるのか知っておきたくて」

 

 特に、普通とは異なる魔法の使い方について。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「なるほど。……それでしたら、アンの性格には合っているかもしれません。さすがはシルヴィア様。目のつけどころが違います」

「そんなこと。思いついたのはリゼット様の知識があったからです」

 

 相談の結果、二人は一つの方法を思いついた。

 

「お忙しい中、お力を借りることになってしまいますけど……大丈夫ですか?」

 

 うまくいけばアンの才能を開花させられるかもしれない。

 その代わり、実現するには時間と手間が必要だ。

 尋ねるとリゼットは穏やかに微笑んで、

 

「もちろんです。わたくしとしても面白い試みになりそうですし」

「よかった。ありがとうございます、リゼット様」

「いいえ。……ですが、シルヴィア様にも騎士団関連のお仕事を多めに振ることになりますので、ご容赦くださいね?」

「それこそもちろんです。一緒に頑張りましょう」

 

 結論から言うと、この試みによってアンの魔法使いとしての能力は飛躍的に向上した。考え方の取っ掛かりを得たことで研究・実務方面の能率も向上し、やがて騎士団になくてはならない人材に。

 ただし、そこにたどり着くまでにはなかなかの犠牲を払うことになった。

 具体的に言うと授業の合間、そして放課後に仕事に追われる羽目になったのである。いや、もともとそうだったけれどさらに大変に。

 

 人材を確保するというのも本当、大変なものである。

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