ー回想ー
・・・平穏とは退屈である。
毎日学校に通い適当に授業を受けて帰ったら好きな時間を過ごして寝る。それの繰り返しだ。法律や校則を守っていれば誰にも文句を言われる事はなく大きな変化も刺激もない。自分から望んでいたとはいえこんなにも窮屈で退屈なものとは思わなかった。俺は昔からよくいじめを受ける。小学生の頃は暴力を振るわれて怪我をすることもあった。誰も助けてくれないから近所の寺で空手を習い家でも毎日練習した。そのお陰で中学に上がる頃には暴力を振るって来る奴も減り今となっては誰も近づかなくなった。そして今度はクラス全員で無視だ。話し掛けても誰も返事なんかせず授業中、昼休み、登下校の時もほぼ一人ぼっちだ。最初は思うところがあったが痛い目に遭わないのなら一人ぼっちになる事で平穏が得られたのならそれでいいと最近思う様になった。だが退屈だ。学生なら友達と遊んだり将来の夢を語り合ったりするような"青春"と言えるような楽しい事が沢山ある筈なのに・・・俺には無縁のようだな。
それにしても今日は朝から自習だ。学校に来たのに授業がないなら帰りたいんだがなぁ。なにかあったのかな?思い当たるのは・・・アレか?スマホを取り出しニュースサイトを見る。最近は何処のメディアでもこの話題で一杯だ。
"ISに男性適合者現る!!日本の中学男子!!"
"ついに登場!!ISに乗れる男!!"
"何者!?ISに乗れる男性の正体に迫る!!"
・・・内容が殆ど一緒だからタイトルで気を引こうとする感じが溢れているな。何でも"織斑一夏"とかいう奴がISを起動出来たとかって話だ。ISは女にしか動かせないので世界的には珍しい事なんだろうけどいまいちピンと来ないなぁ。そりゃ"白騎士事件"やその後の軍事関係の事件等でISは凄いとは思うけど俺には関係ないからなぁ。一応国際大会とかはテレビで見てたけど・・・そういえば"織斑"って聞かない苗字だよな。たしか選手に同じ苗字の人が居たような・・・
ガラガラガラ
「皆さん、おはようございます」
担任の"冬月美咲"先生が入って来た。おはようございますってもう昼近いんですけどね。
「えっと・・・今から全校集会があるので全員体育館に移動してください」
散々待たせておいて今度はなんだ?・・・なんかロクな事が起きない予感がするなぁ。教室から次々とクラスの奴が出ていく。
「先生。今日は授業は無しですか?」
「えっと・・・とりあえず集会が終わってからで・・・」
「帰っていいですか?」
「ダメですよ?勉強はマジメにしっかりとね?」
「はい」
「秋月君も遅れないでね」
「はい」
冬月先生との他愛のないこの会話が数少ない楽しみだ。それのお陰で学校では完全な孤立はしていないと思える。今までの教師共は俺がいじめられていても見て見ぬフリでロクな奴は居ない。だから俺の方も敬意が持てず態度が悪かった。そのせいで余計に避けられるようになり殆ど係わりがなかった。でも冬月先生は違った。孤立している俺に積極的に話し掛けてくれてこっちの話も聞いてくれた。流石にクラス全員からの無視されている現状の改善は難しいがそれでも俺にとってはありがたい存在だ。大学を卒業したばかりで若く教師になったばかりらしいが本当にいい人だ。先生が家族になってくれたならと思うが・・・流石にソレはない。あくまでも教師と生徒だ。卒業すればお別れだ。でも、そうであったとしても俺は先生の事を一生忘れないだろう。
気づけば体育館に着いていた。クラスごとに並ぶ。教壇のところに黒いスーツ着た奴らが居るがこの学校の教師ではないな。変な機械も置いてあるし何事だ?全校生徒が集まったところで校長から話があった。
「皆さん急な事でお騒がせしました。今日は政府の人から大切なお話があります。ではお願いします」
校長の話の後黒いスーツを着た女が出て来た。
「先日、ISを動かせる男性が我が国で発見された。政府は年齢の近い諸君らにも可能性があると考え保護を目的に検査を実施する。検査内容は難しいものではない。そこのパネルに手を触れればいい。時間がないのでこちらの指示に従い速やかに行うように。以上」
なんか物々しいなぁ。わざわざ授業を潰してまでこんな事の準備をしていたのか?政府主導って事はうちの学校だけではなく全国でやってんの?ISが動かせる男ってそんなに大事か?今の女尊男卑の社会から見ると絶対に面白くないだろどうせ。てか目的は"保護"とか言ってるけど怪しいなぁ・・・なにを企んでいる?
「はい、一人ずつ順番に並んで」
学年主任の指示に従い一人ずつパネルに触れていく。俺のクラスは結構後の方だ。待つしかない。
「もしISが動かせたらIS学園に転校かな?」
「そしたらハーレムじゃん!」
「毎日が楽園だろうな~」
・・・なんかクラスの奴が騒いでいるな。IS学園ってそんなにいいところなのか?今回の検査でISを動かせる男が何人見つかるか分からないがもし一人か二人しか居なかったら女の巣窟に放り込まれるんだぞ?想像しただけで嫌だな。他の奴が次々とパネルに触れては体育館を出ていくところを見ると居ないんじゃないかなと思う。
「次」
ようやく順番が来た。早く終わらせて教室に戻ろう。戻ったら昼飯時か。帰りたいなぁ・・・パネルに触れた。他の奴のようになにも起きないと思っていたが―――
「え!?これって・・・」
「嘘!?」
「まさか・・・」
なんかスーツを着た奴らが騒いでいるな・・・まさか・・・いや、そんなはずは・・・
「見つかったわ!!」
「確保よ!!」
「護送部隊をこっちに回して!!早く!!」
やっぱりか!!良く分からんが俺にとって最悪の事態なのは確かだ!!どうする!?逃げるか?
「待て!動くな!」
チャキ
逃げようかな思っていたらなんか拳銃を構えてる奴が居る!?おいおいマジかよ。
「両手を頭の後ろで組んで伏せ―――」
「やめてください!!生徒にそんなものを向けるなんて!!」
俺とスーツ女の間に冬月先生が割って入った。
「なによアンタ!!退きなさい!!」
「嫌です!!銃を下ろしなさい!!」
「このっ!邪魔よ!!」
「させない!!」
スーツ女は先生を押し退けようとしたが銃を掴み抵抗した。
「離せ!!」
「離さない!!」
「しつこい!!」
ドンッ!
「キャアッ!」
スーツ女は先生の脚を蹴り転倒させた。倒れたところに何発も蹴りを入れている。
「このっ!このっ!生意気なのよ!ちょっと顔が良いからって!」
ドスッ!ドスッ!
「くっ!」
「先生!!」
「秋月君!!逃げて!!」
一瞬迷った。先生を助けたい。だがマトモには思えない奴らに勝てるはずがない・・・俺は走り出した。
「ッ!」
「あ!待て!」
「逃がすな!!」
体育館の外へ出たのはいいが何処へ逃げればいいんだ・・・家か?それとも警察か?・・・思いつかない。
「停まれ!!」
ガシャンッ!!
「!?」
突然機械を纏った奴が空から落ちて来た。これがISか・・・どう考えても俺が敵う相手ではない。ISに捕まれ身動きが取れなくなる。
「ちくしょう!放せ!」
「暴れないの」
なんて事だ・・・いくら力を込めてもビクともしない。俺に銃を向けたスーツ女に追いつかれた。奴は警棒のような物を持っている。
「そのまま押さえてなさい。まったく・・・手間を掛けさせてくれたわね」
ドスッ!
「がはっ!」
スーツ女は俺の腹を殴り空いた口に棒を突っ込んだ。そして―――
バチッツ!
「グゥ!」
突然口全体に激痛が走る。なんだ!?・・・頭がくらくらして・・・視界がぼやける・・・
「ふんっ!いい気味よ」
スーツ女の勝ち誇ったような声が聞こえる。ちくしょう・・・俺がなにをしたって言うんだよ・・・
ー回想終了ー
気が付けば俺は政府管理の隔離施設に居たようでいろいろ調べられた後エリカさんが接触するまで監禁されていた。銃を向け、ISで取り押さえ、殴り、電気棒を口に突っ込む・・・何処が"保護"だよ。モルゲンレーテ社が出してくれなければ今頃どうなっていたか・・・考えただけで恐ろしい。施設を出た後はモルゲンレーテ社で訓練を受けバスターのパイロットとなりIS学園に入学して今に至る。
"もしISに乗れたら"きっと楽しいだろうなとは思っていたが誰が"乗りたい"なんて言ったよ・・・お陰でヒドイ目にあったよコッチは。先生は暴行を受け俺は電気棒のせいで味覚が悪くなり今は何食っても味がしない。俺達にあんな事をしたあのスーツ女はお咎めなしのようだ。今ならバスターで消し炭にも出来るが・・・それは絶対にやらん。助けてくれたエリカさんやモルゲンレーテ社に申し訳が立たない。いつか何らかの形で報いを受けさせよう・・・その日まで忘れなければいい。今はな・・・
別に誰かが死んだわけではない。転校したとは言え学校にも通えている。世界にはもっと不幸な奴等が居る・・・そう言って自分を言い聞かせているが納得出来るものではない。"あの日"の出来事が無ければ俺は三年生に進級し平穏に過ごしていたのにな。
別に
冬月先生は元の学校で教師を続けているようだ。エリカさんが俺の事を伝えてくれて聞いた先生は安堵して泣いていたらしい。本当にいい先生だ。俺のせいであんな目に遭ったのに・・・会いたいがお互いの為に接触はしない方がいい。連絡を取るのも良くない。そっとしておく事が一番だ。
部屋に戻りベットに倒れ込む。このまま寝てしまおう。疲れた。
・・・本当にどうしてこうなるのだろうか?俺がなにをしたのか?それを答える者など居ない。こうなっては後戻りは出来ない。今はISの知識を、技術を身に着け強くなるしかないんだ。弱い俺を守ろうとして大切な人が傷つかないように・・・今はそれでいい。
過去の話は語りか回想で迷いましたが書きやすい方にしました。
冬月先生はGTOに出てくる冬月あずさ先生がモデルです。