Change Hero Universe ~変身ヒーロー達の日常~ 作:地水
ここは、チェンジヒーローユニバース。
君達が知る地球と呼ばれる世界とは少しかけ離れた歴史を辿ったこの世界では、日夜善と悪の戦いが繰り広げられていた。
善を良しとして粉骨砕身人々の愛と平和を守る正義の味方・ヒーロー。
悪の覇道を進む破壊と混沌を齎すこの世すべての敵《かたき》・ヴィラン。
決して相容れぬ彼らは己の誇りと命を懸けて、ぶつかり合っていた。
だが、今回お送りするのは、そんなTVの特撮ヒーローのような熱くカッコイイ内容の話ではない。
誰かを守れる事以外、なんて普通の人間の一面を映し出したとある話である。
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東京、原宿。
多くの人々が行きかうこの場所だが、それでも悪の魔の手はやってくる。
人々が最初の異変に気付いたのは、異形の怪人をその目にしてからだった。
細身ながらも筋肉質な体躯を有した蠍を連想させるその怪人――『スコルピオン』は戸惑う一般人たちに対して、大きく声を発する。
「喜べ人間ども……此度の贄は、お前達だぁ!」
スコルピオンは自身の腕についたハサミと、背部に設けられている鋭い毒針を持つ巨大な尾を展開。
見るからに危険な武装を有したそれを見て、他の人々がようやく事の重大さに気付いて一斉に逃げ出す。
だが、多くの人々が蜘蛛の子散らすように一斉に逃げようとしたところへ、一人の幼い少年が足がもつれて転んでしまった。
「きゃっ!?」
地面へと倒れこむ少年を狙って、スコルピオンの鋭い毒針が捉える。
このままでは少年の命が危ない……誰しもがそう思ったその時だった。けたたましい程に激しい落雷音が響いた。
それと同時に、激しい雷光が人々の間を駆け抜け、瞬く間に少年に立つと彼を貫こうとした毒針を掴み、直撃を阻んだ。
自慢の毒針の攻撃が受け止められ、スコルピオンは驚く。
「なにぃ!? 貴様は一体!?」
自分の尾を捕まえる存在にスコルピオンは突如目の前に現れた存在を目撃する。
そこに立っていたのは、青を基調としたカラーリングの戦士……所謂、変身ヒーローだった。
雷を彷彿とさせる装甲パーツに鋭い眼光を宿したフルフェイスマスクをつけたそのヒーローは、ギロリとスコルピオンを睨みつけ、勢いよく蹴り飛ばす。
スコルピオンとの距離を話したところで、青のヒーローは名乗り上げた。
「雷鳴勇者ストライクアズール、ここに見参!」
――雷鳴勇者ストライクアズール。
電撃とそれを用いた白兵戦を用いることが得意であるこのヒーローの登場にスコルピオンは目を見開いて驚く。
それに対してストライクアズールは悪行を重ねている最中のスコルピオンを仮面の下で睨みつける。
「サソリさん、あなたの悪行もそこまでだ!」
「だっ、誰がサソリさんだ!? お行儀よくしやがってよぉ!!」
【さんづけ】というストライクアズールからの呼び名に対して、調子がくるいかねないとスコルピオンは怒号を上げながら毒針で応戦。
尾の先端から放たれて降り注ぐ毒針をストライクアズールは雷撃を纏った足で蹴り飛ばし、その攻撃を往なしていく。
やがて毒針の弾数が切れたその隙を見計らって地面を蹴り上げると、勢いよく走りぬいてその勢いを利用した鉄拳を振りかざした。
「雷撃拳、ハァァァァ!」
ストライクアズールから放たれた雷撃を纏った鉄拳は蒼い軌跡を描き、スコルピオンへと真っすぐ向かう。
咄嗟に両腕のハサミで防ごうとするスコルピオンだったが、光の速さに匹敵するほどの拳が青い雷と共に炸裂した。
轟音……と、陶器が砕けたような派手な破壊音と共にスコルピオンの両腕のハサミは砕け散った。
「ぐぉぉぉぉぉぉ!!!? お前、オレの自慢のハサミをぉぉぉぉぉ……!!」
「サソリの武器は種類によってそれほど頑丈じゃないハサミを持っているヤツもいる……あなたもその種類では?」
「くそぉ、それがなんだぁ! この毒針でお前の体をずぶりと……!」
激昂したスコルピオンの言葉を遮り、雷光を纏った拳が飛んでくる。
ストライクアズールが放ったその蒼い一撃は胴体に炸裂した。
「乾坤一擲……ストライクナックル!」
「ぐああああああああ!!!」
青白い閃光が辺りを包み込み、轟音が鳴り響く。
暫くした後、最後に残ったのは黒焦げた爆発痕とストライクアズールだった。
無事此度の戦いを潜り抜けたストライクアズールは一息つくのであった。
「ふぅ……今回も無事生き残れた」
怪人スコルピオンとの戦いを終えたストライクアズールは自身が助けた人々の歓声を背にジャンプ一つで去っていく。
やがて人の気配がない何処かの裏路地へとやってくると、彼はそのヒーローとしての姿を解いた。
そこに現れたのは、一人の若い少年。
今時の若者らしい青を基調とした衣装と青みがかった髪色をした童顔は何処か女性が好みそうな顔立ちをしていた。
彼はすぐさま表の人混みに紛れるようにそそくさと去っていく。
彼の名前は『剣 蒼渡(つるぎ そうど)』。
雷鳴勇者ストライクアズール変身者その人である。
今回は彼の日常に注目しよう。
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とあるマンション・剣家。
蠍怪人スコルピオンとの戦いを勝利で収めた後、蒼渡は近場のスーパーで買い物を済ませ、帰宅しているところであった。
自分の家の扉に手をかけ、おもいっきり開く。
「ただいまー」
食材を詰めた買い物袋を両手に持って開くと、蒼渡は部屋に入った。
そこへ蒼渡の帰りを出迎えてくれる優しい声が届くのであった。
「おかえり、蒼渡」
女性としても少し高めの声を発しながら出迎えてきたのは一人の少女。
銀色の髪色のロングヘアーに鮮やかな緑色を宿した瞳が帰ってきた蒼渡の姿を捉える。
年相応に愛らしい笑顔が元々整っていた顔立ちと相まって見せると、蒼渡の戦いで負った披露がぶっ飛んでしまった。
それくらい、目の前にいる彼女の笑顔は効果的であり、思わず蒼渡はその名を呼んだ。
「フェリア、待たせた?」
「ううん、そんなに待ってないよ! あ、夕飯買ってきてくれたんだ。わたし、片方持つよ」
白髪の少女こと『フェリア』はにこやかな笑みを浮かべた後、蒼渡が両手に握っていた買い物袋の片方を持つ。
そんな彼女のいつもの気遣いに心が暖かくなりながら蒼渡は自分の家……否、フェリアと住んでいる自分達の家へ上がっていった。
2LDKの自宅に住んでいる蒼渡とフェリアの二人はいつもの如く夕飯の料理を作るがいつもの日課だった。
今回の献立はカレーライスであり、いくつもの野菜が蕩けた食欲をそそられる黄土色のルーと白く輝く麦ご飯を合わせ、大き目の皿に盛りつけられた。
香辛料の香りが鼻孔をくぐらせる中で、蒼渡とフェリアは向かい合わせにテーブルへついて、手を合わせた。
「「いただきます」」
食事を始める言葉を呟き、二人はさっそくスプーンでカレーライスを掬った。
器用に7:3の割合で麦米とカレールーをスプーンに収め、すぐさま口の中へと運んでいった。
若干の辛味と野菜の甘味、そして隠し味に入れた蜂蜜と擦り林檎の旨味が口内を楽しませていく。
フェリアは嬉しそうに舌鼓を打った。
「うーん! 蒼渡のカレー美味しいね!」
「ありがとうフェリア。手伝ってくれて助かった」
「こんなの当たり前だよ。蒼渡の助けになるならなんでもやるからね」
蒼渡の感謝の言葉にフェリアは花が咲いたような笑みを向ける。
フェリアの口にした世話を尽くすような言葉を聞いて、蒼渡は苦笑しながら自分達の作ったカレーライスをかき込んでいく。
……その際、器官に変な物がはいってむせたのは言うまでもない。
「ゲホゲホッ!?」
「ちょっと蒼渡、大丈夫!?」
「だっ、大丈夫大丈夫だから!?」
自分の異常に心配してきたフェリアが席を立って近づき、蒼渡は手を向けて遮った。
そんな二人のやりとりをした後に、夕食の時間は続いていく。
やがて、夕食の時間を終えて、ゆったりとした時間が流れている頃。
リビングに備え付けられた大きなソファに蒼渡はフェリアと共に腰かけていた。
フェリアは蒼渡の片腕に絡みつくように抱き着いていると、嬉しそうに声をかけた。
「えへへ……」
「なんかうれしそうだね、フェリア」
「うん、なんかこう言った感じの時間過ごすのって何気に大切だからねぇ」
蒼渡の訊ねた言葉に対してフェリアは嬉しそうに答える。
……確かに、フェリアにとって自分は大切な存在だ。
というのもフェリアは普通の一般人というわけでもない。
ある秘密組織に利用されていた特殊な出自な存在なのだ。蒼渡が出会ったはフェリアは今のように人間味が薄く、表情も無かったに等しかった。
だが交流していくうちにフェリアは表情も増えていき、今のように感情豊かな少女になったのだ。
何故か回りからは、蒼渡と一緒にいる時が一番うれしそうに見えるとよく言われたし、今もよく言われるのだが。
そんな考えを蒼渡は巡らしていると、フェリアが不意に声をかけてきた。
「ねえ、蒼渡」
「なんだい……わふっ」
抱き着かれていた片腕の感触が無くなった途端、急に視界が遮られた。
それが蒼渡の頭を自分の胸へと手繰り寄せたフェリアのすぐに理解したのは、女性特有の柔らかな胸元の感触に気付いたその後だった。
「ふぇ、フェリア?」
「ねぇ、蒼渡……わたし、嬉しいの。蒼渡と一緒に過ごせる時間をこうして過ごせること」
まるで子供に言い聞かせるように優しい声音でフェリアは自身の胸元にいる蒼渡の頭を撫でた。
正直くすぐったい気もするが、それよりフェリアの心音と柔らかさに心地よさを感じていた。
「わたしがこんなに普通の女の子みたいに変われたのって蒼渡のおかげなんだよ? 何もなかった私に色んなものを与えてくれて……感謝しきれないくらいに嬉しいの」
「フェリア……」
「ありがとう、蒼渡……ありがとう、わたしのヒーロー。日頃戦っているあなたに、せいいっぱいの感謝を」
ぎゅうっと抱きしめられる感触を感じ、何処か安らぎを感じながら蒼渡はその身をフェリアへ預けていた。
これが世間で言うところの【愛】という感情なら、蒼渡は『僕はこの世で幸せものだな』と内心思っていた。
無辜の人々を守るヒーローとしてこれからも続いていくだろうが、せめて今だけでも最愛の彼女との時間を過ごすことにしたのであった。
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後日。
ヒーロー協力機構【ブレイブアライアンス】本部。
そこに出向いていた蒼渡は同僚と共に昼食をとることとなった。
同じヒーローである光馬 焔司/剣聖勇者エクスキャリバーは蒼渡の持ってきた弁当を見て、訝しんでいた。
「蒼渡、お前……なんだその、弁当」
「えっと、フェリアが作った弁当、みたい、です」
蒼渡はそう歯切れが悪そうにしながら開けた弁当を見ていた。
そこに描かれていたのは、ハートの形をしたほぐしたシャケをご飯の上に乗せた……いわば【愛妻弁当】であった。
フェリアの名前を聞いて納得がいったのか、焔司は苦笑の表情を浮かべた。
「……愛されるのもつらいな、旦那殿」
「先輩、揶揄わないでくださいよ」
生暖かい視線を感じつつ、フェリアの弁当を食べ始める蒼渡。
その顔は嬉しさと恥ずかしさをないまぜにした複雑そうな表情をするのであった。
続く