「
その家は名家ではあるものの、その頭には「知る人ぞ知る」がつく、そんなお家柄だ。
「御伽家」のお話で最も有名なのは、その〝個性〟だろう。
世界全人類の数多ある〝個性〟という枠において、この「御伽家」ほど変わった〝個性〟を持つ家系もそうそう居ない。
ではここに、いくつかの例を出してみよう。
ある父親は4歳で山の猪や熊を殴り飛ばし、
ある母親は7人の小人を侍らせ、
ある爺は、花を咲かせる何の変哲もない〝個性〟が覚醒し、一時期
ある少年は〝個性〟を発現させたとき3体の動物を生み出し、使役した。
その少年の妹はあまりにも
そういった厄ネタ祭りの一家こそが「御伽家」である。
ではここに。
一人の少年、三匹の獣を従える少年の物語を語ろうか。
これは、
「ここが入試会場か……。デカいな」
少年の見た目はその場においてあまりにも奇特であった。
整った顔立ちと肩程までに垂れるポニーテールだけを見ればきっと少年の性別を女性だと勘違いする位にはその少年は童顔だった。
しかし、そこに鍛えられた二の腕や上背の高さに目を向ければ、それは勘違いであったとすぐにわかる。
しかし何よりもその場の人たちの視線を集めていたのは、少年の肩にのる〈猿〉と、頭にのっている〈雉〉と、足元に居る〈犬〉だろう。
「なんで入試にペットなんか連れてんだ?」
「いや、そういう〝個性〟じゃねぇの?」
「頭に乗ってる鳥なんだろう?」
「バカねあんた。雉でしょ?」
「犬可愛い……いや、目つきわっる。今にも噛みつきそうじゃん」
「あの猿……筋肉のつき方がエゲツねぇな」
ヒソヒソと話し声が聞こえる。
大方〈猿〉と〈雉〉と〈犬〉を連れていることが珍しいのだろう。
そうあたりをつけた少年は気にすることなく試験会場へと向かう。
好奇の視線には馴れている。
それでもやはりこの場において少年の存在は浮いていた。
入試会場の説明は終始〈猿〉が耳を両手で塞ぎ、〈雉〉が膝の上で丸くなり、〈犬〉がグルルル……!と今にも吠えそうな様子で解説のプレゼントマイクを睨んでいた。
「どうどう……すぐに終わるから」
右手で膝の〈雉〉を撫で、左手で肩車してる〈猿〉の頭をワシャワシャする。
〈犬〉にはお座りと言って黙らせた。
心なしか〈犬〉の耳と尻尾が下がっている。
(つまり、この入試は敵を倒せばいい……と。思ってたよりも楽だな。)
チラリと自身が従える獣達を見てそう考える。
プレゼントマイクのバカでかい声量の解説が終われば、次々に実技試験の会場に向かうため、受験者が立ち上がる。
少年もそれに逆らわず立ち上がり歩き始めた。
「……何でもかんでもデカくすればいいってもんじゃ、いや、倍率300倍ならこのレベルが必須なのか……?」
実技試験の会場は街一つだった。
同年代の子に比べて大人びてると言われる少年といえど、少しばかり動揺した。
今の少年の格好は、中学の頃の青黒いジャージを上下に着て、背中に木刀を背負っている格好である。
準備体操を1人+3匹と共にして時間を潰そうと考え実行するが、絵面がシュール過ぎる。
やはりここでも浮いていた。
「…………!」
〈犬〉の耳がピクッと動き無言で少年を見つめる。
スピーカーの僅かな起動音を聞き取った〈犬〉がそれを伝えようと、自身の主人に思念を送る。
「きたか……準備はいい皆?」
その思念をきちんと読み取った少年は、自身の相棒達に声を掛ける。
〈猿〉は好戦的にニチャァと擬音がつきそうな笑みを浮かべ、
〈雉〉は少年の頭上を旋回し鳴き、
〈犬〉は舌を出しながら、興奮した様子で尻尾を振った。
少年、
『ハイスタートー!』
その声と共に少年は駆け出し、その横を〈犬〉が走る。
そこに乗った〈猿〉が〈犬〉の背の毛を掴みながら獰猛に笑う。
〈雉〉は上空を飛んで逐一思念を桃之介と〈猿〉と〈犬〉に伝える。
「〈犬〉は
実技試験H会場に3匹の獣が解き放たれた。
とあるモニター室にて。
薄暗い室内の中で爛々と光モニターに照らされた黒い影達。
雄英高校の教師、ヒーロー達である。
「実技総合成績出ました」
「
「
「対象的に敵P0で8位。アレに立ち向かったのは過去にもいたけどぶっ飛ばしちゃったのは久しく見てないね」
「思わず
「しかし自身の衝撃で甚大な負傷…まるで発現したての幼児だ」
「妙な奴だよ。あそこ以外はずっと典型的な不合格者だった」
「細けえことはいんだよ!俺はあいつ気に入ったよ!!」
「
「……てかよ、いい加減誰かツッコめよ」
『………………………………』
「……
「開幕初っ端から駆け出した数少ない奴の1人だな」
「いや、あの3匹何なんだよ?というか、俺実技試験の概要の時ツッコミたくてすっげぇウズウズしてたぞ」
「んなことはどうでもいいよ。今重要なのはそいつだよ」
「恐ろしく速い〈犬〉に乗ってすれ違いざまに木刀で粉砕」
「その上鳥みてぇのが偵察で動いて、暇があれば他の受験生を救ける」
「んでもってあの〈猿〉。……〈猿〉だよな?いや、デコピンで
「しかも、
「2位の奴は速攻気づいてたけど、それでもやっぱり手数と情報力、機動力、判断力、戦闘力。どれをとっても今すぐプロとして活躍できるレベルだぞ」
「しまいには0P敵を〈猿〉がぶん殴って機能停止。純粋にやべぇな」
「筆記試験も全教科凡ミスさえなければオール100点だ」
「てかあんな奴が次世代に居るとか、俺達もうかうかしてられねぇな」
「というか、この子。金太の子供っすよ」
『……はぁぁぁぁ!!?!?』
「ちょ、待って下さい!
「いや…それなら納得だ。あいつの子供とか考えただけで弱いイメージがわかない」
「ハイハイみんなそこまでだよ。話が脱線してきてる。……取り敢えず、私情抜きでこの子は特待生として入学させたいんだけど、どうかな」
「まぁ、それが妥当でしょうね」
「こいつなら、特待生の基準をクリアしてますし、いいと思いますよ俺は」
「俺も賛成〜!」
「私も」
「皆はどうだい?」
『異議なし!』
「それじゃあ御伽桃之介君は特待生と言うことで進めるね。それじゃあ次の子に移ろうか……。今度はこの3位の子だけど…………」
岡山に、とある家があった。
日本家屋のように見えてその実、和洋折衷が織りなされたかなり珍妙な家はいかにもな雰囲気があった。
そんな家の中。
果てしなく広い道場の中央に、背丈凡そ2mに届く大柄な男が入口の
道場の襖が開く。
入ってきたのは少年だ。
いつものポニーテールを解き、伸びた髪の毛は艶がある。
そして、ともに入ってきた3匹の獣達。
しかし、その顔はまるで、死を覚悟した戦士のような、そんな迫力があった。
少年、御伽桃之介は威厳を放つその後ろ姿に向かって短く言の葉を紡ぐ。
「父さん雄英、特待生合格だって」
その言葉を聞いた男の耳がピクッと動き、緩慢に振り返る。
その顔は……般若であった。
急激に寒気が襲い、すぐに臨戦態勢をとる桃之介と獣達。
そして……。
「俺は首席合格をしろといったはずだぞ桃之介ぇぇぇ!!!!」
「いや特待生合格の方がすごいでしょ!?!?!?」
轟音を響かせながら迫ってきた男、桃之介の父
それをギリギリ受け流す桃之介の頬に冷や汗が流れる。
「知らん!!俺は首席合格をしろといったぞ桃之介ぇぇぇぇ!!!貴様日本語が分からんのかぁぁぁぁ!!!!」
「日本語を理解してねぇのは父さんの方だよ馬鹿野郎!!!!!」
右ストレートをギリギリ躱すも、空気を裂く音が鼓膜を震わせる。
激昂しているように見えて、ギリギリ桃之介が気絶で済むレベルに手加減されている。
脳筋に見えて達人な父を尊敬しなくもないが状況が状況。
むしろカチンときた。
そうやって、組み手に移ろうとしたところで……。
「お父さんもお兄ちゃんも喧嘩はめっ!!」
道場の入口から金髪を靡かせる少女が乱入してきたことで桃之介も金太も動きが止まる。
「あ、アリス!?」
その小さな乱入者に金太は動揺しアワアワと手を振って「これは、その、違うんだよアリス」とさっきまでの般若の顔が嘘のように優しくなり、そして汗をダラダラと流しながら慌てている。
「もう!お兄ちゃんに酷い事するお父さんなんて……だいっきらいだからね!!」
ビシッ!と指さして、「私怒ってます」といっているかのように頬を膨らませる少女。
ピシッ!!と固まり、心なしか白くなり罅が入ったかのように見える実の父を見て不憫に思えてきた桃之介は実の妹である少女、
「……あ、アリスその、そこら辺にしておいた方が」
「ダメ!お兄ちゃんをいじめるお父さんなんて私好きじゃない!嫌い!もう口聞かない!」
グサグサグサと言葉の針が金太の心に刺さる。
「あーあ、面倒くさくなるぞコレ……」
小さく呟いた声は、獣達にしか届かなかった。
やれやれとしている獣達が道場から出ていく。
そーっとその後を追って桃之介も道場を後にした。
そのすぐ後。
背後からいい歳こいた大人のむせび泣きが家中に響いた。
時は4月、静岡にて。
「桃之介君……ハンカチ持ったかい?学生証は?」
「大丈夫ですよ
「あ、ネクタイ曲がってるわ〜桃君」
「ん。ありがとうございます
「大丈夫よ〜。義兄さんや義姉さん達から預かった大切な甥っ子だもの〜」
「むしろこれで何かあったら、僕が兄さんと義姉さんに殺されちゃうから……」
細身ながらもしっかりと筋肉がついている男、
この人が自分の父親の双子の弟だと未だに思えない。
その横でのほほんとしているのはその叔父の妻である
実家が岡山の桃之介は静岡にある高校まで行くのにはそれなりの苦労があるという事で、叔父の家に送り出された。
父は満面の笑みを浮かべながら、母と妹は泣きながら桃之介を見送ったのは記憶に新しい。
少しホームシックになりそうになるも、それを振り払うように、玄関の扉に手をかける。
ポニーテールを揺らして少年は笑顔で言う。
「行ってきます!」
「「いってらっしゃい!」」
その後ろ姿を追うように3匹の従者がついていく。
御伽 桃之介
個性 桃太郎
→個性発現時、3匹の獣を生み出した意思ある個性の使い手。猿雉犬が常に現出しており、〈猿〉は肩に、〈雉〉は頭に、〈犬〉は足元に常に居る。
人語を喋ることはないものの、人語を理解している。
桃之介本人も目茶苦茶強く、剣技に関して天賦の才がある。
〈猿〉
→馬鹿力の持ち主。
〈雉〉
→空を飛ぶ。意外と力持ち。
〈犬〉
→五感が優れてる。足が速い。
御伽 金太
個性 超怪力
→桃之介の父親。4歳の時に猪と熊を投げ飛ばした伝説があるとかないとか……。桃之介の剣の師匠にして、元ヒーロー。金髪ハンサムな筋肉ダルマ。
御伽 白雪
個性 小人召喚
→本編未登場。桃之介の母親。自身の能力をコピーした7人の小人を召喚できる。召喚した小人達はそれぞれ白雪の「楽」「喜」「愛」「悲」「憧」「恥」「焦」の感情を元に人格が作られている。黒髪の絶世の美女。
御伽 アリス
個性
→想像した生物を実体化させる個性。しかし本当は……?
あらゆる法則や定義を繋ぎ合わせて意味を与え、全世界へ波及させる個性。例えば「12色セットの絵の具を持っている→12と言えば時計の時間→ならばこの絵の具セットで時間を支配できる」というように、その理論が破綻していて単なるこじつけや屁理屈だったとしても、僅かな共通点さえ見出だせればブリッジを架けて繋がりを持たせ、現実の事象として改変するというご都合主義満載の一つの個性特異点。
天真爛漫で純粋無垢。個性の危険性から教育を徹底的に行い絶対に闇堕ちしない光の権現みたいな子になった。金髪の美少女。重度のブラコン。
御伽 浦伏
個性 皮膚呼吸
→「御伽家」にしては珍しい平凡な個性。しかし、やはり「御伽家」。皮膚呼吸によって得られた酸素量はえげつなく、擬似的な「全集中の呼吸」モドキが出来るすっごい優しい桃之介の叔父。筋肉ダルマではないが、細マッチョ。黒髪で漁師をしている。
御伽 乙姫
個性 領域展開
自身の心象意識を具現化する個性。しかし、必中効果も個性の強さが上がることもない。が、心象意識が深海のため、引きずり込めば相手を溺死させることが出来る。とっても優しい。専業主婦。
御伽 花咲
個性 開花
→本編未登場。桃之介の祖父。触れたモノを開花させる個性の持ち主。今は隠居生活を送っており、岡山のとある山の中で桜に囲まれながら、嫁と共にのんびりと過ごしている。実はグラントリノと旧知の仲で今でも親友。ハナサカのおじいちゃんと呼ばれている。