兎は炉神に想いを捧ぐ   作:自堕落無力

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十五話

 

 『下界の縮図』とも呼ばれる程に一番、人に亜人、神々が集う大都市ことオラリオではその都市独自の催し物であり、祭りが開催される。

 

 その一つが『怪物祭』――【ガネーシャ・ファミリア】が主催派閥となって都市の運営を管轄しているギルドと協力しながら行うものである。

 

 実は驚くべき事に【ガネーシャ・ファミリア】は本拠内の広大な敷地でモンスターの調教や飼育を行なっている唯一の派閥だ。

 

 『怪物祭』では都市外やダンジョンから捕獲してきたモンスターを東のメインストリートの一番奥にある『円形闘技場(アンフィテアトルム)』へと連れ、都市内外の一般人や冒険者、種族問わずに招き入れた観客の前で調教技術を培った団員がその腕を披露するのである。

 

 祭りの開催場所である東のメインストリートでは数えきれない出店が通りのど真ん中や隅に並び、通りそのものはリボンや美しい花など様々な装飾で飾り付けられ、普段より一層、華やかさを増していた。

 

 通りの上にはモンスターを表す凶悪そうな獅子のシルエットと【ガネーシャ・ファミリア】のエンブレムである象頭の二種類を模様とした紐に通された色とりどりで多くの旗が風に揺れていた。

 

 なにより、今日は朝から祭りを楽しもうとする者達で増え始め、やはりの多くの人に亜人、神々で溢れていて賑わっている。

 

「祭りだけあって、本当に賑わっていますね」

 

「このオラリオでも『怪物祭』は評判だからね。調教劇とはいえ、モンスターと眷属とのぶつかり合いを目で見て、雰囲気を肌で感じれるのが良いんだろうね」

 

「英雄譚を読んでも楽しめるんだから、生となると違うんでしょうね……実際にモンスターと戦うとなるとまた、違いますけど」

 

「それはそうだよ」

 

 護衛の役割をも担うベルは両腰にヘスティアから与えられた片手剣である≪ヘスティア・サーベル≫と少し前から使っているヴェルフの作品である片手剣を帯剣しつつ、賑やかな通りの雰囲気を感じながらヘスティアと会話する。

 

 元々、調教劇には興味がないベルとヘスティアは今回、祭りの雰囲気と逢瀬を楽しんでいた。

 

「平穏って言うのは本当、良いですね」

 

「ダンジョンでモンスターと戦う冒険者の一人なベル君が言ったら、重みがあるね」

 

「そんな事は無いと思いますけど……」

 

 ベルとヘスティアは直ぐに触れ合える程の距離で笑みを浮かべながら祭りを楽しんでいた。

 

 しかし、少しして……。

 

『なっ、なんだっ!?』

 

 ベルとヘスティア達がいる通りより遠くで膨大な土煙が次々と巻き起こり、何かが爆発したような轟音が響き続ける。

 

『オオオオッ!!』

 

 そうして土煙の中から鋭い牙を幾つも付けた花弁を開き、幾多もの触手を伸ばした食人花の怪物の群れが産声のように破鐘の咆哮を上げた。

 

 その数、八体である。

 

「ヘスティア様は安全なところに避難してください。行ってきますっ!!」

 

「うん、いってらっしゃい。オラリオの皆を頼んだよ」

 

「はいっ!!」

 

 ベルはヘスティアに言いながら駆け出し、ヘスティアの声に返事をしながら建物の屋根へと飛び上がり、そのまま次々と建物の屋上を飛び移るようにして駆け跳ねて加速。

 

「(いくよ、母さん)」

 

 そして、ベルは早速発現したばかりで母親に与えられたと確信している魔法を使う事とする。

 

「【福音よ、鳴り響け】」

 

 その魔法は無詠唱の【ファイアボルト】と違って超短文詠唱を必要とするので早速、詠唱し……。

 

 

「【クリロノミア・チャイム】」

 

 そしてベルの身体より鐘音が周囲へと放たれた瞬間、彼の意識は研ぎ澄まされ、まるで生まれ変わったかのような感覚と自由自在に体の全てを自分の意志で動かせる全能感を覚えた。

 

「(なるほど、これが魔法の効果)」

 

 更に世界からそれぞれ独特の音が聴こえ始める。ベルは世界の全てを音で聴く事によって把握するという特殊な感知能力にして共感覚のようなものを手に入れていた。

 

『オオオオッ』

 

 ベルが放った鐘音の魔法に反応して自分の元へと向かっているベルに対処すべく動く食人花の群れ。その食人花の動きに連動して、独特の音が母から貰った魔法によって強化された感覚と感知能力によってベルの耳に聴こえる。

 

 

 

「勝負だ」

 

 そうしてベルは聴こえてくる音に合わせて動き始めた。建物の屋上を駆け跳ねていたベルは異次元とも言える舞踏の如き、独特な体捌きにて駆け跳ね、食人花による幾多もの触手を僅かに芯をずらしては擦り抜けるようにして回避しながら触手を足場に食人花へと向かっていき……ベルの【ステイタス】に反応して漆黒の≪ヘスティア・サーベル≫は紫紺の輝きを放って一筋の閃光となり、食人花の一体の頭部を切り裂く。

 

 

「【ファイアボルト】」

 

 更に新しく発現した【スキル】によって凄まじい程に強化された炎雷が別の食人花の頭を焼き尽くす。

 

 ベルは異次元的な動きで舞い踊っては駆け跳ねると共に漆黒の片手剣にて紫紺の軌跡に変えながら食人花を切り裂き、貫き、炎雷を超速連射する事であっという間に全滅したのだった。

 

 

「皆さん、これで安全です」

 

『う、うおおおおおっ!!』

 

 そうして、ベルは地面に着地して剣を鞘に納めると様子を隠れたりしてみていた者達に呼びかける。

 

 皆は歓声を上げ、ベルを自分たちを救った英雄として賞賛したのであった。

 

 実際、この後最悪の悲劇が巻き起ころうとしたオラリオを救った英雄としてベルの事はオラリオ内外で讃えられるのである。

 

 

 

「ベル、また強くなったんだね」

 

「もう、凄い。凄すぎるよベル……また惚れちゃったじゃん」

 

「飛躍の如く、強くなるんですねベルは」

 

「正直、団長がいなかったら私も貴方に惚れてたわ」

 

 食人花の群れの登場に『怪物祭』の調教劇を見ていたアイズにティオナ、レフィーヤにティオネは討伐しにきたのだが、彼女達より速く終わらせたベルへと近づき、声をかけながら先にティオナがベルを抱き締めた。

 

 そうしてそれぞれ、頭や顔を弄って蕩かし始める。

 

「ふふ、見事英雄の道を歩み始めたやん。おめでとう、そしてありがとうなベルたん」

 

 ロキも遅れて現れ、ベルを可愛がり始めた。

 

 

 

「ふやぅ……あ、あのヘスティア様を待たせてるんですけどぉ」

 

『まぁまぁ』

 

 

 その後、彼女たちが満足するまで弄られ尽くすと……。

 

 

 

「ふむ、く、う……」

 

「ふふ、ご褒美だよ」

 

「ありがとうございます、ティオナさん」

 

 最後にティオナに深い口づけをされる事で解放され、ヘスティアの元へと戻った。

 

 

 

「ただいま、戻りましたヘスティア様」

 

「うん、お帰り。そしてお疲れ様、ベル君……皆を守ってくれてありがとう」

 

「光栄です……それに僕がやらなければならない事ですからね」

 

 そう、会話を交わすとベルはヘスティアと再び、祭りを楽しみ始め……。

 

 

 

「ヘスティア様から頂いた剣、とっても良い代物です。本当にありがとうございます」

 

「喜んでくれて何よりだよ。それじゃあ、今日もたっぷりとご褒美をあげるね」

 

「んふふ」

 

 ベルとヘスティアは祭りが終わった夜、本拠である廃教会の地下室にてやはり今まで会えなかった分、燃え上がる愛に従い、相手を求める欲を満たすべく、交流し続けるのであった……。

 

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