わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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人材確保にも苦労がある 6

「サラさんと二人ってなんだか珍しいですよね」

「そうね。でも、たまにはこういうのもいいじゃない?」

 

 『銀百合』正式稼働が近づき、女性騎士は暇になり始めた。

 騎士団が女性抜きの体制を早くも導入し始めたからだ。

 理由をつけてハブられているわけだけれど、女性騎士たちはこれ幸いと新しい寮への引っ越しをしたり休暇を楽しんだりしている。

 今回、サラが用事に付き合ってくれたのもそれが大きい。

 あとは向かう先が平民街だからだ。

 

 都の奥にお城、その手前に貴族街、さらに手前に平民街と、正門に近づくほどゴージャス感が下がる。

 雑然とした独特の雰囲気は慣れている者でないと少し厳しい。

 シルヴィアは小さい頃住んでいたのもあってある程度慣れているし、サラもこっちが生まれなので抵抗がない。

 

「ちゃんと護衛はしてあげるから安心しなさい、お姫様」

「もう。そういうのはマルグリットさんにやってあげてください」

 

 頬を膨らませて抗議。サラが同僚に対して親愛以上の感情を抱いているのは前に把握済みである。

 けれど、ぷいっと視線を逸らされて、

 

「マルグリットはお姫様扱いなんてしたら怒るよ」

 

 いや、シルヴィアもまるっと受け入れているわけではないのだけれど。

 

「……騎士団内ならある程度目こぼしできると思いますよ?」

 

 少し踏み込んだ内容を漏らすと、背けられていた顔が向けられて。

 

「うすうすわかってはいたけど、シルヴィアも『そう』なんだ?」

「はい。その。なんというか、たぶんご想像の通りだと思います」

 

 クレールやエリザベート、イザベルの様子まで見ていればわかる人にはわかるだろうし、それが「同士」となればあまり隠す必要もない。

 サラは「そっか」と複雑に微笑み、

 

「でも、その気のない相手をその気にさせるのってすごく難しいからね」

「……そうですね」

 

 告白すれば解決する話でもないし、下手をすれば今の関係を壊してしまいかねない。

 

「一つずつ解決していくしかありませんね」

「賛成。……だけど、シルヴィアは本当に解決しようとしそうだから怖いかも」

「できるなら解決したほうがいいじゃないですか」

 

 身があるのかないのかわからない会話を続けているうちに目的地が近づいてくる。

 石造りの簡素な建物。

 それでいて重厚感だけは強く感じるのは、ここが大工の寄合所だからだ。

 本題に入る気配を見てサラが護衛モードの顔を作る。「話すのは任せた」という顔とも言う。まあ、騎士装のサラとドレス姿のシルヴィアならメインは明らかだし。

 

「ごきげんよう」

 

 ぶっちゃけ入る前から注目は集まっていたので、声をかけるだけで十分。

 建物の中にはほぼ男しかいない。

 それも半裸に近いような格好で、筋肉質な者も多い。室内には汗と酒とたばこのにおい。同行しているゼリエが顔をしかめる。

 集中する視線の中、腕の太く背の高い男が立ち上がって、

 

「なんだ。誰かと思えば、後ろにいるのはサラじゃねえか」

「おじさん。今は仕事中だから、一応『騎士様』扱いしてくれないと困るんだけど」

「何言ってやがる。俺はお前の事を赤ん坊の頃から知ってるんだぞ」

 

 いるいるこういうおじさん。

 平民街では親戚どころか近所の人でさえこんなノリが多い。サラも「しょうがないなあ」という顔をしつつスルーして、

 

「用があるのはこちらのシルヴィア様だよ」

「あん? お嬢ちゃんがなんだって?」

「お忙しい中申し訳ありません。わたしはシルヴィア・トー男爵です。昨日、お手紙でもご連絡したのですが、人探しにご協力いただけないでしょうか?」

 

 シルヴィア、貴族学校で培った作法でお嬢様モード。

 

「手紙……ああ、あの件か。てっきりもっと歳上の貴族様が来ると。っていうかシルヴィアって言ったか?」

「ええ。貴族として来ているのでそう振る舞いましたが、わたしも平民の出ですのであまりお気遣いなく」

「っても、そんな綺麗なスカートで言われてもな」

 

 額を掻いた大工は息を吐いて。

 

「で、あれだろ? 人足を引き抜きたいって」

「その通りです」

 

 この世界の大工は「親方」がいて、その下に弟子を複数名抱えている。大工を志すなら親方の誰かに弟子入りするのが普通。親方を棟梁に置き換えれば日本とあまり変わらないだろう。

 ただし、道具も工法もまだまだ発達しきっていないこの世界での建築にはとにかく人手がいる。

 専門ではない、力仕事ならなんでもやるような人員を人足として「一日いくら」で雇って簡単な仕事をさせる。大工たちはそれを指揮したり、技術のいる箇所を担当するのが普通だ。

 シルヴィアが雇いに来たのはその人足。

 仕事のある現場を転々として稼ぐ者が多く、どこの所属などにこだわらないので引き抜きをしたからといって「契約違反だ」とか言われることもない。

 おじさんも「まあいいけどな」と頷いてくれる。

 

「あの獣人達だろ? 物好きな話だが、あいつらにとっちゃどこかちゃんとしたところに雇われてたほうがいいのかもな」

 

 

 

 

 

 獣人。

 名前の通り、人と獣の特徴を併せ持つ種族だ。個体にもよるけれど、多くの獣人は耳と一部体毛、尻尾が特定の獣に似る。

 特徴は人より身体能力が高いことと、人より寿命が短いこと。それから、複雑な思考を苦手とする傾向があること。

 人間の国ではあまり見かけないけれど、街中でも時折姿を見かけることがある。

 

 さて。

 シルヴィアが会いに来た獣人はメス──女で、三姉妹だ。

 直接会ったことはないものの、その特徴は聞いている。『銀百合』本拠の建設に関わっているのをエリザベートやリゼットが見ていたからだ。

 

『男性の多い現場ですからその姿は目立ちました』

 

 獣人のメス程度で目立つなら「魔法で成人男性数人分の仕事をこなすハーフエルフ」はさらに目立っていただろうけれど、それはともかく。

 

『十分な活躍はしていたように見えましたが……この国では人間以外の扱いがあまり良くありませんからね』

 

 リゼットは少し悲しげに目を細めてそう言っていた。

 

 

 

 

 

 おじさんからの情報で寄合所の裏──広場というか休憩所というか、感覚的には「喫煙スペースかな」という感じの屋外に行く。

 目的の三人は隅にうずくまってうつむき、体力を使いたくないとでも言いたげな表情を浮かべていた。

 シルヴィアたちが近づいていくと驚きに目を見開き、まず逃げ場を探そうとする。けれど、他に人もいるしシルヴィアの後ろにはサラもいる。

 

「ごきげんよう。……昨日、お手紙をお送りしたのですが、わたしが来ることを聞いていませんか?」

「聞いてる。でも、こんな子供が来ると思わなかった」

 

 代表して答えたのは一番歳上の娘だ。

 十五、六。獣人は成長が早いので十三、四といったところか。やや小柄な成人女性程度の体格で、体毛の特徴は狼のそれ。

 左右に座る妹たちは一つか二つずつ下だろう。

 シルヴィアには獣人らしい鋭い視線が来て、

 

「あたしたちを雇いたいって?」

「そうだよ。力仕事は大変でしょ? うちに来ればちゃんとご飯もあげるし、服も着させてあげる」

 

 シルヴィアは言葉を素に戻した。

 かしこまった喋り方は彼女たちにはあまり意味がない。

 それで多少は警戒を解いてくれたものの、やはり警戒は消えてくれなくて。

 

「信用できない。なんであたしたちなの?」

 

 その答えは簡単である。

 

「あなたたちは力も体力もあるし、女の子でしょ? 任せる仕事は簡単だから心配ないし、人間を雇うより安くすむと思うの」

「なにそれ」

 

 正直に言ったのに、娘たちは「なんだこいつ」とでも言いたげな顔になった。

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