兎は炉神に想いを捧ぐ   作:自堕落無力

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一話

 

 朝日が昇り始める時間帯、まだ創設されて数日の派閥こと【ヘスティア・ファミリア】の本拠である廃教会の隠し部屋では……。

 

「ふあぁ……今日もベル君のお陰で早起き出来たよ。ありがとうね、ベル君。そして、おはよう」

 

「お、おはようございますぅ……」

 

 一つしかないベッドの上で抱き枕のようにしていたベルへ微笑みかけながら挨拶すると共にベルの頭を撫でる。ベルは心地良さに浸りながら返答をした。

 

 因みにヘスティアの抱き枕となったのは今回だけでなく一緒に本拠で暮らすようになってからずっとである。

 

 当然、ベルは遠慮したのだがヘスティアがベルと出会った時に慰めた際、抱き心地が良かった事や髪の感触がもふもふして良かった事などからお願いし、ベルは渋々受け入れた。

 

そして……。

 

「相変わらず、甘やかし甲斐があるね」

 

「そ、そうなんですか」

 

「うん、そうだよ。とっても可愛いし」

 

「男としては複雑なんですけど……」

 

「まぁまぁ」

 

 ヘスティアはベルの頭を撫でたり、顔を擽ったり抱き締めたりなど甘やかし始めるとベルは反論しながらもそれに対し、受け入れ委ねていく。

 

「(今まで母性を与えられなかった分、ボクが与えてあげるからね)」

 

 ヘスティアは彼から物心ついた時から両親は居なくなっており、育ての祖父とだけ、一緒に暮らしていた事を聞いており、今の様子からだからこそ、母性に飢えている事とだからこそ、女性からのスキンシップなどに弱い事を把握しているためにこうして二人でいるときは必要以上に甘やかす事を心掛けているのだ。

 

 

 少しして……。

 

 

「今日はベル君はダンジョンにはいかないんだったね?」

 

「はい、代わりにエイナさんにダンジョンについての勉強を受けてきます」

 

「本当、努力家だね。ボクもアルバイト頑張ってくるよ」

 

「はい、頑張ってください」

 

 ベッドから起きて身支度を整えると朝食(祖父との二人暮らしの中で覚えた料理をベルが振る舞っている)を始めながら、会話をする。

 

 今日、ベルはギルド本部へと行く予定であり、ヘスティアは北のメインストリートにて潰した芋に衣をつけ油で揚げた食品の屋台でアルバイトとして働いているので要はいつも通りの日課をこなすのである。

 

 因みにオラリオはバベルを中心として放射状に北、北東、東、南東、南、南西、西、北西の八方位に巨大な大通りが伸びている。

 

 円形を作る都市の形状もあって、上空から俯瞰すれば八分割されたホールケーキのようになっているのだ。

 

 そんなオラリオの北西のメインストリートは通称、『冒険者通り』とも呼ばれるように冒険者向けの武器屋や道具屋、酒場など冒険者必用の店々が軒を争っている。

 

 そしてこの北西のメインストリート沿いに白い柱で作られた荘厳な万神殿(パンテオン)ことギルド本部がある。ベルは記念碑(モニュメント)が設置されてる広い前庭を他の冒険者と共に通って本部の中へと入り……。

 

「おはようございます、エイナさん」 

 

「うん、おはようベル君」

 

 ベルはほっそりと尖った耳に澄んだ緑玉色の瞳に眼鏡をかけた美しくも角が取れ、ギルドの制服である黒のスーツとパンツを着こなしたスタイル抜群のハーフエルフの受付嬢にして自身のアドバイザーであるエイナ・チュールの元へと行き、挨拶をするとエイナも笑顔で挨拶をする。

 

「今日はダンジョン探索を休んでエイナさんにダンジョンについての勉強をしてもらいに来ました」

 

「それは良い心掛けだよ、ベル君。じゃあ早速行こうか」

 

 ベルからの申し出をエイナは即座に受け入れる。因みに彼女は今まで受け持ってきた冒険者に対し独自のスタンスとしてダンジョンの階層の地形や特徴、モンスターについての情報などダンジョンの知識を勉強会と称して過酷に叩き込んでいる。

 

 他のアドバイザーは冒険者に対しては必要以上に入れ込まない。いつ死ぬか分かった者ではないからだ。

 

 だが、エイナは冒険者達を死なせないように勉強会を開くのである。

 

  今までのエイナが受け持った冒険者はその過酷さに根を上げ、一度は逃げ出したりしていた。今も彼女の指導を受けた冒険者達は「(あいつ、まじかよ)」、「(すげぇ)」と自ら申し出たベルに驚愕したりしている程だ。

 

 そうしてベルとエイナは都市や周辺地域の歴史、モンスター及びダンジョンの情報が蓄えられた広大な書庫である資料室へと向かった。

 

「あ、これ今の僕の【ステイタス】です」

 

 ベルは昨日、ヘスティアがベルの『神の恩恵』による【ステイタス】の更新をして【神聖文字】を『共通語(コイネー)』に書き換えながら羊皮紙に【ステイタス】を記したそれをエイナに渡す。

 

「へぇ、どれどれ――――っ!?」

 

ベル・クラネル

LV.1

 

力:F348

耐久:G297

器用:F376

敏捷:E413

魔力:I0

 

 エイナはベルの【ステイタス】の数値に声を失ってしまった。冒険者になって数日の新人冒険者としてはありえない数値であったからだ。

 

「あのさ、ベル君。自分から見せてくれるのはありがたいんだけど……要はとんでもない無茶してるって事じゃない。冒険者は冒険しちゃ駄目って言ったよねぇっ!!」

 

「あぎゅ、っ、抓らないでくださいぃぃ」

 

 エイナはベルを叱りながら、彼の両頬へと手を伸ばし抓り、ベルはその痛みに悶えていく。

 

「まったく、最近兎の皮を被った獣みたいな冒険者がいるとか『血塗れ兎(ブラッディラビット)』を見たとか聞いたけどあれ、ベル君の事だったんだね」

 

「僕、そんな風に言われてたんですか」

 

 エイナは頭を抱えながら呟き、ベルは彼女の呟きから自分の呼ばれ方を知って何とも言えない表情を浮かべた。

 

 とにもかくにもエイナによる勉強会は始まり……。

 

「うん、じゃあ今日はここまで……真剣に励んでくれるのは良いんだけど、無茶だけはしないでよベル君。私、ベル君に死んでほしく無いよ」

 

「はい、それは勿論。僕だって命は大事にしていますよ」

 

「そうは思えないから言ってるんだけど……本当に分かってるのかなぁ?」

 

「うむっ!?」

 

 エイナはベルの頭を撫でながら言葉をかけていたが、ベルからの返答に彼の頭を抱いて胸の中へと誘った。

 

「ふふ、こういうのに弱いんだねベル君は……偶にならこうして可愛がってあげるから、本当に無茶だけはしないでね。ベル君」

 

「はい、エイナさん」

 

 胸の中に抱きながらエイナはベルに切実に言葉をかけ、ベルはエイナに誓うのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、今日はダンジョン探索をするベルはその前に西のメインストリートを外れた少し深い路地裏へと向かう。日当たりが悪く軽くじめじめした場所に一軒家が建っており、それには五体満足の人の身体を模した【ファミリア】のエンブレムが看板のように飾られていた。

 

「おはようございます、ミアハ様、ナァーザさん」

 

「うむ、良い挨拶だなベルよ」

 

「おはよう、ベル」

 

 ベルはその一軒家の中に入り、群青色の長髪に長身で貴公子の如き美麗な容姿、灰色のローブを着こなしている男神にしてヘスティアが何度も世話になっているという神友であるミアハと彼の唯一の眷属にして犬の耳に尻尾、ハーフアップの髪に眠たげな表情だが容姿自体は優れている『犬人(シアンスロープ)』の女性、左腕は半袖、右腕は長袖という特徴的な上衣を着ていて右手に手袋まではめているナァーザ・エリスイスに挨拶しミアハとナァーザも挨拶を返す。

 

 この一軒家は【ミアハ・ファミリア】の店舗兼本拠こと『青の薬舗』で主に飲んだ者の負傷を癒し、体力を回復する回復薬(ポーション)系の道具を売っている。

 

 ベルはその回復薬を買いに来たのだ。そうして幾つか購入すると……。

 

「何度も買いに来てくれて済まぬな、ベルよ」 

 

「今日も沢山、買ってくれてありがとうベル。ちょっと、屈んで」

 

「は、はぁ……」

 

 ミアハは礼を言い、ナァーザもベルに礼を言うと屈むように言い……。

 

「良い子良い子……うん、ベルの髪は今日ももふもふだね。本当、良い感触」

 

「そ、それは良かったです」

 

「ベルが心地良さそうにしているのも可愛いしね、本当、食べちゃいたい」

 

「ちょっ!?」

 

 ナァーザに撫でられる事に心地良くなっていたベルだが、ナァーザが急に舌なめずりしたのでびくついた。

 

「冗談だよ、今は」

 

「今は!?」

 

「これこれ、あまりベルに悪戯するでない」

 

「はぁい、ベル。本当に冗談だから気にしないで……可愛くて悪戯したくなったんだ。ごめんね」

 

「あうぅ……」

 

 ベルはナァーザに敵わないなぁと思いながらも優しく撫でてくるその心地に浸っていくのであった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダンジョンの7階層にてとある事件が起こっていた。

 

「へへ、これでお前もお終いだ。アーデ」

 

「散々、狡賢い事してきたんだ。その報いを受けるんだな」

 

「あばよ」

 

 とある広間にて冒険者達がぼろぼろとなって蹲っている小柄な少女に言葉を吐き捨てた。

 

 その少女には大量の蟻型のモンスターにして危機に陥るとフェロモンを出し、仲間を呼び寄せる性質を持つ『キラーアント』が押し寄せていた。

 

 傍らに死にかけのキラーアントの一体が転がっているので群れが押し寄せたのはそういう事だろう。

 

 そして、少女は押し寄せてくるキラーアントの群れを眺めながら……。

 

「(これでリリも終わり……)」

 

 少女は死を悟り、一旦は構わないと生を諦めながら……。

 

「(嫌……)」

 

 走馬灯が駆け巡る中、死にたくないと意識し……。

 

「助けてぇっ!!」

 

 無駄だと知りながらも助けを求める声を上げた。

 

「勿論、助けますっ!!」

 

 その声に応えると共にキラーアントの群れへと駆け跳ねながら、突撃するのはベル・クラネル。

 

「やあっ!!」

 

 速度を活かして機先を制しながら短刀を白閃に変えながら振るい、斬撃と刺突に空いている手での拳撃や蹴撃を織り交ぜての連撃を混ぜつつ、キラーアントの攻撃は回避していく。

 

 ベルは至近距離の間合いで『連撃回避(ラッシュアンドアウェイ)』を行いながら次々にキラーアントの群れを屠っていく。

 

「ふぅ……手遅れにならなくて良かったです。回復薬要りますか?」

 

「あ、は、はい。お願いします」

 

 疲労と幾つかの手傷を負いながらも数十のキラーアントの群れを屠ったベルは倒れながら、呆然と自分を見る少女に声をかけ、少女は頷くのであった……。

 

 

 

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