わたしの百合ハーレムは神様に望まれているらしい 作:緑茶わいん
歴史上でもゲームの中でも、なんならラノベやドラマでも。王位継承問題というのはどろどろしていて簡単にはどうにもならないもの、というのが定番だ。
なにしろ王には一人しかなれない。
王になれば絶対的な権力が与えられるのだから、なりたいと思う者がたくさんいても不思議はない。シルヴィアはそんな面倒くさい仕事絶対に嫌だけれど。
この国では幸い、神託によって王が決まるのでまだ穏便なほうだ。
王位継承者が最初から絞られているので揉める余地があまりない。神から「お前王の才能ないから」と言われてなお、才能のある者を差し置いて王になろうとするのはなかなかの野心家か、あるいはただの馬鹿である。
だからこそ、王の才能を持つ者が二人以上現れた場合には揉める。
どちらを王にすべきか。臣下は意見が割れるだろうし、先に「国王」の神託を授かった者にしてみれば寝耳に水だろう。
どうにかして対抗馬を排除しなければ自分の存在価値がなくなるかもしれない。その恐怖は想像もできない。
なにしろこの世界では、自分の将来が「神に教えられるもの」なのだから。
「我が国において、王とは男子に与えられる位だ。女にそれが与えられた例はない」
そして、この国の王たる男は誰よりもそれをわかっている。
「であれば、ステファニーがこの国の王位を継ぐことは困難だ。途方もない苦労と困難が待ち受けていることであろう」
女騎士はまだ、国の中に存在を許された役職だ。
けれど「女王」には前例がない。
エリザベートたちが男性騎士から馬鹿にされてきたのとは比べ物にならないくらい、ステファニーには批判の声が向けられるはずだ。
別に女王になりたいと言ったわけでもないのに。
神様からそう決められたというだけで、存在そのものが罪であるかのように言われるだろう。
「ならばいっそ、この世を去ってもらった方が幸いであろう」
今のうちに歴史から退場してしまえば世を騒がせることもない。
王女に下った神託がなんなのか。それも一緒に闇に葬ってしまえばいい。そうすれば「女王適正者」という前代未聞の存在は誰にも知られずに消える。
もしかしたらこれまでにも、そうして表舞台を去った女子はいたかもしれない。
──とはいえ。
幼いステファニーを処刑、あるいは謀殺するなんてあまりにもひどすぎる。
だからこそ、王もそこまでは考えていないはずだ。
「ステファニー様が亡くなられたと発表し、別人として生かすおつもりなのですね?」
王は多くを語らず、ただ苦渋の表情を浮かべて。
「王女として生きるのに比べれば困難だらけであろうが、な」
そうすれば命だけは助かる。
ちやほやされて何不自由なく成長する未来は奪われてしまうけれど、大人たちから意味もわからないまま敵視されるようなことだけは避けられる。
国王もまた、自分の娘を殺すなんてことはしたくないのだ。
それを思えば、別人として王女を生かす選択は正しい。
たぶん、これ以上の選択肢はないだろう。
この国の次代として女王が立つ未来は想像できない。
であれば、可能性としてはステファニーが「新たな国を興す」ほうがありうる。そうなった場合、高確率でこの国の国土が分割されることになり──それもまた、臣下がよしとする未来ではない。
だから。
スザンナはただ深い礼をもって感謝を示した。
「陛下の寛大なるご配慮に感謝いたします」
「よい。……我としてもステフを娘と呼べなくなる事は心苦しい。もっと良い方法を与えてやれればよいのだが」
王もまた、望めばなんでもできる存在ではない。
一人で国の全部を動かせるわけではないのだから、反発を受ければ権力は低下して思うように動けなくなる。
「せめてあと十年──いや、あと五年後のことであれば、と思えてならぬな」
彼の視線はどういうわけかシルヴィアに向けられた。
同意を求められても困るのだけれど。
「あの、ステファニー様はどなたの手に委ねられることになるのでしょうか」
「……うむ。はっきり言って選択肢は多くあるまい。ある程度の秘匿性を備え、かつ、信用のおける相手となれば自ずと限られてくる」
最低でも侯爵家クラスの権力は必要だろうし、派閥関係を考えるとどこの家でいいわけでもない。できるならなによりもまずステファニーの安全を考えてくれる家に委ねたい。
スザンナの実家は筆頭だけれど、だからこそ逆に選びづらい。わけありの王女を匿うにあたってあまりにも「それっぽい」ので逆に匿いきることができない。
「其方らの『銀百合騎士団』も候補ではあるのだが」
「恐れながら、騎士団は人の出入りが多くございます。子供を育てる場所としても適切ではないかと」
「そうだな。……神殿もまた、現状では安全と言いきれぬであろう」
神殿長とかステファニーの素性に気づいたら喜々として情報を売りそうである。
それとも王女に恩を着せてさらなる権力を握ろうとするか。
「デュヴァリエ公爵家という手もあるが、あれを匿うには目立ちすぎるか」
「はい、陛下。ステファニーが女であるからこそ、後見人には殿方を据えるべきかと」
ここでシルヴィアの脳裏に浮かんだのは前騎士団長の顔だったけれど、国王が口にした名はそれとは違っていた。
「……そういえば、クロヴィスがシルヴィアに会いたがっていたな」
「クロヴィス殿下が、ですか?」
シルヴィアよりも二歳歳上の『元』第五王子。
去年貴族学校を卒業、神託によって「公爵」位を得た彼は国から与えられた己の領地に移ってその采配に四苦八苦しているはずだ。
シルヴィアたちとはリゼットの結婚をめぐって決闘したりいろいろあったものの、騎士団本拠の建設費用を出してもらったりといろいろお世話にもなっている。
というか少し前に誕生パーティで会ったのだけれど、その時にはなにも言っていなかった……って、これは酔いつぶれて覚えていないだけの可能性もあるか。
それにしてもここでなぜクロヴィスの話が。
「其方は面白い発想をするだろう? 領地の発展に貢献させられないかと考えているらしい。一度、遊びに行ってみてはどうだ。……無論、相応の手土産を持ってな」
「あ……」
なるほど、そういうことか。
既に事情を知っているシルヴィアを動かす分にはリスクが少ない。貴族の移動は荷物が多くなるので人一人隠す余地は十分ある。
元王族であり現公爵であるクロヴィスならステファニーを守れるだろうし、良くも悪くも彼は「元王族」という意味合い以上の注目は受けていない。
正妻より前に愛人を決めた挙げ句、いろんな女の子に手を出しているくらいだし、逆に五歳の王女を匿って育てているとは思わないかもしれない。
「クロヴィス殿下はステファニー殿下とは異母でしょう? 親身になってくださるでしょうか」
「なに。あれは女を邪険にできない性格だ。たとえそれが己の好みから外れていてもな。……其方もよく知っておろう」
「……仰るとおりでございます」
王子だった頃の彼に誘われたことのあるシルヴィアは苦笑で答えるしかなかった。こんな可愛くない女とよく今も付き合ってくれているものだ。
「ステファニーにはひとまず体調を崩してもらう。隔離し、表には決して出すな。日毎に病状の悪化を広め、折を見て死亡を公表する」
裏で秘密裏に城から連れ出し、シルヴィアの公爵領行きに合わせて都から離す。
国王は小さく笑みを浮かべて。
「この際だ。スザンナ、其方も公爵領に同行してはどうだ? 傷心を癒すためと言えば城を離れても問題なかろう」
それならば、最後に母娘水入らずで過ごす時間がとれるかもしれない。