ーside勝輝ー
「はぁ・・・はぁ・・・」
福音と交戦し海中を移動して一時間程・・・出撃地点の浜辺に戻って来た。旅館や周辺は特に変わった様子はないという事は福音はこっちには来ていないようだな。よかった・・・
「ふぅ・・・」
機体を解除し砂浜にへたり込む。疲れた・・・気づかれないように通信も出来ない状況で暗い海中を移動し続けるのは・・・"もし今攻撃されたら"なんて不吉な考えが常にあったから余計になぁ・・・無事に帰還できたからいいけどこんな事はもう御免だね。さて、取り合えず旅館に戻って状況の確認と報告を―――
「秋月君!」
「ん?」
声がした方を見ると山田先生が走って息を切らしながらへたり込む俺の横まで来た。
「はぁ、はぁ・・・よかった・・・無事だったんですね!」
「とりあえずは・・・」
「よかった・・・本当に・・・」
通信も出来ない状況だったから余計に心配してくれたのか山田先生は今にも泣きそうだった。
「ご心配をおかけしました」
「いえ、無事に戻って来れたなら・・・」
「旅館に戻りましょう。織斑先生にも報告しないとですし」
「はい、戻りましょう」
山田先生に連れられ旅館の方へ行く。先に戻っているはずのあいつらはどうしたかな?無事だといいが・・・旅館へ戻り作戦室へ入った。織斑先生が驚いた顔をしている。
「戻ったか秋月」
「遅くなりました。すいません」
「いや、いい・・・無事でなによりだ」
「装備を失いましたが自分の方は何ともありません」
「そうか・・・」
「あの、織斑と篠ノ之は?それに福音も―――」
「落ち着け。順を追って説明する。まず、篠ノ之は無事だ。怪我等もしていないが・・・織斑の方は重症だ。命に別状はないが意識が戻っていない。現状では外に運び出すことが出来ず医者も呼ぶ事が出来ん。福音はお前達が交戦した地点の近くで停止している。今のところは動く気配はない」
「そうですか・・・」
篠ノ之は無事だったが織斑の方は重症・・・駆け付けるのが遅かったか。福音にはそれなりにダメージを与えたがつもりだが墜ちていないのか・・・
「お前は良くやってくれたが作戦は失敗した。状況に変化があれば招集する。それまでは自室に待機しろ。それから
「わかりました。ですが二つ程お願いがあります」
「なんだ?」
「一つは補給と点検の為にこの旅館にある格納庫で作業する許可を下さい。バスターの損傷は軽いですが長時間水中での活動していたのが心配ですので・・・」
「わかった、許可する。二つ目は?」
「
「うむ、いいだろう。補給と点検が終わったら自室へ戻れ。いいな?」
「はい」
「下がっていい」
「失礼します」
記録を渡し作戦室を出て格納庫へ向かう。壊れていなきゃいいが・・・そういえば篠ノ之博士が居ない。帰ったのか?まぁいいか。
「ほぅ・・・」
格納庫でバスターの点検を行ったが特に異常はないようだな。よかった・・・結構無茶したからなぁ。ある程度は水中で活動は可能だが長時間の運用は試していないから不安だった。ジェグスを装備していても空中での機動力は福音の方が上でしかもジェグスが損傷していたからあのままでは逃げ切る事が出来なかったからパージして海に潜って逃げるしかなかったからな・・・その際に以前シュミレーターでストライクと対峙した時に背中の拡張パーツである"ストライカーパック"をパージして当てられたのを真似してみたが案外上手く行ったな。まぁ致命傷にはならなかったけどね。さすが最新鋭の軍事用ISだ。タフだな。
元々ISは"白騎士事件"後に先進国の間で締結された"アラスカ条約"によって軍事転用が禁止になっていたはずだが・・・それを堂々と破るとは米国も恐ろしい事をやるな。まぁこの条約はISの技術を日本に独占させないために情報開示と共有が目的だしな。それに・・・いくら条約で禁止されていても他の兵器を圧倒できるISを使わない事はないだろう・・・まぁ俺も人の事は言えない。バスターだって普段は出力を抑えてあるがリミッターを外せばISを破壊することだって出来る。これでも一応"競技用"と言っているからなぁ・・・やれやれ。
しかしジェグスを失ってしまった以上対抗するのは難しくなったなぁ。福音が動かないのであれば静観するしかない。俺はやる事はやった。後は在日米軍か自衛隊が対処するだろう・・・出来るものならな。さて、部屋に戻るか・・・一応記録を見て対策は考えておこう。
ーside鈴音ー
正直に言って無謀だし待機命令を破るのはかなりマズいのは分かっているけどこのまま引き下がれない。今戦わずしてどうするのよ・・・その為には戦力が必要で箒の方はやる気になってくれたけど問題はアイツが来てくれるかよね。"一夏の敵討ち"なんて言ったら来るか不安だけど嘘なんかついたってしょうがないわ。話せば分かってくれるわ・・・多分。
「秋月、ちょっと話があるんだけど」
「ん?」
部屋に入ると秋月は端末を凝視していた・・・何を見ているのかは気になるけど今はそれどころじゃないわ。コイツを説得しないと。
「あたし達これから福音を討ちに行くわ」
「えっ!?」
「それでさ、アンタも来て―――」
「ダメだ!危険すぎる!」
「はぁ?」
「織斑の事は知っているだろ?アレに挑んでも同じ末路を辿るだけだぞ。最悪死人が出る」
「止められたって行くわ。これは一夏の敵討ちよ」
「"あたし達"ってまさか・・・」
「そうよ。箒もセシリアもシャルロットもラウラも行くわ」
「やめろ!行っても返り討ちに遭うだけだぞ!」
「なによ!あたし達じゃ勝てないって言うの!」
コイツ・・・あたし達を下に見ているのかしら?
「落ち着け凰。別に実力を疑っている訳ではない」
「じゃあ、なんなのよ!」
「福音が動かない今はヘタに刺激しない方がいい。今織斑は動かせないしこんな状況では医者も呼べない。こんな時に福音がここに来たら最悪だ。ISを持たない生徒達だって居る。だから今は様子を見ながら防衛に徹する方が―――」
「ああ!もういいわ!」
「え・・・?」
「こんな時に言い訳ばっかりで!どうせ怖いんでしょ!?いいわよ!アンタみたいな臆病者は来なくて!」
「凰!!」
あたしは部屋を出た。イライラが収まらない。アイツがあんなに弱気だとは思わなかったわ・・・浜辺に着くと箒達が待っていた。
「鈴・・・」
「待たせたわね」
「秋月は?」
「アイツは来ないわ。怖気づいたみたい」
「そんな・・」
「行きましょ。準備はいい?」
皆の顔を見渡した。全員覚悟が決まっている目をしているわね。
「ああ、いいぞ」
「何時でもいけますわ」
「勝って皆でここに帰ろうね」
「行くぞ!」
あたし達はISを展開し空へ上がり福音の居る場所へ向かう。絶対に勝って見せるわ・・・
ーside勝輝ー
凰が部屋を出ていった後で自分の手が震えているのに気付いた。分かってるさ・・・怖い事くらい。交戦記録を見れば見る程福音がバケモノだと知る。何とか生き残ったが逃げる事しか出来なかった俺にもう一度戦えるかは分からない・・・凰達は本当に行くのだろうか?何もなければいいが―――
「秋月君!大変です!」
山田先生が部屋に入って来た。かなり慌てている様子だが・・・嫌な予感がする。
「どうしました?」
「篠ノ之さん達がISで福音のところへ行ったみたいで・・・」
「はぁ!?」
「通信もしたんですけど応答がなくて・・・」
「チッ・・・」
やっぱり行ったか・・・止めたって行くって言っていたもんな。
「えっと・・・どうしましょう・・・」
「俺が確認しに行きます。先生は呼びかけを続けてください。では」
「え?・・・あ、秋月君!?」
部屋を出て外へ向かう。つい勢いで出てしまったがどうする?あいつらを追うか?福音と対峙したら今度は死ぬかも知れないのに・・・俺だってどうしたらいいのか分からない。
「あ、アッキーだ~」
「布仏さん・・・」
旅館の玄関広間に彼女は居た。自室待機のばず・・・
「どうしたの~」
「ちょっとね・・・布仏さんは?」
「ジュース買いにね~」
「そうなんだ・・・」
大丈夫かな?勝手に部屋を出ちゃって・・・まぁすぐ戻ればいいか。
「ねぇ、アッキー」
「ん?」
「さっき外を見てたらしののん達がISでどっか行くの見たけど何かあったの?」
「えっと・・・」
「もしかして危ない事なの?」
「その・・・」
なんて答えたらいいだろうか・・・
「もしそうだったら大丈夫かな~」
「布仏さんは心配なの?」
「うん、友達だからね~」
「友達・・・」
凰があんなに怒っていたのも
「ごめん布仏さん。俺、ちょっと行ってくる」
「え・・・アッキー?」
旅館の玄関から外へ出る。もう夕暮れか・・・
「アッキー!」
「ん?」
振り返ると布仏さんが後ろに居た。少し不安そうな表情をしている。
「気を付けてね・・・あと戻ってきてね!」
「ああ、必ず戻るよ。だから心配しないで」
「うん、約束だよ」
「約束だ」
布仏さんは右手の小指を出して来たから俺も小指を出し優しく巻く。今日二度目の指切りとなるが朝のと違い少し彼女の指に力が籠っている。
「布仏さんは部屋に戻って」
「うん、またね~」
「おう」
布仏さんが旅館に戻るのを見届けた後、バスターを展開する・・・異常はないな。
「秋月 勝輝、バスター発進!」
スラスターを吹かし焼けた様に赤い空へ駆け上がる。ジェグスが無くても福音が居るところはここからそう遠くない・・・間に合えよ。