兎は炉神に想いを捧ぐ   作:自堕落無力

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十八話

 

 

 ダンジョンの中層域である18階層は通常のダンジョンの階層とは異なる階層である。何故なら、この階層ではモンスターが産出される事は無いからだ。

 

 故にこの階層は『安全階層(セーフティポイント)』と呼ばれている。

 

 もっとも上の階層である17階層や下の階層である19階層からモンスターが迷い込んだりする事はあるので完全に安全では無いが……。

 

 そしてこの階層として一番特徴的なのは無数の水晶が生え渡っていて、中心には幾つもの白水晶の塊があり、周囲には優しく発光する青水晶の群れがある。

 

 咲いた菊の大輪を連想させる水晶が光を放つ事で『空』を形成しているのだ。時の経過によって水晶の光量が落ち、そしてまた時の経過によって水晶は光量を増す。

 

 地上と同じように『朝』、『昼』、『夜』を作り上げるのである。

 

 そして、水晶が散在する大草原は階層の中央地帯に広がる地下の蒼穹とも呼ぶべきもので草原の中心には中央樹と呼ばれる巨大樹があって樹の根元に空いた樹洞から19階層へと向かうことが出来るようになっている。

 

 北には雄大な湿地帯、南から東にかけて広がるのは緑の森林、西には紺碧色の湖畔とそこに浮かぶ大島がある。

 

 この階層は幻想的な水晶と神秘的な空に包まれる大自然が息づいている。風光明媚な景色は地上でも『迷宮の楽園(アンダーリゾート)』と呼ばれる程に有名でとある富豪が冒険者に護衛を依頼して見に来たという話もある。

 

 そんな階層の紺碧色の湖畔に浮かぶ大島の頂上には冒険者のための中継拠点であり、補給拠点のような役割を有するものが築かれている。

 

 天然の素材を利用して作られた宿場街であると共に嗜好品をも取り扱ってもいる市場も用意されている。とはいえ、ヴァリスはダンジョンでかさばるので物品による取引が主体だ。

 

 相場としては売るときは安く、買う時は高くと冒険者の足元を見たものとなっている。その宿場街の名は『リヴィラの街』だ。

 

 今回、私用でダンジョン探索をする事にした【ロキ・ファミリア】のフィンにリヴェリア、アイズにティオネにティオナ、レフィーヤら6人も『リヴィラの街』に寄ったのだが……。

 

 なんとそこで【ガネーシャ・ファミリア】の幹部であるハシャーナという者が娼婦に身を扮した女に殺されるという事件が起きた。調査を進めるうちにオラリオの怪物祭で暴れた食人花の群れが湖畔の底から現れてリヴィラの街を襲撃し……。

 

『オオオオオッ!!』

 

 食人花の怪物の群れが何らかの要因で融合し、圧倒的巨躯にして無貌の女体の上半身、蛸の下半身を有する『半人半蛸(スキュラ)』が誕生した。

 

 調査の過程でいなくなっていたアイズにレフィーヤともう一人、【ヘルメス・ファミリア】のルルネが逃亡していたのだがそれをスキュラの怪物は追っていた。

 

 ハシャーナは怪物の胎児を内包した宝石のようなものをとある依頼人から持ち込んでおり、同じ依頼人によってそれを届ける役割をルルネは引き受けたのだ。

 

 しかし、ハシャーナが殺された事でルルネは恐怖。逃げた所をアイズとレフィーヤが追った形で事情を聞き、怪物の胎児を見せてもらうとそれを監視していたハシャーナを殺した者で姿は短い赤髪に緑の瞳を有する女性が食人花の群れを使役しつつ、襲ってきた。

 

 アイズはハシャーナを殺した者と激突したが、風の付与魔法を使った瞬間、それに反応して食人花の死体に取り付き、そうしてスキュラの怪物は襲撃してきたのである。

 

 フィンたちの元へと逃げながら、合流するとフィンたちがスキュラの怪物と戦い始めたのに加わろうとしたところでまた女性に襲撃されてその対応にかかった。

 

 そして、スキュラの怪物と戦うフィン達だが……。

 

「はああああっ!!」

 

 アイシャと共に帰還を始めていたベルは当然、スキュラの怪物を目撃したところで駆けつけ、そうして鐘音魔法によって使える異次元的な動きで駆け跳ねながら≪ヘスティア・サーベル≫に炎雷を収束し、その輝きを強めながら大鐘楼の音を奏でていく。

 

『オオオオッ!!』

 

 スキュラの怪物はベルへと襲い掛かるが、それをベルは舞い踊るが如き動きで攻撃を擦り抜けるように回避しながらその体を駆け上がり……。

 

「聖火の英斬」

 

 最大まで収束したそれを解放し、超絶なる炎雷と斬閃が融合した自分の主神由来の必殺技をスキュラの怪物に放ち、消滅させたのだった……。

 

「成程、これは凄まじいね」

 

「あれは付与魔法……いや違う……しかし、凄い」

 

「はぁぁ……やっぱり凄すぎるよベル」

 

「どこまでも強くなるのね」

 

「……はは、ベルには限界というものが無いんでしょうね」

 

 ベルの戦い振りを始めて見たフィンとリヴェリアは見惚れ、ティオナにティオネ、レフィーヤもまた、ベルの勇姿に見惚れる。

 

「ベル……まだ実力を秘めていたのか。まったく」

 

 ベルを追ってその戦いぶりを見たアイシャも自分の時より遥かに強いベルの勇姿と実力に笑みを浮かべながら、呟くのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 アイズは野太刀の如き武器と強大な身体能力から放つ拳撃や蹴撃を使う赤髪の女性と戦っていた。彼女個人としても放っておけない相手だ。

 

 何故なら、自分の母親の名を知っているのだから……。

 

 だが、赤髪の女性は自分よりも強かった。故に圧されつつあったが、そんなとき自分に活力を与える大鐘楼の音が聴こえた。

 

「はあああっ!!」

 

「何っ!?」

 

 アイズはベルによるチャージの音だと確信しながら、それに力を与えられつつ赤髪の女性に勇猛果敢に攻めかかり、女性は急に勢いを増し、己の勝機を奪い取りにかかったアイズに驚愕する。

 

「【ファイアボルト】ォォォォ」

 

 アイズの加勢をするために駆け跳ねるベルは大鐘楼の音を奏でながら、チャージしていた左手から跳躍しながら、魔法を後ろに向かって解放。

 

 

 

「アイズさんっ!!」

 

「っ」

 

 強烈なる炎雷の轟閃を推進力に赤髪の女性へと突撃しつつ、アイズに呼びかけて後退させ……。

 

 

 

「んなっ!?」

 

「ふっ!!」

 

 鞘に納めていた≪ヘスティア・サーベル≫による抜剣の一撃を放った。

 

 「ぐああああっ!!」

 

 胸を切り裂かれながら赤髪の女性は吹っ飛ぶがその勢いを利用してその場から超加速で逃亡したのだった。

 

「アイズさん、無事で良か……う」

 

「ベルっ!!」

 

 着地したが消耗しきった様子で片膝を突くベルにアイズは駆け寄り……。

 

「良いよ、今は休んで……辛いんでしょ」

 

「すみません。少しだけ休ませてもらい……」

 

 ベルはチャージによる極限的な疲労の反動から、アイズに支えられながら眠りについたのだった……。

 

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