わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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忙しいと自分のことが疎かになる

 稼働開始日は貴族学校などがお休みの日にして、朝にちょっとした結成式を開いた。

 主要人物が軽く挨拶して軽食をとるだけのささやかなパーティ。

 騎士は不測の事態に備えないといけないので、全員で飲めや歌えは難しいのだ。

 ついでに式の後はあれこれ確認したり相談したりして──。

 

「騎士団お抱えの戦略家って言っても、わたしの生活はあんまり変わらないなあ」

 

 二日後の平日、夕方。

 シルヴィアは普通に授業をこなして自室に戻ろうとしていた。

 傍についた二人目のメイド──人に言いづらい仕事から転職してきたスリスがそっと苦笑して、

 

「シルヴィア様はむしろ学生のうちからお忙しすぎるかと」

「それは……そうかも」

 

 今日もこれから授業の課題をこなして、それが終わったら図書館で借りた本を読むか騎士団のためにできることを考えるか、イリスに提供するためのレシピを考えるか。

 と。

 

「シルヴィア様。少々お時間よろしいでしょうか?」

「はい、もちろん。どういたしましたか?」

 

 呼びかけてくる声にすぐさま口調を整えて振り返る。

 声をかけてきた令嬢──三年生の先輩は微笑と共に、

 

「よろしければチェスのお相手をお願いできませんか? 女性の指し手は多くないもので、対戦相手に飢えているのです」

「ええ、わたしでよろしければ喜んで」

 

 予定が増えた。

 最近、この手のお誘いが多くなった。シルヴィアが戦略家見習いであり、騎士団に一枚噛んでいると周知されたことで「じゃあ頭がいいのか」と思われているらしい。

 この国のチェスは前世のものとはちょっと違っていて、より特殊な動きをする駒があったり将棋のように援軍を送れる特殊ルールがあったりする。

 魔法の存在を反映した異世界のチェスは知的遊戯としても人気があり、男性のみならず女性にも愛好家がいる。

 『銀百合』の有用性を測るついでにお手並み拝見されているのだ。

 

 正直、シルヴィアはゲーム全般、下手の横好きなのだけれど。

 遊ぶのは好きなのでお誘いはなるべく受けるようにしている。社交的な意味でもなるべく交友は広げておいたほうがいい。

 戦績は──今のところ勝率四割といったところか。ちなみに相手に手加減をしてもらっての数字である。

 

「……うーん。もうちょっと練習しないとなあ」

 

 二戦ほど指して「また今度」と約束をしてから今度こそ部屋に戻る。

 少し早めに切り上げたのはスリスから「本日は早めにお戻りください」と囁かれたから。

 

「ところでスリス? なにか用事?」

「はい。私も詳細は伺っておりませんが、ゼリエ様より『遅くなりすぎないように』と」

「そうなんだ。……なんだろう?」

 

 首を傾げつつ自室のドアを開くと──。

 

「お待ちしておりました、シルヴィア様。湯浴みとお着替えの準備ができております」

「え」

 

 ドレスとアクセサリーが万端用意されていた。

 そのまま服を脱がされ身体を洗われ、軽く香水を振りかけられて、

 

「あの、ゼリエ? これからどこか行くの?」

「はい。騎士団へ参りましょう」

 

 なんだ『銀百合』の本拠か。

 わざわざちゃんとした着替えまで用意されているからなにかと思った。いきなりお城に連れていかれたりしなくてひと安心である。

 それとも、

 

「もしかして王族がお待ちかね……みたいな話だったりする?」

「そのようなことはございませんが」

 

 清楚かつ華やかな装いにされたシルヴィアはあらかじめ用意されていた馬車に乗って騎士団へ。

 

「十日程度、前倒しで実施したい催しがございまして」

「催し」

「年末に心当たりはございませんか?」

 

 そこまで言われてようやく気づいた。

 もうすぐ年末。貴族学校も後四日ほどで終了し、そこからは冬季休暇に入る。

 冬。

 クリスマスはこちらには存在しない、もちろん同人誌即売会も開催されないので印象が薄くなりがちなのだけれど──少し先、十二月二十四日は、

 

「そっか。もうすぐわたしの誕生日なんだ」

 

 忙しすぎて誕生日さえ忘れていた主にゼリエは優しく微笑んで、

 

「ささやかながらサプライズパーティを企画させていただきました。皆さまお集まりですのでどうぞ会場へ」

 

 サプライズパーティとか都市伝説じゃなかったのか。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

「誕生日おめでとう、シルヴィア・トー」

「おめでとうございます、シルヴィア様」

「おめでとう。これでお前も一つ大人に近づいたのだな」

「ありがとうございます、皆さま」

 

 『銀百合』本拠内のホールがパーティ仕様に。

 正式稼働したばかりで比較的暇だということで気合を入れて準備してくれたらしい。

 料理もキッチン担当であるシルヴィアの両親のお手製に加えて参加者が持ち寄った料理まである。

 その参加者もかなり豪華というか、そうそうたる顔ぶれ。

 前騎士団長にイリス第六王女、それから貴族学校を卒業して王子→公爵となったクロヴィス元第五王子。エリザベートの父であるデュヴァリエ公爵に魔法使いギルドのギルド長まで。

 

 騎士たちは非番の者以外騎士装だけれど、まだ見習い学生であるエリザベートたちも各々、自分の目や髪色に合わせたドレスで着飾っている。

 

「ごめんなさいね、シルヴィア。本当は当日に行いたかったのですけれど、貴族学校が終わるとこれだけの人数を集められないでしょう?」

「ううん、すごく嬉しいよ! わたし、こんな盛大な誕生パーティ始めてだもん」

 

 なにしろ前世はただの庶民だ。

 誕生日なんてせいぜい友人と軽く祝いあう程度だった。

 

「じゃあ、いっぱい食べて楽しんでよ。美味しいのがたくさんあるから」

「そうですわね。まあ、クレールが用意したわけではありませんけれど」

「む。あたしだって一品持ってきたし!」

「お二人とも、こんな時まで喧嘩しなくとも……」

「大丈夫だよ、イズ。むしろこのほうがほっとするっていうか」

 

 困ったように眉を寄せた藍色の髪の男爵令嬢は「そうですか?」と首を傾げて、

 

「殿下──いえ、公爵様も仰っていましたが、これでシルヴィア様もひとつ大人の仲間入りですね」

「? 一つ?」

 

 成人扱いは卒業後、十六歳だから来年なのだけれど。

 

「シルヴィア様。十五から解禁される嗜好品をお忘れですか?」

 

 少し不服そうな表情を浮かべて歩み寄ってきたのは、グラスを手にしたドレス姿の公爵令嬢──リゼット・プレヴェールだ。

 

「飲めるようになったらご一緒しましょう、とお約束しましたのに」

「あ、そっか、お酒。十五歳から飲めるんですよね」

 

 なんだか思ったよりも早くその時が訪れた気がする。

 前世では二十歳からだったからか、あるいは日々が忙しすぎて誕生日があっという間だったからか。

 エリザベートも苦笑しつつ、

 

「これでわたくしたちも心置きなくお酒を解禁できますわ」

「あれ、そっか。エリザベートたちの誕生日って」

「あたしは春」

「わたくしは夏」

「私は秋なので、シルヴィアさんが最後なんですよ」

 

 みんな「全員が飲めるようになってから」となるべくお酒を我慢してくれていたらしい。つきあいもあるし、完全に我慢できていたわけじゃないのはご愛嬌。

 

「色々な方からオススメをいただきましたし、今日は飲み明かしますわよ?」

「すごく乗り気じゃない、エリザベート。でもあたしのほうが強いと思うけど」

「……お二人とも、酔いつぶれてもいいですけど暴れないでくださいね? 私じゃ止められませんから」

「うん。今のうちに水をたくさん用意してもらおう。飲み慣れないうちはお酒ばっかり飲むと危険だから」

 

 心得ている、とばかりにメイドさんたちが頷いてくれる。

 

「シルヴィア様、まずはなにを飲まれますか?」

「そうですね……それじゃあ、甘口の白ワインをいただけますか?」

「あはは、シルヴィアらしいね」

「む。言っておくけどクレール。わたしお酒は辛口も好きだからね?」

 

 特に日本酒はきりっとした口当たりのものが好きだ。……今生では日本酒そのものを見かけていないけれど。

 

「シルヴィア様、例のスパイスを使った揚げ芋もご用意がありますよ」

「わ、そんなの絶対お酒に合うじゃない!」

「少数ですが、例の騒動の前に購入されて凍結保存されていたレイユフィッシュも揚げてもらいましたわ。……酒の肴には事欠きませんわね」

「これはお酒が進みそうですね……」

 

 イザベルが危惧した通り、飲酒解禁(正確には十日程度先だけど細かいことは気にしない)の爽快さも手伝ってその日はどんどんお酒が進んだ。

 弱いほうではないと自負していたシルヴィアだけれど、気づいたらリゼットと二人でベッドに寝かされていた。

 なにがあったのかと尋ねたところ、リゼット付きの中年メイドは目を細めて、

 

「お嬢様は一杯で芯を失ってしまわれる方ですが、シルヴィア様も少々不安な方ですね」

 

 ゼリエが遠い目でそれに同意した。

 

「頬を染めたお二人がスキンシップをなさっている光景は心臓に悪いです」

 

 どうやらシルヴィアもリゼットも酔うと「ふにゃっ」となるタイプだったらしい。

 下手に男の前でやったらお持ち帰りされかねない。

 招待された男性がある程度節度のある者たちで良かった。

 

 ……なお、パーティに呼ばれなかったダミアン・デュクロからは後日抗議の手紙が届いた。

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