わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい   作:緑茶わいん

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新しいことを進めていくのはとても楽しい

「月巫女就任おめでとうございます、シルヴィア戦略家見習い」

「お忙しいところ恐縮ですが、騎士団でのお役目についても進めていただけないかと」

「ど、どうしたんですか、先輩がた」

「どうもこうも。そろそろ私たちにも教えて欲しいのよ」

「クレールやエリザベートにはアドバイスをしてるんでしょう?」

 

 神殿を後にしたシルヴィアはその日のうちに騎士団へと移動した。

 すると、今年正規騎士になったばかりの娘たちにさっと取り囲まれる。ラシェルより一歳下、シルヴィアから見ると二つ歳上の子たちだ。騎士学校で一緒の時期があるのでもちろん顔は知っている。

 今年の四月には男性騎士と女性騎士の確執──というか女性騎士が一方的にハブられる状況が確立していたため、彼女たちはその影響を一番に受けた。

 半年ちょっとの間、騎士団寮を使えず実家や城からの通い状態。任務につきたくとも目立つ役割は男に取られて除け者にされていた。

 その分、『銀百合』に来てからは張り切っていて、

 

「半年以上もお預けされたんだからこれから活躍しなくちゃ」

「あるんでしょ? なにか秘策が」

 

 期待のこもった視線をじっと向けられる。

 シルヴィアはこれに頷いて、

 

「そうですね。騎士団の戦力向上はわたしも急務だと思います」

「じゃあ」

「でも、どうしてわたしに秘策があると思ったんですか?」

「だってクレールたちが『シルヴィアのおかげだ』って言ってたじゃない」

「……言ってましたね」

 

 詳細は誰も漏らしていないけれど、シルヴィアのアドバイスがあったこと自体はちょくちょく口から出ている。

 それじゃあバレるのも仕方ないか。

 

「エリザベートやラシェル様の許可はもらってるから。ほら早く」

「なにをすればいいの?」

「ちょっと落ち着いてください。そんなすぐに全員は無理です」

 

 顔をずいっと近づけてくる先輩がたをなだめて、

 

「それと、アドバイスをするにあたって守ってもらわないといけないことがあります。わたしがどういう方法でアドバイスをしたか、誰にも秘密にするという『誓約』をしてもらうことです」

 

 いつもの説明。

 

「これを守ってもらえない方にはお教えできません。……いいですか?」

「別にそのくらい構わないわ。ねえ?」

「ええ。あなたに絶対服従とか言われたらさすがに困るけど」

「ありがとうございます。じゃあ、一人ずつ順番にやっていきましょう」

 

 

 

 

 

 騎士団内の強化はもともとこのタイミングで行うつもりだった。

 冬季休暇でシルヴィアの手が空き、正式稼働直後でみんなのやる気も高まっている。

 

『わたくしたちの最大の弱点。それは数ですわ』

 

 少し前に行われた会議で騎士団長──エリザベートはそう言っていた。

 

『女性騎士は男性騎士に比べると少数。数としては半分にも満たない。この数で男性に対抗するには個の力を伸ばすしかありません』

 

 すなわち、騎士団員全員に『恩恵』の使い方を覚えてもらう。

 クレールやエリザベートが学生でありながら正規騎士並み──あるいはそれ以上の実力を備えているのはすでに証明済み。

 なら、他のメンバーも同じようにして強化すれば一人一人の働きで男性騎士を上回ることができる。

 

 というわけで、さっそくシルヴィアによる個人指導が始まった。

 

 対象となるのは今までにアドバイスを受けていない女性騎士全員。今年入った正規騎士だけでなく既存の女性騎士も含めたメンバーを一人ずつ呼び出して行う。

 年齢順にすると喧嘩の種になりそうだし任務や休暇で空けるメンバーもいるのでそこはバラバラにさせてもらった。

 

 やることは簡単。神聖魔法で誓約してもらった後、恩恵の文章を見せてもらってその内容に沿ったアドバイスをするだけ。

 まあ、だけ、とは言ったものの、

 

「……これ、けっこう疲れる」

 

 一日につき二、三人ずつ相手にして三日が過ぎた頃、シルヴィアは溜まった疲労からついつい弱音を吐いた。

 戦略家用の部屋と同様に設えられた騎士団長室でのことである。

 公爵令嬢らしく騎士団長の椅子へ優雅に腰掛けたエリザベートは「お疲れ様」と苦笑して、

 

「言葉にすると簡単だけれど、あなたにもそれなりの負担になりますのね」

「それはそうだよ。魔法も使うし、どんな方法がいいかは人によって違うんだから」

 

 どんな恩恵が来るかは蓋を開けるまでわからない。となると事前準備も難しいのでぶっつけで良いアドバイスを考えないといけない。

 変なことを言うわけにもいかないのでなかなかのプレッシャーである。

 

「でも、おかげで騎士団の総合力は上がりつつありますわ」

「え、もうそんなに結果が出てるの?」

「ええ。水を得た魚のごとく伸び始めた団員が何名か」

 

 イザベルやラシェルが「武器を変える」ことで成功したように恩恵が比較的わかりやすかった者たちだろう。

 

「個の戦力が上がれば少数精鋭の体制を取りやすくなります。一人で二人分、二人で三人分といった働きが期待できますものね」

「でも、任務に割り当てる人数は減らしすぎちゃだめだよ? どんなにすごくても一人は一人なんだから」

 

 わかりやすいのは食事やトイレか。

 強いからって一人で護衛任務に当たらせたらほんの数分、持ち場を離れた隙になにかが起こりかねない。

 エリザベートは「心得ていますわ」と頷いたうえで、

 

「……とはいえやはり人数不足。加えてわたくしたちにも経験が足りていませんわね」

 

 新しい騎士団という物珍しさもあってか『銀百合』にはさっそくいくつかの任務が舞い込んできている。

 女性貴族の護衛に冒険者ギルドの協力要請、荷馬車への随伴、さらには騎士学校の臨時教師まで。

 エリザベートとラシェルが中心になって人選をし派遣を行っているものの、やっぱり人を多くしすぎたり少なすぎて難儀する例が出てきている。

 

「マルグリット様にも教えを乞うていますけれど、都度、相談に赴けるとも限りませんし」

「ベテランの経験則は理論に落とし込めない場合も多いもんね」

 

 仕事のできる人間がマニュアル作成に向いているとは限らないというやつだ。

 

「……マニュアル? そっか、マニュアルかあ」

「? 業務の明文化なら進めていますけれど?」

「そうだけど、もうちょっと踏み込んだのが作れないかなって」

 

 例えば護衛任務なら最低何名必要とか、ゴブリン討伐ならこの程度の実力が必要とか、リスト化して誰でもわかるようにしておくのだ。

 

「状況に応じて対応はいるけど、半日の護衛なら一人でもギリギリ大丈夫、丸一日なら最低二人必要とか早見表があれば誰がやってもそんなに間違えないでしょ?」

「……なるほど。おいおい判断を下せる者を増やそうとは思っていましたけれど」

「そういう時に基準はわかりやすくて多いほうがいいよ。……あとは騎士団員の能力もわかやすくまとめられればいいんだけど」

 

 人の能力はゲームのステータス画面みたいに単純じゃない。

 ……まあ、シルヴィアの『恩恵』には仲間のステータスを表示する機能も含まれているのだけれど。

 自身の恩恵を「神の言葉を理解できる」と伝えている手前これは言えないし、ぶっちゃけそうでなくともあまり使っていない力だ。

 友人や仲間をデータとして扱ってしまうのはなんとなく決まりが悪い。あと、なにげにステータス内に「スリーサイズ」があったりするのが申し訳ない。

 ちなみにシルヴィア自身のステータスも開けるのだけれど、見るとスリーサイズだけでなく身長と体重までまるわかりなのでなんというかいろんな意味であんまり見たくなかった。

 リアルタイムの体重なんて逐一チェックしていたら甘いものが食べられない。

 

「対人戦、対魔物戦、魔力量、魔法の腕──とか、簡単な項目ごとにランク付けするくらいならできるかな? Cランクならオークに勝てるみたいなの」

 

 あれこれと可能な範囲を考えていると、部屋の主が深いため息をついた。

 

「あなたのその、高位貴族以上にシビアな考え方は巫女らしくありませんわね」

「あはは。まあ、うん、わたしは神殿育ちじゃないからね。できるだけ巫女としての役目は少なめにしてもらいたいな」

 

 王女の神託については引き受けるしかない。

 引き受ける以上は務め上げ、自分たちの利を見つけるしかないだろう。

 件の王女様はイリスともクロヴィスとも異母らしいけれど、打算としても素直な気持ちとしても仲良くできたらいいと切に思った。

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