わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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偉い人はだいたい腹黒い、は偏見か否か 1

 騎士団内に部屋があってよかった。

 予算がかかるので申し訳なかったものの、シルヴィアは『銀百合』の専属戦略家。ないなんてありえない、と色んな人から言われたのもあって専用の執務室を設けていた。

 別途、寮にも私室を確保しているけれど、執務室にも仮眠用の部屋が併設されている。

 仮眠用と言っても簡易ベッドではなく──その、なんというか、女二人くらい余裕で並んで寝られるしっかりしたものだ。

 その上で揃って目を覚ましたシルヴィアとリゼットは、自分たちが寝間着に着替えさせられているのを見て頬を染めた。

 

「……やっぱり、飲みすぎはよくありませんね」

「ええ……。わたくしもそれを痛感いたしました」

 

 前後不覚に陥って部屋に運ばれるとか、貴族としても女としても大人としてもだめだめである。

 

「シルヴィア様にもこのようなはしたない姿をお見せしてしまって……」

「いえ、そんなことは。リゼット様はどのような格好でもお美しいです」

 

 ぴろん。

 カンストが見えてきている好感度がさらに上昇。

 実際、美少女は寝起きでも美しい。寝乱れた髪もやや眠そうな瞳も、清楚ながらもシンプルな寝間着も普段と異なる彼女の魅力を引き出している。

 

「わたしこそ申し訳ありません。非常時とはいえわたしと一緒に眠っていただくなんて……」

「それこそ気になさらないでくださいませ。わたくしとしてはむしろ嬉しいくらいで……」

 

 シルヴィアは自分の胸が高鳴る音を聞いた気がした。

 シルヴィアからリゼットへの好感度が表示されていたら、きっと音を立てて上がっていたことだろう。

 急に口説きに来ないで欲しい。

 エルフの血には女性に対するカリスマ的なものが含まれているのか。……実際あってもおかしくない気がする。

 

「申し訳ありません、シルヴィア様、リゼット様。ホールから寮までお運びするよりもこのお部屋のほうが近く、加えて安全でしたので」

「ゼリエは悪くないよ。酔っ払いは適当に寝かせておくくらいでちょうど良いんだから」

「……なるほど。平民の間ではそういうものなのですね」

 

 正しいような間違っているような。

 気崩れた寝間着を直したり、ゼリエたちから水をもらったりしていると部屋のドアがノックされてアンジェが入ってきた。

 

「おはようございます。お二人とも、気分はいかがですか?」

 

 彼女はシルヴィアたちに解毒の魔法をかけてくれる。

 アルコールにも効果があるらしく、二日酔い独特の辛い症状はそれでだいぶ抜けた。

 残りの症状は水分補給と睡眠、食事で解消するしかない。

 

「アンジェ様もありがとうございます。パーティに来ていただいたうえに二日酔いのお世話までしていただいて」

「いいえ。私もこの騎士団の一員です。こういう時こそ神聖魔法の出番ですから」

 

 二日酔いになるような馬鹿は苦しんで頭を冷やしたほうが良い気もするけれど……体調を整えて訓練や有事に備えるのも大事なことだ。

 アンジェは小さく首を傾げて、

 

「それにしても、シルヴィア様とは本当にご縁がありますね」

 

 なんでも、彼女の誕生日もあと二週間ほどで訪れるのだという。

 

「十二月の最終日なんです。私は次で十六ですので一年ズレていますけど」

「あれ、それじゃあアンジェ様の誕生祝いもしないとだめじゃないですか」

 

 言ってくれれば合同で開けたのに、と残念に思っていると、聖女見習いの少女は微笑して、

 

「私は巫女ですから。お祝いの席でご馳走を口にするのも気が引けてしまいます」

「神様はたぶん気にしないと思いますけど……」

「神殿としての体面もありますので。……それに、歳を取るのも良いことばかりではありません」

 

 加齢が怖くなるにはまだ早いだろうに。

 

「神殿でなにかあったのですか?」

「はい。……その、私も十六で成人扱いとなりますので。聖女の座を引き継ぐのに十分、と考える動きがあるのです」

 

 聖女は神託によって定められる特別な存在だ。

 同時には一人しか存在できないと定められており、資格者が複数いる場合、他の者は見習いとして聖女に仕え経験を積む。

 アンジェが『銀百合』に協力しているのも現聖女であるアンジェリカの指示なのだけれど、

 

「……聖女の代替わりには少なくともまだ数年かかると思っておりました」

「私もそうです。ですが、アンジェリカ様もそれなりのお歳ですので……」

 

 現聖女のアンジェリカは二十代後半。

 

「引退して子を成すのならば早いほうがいいだろう、と、神殿長様はお考えなのです」

「聖女の交代も神殿長様が決めるんですか?」

「最終的な判断はアンジェリカ様ご自身に委ねられます。ですが、交代を打診することは問題ありませんので……」

 

 早く交代しろ、と、事あるごとに言い続けてもいいわけだ。

 それはまあ、聖女の役目は辛いことも多い。

 激務から解放されて第二の人生を歩むのも良いことだし、子供を産むのも悪いことではないのだけれど……なんだろう。なんというか。

 

「アンジェリカ様を早く手に入れたい誰かがいるんじゃないか、っていう気持ちになりますね……」

 

 もやもやを形にして口にすると、アンジェが遠い目になった。

 

「神殿長様はアンジェリカ様を娶って還俗することをかねてから念願とされていますので……」

 

 シルヴィアの脳内で『神殿長』がでっぷり太ったスケベオヤジのイメージになった。

 

 

    ◇    ◇    ◇

 

 

 アンジェが正式に聖女となった場合、今までのように『銀百合』に協力は難しくなる。

 こちらの都合ばかり言っていられないとはいえなんとかならないものか。

 考えてみたものの、神殿の権力関係はかなり独自性が強く、外部から横槍を入れるのはなかなかに難しい。

 

 結局のところ都の大神殿のトップ──すなわち神殿長が偉いのだ。

 

 じゃあどうしてそんなスケベオヤジが長をやっているかというと、

 

「現神殿長様は公爵家出身で、ご実家やその他の貴族家から多額の寄付を募っていらっしゃるのです」

 

 元巫女で内情に詳しいゼリエがそう教えてくれた。

 

「魔力も高く、多数の神聖魔法を扱うこともできたことから適任とされました。……実際、寄付のおかげで神殿の運営が円滑となったのは事実です」

 

 神殿も慈善事業ではない。

 どこかからお金を得なければやっていけない。神官や巫女の食費や神殿の維持費だけでも馬鹿にはならないのだ。

 そういう時に貴族出身の神殿長は確かに強い。

 

「ですが、神殿と貴族社会との癒着を問題視する声もあります。……私が神殿にいた頃も神殿長派と聖女派で内部が割れていました」

 

 金と権力におもねるようでは貴族社会と変わらない。

 派閥を作って他者を排斥する行為も聖職者としてはどうなのだろうか。……ゼリエが巫女をやめるきっかけのひとつであるいじめも、こうしたところに原因があったのかも。

 

「いっそのこと神殿長の後任を仕立てられればいいのにね」

 

 するとゼリエは「公の場では口にしないでください」と念押ししたうえで、

 

「ですが、そうですね。……大神官様を立てられれば一番いいのですが」

「大神官?」

「聖女と同等の男性聖職者です。存在する場合、その方が神殿長を兼ねるのが通例となっています」

 

 神殿長はあくまで聖職者の中から選ばれる業務上の職位だけれど、聖女や大神官は神から指定される職業の一つ。

 生まれるかどうかは偶然にも左右される。

 

「大神官のほうが聖女よりも生まれにくいのかな?」

「……そうですね。神殿の歴史を振り返ってみると、徐々にその出現が稀になっているように思えます。反対に聖女の出現は安定しているような……」

 

 アンジェリカの下にアンジェがいるのがその証拠だ。アンジェの歳を考えるとそろそろ次の聖女見習いが決まってもおかしくない。

 ほんの少しずつだけれど、人間も女性優位──上位種への移行が始まっているのかもしれない。

 

「うーん。次の神託で大神官が見つかってくれないかなあ」

「難しいかと。……と言いますか、五歳の男児にすぐさま神殿長職は務まりません」

 

 結局のところすぐに打てる手はない。

 神殿長にしても結婚すれば長の地位を手放すことになる。性急な手段には訴えて来ないだろうし、アンジェリカも黙って従ってはいないだろうと、その時は結論づけた。

 けれど、事態の変化は思ったよりもずっと早く起きて。

 

「シルヴィア・トー女男爵様。神殿より書状を持ってまいりました」

 

 今年の貴族学校最終日。シルヴィアの時間が空くのを見計らったかのようにやってきた神官が恭しく差し出した書状にはこう書かれていた。

 

『シルヴィア・トー女男爵を「月巫女」に任ずる』

 

 要は神殿内での役職を正式に用意するという──()殿()()からの通達である。

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