Change Hero Universe ~変身ヒーロー達の日常~ 作:地水
ここは、チェンジヒーローユニバース。
君達が知る地球と呼ばれる世界とは少しかけ離れた歴史を辿ったこの世界では、日夜善と悪の戦いが繰り広げられていた。
善を良しとして粉骨砕身人々の愛と平和を守る正義の味方・ヒーロー。
悪の覇道を進む破壊と混沌を齎すこの世すべての敵《かたき》・ヴィラン。
決して相容れぬ彼らは己の誇りと命を懸けて、ぶつかり合っていた。
だが、今回お送りするのは、そんなTVの特撮ヒーローのような熱くカッコイイ内容の話ではない。
誰かを守れる事以外、なんて普通の人間の一面を映し出したとある少年の奮闘記である。
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みんなはヒーローと聞いて思い浮かべるのは一体何だと思う?
昆虫の力を手に入れた大自然の戦士か?
宇宙の彼方から彗星の如くやってきた光の人か?
それとも、同じ志を持った多色の戦隊か?
自分はそのどれでもあり、ある意味そのどれでもない。
何故そんなに曖昧なのかって?
何故なら、オレがなるヒーローがこの世だけのオンリーワンだからだ。
その日、東京の浅草にて鬼の姿をした怪人が襲っていた。
毒々しいほどの紫色の体色をした筋骨隆々の鬼の怪人は逃げ惑う一般人達に対して高らかに笑っていた。
「がぁっはっはっはっは! 苦しめ人間ども! このビョーマン様が貴様達を絶望という病にかからせてやろう!」
病魔怪人・ビョーマンは口から多大な瘴気を吐きながら人々に近づく。
かかれば病気を悪化させそうなその瘴気を見て、人々は臆して逃げ惑うしかなかった。
……事実、ビョーマンの吐く瘴気に当たれば度々病魔に侵され、やがては命を落とすほど病弱になっていく。
それを本能的に察知したのか、それとも視覚通りの風体に危機を感じたとか、人々は一目散に逃げて行った。
ただ一人、足を引きずる老婆を取り残して。
「ひ、ひぃ……ひぃ……!」
必死な様子で逃げている老婆だが、片足が悪いのか逃げる速さは他の一般人達より遠く及ばないほど遅い。
そんな彼女をビョーマンは見逃すはずもなく、嘲笑した表情で狙いを定めた。
「おやぁ、どうやらお前から死ぬほど苦しみたいとみたぁ」
「こ、こっちに近づくんじゃない! 近づくなぁ!」
老婆は手に持った杖で必死に抵抗を試みるも、ただの棒では避けられるだけであり、ビョーマンは一気に空気を口の中へ吸い込んだ。
どうやらビョーマンは老婆目掛けて瘴気を吹き掛けるようで、当たれば老婆の酷い惨状を目に浮かぶのは当たり前だった。
逃げ遅れた老婆を遠くから見ていた人々は自分の無力さを呪いながら結末を見守るしかなかった。
一心不乱へ逃げ惑う老婆目掛けて、ビョーマンはその口を開こうとした。
誰もが息を呑んだその時であった……一つの声が響いてきたのは。
「キャタピラー」
突如どこからか飛んできた糸がビョーマンの口を塞いだ。
粘着性の糸だったのか、驚いたビョーマンが取ろうとしても粘着いて上手く取れず空回りするだけ。
一体何が起きたのか、それを老婆が把握する前に一つの人影が降り立った。
黒と緑で彩られた鋼鉄のボディ、大自然を思わせる緑の双眸に複眼。
どことなく甲虫を思わせる見た目を持ったその戦士はビョーマンの前に立つと、間髪入れず前蹴りをその胴体へ叩き込んだ。
「どりゃあ!」
「ぐあぁ!?」
鋼鉄の戦士に蹴り飛ばされて、容赦なくビョーマンはぶっ飛ぶ。
地面に叩きつけられながら倒れたビョーマンは目の前に立つその戦士を見て、ようやく糸を引っぺがした口でその名を叫んだ。
「貴様、ヒーローか!?」
「いかにも、鋼虫勇者インセクターキッド……覚えてけよ、鬼野郎!」
その緑目な漆黒の戦士――『鋼虫勇者インセクターキッド』は容赦なく鉄拳を叩き込む。
甲虫の如く硬い手足による打撃がビョーマンのコメカミへと打ち込まれ、ビョーマンはその痛みに苦しむ。
「ぐああああああ!?」
「どうした病気野郎? これで終わりかぁ? ハッ、だらしねえなあ……病魔モチーフのくせに怠慢だとよぉ」
「このっ……ガキが! 舐めるなぁ!!」
インセクターキッドに煽られてビョーマンは激昂し、格闘戦へと持ち込んだ。
両手に生やした爪をインセクターキッド目掛けて振り回して、その爪に含んだ毒素ウィルスを刻みこもうとする、
だが、その考えは見透かされていたのか、インセクターキッドは巧みに避けると、次なる一手を繰り出した。
「ドラゴンフライ!」
叫ぶと同時に背中から巨大な翅がいくつも作り出され、勢い良く飛び上がる。
昆虫の中でも高い飛行能力を有するトンボの力を宿したそれはビョーマンの攻撃を容易く掻い潜ると、蹴りによる素早い一撃を叩き込む。
「おらよ!」
「ぐああ!?」
鋭い回し蹴りの一撃を叩き込まれ、ぶっ飛んでいくビョーマン。
自分は愚かな人類に病魔で侵し、人間を全滅させるために暴れている……なのに、未知の戦士が登場して早々圧倒されている事にビョーマンは驚くしかなかった。
「貴様ァ……このビョーマンをコケにしおって! 許さん、許さんぞ!」
「許さねえのはコッチだ! ちっこい子供から元気そうなババアちゃんまで病で死なせるなんざ起させてたまるかってんだ!」
怒りの形相を上げるビョーマンに対し、こちらも負けんとする勢いで啖呵を切ったインセクターキッド。
やがてインセクターキッドは自分の片腕と両足に力を込めると、必殺の決め手を叩き込もうとする。
「グラスホッパー……アンド、トリュポクシルス!」
両足は飛蝗のような逆関節が施された節足に変わり、カブトムシの角を模した突起物が出現する。
勢いよく走り出し、飛蝗の足となった両足に力を込めて一気に飛び上がって加速する。
不可視の速度となってビョーマンへと突貫し、片腕のカブトムシの角を突き出した。
「
二つの昆虫の力を合わせた必殺の一撃『インセクターインパクト』を繰り出したインセクターキッド。
その強烈な一撃はビョーマンの胴体に突き刺さり、そのまま風穴を空けて貫いた。
明らかな敗北を刻まれたビョーマンは悲痛な言葉で叫ぶ。
「馬鹿な、この俺が、敗れた……だと!?」
――爆発。
爆炎と黒煙を巻き上げながらビョーマンは敗れ去った。
病の怪人を倒したことにより病にかかる危機は去ったのだ。
これで一安心になった……と、ヒーローの戦いを見守っていた人々が誰もが思っていると思いきや、当のインセクターキッドは逃げ惑っていた老婆の方へ振り向くと、彼女へ向けて訊ねた。
「おい、大丈夫か?」
「ああ、お前さんのおかげで助かったわい。ありがとうなぁ」
「感謝の言葉はあとでいい。それより立てるか?」
老婆の安否を確認した後、インセクターキッドは老婆を片腕で抱きかかえて何処かへ向かう。
戦いの余波で崩れた瓦礫などによって悪くなった足場を前に、老婆の身を案じたのだろう。
ひと先ずは弱き老婆を何とかするためにインセクターキッドはその場を後にするのであった。
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後日。
ヒーロー協力機構【ブレイブアライアンス】本部。
ここは悪と戦うヒーロー達が協力し合うために作られた組織の本部……なのだが。
そこへインセクターキッドの変身者である人物が足を運んでいた。
「たっく、本部まで呼び出しやがって……気に食わないぜ」
短く切った黒髪に鋭い目つきが特徴的な少年、彼の名前は『天涯角海(てんがい・かどみ)』。
インセクターキッドの変身者であり、あらゆる昆虫の力を再現する力を有してなおかつ巧みに使いこなす天才少年である。
そんな悪態づく角海の前には一人の青年が立っていた。
「まあまあ、角海くん。キミのヒーローとしての貢献ぶりは僕も他の人達も分かってるから」
そう宥めながら答えるのは、中世的な見た目をした青年……剣蒼渡。
雷鳴勇者ストライクアズールの変身者でもある彼が何故角海と共にいるのかは"ある理由"があった。
「にしても、今更言動や振る舞いでどうこう言われたくないんだがなぁ」
「それはその……悪態づくヒーローって、印象悪いじゃない?」
今にも舌打ちをしそうな渋い顔を浮かべる角海に対し、物腰柔らかそうに対応する蒼渡。
事実、角海ことインセクターキッドは決して素行がいいヒーローと呼べなかったのだ。
口の悪さによる言動や戦闘による余波の二次被害が若干の問題視にされることもヒーローとしてやっていると少なくない。
インセクターキッド/角海自身は気にしてはいないが、それはそれとして周囲から注意するべきことでもあった。
「仕方ねえだろ剣サンよぉ。姿形で対象を状況判断するのがホモサピエンス……つまり、人間ってもんだ」
「角海君……君ってイメージに反して小難しい事言う事あるよね」
「これでも生物学ナンバーワンは自負しているんでね」
いきなり出てきた学術的な言葉で驚く蒼渡へ、角海は失笑交じりに冗談を吐いた。
……事実、インセクターキッドの能力である"あらゆる昆虫の能力再現"を使いこなすにはあらゆる昆虫の能力を知る必要があった。
それらを手足のように使いこなすためには生物に対する膨大な知識が必要であり、それを先頭に生かせるようにできた角海自身が天才的な頭脳を有していたからだ。
そんなこんなで話していると、とあるブレイブアライアンスの局員が話しかけてきた。
「あっ、天涯くん。これ、お届け物だよ」
「あん、オレにですか?」
疑問に思いながら、角海は局員から手荷物を受け取る。
受け取った手荷物は小さなダンボールであり、軽い感触だと感じた。
いったい何なのか、と思いながら角海は早速中身を空けると……中から出てきたのは、トンボのブローチだった。
「コイツは……ふむ、オニヤンマか」
「トンボのブローチ、だよねそれ……結構リアルで精巧できているよね?」
「誰が送ってきたんだこれ? って、ああ……」
このブローチの送り主が誰なのか、と角海が宛先を確認するとひとりでに納得した様子を浮かべた。
――そこに書かれていたのは、あの時助けた老婆の名前が記載されていた。
どうやら御礼と言わんばかりにこのブローチを送ったと、すぐに察したのであった。
老婆が送ったトンボのブローチを手によって眺めて、角海はニヤリと笑う。
「いいもんだ。トンボは飛翔可能な虫の中では最強の捕食者だ。コイツを付けていれば大抵の虫は寄ってこないぜ」
「やっぱ角海くんって少しズレた観点持ってるよね?」
「ほっといてくだせぇよ。ともかく気に入ったぜ」
蒼渡からのツッコミを軽口で返すと、透き通るような翅の施しを見てニヤリと笑う角海。
自分がもらった自分だけの報酬がこれほど心地いい物なのかと思いながら、不敵に笑って喜びをかみしめる。
一般のヒーローからささやかなものだが、奮闘した価値はあったと角海――鋼虫勇者インセクターキッドは内心思っていた。
続く