これはまだベルが『インファント・ドラゴン』やミノタウロスの群れとの激戦をする事になる前の話……。
「ふっ!!」
「クケコォォッ!!」
「やりましたね、ベル様」
ベルがモンスターを倒した事にリリルカは大いに喜んだ。
その訳とは1階層にて凄まじい低確率で産出される柔らかな黄緑色の羽毛を生やした鶏のモンスターである『ジャック・バード』を倒せたからだ。
『ジャック・バード』は倒すと必ず、最低一〇〇万ヴァリスの価値がある『ジャック・バードの金卵』を出すからである。
そうしてベルは状態も良かったために百数十万ヴァリスの『ジャック・バードの金卵』と金卵よりは劣るが数万ヴァリスの『ジャック・バード』の魔石をも手に入れた。
こうして、リリルカの意志もあってベルはその大金を全て手に入れると……。
「……どうかな、ベル君」
翌日、ベルは偶々本拠の地下室を掃除していた時に見つけた『神の宴』という神々限定の催し物への招待状からこうした物に参加できるよう、ヘスティアを連れ出して衣服関係の店が多い北のメインストリートへと向かい、礼服店へと向かった。
そうして、店員と相談をする事でヘスティアは清潔さを感じさせ、綺麗な青と白のドレス、グローブを身に着け、ヒールも履いているという正に女神に相応しい美を纏ったのである。
「はい、凄く綺麗ですヘスティア様」
「大変、お似合いですよ。神様」
ベルに店員がヘスティアを賞賛し、そうして試着したそれを購入。
「本当にありがとうね、ベル君。ドレスなんて買って貰っちゃって」
「気にしないでください、ヘスティア様にはもっと美しく着飾ってもらいたいし、それに僕が一番、ヘスティア様の綺麗な姿が見たいだけですから」
「ベル君……(ボクもベル君のために……)」
本拠へと戻る帰り道の中、ベルと会話をしたヘスティアは彼のために役に立つ何かを絶対にしようと心に誓うのであった……。
そうして時は戻って、現在……。
朝日が昇り始める時間帯の中、『豊穣の女主人』の中庭では……。
「はあっ!!」
「やああっ!!」
LV.4にして元賞金稼ぎである『豊穣の女主人』の店員の一人、ルノア・ファウストが鋭く苛烈な拳撃の嵐を放つ。彼女が得意としているのは拳による格闘戦。
それに対し、ベルも素手で応戦していた。
「(また一段と強くなってる……)」
ルノアは日々、実力を上げるベルの強さが更に飛躍していたのを感じていた。それは昨日、【ロキ・ファミリア】のティオナとアイズ、レフィーヤと共にダンジョン探索に向かい、チャージ攻撃による反動でしばらく動けなくなったため、帰りはティオナ達が戦闘を担当していた。
その時、【ロキ・ファミリア】内でも姉と共に徒手空拳に優れるティオナの技と派閥内どころかオラリオ内外でも有数の剣士として名を馳せているアイズの剣捌きを見ることが出来た。
彼は自覚していないが、一度見た動きは完全に模倣できる素質を持っていたため、ちゃっかりと二人の技を身に着けており、今、こうしてルノアとの手合わせの中で自分の物として最適化した事で一段と飛躍的に実力を上げたのだった。
「はああっ!!」
「くうっ!?」
そうしてベルは全ての力を振り絞り、限界を超えて放った回し蹴りをルノアに防がれながらも更に力を込める事でルノアの防御を無理やり、蹴り飛ばす事で大きく彼女の体勢を崩した。
「はあ、はあ、はあ……時間切れ、まだまだルノアさん達に届かないか」
朝日が昇り切ったのを見て手合わせの時間が終わったのを確認するとベルは呟いた。
「いやいや、十分届いてるよ。本当にベルはどんどん強くなるね、手合わせが楽しくなってきちゃう……」
ルノアはベルに近づくと……。
「これは頑張って強くなってるベルへのご褒美だよ」
「あむ、ぅ、ぅぅ……」
ベルを優しく胸の中へと抱き寄せながら柔らかさと温かさという感触を与えつつ、頭を撫で回し時には胸から少し離して顔全体を揉むなど甘やかしと可愛がりを始める。
「こういうのには縁が無いと思っていたけど、すっかり私もベルの虜になっちゃったな。ベルはどう?」
「とっても気持ち良くて、幸せです。ありがとうございます」
「どういたしまして……」
ルノアはベルの自分の行為に蕩けていく様子に対して満足しながら、更にベルを蕩かせるために行為に集中するのであった。
こうして、『豊穣の女主人』での鍛錬と開店の準備の手伝いをした後、一旦、本拠に戻り……。
「ベル君、前にも言っていたように今回はとことん神友たちと旧交を温めるから、『
ヘスティアはベルに対し、『神の宴』に参加するための荷物を持ちながら、そう言った。
因みに『怪物祭』とはオラリオで開催される大きな祭りであり、ベルとヘスティアは一緒にそれを楽しむ事を約束してもいる。
「分かりましたけど、ちゃんと僕は一人で待てますよ。ヘスティア様」
「ふふ、そうだね」
そう会話を交わし……。
「ふむ、く、ん……」
離れる事になる数日間の分、ベルとヘスティアは抱き締め合い深い口づけを交わすのであった。こうして、ヘスティアは本拠を出……。
「(もしかしたら縁を切られるかもしれないけど、それ覚悟でヘファイストスに……)」
神交のある中で最も大好きである女神に例え縁を切られる覚悟を決めながらも頼み事を叶えてもらおうと意志を固めて足を進めるのであった……。
二
昨日、ベル達はバベルの換金所にてティオナ達がサポーターを務めた事でいつも以上に増え、しかもティオナ達の分はベルたちの物にして良いと言われたそれを換金しようとした時……。
「あれ、エイナさん?」
「ベル君がいつもここを使っているのは聞いているから当番変わってもらったんだ」
換金所を担当しているギルド職員の一人の中にエイナがいたのでベルは驚いた。そして、控え室に呼ばれ……。
「これ、『サラマンダー・ウール』のクーポン券だよ。中層に行くならこれを必ず買って、装備してね」
細長い切符をエイナの手から三枚渡された。
「え、エイナさん。でも、こういう事……」
「うん、ギルド職員としては褒められた行為じゃないけどこのクーポン券は私個人で買ったものだし、私個人としてはベル君の力になりたいから……受け取って」
「はい、ありがとうございますエイナさん」
「どういたしまして。何度も言うけどベル君、命だけは絶対に大事にしてね。いつまでも私はベル君がダンジョンから帰ってくるのを待っているから」
「はい、絶対にエイナさんの元に帰ってきます」
「うん」
そうして、ベルはエイナに抱き締められ、口づけされた。
そんな日の翌日、エイナから渡されたクーポン券を使って火の精霊ことサラマンダーの加護が宿っている事で火炎や熱に対して防御性能が高く、防寒の属性もある『サラマンダー・ウール』を割引してもらいながら購入。
形状は様々でベルはインナー、ヴェルフは着流し、リリルカは服の上から全身を覆い隠す程のローブとして購入した『サラマンダー・ウール』を身に着ける。
そうして、中層域まで探索の範囲を広げ始めた冒険者のパーティにおいて一番多い『ヘルハウンド』の火炎攻撃の対策をするとベル達はダンジョン探索を始める。
「ふっ!!」
ベルは今、岩窟で構成された中層域の入り口であり、上層域に比べると遥かにモンスターの能力や数が激増し、そもそもの遭遇機会も激増しているのを感じさせる上層域に次いで死亡率が高い13階にて『ヘルハウンド』に『アルミラージ』、壁の中を穿孔して奇襲してくる『ダンジョンワーム』等を相手に縦横無尽に駆け跳ねながら、二振りの片手剣による壮絶にして苛烈な暴嵐の如き、剣閃乱舞を披露し、討伐していく。
「【ファイアボルト】!!」
更に魔法を手に入れてから常に片手を空けることが出来るように磨き続けている納剣と奇襲としても使えるが、何より常に剣を振るえるように抜剣の技能……剣技において一番、基礎的なそれを駆使して片手を空けて無詠唱であるため、どんな魔法よりも発動速度が超速である炎雷魔法をも剣舞乱舞の中に織り交ぜる事でモンスターの群れを蹴散らし、あるいは牽制。
「はあああつ!!」
そうして反動の疲労も考えて数秒から十数秒に限定したチャージを使って威力に規模を上げた炎雷も使う事で隙無く立ち回っていく。
「これは……噂になる訳です……」
そんなベルの奮闘に驚愕しながらも見惚れているのは白銀の長髪にして、百四十九Cと小柄な身長の為、その容姿と合わさって精緻な人形を思わせる美少女にしてオラリオ内でも随一の『
彼女と数人の【ディアンケヒト・ファミリア】の団員である治療師に護衛やダンジョンへ治療薬のためのドロップアイテムや原料獲得を目的としている戦闘要員は死亡率が多い『上層域』から此処、13階層までを探索する冒険者のための治療や救出活動をしていた。
自分や団員の【ステイタス】更新の為もあるが、なにより冒険者達がなるべく怪我しないで帰って来れるようにするための行いである。
そんな彼女達と偶々、その時、冒険者の窮地を救っていたベル達は出会い、丁度良いからと自分たちの活動への協力を頼まれベル達は引き受けたのだった。
そうして……13階層での活動も終え……。
「しかし、戦いではあんなにも勇ましかったのに今では見た目通りの兎ですね。好ましいです」
「そうでしょう、これが特に良いのです」
「僕としてはそういう評価は微妙なんだけど……」
ダンジョンには地形や壁を破壊した際、その修復のために力を使い、その間、モンスターの産出が疎かになる特製がある。そうした特性を利用して休憩するための空間を作ったベル達一同。
するとアミッドとリリルカは座っているベルに近づき、頭や顔を弄って蕩かし始め、彼が身を委ね心地良さげに、そして蕩けていく様子に胸をときめかせる。
「ふぁ、んん、アミッドさ……う、上手い……」
「これでも治療師ですからね、こういったのも慣れっこなんですよ」
「成程、こうしたらよいのですね」
ベルは頭や顔だけでなく、腕や手、足などを揉んだり摩ったりするアミッドの手際に驚きながらもやはり、蕩けた。
治療師であり、自派閥が設けた治療院で働いているので按摩やマッサージにも長けている。そんなアミッドの手腕を参考にリリルカもベルを気持ち良くしようと励んだ。
そうして、その後はバベルへと帰還すると今回、アミッドの手伝いに対する礼は貢献分、ミアハ達の借金を減らす事を約束してもらいながら……。
「ではベルさん。是非、私達の治療院にもいらしてください。質の良い回復薬の販売だってしていますし、按摩や揉み解しだってしてあげますから……」
「は、はいありがとうございます」
頭を撫で回されながら、ベルはアミッドに対して礼を言って別れる。
その後、ベルは自分の本拠へと戻り……いつも夜寝る前にダンジョン探索をした後で少しだけ行っている模擬戦闘による自己鍛錬をする。
「(っ、なんだろう……?)」
少しすると鐘の音が聴こえた。ベルはなにか、表現できないものを感じて本拠である廃教会の敷地内から中へと行き……。
「此処なのかな……」
導かれるようにして祭壇へ……探る事にして軽く叩くと……。
「え、中に何か入ってる?」
ベルは祭壇を壊すとその中に隠されていたのは……。
「魔導書だ……」
読めば必ず魔法を発現させ、質の良い物次第では確率により、魔法スロットを増やしながら(あくまで限界とされる3つまでに限るが)発現させ事も出来る魔導書であった。
ベルはその魔導書を開き、聴こえてきた鐘の音と共に意識は埋没……。
「まさか、こんな形で会えるなんて……初めまして、ベル。私はメーテリア、貴方の……」
ベルの目の前に現れたのは長い長髪で自分とは違う瞳の色の女性。だが、ベルは彼女が何者か、出会った瞬間に分かった。
「あ、貴方はぼ、僕のお母さん?」
「ええ、そうよ。貴方が生んだ後に亡くなってしまったけれど……いつも見守っていたわ」
「お母さんっ!!」
ベルは優しく、何より愛おし気に微笑む自分の母親に対して抱き締めた。
少し話を交わし……。
「もうお別れのようね……ベル、貴方は貴方の思う様に生きなさい。どんなことがあっても私は貴方を見守っているから」
「うん、お母さん」
消えゆく世界と母親であるメーテリア、ベルは彼女の呼びかけに強く頷いた。
「お母さん、僕は頑張るよ」
時間にしては数分だろうか、意識を覚醒させたベルは母に告げながら更に英雄になるという夢を果たすための意志を強めたのであった……。