わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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偉い人はだいたい腹黒い、は偏見か否か 2

「……行きたくないなあ」

「じゃあ行かなければいい──というわけにはいかないのですよね?」

「残念ながらね」

 

 衣の着付けをしてくれるスリスに苦笑で返す。

 就位式は通達の二日後にさっそく行われることになった。

 これだけ急ぎなのは貴族学校生の暇な時期を狙ったから──というだけでなく、おそらく、現在聖女アンジェリカが辺境を訪問中だからだ。

 神殿長に対抗しうる存在が不在のうちにことを済ませてしまおうという魂胆。

 

 まさか、何度もお世話になってきた巫女の衣がこんなに重く感じられる日が来るとは。

 

「そもそも、位をいただけること自体は喜ばしいことなの」

 

 昇進だし、神聖な位でもある。

 

「月巫女はアンジェリカ様からいただいた衣に準じた地位だしね」

 

 聖職者の位は数字ではなく『月』などの言葉で表される。聖女・大神官を除くと太陽、月、星、空、大地、海の順。

 月まで行くとかなり限られた者しか到達できない。

 街や村レベルの神殿なら間違いなく長を務められる立派な位だ。

 

「では、嫌そうになさっているのは」

「なにかの思惑があるだろう、と思えて仕方がないからね」

 

 今まで「聖女のお気に入り」であり「魔族を倒した」という実績だけで敬われていたシルヴィアが巫女としての位を得られれば神殿内での評価はさらに上がる。

 他でもない神殿長が決めたのだから聖女派だけでなく神殿長派も無視はできないだろう。

 だからこそ、どうしてこのタイミングで? となる。

 

「……いったいなにを企んでいるんだろうなあ」

 

 本当は冬季休暇に入り次第騎士団の部屋で寝泊まりするつもりだったシルヴィアだけれど、支度の都合もあって今日まで貴族学校寮に残った。

 衣を纏い、神殿から遣わされた馬車へと乗り込む。

 

「スリス。シルヴィア様をお願いします」

「はい、ゼリエ様」

 

 神殿を追放され、さらに罪を犯した身であるゼリエは神殿に入れない。

 今日、傍につくのはスリスの役目になった。

 アンジェも今日の式には参加できない。なんでも男性側の騎士団から要請があり、負傷者の治療に向かわなくてはならないそうだ。聖女のいない状況ではありえない話ではないけれど、

 

「やっぱり、なにかあるよね」

 

 神殿の入口には神官──つまり男性聖職者が数名待機していた。

 

「ようこそお越しくださいました、シルヴィア様」

「本日はお招きいただき誠にありがとうございます」

 

 挨拶自体は丁重に。

 神官たちはシルヴィアの身なりを簡単に確認するとすぐに奥へと通した。

 部屋で湯浴みやお祈りは済ませてきたので不要だった──というだけのことかもしれないけれど、これまでの作法から考えると「急いでいる」ようにも見える。

 向かった先はこれまでに何度も利用した大ホール。

 十を超える神官、巫女が控え、さらに白が九割を占める衣を纏った恰幅のいい中年男が中央に立っていた。

 

 イメージしていた姿は当たらずとも遠からずだったかもしれない。

 神殿長というよりも悪徳貴族といった感じの男はシルヴィアを値踏みするようにじろじろ見た後で笑みを浮かべた。

 

「ようこそ、月巫女シルヴィア」

「神殿長様。この度は身に余る厚情を賜り感謝の言葉もございません」

「何を言う。其方の活躍、功績を思えばむしろ遅かったくらいだろう」

 

 じゃあなんでこのタイミングで。

 

「さあ、儀式を始めるとしよう」

「かしこまりました」

 

 儀式自体はつつがなく進行した。

 他でもない神殿長から直々に月巫女に任じられ、聖職者たちから称賛を受ける。

 気になったのは儀式中に神へと祈った場面。

 シルヴィアが祈ると銀色の光がきらきらと天に昇っていったのだけれど、神殿長からはぽう、と、光の球がひとつ浮かび上がっていった。

 

『なによあれ。ただの魔法の明かりじゃない』

 

 あ、やっぱりそうなんだ。

 儀式に合わせて白い下着に変わっている魔族──ヴァッフェの独り言に納得。

 神聖魔法ではなく魔法の光。つまり、神の加護に見せかけたポーズ。

 このおじさん、神様から好かれていないのでは?

 

「さて、シルヴィア。これで其方は正式に巫女としての位を得た。限定的ではあるが、下位の聖職者に命令し動かす権限も得たことになる」

「心より感謝いたします」

「うむ。……しかし、権限を得たということは同時に義務も生まれるということだ」

 

 ほら来た。

 儀式の後、いちおう形式上は解散となった後──実際には誰も退場しておらず注目が集まる中で神殿長はシルヴィアに告げた。

 

「神殿での行事に参加せよ、ということでしょうか? ですが、わたしは」

「わかっている。貴族学校、騎士団の運営、どちらも忙しいであろう。日々の行事にすべて参加しろと言うつもりはない」

 

 強権を発動するわけではない、と、一定の理解を示したうえで、

 

「ただ、可能な範囲でその位に見合った働きをしてもらいたい」

「と、仰いますと?」

「聖女から見込まれ、聖女見習いと同格の扱いを受ける其方には尊き方のお相手が相応しかろう」

「────」

 

 ホール内がわずかにざわつく。

 上位貴族や王族はわざわざ神殿まで赴かなくとも聖職者のほうが訪問して治療や儀式などを行ってもらえる。

 それを担当するのは上位の聖職者であり、特に重要な案件であれば聖女や神殿長が出向く。

 ……まあ、調べたところ神殿長は実際ほとんど担当していないようだったけれど。

 

「そこで、其方に一つ頼みたい役目があるのだ」

 

 これが本当の狙いか。

 思いながら、シルヴィアは微笑と共に答える。

 

「どのようなことでございましょう?」

「なに、大したことではない。とある方への『神託の儀式』を担当して欲しいだけだ」

 

 国民全員が五歳で受ける儀式。

 これによって民は自分に適した職業を知る。人によっては『戦略家』や『聖女』を示されて平民から特別な地位へと移ることになるし、逆に王族が『公爵』や『商人』になることもある。

 儀式自体がどんなものかはシルヴィアもある程度知っている。自分も受けたわけだし、アンジェリカやアンジェと話をする中で聞かされているからだ。

 古語を用いてもったいぶった時間を取った後、神の言葉──すなわち日本語で一言唱えるだけ。

 聖なる言葉ではないにせよ、儀式の形を取ることで成功率を上げているらしいけれど、たぶんシルヴィアなら一瞬で終わらせることもできるだろう。

 

 ともあれ、公爵家出身の男性を相手に「いやですー」はありえない。

 

「精一杯務めさせていただきます。……いったいどなたの儀式を?」

「他でもない。約一月後に五歳を迎えられるこの国の第十王女様である」

「っ」

 

 王族。

 ここでようやく、シルヴィアは神殿長の意図を理解した気がした。

 神託の儀式は誰もが一度しか経験しない。それを担当した者の顔は嫌でも記憶に残る。それも担当者が歳のそう離れていない同性なら?

 儀式の後、お茶会に誘われてもおかしくないし、そうでなくても顔を覚えられる。担当したという実績だけでも王家への繋がりになるだろう。

 

 それを命じた神殿長にとっても「聖女のお気に入りに自分も目をかけている」というポーズになる。

 アンジェリカを娶って神殿長の座を降りれば権力は低下する。新たに聖女となったアンジェが実権を握って神殿長派の力を削ぐこともあるかもしれない。

 そうなる前にめぼしい相手に唾をつけておきたい、そう考えたのだ。

 シルヴィアとしても、アンジェリカが聖女でなくなっても個人的な付き合いをしたい。そうすると彼女らの家に赴くこともあるだろうし。

 

 なるほど、なかなかに面倒くさい。

 

『でも、どこぞの騎士団長よりはまともな陰謀じゃない? 飴と鞭の使い分けができているわ』

 

 いや、うん、あの人と比べている時点でヴァッフェもわりと褒めていないような。

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