Fallout76 -once in a blue archive- 作:egguimen
予想以上に長くなってしまったorz………。
A clear sky
ターキン・M・ゴッドフレイ
インドリット・コールドことモスマンによって腹部を刺され、重度の失血性ショックにより死亡。
途方もない暗闇が俺の体から体温を奪っていく。
寒い…アラスカの冬などぬるく感じてしまうほど。
これまで未確認生物を殺し回ってきたが…ついに未確認生物に殺されるとはな…随分とかなりヤキが回ってきてしまったらしい。
本当に……最悪の気分だ。親友達は…他のファイヤーブリザー達は大丈夫だろうか…。
いや、きっと大丈夫………。彼らもウェイストランドを生き延びた連中だ、
きっとアメリカだって……いつか再建できる筈だ。
故郷の未来は、彼らに託そう…。
ともかく俺は死んだ、大切な仲間を残して…独りで………死んだ…。
もしもこれが最悪な夢なのならどうか…どうか頼む…
どうかさめてくれ…。
「ッ………!」
俺は……何故か二度と目覚めることはなかったはずの意識を取り戻した。
「ここは………列車か?」
気がつけばそこは列車の中だった。
向かいには何かの制服を着た少女がいて、ボロボロの姿だった。頭に輪のようが見える、天使だろうか?いや、わざわざ傷だらけの子がお迎えに来るわけがないか。
それに、もしそうなら俺は乗る列車を間違えてる。
俺は天国じゃなくて、地獄に行くはずだからな…。
待てよ、地獄ならもう既に落ちてたか?
血に飢えたアボミネーション、ヤク漬け人格破綻者のブラッドイーグル、ミュータントの暴政が敷かれた錆に取りつかれたレイダーたちの王国、それにニュージャージーには
しかしあれは自分達が作った地獄だったな…。
というかここはマジでどこなんだ?
いやそれよりもあの子供、そうだ怪我をしてるじゃないか。
…かわいそうに、治療してやらないと…。
俺は自分の身に起きた突然の出来事の数々のせいで思考がまとまらず、少々混乱気味だった。
それでも少なくとも、彼女には誰かの助けが必要だった。
最も、その誰かは俺しかいないようだった……。
俺は彼女に声をかける。
「やぁ。」
「…ボロボロだな。」
「傷だらけで、痛いだろうに。」
「すぐに手当てをしよう。じっとしててくれ。」
その少女は首を横に振りながら「大したことじゃない」と遠慮するように言うが。どう見ても大丈夫ではなかった。
パッと見るだけでも至る所から出血している。
すぐに処置を行わければ命に関わるだろう。
「怪我をしている子供を放っておくことはできない。ほら、傷をよく見せて。」
「ああっ、ちょ……」
俺はこの期に及んでまだ遠慮しようと彼女を少しばかり強引に列車の座席に寝かせた。
彼女は何やら恥ずかしそうにしていたが、明らかにそんな場合ではなかった。
彼女の怪我はとても酷いものだった。診てみれば身体のあちこちが傷だらけ、擦傷、切り傷、挫創、皮下出血。
四肢胴体余すことなくすべてに捻挫や脱臼、骨折箇所がある。
添木の木材が足りるか心配になってくる程だ。
おまけに銃が掠めたであろう裂傷も酷い。
こんな重症を放っておくなど以ての外だ。喋れてるのも不思議なくらいだ。
処置は少々てこずる上痛むだろう。
苦しみを少しでも和らげるため、希釈したMed-Xを投与した。
希釈されている理由についてだが、Med-Xの鎮痛効果は極めて強力だ。そのためたった一度の投与でも場合によっては中毒を起こす可能性がある。
これも主成分に戦前よりも昔に違法薬物に指定されていたはずのモルフィン塩酸塩水和物が使われていた影響だろう。
治療のためと言ってに子供をヤク中にしてしまうのはまずい。
添え木を当て、骨を適切な位置に戻し、皮下出血により発生している血栓を除去、傷口の消毒と縫合、治癒を早めるためにヒーリング・サルヴェを塗布し、包帯を巻く。
これで可能な限りの処置はできただろう。
本当はもっとしっかりした場所で治療したいが…仕方あるまい。
こうして手当を一通り終えた後、彼女は「ありがとうございます」と丁寧に礼を言って、続けて頼みがあると言った。
俺の事を"先生"と呼びながら。
「…………治療までして頂いて、その上今更こんな事を頼むのは図々しいかと思いますが、それでもお願いします。」
「ターキン先生。」
「先生」その呼び方に俺は妙な違和感を覚えた。
確かに、ファイヤーブリーザーの隊長をする中で部下の教育を行うこともあったが、
俺は少なくとも先生と呼ばれるような人間ではなかった。
「きっと私の話は忘れてしまうでしょうが、それでも構いません。」
忘れるとはどういうことなのだろうか。
ここは夢かなにかなのだろうか?
だとしたら、俺はどこで目覚めるのだろう。
というか、また目覚めるのか?死んだのに。
「何も思い出せなくても、おそらくあなたは同じ状況で、同じ選択をされるでしょうから。」
「ですから......大事なのは経験ではなく、選択。」
「あなたにしかできない選択の数々。」
確かに、俺はアパラチアで過ごす中、重要な選択を迫られた事は何度かあった。
だが、彼女が言う選択とはおそらく意味が異なるのだろう。
「……以前、責任を持つ者の話をしました。」
「あの時の私には分かりませんでしたが…。今なら理解できます。」
「大人としての、責任と義務。そして、その延長線上にあった、あなたの選択。」
「それが意味する心延えも。」
「………。」
責任……か。
自分の行いを顧みると、なんとも耳が痛くなるような話だった。
「ですから、先生。」
「私が信じられる大人である、あなたになら、」
「この捻れた先の終着点とは、また別の結果を…。」
「そこへ繋がる選択肢は……きっと見つかるはずです。」
「だから先生、どうか……。」
彼女が何か言い終える前に、俺の視界は揺らぎ再び意識は微睡みの奥深くへと沈んだ。
「………い」
「……先生、起きてください。」
「ターキン先生!!」
ハッキリとしない意識の中、誰かの鋭い声が頭に響いく。
「うっ……うーん………。」
「ん?」
俺が目を覚ましたのは、重役のオフィスのような場所でのことだった。
だが、どこかは分からない。
ここに来る前に何かあったような気がするが…思い出せない。
そんなことを考えていると…知らない少女が訝しげに俺の顔を覗き込んでいた。
ガスマスク越しだったが…。
どうやら俺の装備*1はそのままらしい。安心した。
そんなことを考えながらキョトンとしてると、エルフのような耳の少女が話しかける。
「少々待っていて下さいと言いましたのに、お疲れだったみたいですね。なかなか起きないほど熟睡されるとは。」
熟睡どころか、ここに来るまでの記憶がまるでない…まさかテレポートしたわけでもあるまいし…ほんとに何がどうなってるんだ?
俺はついに状況を飲み込むことが出来なかった。
「なにが、どうなってる…これは、いったい…。」
「……夢でも見られていたようですね。ちゃんと目を覚まして、集中してください。」
「もう一度、あらためて今の状況をお伝えします。」
「私は七神リン、学園都市「キヴォトス」の連邦生徒会所属の幹部です。」
「…なんて?」
学園都市だとかキヴォトスとか生徒会とか突然すぎて、情報って書かれたバットを後頭部から
フルスイングされた気分で少しも頭に入らなかった…。
しかし、彼女が七神リンという名前ということだけはわかった。
「そしてあなたはおそらく、私たちがここに呼び出した先生…のようですが。」
「"先生のよう"って…どういうことだ?」
「……ああ、推測形でお話したのは、私も先生がここに来た経緯を詳しく知らないからです。」
「経緯を知らない?君がここに連れてきたんじゃないのか。」
「いいえ、私はただここに先生が来ているということしか伝えられていなかったので……。」
「そうか……。」
どうにも釈然としないが、どうやら彼女が俺をここに連れてきたわけではないらしい。
まあ、最初のそぶりを考えればすぐに察することもできたか…。
「はぁ……。」
ため息を吐いた俺は、もう何がなにやらという感じで椅子の背にもたれ掛かり、天を仰ぎながら額に手を当てる。
「……混乱されてますよね。分かります。」
それはそうだ、死んだかと思えば訳の分からない建物で訳も分からず寝ぼけてて、訳の分からない状況に巻き込まれてるんだ。
訳が分からないことのオンパレード、もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。
まあ……とにもかくにも、彼女が察しの良い子で助かった。
「こんな状況になってしまったこと、遺憾に思います。でも今はとりあえず、私についてきてください。」
「どうしても、先生にやっていただかなくてはいない事があります。」
「やらなきゃいけないこと?」
「学園都市の命運をかけた大事なこと……ということにしておきましょう。」
「ちょ、ちょっとまて。そんなもの、私のようなどこから来たかも分からないような人間に託していいのか?」
「ここがどこで、何なのかもわからない人間に?」
「一蓮托生は好きにすればいいが、相手をもう少し考えるべきだろう。」
彼女には人を疑うという概念がないのだろうか?
ウェイストランドじゃ常識だぞ。
「お言葉ですが先生。私達が頼れるのはもう…先生しかいないんです。」
「どうか…お願いします。」
あくまで確認程度のつもりだったが、なんと彼女は頭を下げてきた。
余程切羽詰まっている様子らしい。
困ったな、どうしたものか…。
とはいえレスポンダーたるもの、救いを求められては無下にはできまい。
「わかったからとにかく頭を上げてくれ。な?」
それはそれとして……何をするにもまずは情報だ。
「それで…私は何をすればいい?」
「それは…移動しながら説明しましょう。着いてきてください。」
「わかった。」
彼女に案内されながら、エレベーターに乗った。
壁がガラス張りになっていたため、外の景色がよく見えた。俺は眼前に広がるその景色に衝撃を受けたと同時に確信した。
ここはアパラチアじゃない。
そこは、飽き飽きするほど見慣れた
おそらく戦前と同じくらいだろうか?文明や技術が進み発展した色鮮やで豪華絢爛とも言える高層ビルの立ち並んだ美しい都市の景色だった。
こんな景色が見られるとは……。
正直、とても感動した。
故郷がかつて失ったものが、そこには確かにあったのだ…。
「……。」
「「キヴォトス」へようこそ。先生。」
「キヴォトスは数千の学園が集まってできている巨大な学園都市です。」
「これから、先生が働くところでもあります。」
外の世界を呆然と見つめる俺の後ろで、リンがキヴォトスがどんな所なのかを教えてくれた。
「あれが全て学校なのか?凄いな。」
「はい、きっと先生がいらっしゃったところとは色々な事が違っていて、最初は慣れるのに苦労するかもしれませんが……。」
「でも先生なら、それほど心配しなくてもいいでしょう。」
まあ、環境適応能力はそれなりにある方だと思う。
しかし、彼女のその信頼は俺が思うそれとは別の所からきているらしい。
「あの連邦生徒会長が、お選びになった方ですからね。」
「連邦生徒会長?この地域における大統領みたいなものか?」
「そうですね……概ね、そのような認識で間違いはないと思います。」
「…そうか。」
これがギャップというやつか、異世界らしいと言われれば異世界らしい…か。
「……まぁそれは後でゆっくり説明するとしてしましょう。」
「わかった……。」
ヴーーーーーーン…
動くエレベーターの中で、僅かな静寂が訪れる。
そんな中、リンは俺に至極当然な疑問を投げかけた。
「……所で」
「ん?」
「取らないんですか?そのガスマスク。」
彼女の指摘は最もだろう、ついさっきまでウェイストランドで血なまぐさい任務と、死を経験していたため、当時の装備がそのままなのだ。
その格好はこの場にあまりにも似つかわしいものじゃなかった。
「ああ、そういえばそうだったな。」スッ…
ガスマスクを外したその素顔はかなり酷いもんだった。
アパラチアのイカレた連中から食らった火炎放射器による火傷跡。
その眼窩にはどす黒い影ができ、口の両端はブラッドイーグルにざっくりと切り裂かれた跡がある。
それに頬にはヤオグアイに襲われ時の爪痕が痛々しく刻まれていた。
そんな俺のこの顔を見た途端、リンは目を丸くして開いた口が塞がらなくなっていた。
「………ッ!?」
彼女は彼の顔を見て言葉を失っていた。
確かに、俺の顔はそれほど普通じゃない。だが……
(そんなグールでも見たような目でこっちを見ないでくれ…。)
エレベーターが1階に着くまでの間、
気まずくなった俺たちの間にはお互いに無言の時間だけが無情に流れた。
リンはその間ずっと横から眉を顰め、訝しげにそれを見つめていた。
彼女のその視線は、俺には少し痛く感じた。
「……あのっ」チーン…
リンが何かを言おうと口を開くより先に、エレベーターが目的の階に到着したことを知らせた。
その為、リンはその喉から出かかった言葉を言うことはなく、その代わりに諦めたようにため息を吐いた。
エレベーターの扉が開くと、人々がざわめいているようだった。
しかし学園都市の運命を人様に委ねないといけないような非常事態ならこんな事もあるだろう…。と俺はあまり気に止めなかった。
ふと視線を横にやると、4人の少女ががリンに話しかけられていた。
「ちょっと待って!代行!見つけた、待ってたわよ!連邦生徒会長を呼んできて!」
「……うん?隣の大人の方は?……なんだか凄い顔だけど…。」
今まで気にしたことがなかったが、どうやらこの顔はかなり悪目立ちするらしい。
「首席行政官。お待ちしておりました。」
「連邦生徒会長に会いに来ました。風紀委員長が、今の状況について納得のいく回答を要求されています。」
青かったり黒かったりブロンドだったりする生徒たちの髪色に目をチカチカさせていたが、よく見ると頭に天使の輪っかのようなものが見えた。
だがそれ以上に気になるものが、俺の目にとまった。
銃だ。子供が銃を握っていた。一人や二人じゃない周りの生徒全員、銃で武装していた。
別に自衛と考えればおかしいことでもないのだろうが……。
よく見ればストラップが着いていたり、カラフルに飾り付けられていたりした。
恐らく、子供が銃火器等を所持することが合法的に認められているのだろう。
堂々と持っていることには少し常識を疑うが。
そんなことを思った瞬間、リンが小さく呟いた。
「ああ……面倒な人達に捕まってしまいましたね。」
俺が頭に疑問符を浮かべてるのを余所に、彼女はその面倒な人達とやらに丁寧に対応していた。
「こんにちは、各学園からわざわざここまで訪問してくださった生徒会、風紀委員会、その他時間を持て余している皆さん。」
「こんな暇そ……大事な方々がここを訪ねてきた理由は、よく分かっています。」
「今、学園都市に起きている混乱の責任を問うために……でしょう?」
リンがさっき言っていた通り、どうやらここキヴォトスはなにやらトラブっているらしい。
「そこまで分かってるなら何とかしないよ!連邦生徒会なんでしょ!」
「数千もの学園自治区が混乱に陥っているのよ!この前なんか、うちの学園の風力発電所がシャットダウンしたんだから!」
「連邦矯正局で停学中の生徒たちについて、一部が脱出したという情報もあります。」
「スケバンのような不良、登校中のうちの生徒たちを襲う頻度も、最近急激に高くなりました。治安の維持が難しくなっています。」
「戦車やヘリコプターなど、出所のわからない武器の不法流通も2000%以上増加しました。これでは正常な学園生活に支障が生じてしまいます。」
目の前の御三方がこの都市の問題について口々に述べていたが。皆が自分たちの被害を我先にと急いで口々に言うためついていけなかった。
だが文明が滅ぼうと滅ばなかろうと、問題は常にあるものなんだなと思った。
もっとも、今それが崩壊しかかっているほど致命的な事態にあるようだが。
すると、菫色の髪の…失礼かもしれないが脚が印象的な子がこんなことを言った。
「こんな状況で連邦生徒会長は何をしているの?どうして何週間も姿を見せないの?今すぐ会わせて!」
なるほど、と思った。
多方、政治の中枢を担ってる連邦生徒会長とやらが突然行方不明になり、都市がてんてこまいになってて困り果ててるといったとこだろう…実際はもっと深刻なのだろうが。
すると、リンは彼女の当然の疑問にこう答える。
「連邦生徒会長は今、席におりません。正直に言いますと、行方不明になりました。」
「スーーーッ……。」
や っ ぱ り な 。 [PER15]
「……え!?」
「………!!」
「やはりあの噂は......。」
リンが語る衝撃的な事実を聞いた生徒達の反応は実に様々で、ある者は驚きと困惑の声をあげ、ある者はその事実に息を飲み、ある者は何か察する様に呟いていた。
だがリンはそんなことは気にもせず淡々と続けた。
「結論から言うと「サンクトゥムタワー」の最終管理者がいなくなったため、今の連邦生徒会は行政制御権を失った状態です。」
「認証を迂回できる方法を探していましたが……先ほどまで、そのような方法は見つかっていませんでした。」
「先ほど……まで?」
俺は思わずリンに聞いた。
そして、それに続くように羽が生えてる黒髪の生徒も訪ねる。
「それでは、今は方法があるということですか、首席行政官?」
「はい。」
マジかよ。
「この先生こそが、フィクサーになってくれるはずです。」
「!?」
「!」
「この方が?」
「私が?」
(つまりシステムをハッキングをすればいいのだろうか?いや、さすがにここには法があるからまずいか?とはいえ行政ができないとなると法がどうのと言ってられ__。)
自分が持つインテリジェンスを総動員して思考を巡らせる中、ユウカが訪ねる。
おそらく周りも疑問に思っていたことだろう。
「ちょっと待って。そういえばこの人はいったいどなた?どうしてここにいるの?先生って言ってるけどどうして消防士みたいな格好してるの!?」
「あ~……話せば長くなる。」
おそらくさっきまで世紀末で任務中だったなどと言っても絶対に理解されないだろう。
少なくとも今それを説明する程の時間はない。
「キヴォトスではないところから来た方のようですが……先生だったのですね。」
「はい。こちらのターキン先生は、これからキヴォトスで働く先生であり、連邦制会長が特別に指名した人物です。」
「行方不明になった連邦生徒会長が特別に指名……?ますますこんがらがってきたじゃないの…。」
正直俺もまだ訳か分からない。とはいえ人が困っている以上放ってはおかないないのがレスポンダーだ。
でもまぁ、いきなり「では早速仕事をしよう!」という訳にもいかないだろう。
ここは手始めに、自己紹介の一つでもしておこうか。
「どうも、ターキン・ゴッドフレイだ。本日からこのキヴォトスで先生を任されることになった…みたいだ。とにかく以後よろしく頼む。」
きちんとした挨拶に、菫色の子が慌てて返事をするが、途中でつっこむ。
「こ、こんにちは、先生。私はミレニアムサイエンススクールの……」
「い、いや、今は挨拶なんて今はどうでもよくて……!」
「どうでもいいことはないだろう。挨拶は人間関係の大事な第一歩だぞ?」
「それとも出会って即銃撃がご挨拶なタイプなのか?」
「どこの野蛮人ですかそれ!?」
もちろん
「そのうるさい方は気にしなくていいです。続けますと……」
話を戻そうとするリンだったが、最初の余計な一言がユウカの気に障ってしまっていた。
「誰がうるさいって!?わ、私は早瀬ユウカ!覚えておいてください、先生!」
「ユウカか、覚えておこう。よろしく。」
ちょっとした自己紹介をした後、リンが咳払いをして話を戻し、本題へと戻ることになった。
リンが言うには…。
「……先生は元々、連邦生徒会長が立ち上げた、ある部活の担当顧問としてこちらにくることになりました。」
「連邦捜査部「シャーレ」」
「単なる部活ではなく、一種の超法的機関。連邦組織のため、キヴォトスに存在する全ての学生達を制限なく加入させることすら可能で、各学園の自治区で、制約なしに戦闘を行うことも可能です。」
例えるなら諜報機関のC.I.A.かF.B.I.辺りが近いだろうか?
とにかくすごい組織らしい。
「待て待て、それだとそれは何かしらの諜報機関、ないしは戦闘部隊のように聞こえるが、権限が些か過剰じゃないか?どうしてそんなものを教職員に…。」
リンは俺の言葉に頷きこう言った。
「さぁ、どうしてでしょうか……なぜこれだけの権限を持つ機関を、連邦生徒会長が作ったのかは分かりませんが…しかし今はそれについて考える時間はありません。」
「シャーレの部室はここから約30km離れた郊外地区にあります。今はほとんど何もない建物ですが、連邦生徒会長の命令で、そこの地下に「とある物」を持ち込んでいます。」
とある物…一体どんなものなのだろうか?
「先生を、そこにお連れしなければなりません。」
「モモカ、シャーレの部室に直行するヘリが必要なんだけど……。」
リンはモモカという同じく連邦生徒会所属であろう人物にヘリの手配をしてもらおうと通話を繋げた。
『シャーレの部室?……ああ、郊外地区の?そこ、今大騒ぎだけど?』
「大騒ぎ……?」
『矯正局を脱出した停学中の生徒が騒ぎを起こしたの。そこは今戦場になってるよ。』
「は?」
「……うん?」
戦場という単語に俺は思わずリンと二人して困惑の声を漏らしてしまった。
『連邦生徒会に恨みを抱いて、地域の不良たちを先頭に、周りを焼け野原にしてるみたいなの。巡航戦車までどっかから手に入れたみたいだよ?』
『それでどうやら連邦生徒会所有のシャーレの建物を占拠しようとしてるらしいの。まるでそこになにか大事なものでもあるような動きだけど?』
「……。」
『まあ、でもとっくにめちゃくちゃな場所なんだから、別に大したことな……あっ先輩、お昼ごはんのデリバリーが来たから、また連絡するね!』
ブツッと通話が雑に切られる音がした。
「………。」
リンの顔を見ると、視線を落としながらこめかみに青筋を立て静かにその怒りの感情を露わにしていた。
見かねた俺は、よくあるリラックス方法を勧めてみることにした。
「大丈夫か?試しに深呼吸をしてみるといい。気分が少しマシになると思う。」
その声にリンはハッとしたように顔を上げ、
深呼吸はせずただ大丈夫とだけ言った。
どうして皆深呼吸をしたがらないんだ?結構効果あるのに…。
「……少々問題が発生しましたが、大したことではありません。」
ほんとに大したことじゃないのか疑問に思っていると、リンはどこかをじっと見つめていた。
子供には似つかわしくない邪な感情を持ったビジネススマイルを浮かべながら……。
そんなリンの視線の先を見ると、先程の4人が困惑の表情を浮かべながらソワソワしていた。
「……?」
「な、何?どうして私たちを見つめてるの?」
「ちょうどここに各学園を代表する、立派で暇そうな方々がいるので、私は心強いです。」
心の声が漏れてるぞと言いたかったが、言った後を想像してしまったのでやめた。
「……え?」
「キヴォトスの正常化のために、暇を持て余した皆さんの力が今、切実に必要です。行きましょう。」
「ちょ、ちょっと待って!?ど、どこに行くのよ!?」
不憫な子達だなぁと思いながら、リンが手配したヘリに乗り込み目的の地域へと向かった。
着いて早々の事だった。
ヒュオオオオーーー………
ドカアアァァァァン!
「な、なに、これ!?」
ロケットや弾丸がビルとビルの間を飛び交いそれはまさしく市街戦。
だが不思議と血の匂いはただよってこない、何故だろう?本来なら死傷者が多数出ていてもおかしくは無い規模だが……。
タタタタタタタタッ!
「伏せろーーーッ!!!」
不良と呼ばれてる生徒の銃撃に気づいた俺は一早く声を張り上げ、傍にあった廃車の後ろに隠れる。
すると、ユウカが自分が置かれている状況に不満を言う。
「なんで私たちが不良たちと戦わなきゃ行けないのよ!!」
ユウカの文句は最もだ、こんなところに子供を放り込むとは一体どういうつもりだ。
ここの大人たちは何をして……そういえばここに来る途中で逃げるロボットや二足歩行の犬とか変わった生き物こそ見たが、大人らしい大人はどこにも見当たらなかった…。……そんなまさか、ありえん。
「サンクトゥムタワーの制御権を取り戻すためには、あの部室の奪還が必要ですから。」
「それは聞いたけど…!私これでも、うちの学校では生徒会に所属してて、それなりの扱いなんだけど!」
「なんで私が…!」
「お気の毒様、だな……。」
「それにしてもあの生徒たち、どうしたものか…。」
あの敵陣をどうすれば通り抜けることができるのか……。色々と思案していると、不良の一人がユウカにサブマシンガンの銃口を向け発砲した。
「……ユウカ!危なっ」
しまったと思ったのもつかぬ間、俺は信じられないものを見た。
パパパパッ!
「いっ、痛っ!!痛いってば!!あいつら違法JHP弾を使ってるじゃない!?」
彼は困惑した、目の前の生徒が……人が銃で撃たれたはずなのに痛いとだけ言ってピンピンしていたのだ。
とはいえ、彼の中では生徒が一大事であることに依然変わりなく、直ぐユウカのもとへと駆け出した。
ザザッ………ヒョイッ。
「きゃっ!?」
「無理に動くな、直ぐに安全な場所へ移動する!」
攻撃を受けた際に弾が体を貫通した様子はなかったが、負傷したことは間違いない。
そう思って直ぐにユウカを抱え遮蔽物へと逃げ込んだ。
「ちょちょ、待ってください!私は平気ですから!」
「平気なもんか銃で撃たれたんだぞ!?」
「いやだからその…話を!」
「いいから傷を見せてみろ。話はそれからだ。」
俺は忙しなく彼女を治療するための道具を取り出していたが、直ぐにその手は止まった。
彼女の言う通り、そこには銃創の代わりに転んで擦ったかのようなかすり傷があった。
「…そんな馬鹿な!?」
「だから大丈夫って言ったのに…。」
キョトンとしている俺の後ろからにハスミがユウカに声をかける。
「気をつけてください、ユウカ。それに、ホローポイント弾は違法指定されてはいません。」
「うちの学校ではこれから違法になるの!傷跡が残るでしょ!」
普通傷跡どころじゃ済まないだろう。
どうやら…ここの生徒は頑丈らしい。とても。
正直うらやましいくらいだ。
「先生を守る事が最優先。あの建物の奪還はその次です。」
「ハスミさんの言う通りです。先生はキヴォトスではないところから来た方ですので……。」
「先生はキヴォトスの外から来たため、弾丸の一つでも生命の危機にさらさら可能性があります。その点にご注意を!」
「分かってるわ。先生、先生は戦場に出ないd......って何してるんですか!?」
驚くのも無理はない。彼女からすれば、彼が懐から突如円盤状の箱を取り出し、先程撃たれた脚をまさぐり始めたのだから。
「見ればわかるだろ処置をしてるんだ。かすり傷とは言え、怪我は怪我だ。」
「安心しろ、これでもフィールドメディックの経験がある。」
そういいながら患部にヒーリング・サルヴェを塗る。ユウカはくすぐったそうにしていたが俺は黙々と処置を続けた。
「ちょっと先生くすぐったいですよ、ひゃんっ!?」
「もう少しだから……。」ヌゥリヌリィ……
「もうちょっ、ほんとに……!」
ユウカの声を一切無視して処置を続行する。
すると徐々にサルヴェの効果が表れはじめ、彼女の傷が癒えてきた。
「…よし、これでもう痛くないはずだ。」
「痛くないって…あれ、本当に撃たれたところの腫れが引いてる?」
「一体何を使ったんですか?」
「故郷でよく使ってた軟膏だ。傷の治りを早める効果がある。」
「早いどころかほぼ一瞬じゃないですか…凄い薬…なんですね?」
(今度、成分を詳しく聞いてみようかしら……。)
そんなやり取りをしていると、ベージュの髪の眼鏡をかけた子……チナツが話しかけて来た。
「メディックをしていたと仰っていましたが、前職は何を……?」
「人助け…とでも言えばいいだろうか。……道徳的に問題がある内容も多かったが。」
誰かを救う為に誰かを殺す。今思うとあまり立派といえる仕事ではなかったな………。
しかしあの世界ではそれが常識だったんだ……ここでは一旦割り切っておこう。
「それで、私達どうやってあの建物に向かえばいいのかしら……敵もかなりいるし。」
ユウカが不安げ言う。
俺もどうするべきか悩んだ。不良たちを全員制圧して突破することも考えたが…生憎子供に銃を向ける趣味は持ち合わせてない。
とりあえずあの子達と交渉しようと思い前線へと躍り出た。
「ちょっと、先生!危険です!今すぐ戻ってください!」
「大丈夫、防具もあるし怪我なら自分で治せる。」
「君たちこそ前へ出るな。怪我をするぞ。」
「怪我をするのは先生の方なんですが...ああもう!」
警告するユウカの制止する声を余所に、俺は両手を上に挙げながら不良達との距離を縮める。
すると不良の一人が銃口を向けながら一言。
「なんだお前!ヘイローも無いのに撃たれたいのか!?」
「いや、わざわざ死にに来たわけじゃない。それに君たちがここで暴れてる訳もしらない。恨みがあるという話だが、それに関しては私は殆ど関知していない。」
「だが、できることならここを通しては貰えないだろうか?」
「あの建物にその…忘れ物を取りに行きたくてね…。[嘘]」
「頼むよ。」
「忘れ物?はっ、笑わせるな!あそこにここ数週間人の出入りがなかったことぐらい知ってるぞ!」
スピーチチャレンジ失敗………って所か。やっぱりこの手の交渉だとかは苦手だな……オズワルドがいててくればどうにかなったかもしれないが…。
「なぁ、本当にダメなのか?」
「ダメだね、恨むんならあたしらを矯正局送りにした連邦生徒会を恨みな。」
「なあ頼むよ、子供相手にこんな物を使いたくない。」スッ
そう言って懐から事前に威力を調整しておいたテスラライフルを取り出す。
一方不良の方はというと、俺に子供扱いされたことにかなり腹を立てていた。
「なっ……こ、子供扱いすんじゃねぇ!」バッ!
ダダダダダダダッ!
目の前の不良は子供呼ばわりされたことに腹を立て、アサルトライフルのトリガーを引いた。
やっぱり子供じゃないか…。
「あぶねッ!」
乱雑に飛ぶ銃弾を俺は身を横に転がして避け、仕方なくテスラライフルで反撃した。
バチィッ!
「ぎゃっ!?」
そのまま不良は感電し、ドサッと地面に倒れた。
「今のは……正当防衛…だよな?」
そう自分に言い聞かせることにした。
そして不良…もといスケバンの彼女が倒れたことを皮切りに他のスケバンたちも俺に敵にむき出しで襲いかかってきた。
それにしても、生徒にこうも敵意を剝き出しにされると…心にくるものがあるな。
レイダーやブラッドイーグル相手なら殺しても良心すら痛まなかったのに。
いや、あんなのと一緒にしたら悪いか…。
ダダダダダダダダダダダッ!!
バッ!
- ジィーーーッ… -
バチィッ!バチィッ!バチィッ!!
スケバンたちの弾丸を紙一重で躱して距離を詰めながら、V.A.T.Sを使ってテスラライフルで反撃していく。
バチィッ!
「「「あばばばばばっ」」」
集団に一発撃ちこめば、電撃の効果で全員まとめて感電していく。傍から見れば爽快かもしれないが。
俺の気分は愉快なものではなかった。
そして俺は目的地のあと半分というところで立ち止まった。どうやら彼女達を置いていってしまったらしい。迎えに行こうか迷っていると後ろから息を荒らげながらこっちへ来るユウカ達の姿が見えた。
「やっと………はぁ…追いつきました……。」
「あ、ああ。お疲れ様……水飲むか?」
「いただき…ます……っ!」
「お、おう……。」
あまりに必死な様子だったので慌てて人数分のきれいな水が入ったボトルを取り出して彼女達に渡す。
「ぷはぁっ!生き返る〜。」
「久しぶりにあんなに走りましたよ...。」
よほど疲れていたようで、俺はどこか責任を感じ「すまない」と一言詫びた。
するとユウカが
「本当ですよ!いきなり敵の前に飛び出して何か話してたかと思いきや突然撃ち合い始めてそのまま先に行っちゃんうんですから!」
彼女の言葉に返す言葉がなく、「むぅ…」と唸ることしかできないでいるとハスミは俺にこんなことを言った。
「それにしても、あの銃撃…よく避けられましたね……。」
「ああ、まぁな。」
「まぁなって…ほんとにどんな運動神経してるんですか。」
「もかしたらフィジカルだけなら普通のキヴォトスの生徒より上かもしれませんね。」
「ははは、そりゃあさすがにその辺の子供相手に負けるほどヤワじゃないさ。」
勿論そうだ。そうでなければ今頃アパラチアでデスクローのフンになっていたかもしれない。
「絶対にそういう問題じゃないと思うんですけど。」
「さて……例の建物まで後半分ってところか、そろそろ行こう。」
そういいながら、俺はまた足を進めた。
しばらくすると、はたまた不良…じゃなくてスケバン達が待ち構えていた。
ミニガンをどっしりと構えながら。
「来たぞ!撃て撃て撃ちまくれー!」
「ワオ!なんてこった?!」バッ
ババババババババババッ!!
俺はすぐにその場から飛び退き、再び遮蔽物に滑り込むように逃げ込んだ。
するとユウカが俺に話しかけてきた。
どうやらスケバンたちはあのミニガンでこちらを制圧するつもりらしい。
それにしても、どこからあんな量の弾薬を持ってくるのだろう...。とにかく隙を作らないと。
一か八かだ。
「誰かスタングレネードもってないか?」
「あっ私持ってます。」
「最高だ、一つくれるか。」
どうやら俺は生徒に恵まれているようだった。俺はスズミからスタングレネード、もとい閃光手榴弾を受け取ると、そのままスケバン達に目掛けて空高くぶん投げた。
パァァァァァァァンッ!
「ぐわっ!?」
「目がああああ!!」
(今だッ!)
ビリリリリリリリ!!
耳をつんざくような轟音と、閃光はスケバンたちの隙を作るのにあまりにも十分だった。ここぞとばかりに俺はテスラライフルを撃ち込んだ。
幸い、スケバン達が密集してくれていたため感電が連鎖し、MG部隊は簡単に全滅してくれた。
気分はまさにアンカレッジ解放RTA…という訳にも行かなかった。
奥に狙撃兵…いや兵というかスケバンがいたのだ…。しかもテスラライフルの射程距離外、下手に頭を出せばやられる。
「……。」ズドンッ
どうしたものかと悩んでいたが、そこにハスミがしれっと狙撃して処理したため俺の悩みは一瞬にして終わった。
「あ、ありがとう。」
「いえ、礼には及びません。」
俺もあれくらい大胆に行くべきか?さっきから死にはしないようだし。
「さぁ、先を急ぎましょう。」
ハスミの言う通りに俺たちは目標へと向かった。
ようやくお目当ての建物の目と鼻の先まで来たという時だった。俺たちの行く手を数多の不良と一人の狐の面を被った少女が塞いだのだ。
のだが……。
ザーッザーッ…ピピッ
突然リンから無線の通信が入った。
事前に俺のピップボーイの無線周波数を教えておいてよかった。
それで肝心の内容だが、
『今、この騒ぎを巻き起こした生徒の正体が判明しました。』
『ワカモ。百鬼夜行連合学院で停学になった後、矯正局を脱獄した生徒です。』
『似たような前科がいくつもある危険人物なので、気をつけてください。』
正直もう少し早く教えて欲しかった。
「ああ、今目の前にいるよ。」
『......今なんと?』
「後で連絡するオーバー。」
疑問符を浮かべるリンに対し俺は答えることなくそのまま無線を切り、ワカモと対峙することとなった。
「……あらら。連邦生徒会は来ていないみたいですね。フフッ、まあ構いません。」
「あの建物に何があるか存じませんが、連邦生徒会が大事にしてる物と聞いてしまうと……壊さないと気がすみませんね…。」
「ああ……久しぶりのお楽しみになりそうです、ウフフフ♡」
見た限り、相手は確実にその辺のスケバンたちとは圧倒的に段違いの実力者。
下手に刺激しないよう細心の注意を払いながら、俺は恐る恐るワカモに声をかけた。
「えーとその…そちらのお嬢さん?」
「……?」
「……!?!?/////」
当のワカモは硬直して動かないでいたが様子でいたが構わず続けた……。
「そのぅ…できれば、彼女達が言ってたその大事なものとやらを…壊さずに私に譲って欲しいなぁ…なんて……ダメだろうか?」
「……。」
「頼む!この通りだ!」
戦闘はなるべく避けたい。一か八か...上手くいってくれ。
と、俺は心の中でうまくいってくれと祈りながら頭を下げ両手を合わせて頼み込む。
「……。」
ちなみに、後でわかった事なのだが…。どうやら俺はこの時ワカモに惚れられたらしい。彼女曰く逞しい体と声…そしてなにより、ヘイローがないにも関わらず戦場で生徒達の先頭に立つ姿に惹かれた*2とかなんとか…。本当、人生って何があるか分からないな。
……鍛えてて良かった。ストレングス万歳。
「「…………。」」
しばらく互いに無言の時間が続いたが、先に口を開いたのはワカモの方だった。
「はぁ…殿方にそこまで頼まれてしまっては、仕方ありませんね……。」
「皆さん、引き上げますよ。」
「え?ちょちょっとワカモ様!?」
配下のスケバン達も何がなにやらという感じだったが、ワカモの一声に一斉に引き上げてった。
撤退した戦力の中には中には戦車もあり、マジでうまくいって良かったと思った。
そして俺はなんとか戦闘を避けることができて安堵した。つまるところ……
スピーチチャレンジ……
「ふぅ…意外とどうにかなるもんだ。」
「カリスマも大事ってことだな。」
そう呟いていると、ユウカが俺に先程のワカモとのやり取りについて聞いてきた。
「あの悪名高い"災厄の狐"を引き上げさせるなんて……先生何かしました?」
「別に何も?ただ"お願い"をしただけだ。」
「お願い……ですか。」
「そうだ、ほらこんな風に」
と、俺はさっきやった様に腰を90度直角に曲げながら手を合わせる姿勢をやって見せた。
「そんなマヌケっぽくですか。」
「ま、マヌケ!?ニッポン人はこうやってお願いすると習ったんだが…。」
ユウカの顔は明らかにひきつっていて、完全に呆れているようだった。
「あの先生、すこし話が……。」
すると今度はハスミが俺に話しかけてくる。
「なんだ?」
「つかぬ事をお聞きするのですがその……。」
「先生、貴方は……一体何者なんですか?」
結構ド直球に聞いてきた。
確かに、こんな格好なら不審に思われても仕方ないが…。まあ彼女が聞きたいことはそういうことじゃないだろう。だからといって馬鹿正直に核戦争を生き延びたVault居住者だとか荒れた荒野のウェイストランド人だとかって答えても余計な混乱を招くだけだろう…。
だから俺は……こう答えた。
「私はレスポンダー…人々を助けるのが使命だ。」
「今は、ただのしがない新米先生だがな。」
「ははは……。」
俺は自虐的に笑ってみせた。
「レスポンダー……。」
「人助けが使命……ですか。」
「なんだかかっこいいですね!」
そんな調子でいたのもつかの間、なんとか無事に建物の入口まで辿り着くことができた。
するとまたタイミングよくリンから通信が入った。
『「シャーレ」部室の奪還完了。私も、もうすぐ到着予定です。建物の地下で会いましょう。』
俺はわかったとだけ言ってユウカたちを入口前に残し建物へ入っていった。
エントランスの脇にあった階段を使い、カンッカンッと音を立てながら地下へと降りた。
そこには……アパラチアで死ぬ前に見た謎のモノリスもあった。
「なるほど…そういうことか。」
「インドリッドめ……。」
そんな風に少し悪態をついていると、階段を下りる音がした、リンもようやく来たようだ。
「お待たせしました。」
「ここに、連邦生徒会長が残したものが保管されています。」
「……幸い、傷一つなく無事ですね。」
「……受け取ってください。」スッ
そういうと、彼女は液晶のついた板のようなものを差し出してきた。
「……これが、連邦生徒会長が残した物。「シッテムの箱」です。」
「シッテムの……箱?」
(どう見ても板だろ。)
「普通のタブレットに見えますが、実は正体の分からない物です。製造会社も、OSも、システム構造、動く仕組みの全てが不明。」
動く仕組みがどうとか以前に、タブレットという物そのものが俺にとって不明な代物だった。
アメリカにそんなものはなかったから……。
「…ひとつ聞いてもいいか?」
「はい、なんでしょう?」
「悪いがタブレットとはなんだ?」
「……もしかして…タブレット端末をご存知じゃないんですか?」
「ああ…。」
「「………。」」
彼女の大きなため息はこの地下だとよく響いた…。
その後、リンからタブレットがなんなのか教えて貰い、そのシッテムの箱と呼ばれるものを受け取った。
「…連邦生徒会長は、この「シッテムの箱」は先生の物で、先生がこれでタワーの制御権を回復させられるはずだと言っていました。」
「私たちでは、起動すらできなかった物ですが、先生ならこれを起動させられるのでしょうか?」
「しかし、タブレットが何なのかすら知らないとなると……。」
仕方のない事とはいえ、俺は恥ずかしさを感じた。
しかし、彼女の言う通りもともと知らない機械のさらに知らない物を渡された俺も、どうすれば
いいのかさっぱり分からなかった。
俺がどうしようかと考え込んでいると
「まあ……とにかくやってみるしかありませんね。」
「……では、私はここまでです。ここから先は全て先生にかかってます。」
そして「邪魔にならないように」と言ってコツコツと離れていった。
何はともあれ、彼女言う通りとにかくやってみないことには仕方がない。なので先ずはとりあえず横の電源らしいボタンを押してみる。
ピッ、
起動はしたようだが次はパスワードの入力を求められた。だが、パスワードなんか知るわけもない。ロブコ製のターミナルだったらハッキングで無理やりこじ開けたのだが...。こればっかりはどうしようもないので己のLUCKに頼ることにした。
なんとなく脳に浮かんだ言葉を入力してみる。
【我々は望む、七つの嘆きを。
我々は覚えている、ジェリコの古則を。|】
とりあえず入力してみたが…なんと合ってた。今日はとことんツイてるようだ。
それにしても宗教的な含みのある文章だ。何かの聖典を基にしているのだろうか?
なんだか大いなる何かの意志を感じる気もするが……。
すると、機会から合成音声が流れた。
『「シッテムの箱」へようこそ、ターキン先生。』
『生体認証及び認証書生成のため、メインオペレートシステム:A.R.O.N.Aに変換します。』
その無機質な音声が聞こえた次の瞬間、建物の地下とは全く別の空間にいた。
そこはまるで、ニッポンの学校の校舎ようだった。廊下から教室の中を覗くが……どうもこの空間はおかしい。
教室の窓側の壁が崩壊しており、奥には透き通るような青い海と空が見える。
さらによく見ると、女の子が机の上で突っ伏していた。
どうやら、この幻想的な空間と居眠り少女こそが…シッテムの箱の正体らしい。
「くううぅぅ……Zzzz」
「むにゃ、カステラにはぁ……いちごミルクより…バナナミルクのほうが………。」
「くううぅ……Zzzzzzz」
「えへっ……まだたくさんありますよぉ…。」
「……Zzz…。」
彼女は夢の中でおやつタイムらしい。
そして俺とこの子以外は誰もいない…。
さっきアロナがどうだとか言っていたのでこの子が恐らくそうなのだろう。
「んぐ……んっ!?はっ!?」ビクッ
しばらくその寝顔を眺めていると、その子は目を覚ました。
恐らくジャーキング*3でもしたのだろう。
「むにゃ……んぅ……ありゃ?」
「ありゃ、ありゃりゃ……?」
「え?あれ?あれれ?」
「せ、先生!?」
「この空間に入ってきたってことは、ま、ま、まさかターキン先生…?!」
俺の事をご存知らしい。
理由が気になるがまあ、この際深く考えずにおこう。
「その通りだが…君は?」
彼女はすごく動揺していた。
「う、うわあ!?そ、そうですよね!?もうこんな時間!?」
「うわ、わああ?落ち着いて、落ち着て……。」
「えっと……その……あっ、そうだ!ま、まずは自己紹介から!」
そう、自己紹介は大事だ。よくわかってるじゃないか。
「私はアロナ!」
「この「シッテムの箱」に常駐しているシステム管理者であり、メインOS、そしてこれから先生をアシストする秘書です!」
「やっと会うことができました!私はここで先生をずっと、ずーっと待っていました!」
構造が何もかも不明とリンは言っていたが、それもそのはずだ。
なにせタブレットの中身は年端もいかない少女だったのだ。
だがこんな非常時に眠っているとはな……
俺は少しばかり意地悪なことを思いついた。
「なるほど、ずーっとああして夢の中で待っててくれてた訳か…そりゃどうも。<皮肉>」
「っ!!」ギクッ
ちょっとしたジョークのつもりなのだが、少し大人げなかっただろうか?
「あ、あうう……も、もちろん居眠りしたこともありますけど……。」
「でも…うう………。」
「お、お願いです、嫌いにならないでくださいぃ………。」
アロナは目尻にうるうると涙を浮かべ始めながら俺にそう訴えた。
や っ ち ま っ た …… 。
それを見た俺は凄く慌てた。とても慌てた。
「あっ!?」
「ああっ、えーとその今のはただのジョークで…だからその。(汗)」
「悪かった!大人げなかった…本当にすまない………!!」ドッ!
「これで許してくれ!」バッ!
俺は日系人の入植者から習った土下座を床にめり込む勢いでしながら、テディベアを差し出した。
するとアロナが再びあわあわし始めた。
「えっ?!わわわ、えっとえーと…。」
「そ、そのわ、分かりましたので頭を上げてください!」
「そ、そうか…?」
とりあえず、アロナからの許しは得られたようなのでほっとした。
そして俺は皮肉は控えようと心の底から思った。
「…と、とにかく。」
「これからよろしく、アロナ。」
「はい!よろしくお願いします。先生!」
「ところでその……。」
「私は実はまだ体のバージョンが低い状態でして…色々調整が必要なのですが……。」
その幼い体はバージョンの問題なのか…と口に出すことこそしなかったが思った。
「これから先、頑張って色々な面で先生のことをサポートしていきますね!」
「あ、そうだ!形式上ではありますが、生体認証を行います♪」
「うう……少し恥ずかしですが、手続きだから仕方ないんです。こちらの方に来てください。」
そういいながら手招きをするので、とりあえずそのようにする。
生体認証か…アレ身動きできない割に長いから嫌なんだよな……。
「もう少しです。」
もう十分近いと思ったが、まだのようなので彼女の言う通りにもう少し近づく。
「これでいいか?」
「はい!」
「さあ、この私の指に先生の指を当ててください。」
その生体認証とやらは、俺が思っていたのとだいぶ違った。
そう言って自分の指を差し出してきた。
だが、その行為のわけを知らなかったので聞いてみる。
「なぜ生体認証に指を?」
「なぜってそれは、うう…っ。」
「は、恥ずかしいのですが、これは先生の生体情報を得るためにいたしかたなくでして…。」
「なるほど…?」
(スキャナーでバイオメトリックIDを登録するのとはまた別か。)
「……わかった。」
俺も手袋を外して人差し指を彼女の指に重ねた。
「うふふ。まるで指切りして約束するみたいでしょう?」
俺は一瞬某宇宙人のSF映画を思い出したが、それを言うのは野暮だと思った。
「ああ、そうだな。」
そう呟くとまた彼女はうふふと笑った。
やはり子供の笑顔というのはいつの時代も純粋で…あどけなく尊いものだった。
指を重ねがらそう思っていると、どうやら指紋を登録できたらしい。
「はい!確認終わりました♪」
「バッチリか?」
「えっ、えぇ、そりゃもう!」
その顔は少し引きつっていたが、気にしてはいけない気がした。
「さて、指紋の登録も済んだし…そろそろ本題に入ろうか。」
「?」
「実は…」
俺はこれまでのことをアロナに話した。
「なるほど。」
「連邦生徒会長が行方不明になって、そのせいでキヴォトスのタワーを制御する手段がなくなったと……。」
「そう…。ところでなんだが…。」
「その連邦生徒会長について、何か知らないか?」
俺は手掛かりがあるかもと尋ねたが、アロナのその表情はあまり芳しいものではなかった。
「……私はキヴォトスの情報の多くを知ってはいますが…連邦生徒会長についてはほとんど知りません。彼女が何者なのか、どうしていなくなったのかも……。」
「お役に立てず、すみません。」
やはり知らないか……。
「いや、ダメもとで聞いたんだ。気にしないでくれ。」
「………ですが、サンクトゥムタワーの問題は私が何とか解決できそうです!」
「そうか、なら良かった。」
「今まさにそれをどうにかしたかったんだ。お願いできるか?」
「はい!わかりました。それでは、サンクトゥムタワーのアクセス権を修復します!」
「少々お待ちください!」
「わかった。」
しらばく待っていると、アロナが制御権を取り戻したようだ。
「………サンクトゥムタワーのadmin権限を取得完了………。」
「先生。サンクトゥムタワーの制御権を無事に回収できました。今サンクトゥムタワーは私、アロナの統制下にあります。」
「今のキヴォトスは、先生の支配下にあるも同然です!」
支配下…あまり気持ちのいい響きではないな。
「先生が承認さえしてくだされば、サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管できます。」
「ああ、そうしてくれ。」
「でも……大丈夫ですか?連邦生徒会に制御権を渡しても……。」
アロナは連邦生徒会に何かしらの懸念を抱いてるらしい。
しかし、何の事情の知らない人間が行政システムの心臓部を握ってはそれこそ大問題だ。であればしかるべき人物に託すのが賢明だろう。
「むしろ俺が持っている方が心配だ、気にせず承認してくれ。」
「分かりました。これよりサンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会に移管します!」
「ありがとう。」
「それでは先生、今度は部室でお会いしましょう!」
「ああ。」
そして俺はいつの間にかさっきの地下に戻っていた。
リンは奥の方で誰かと話していたようだ。
「………はい。分かりました。」
ちょうど話し終えた所だったらしく、彼女は電話を切り、こちらに戻ってきた。
「サンクトゥムタワーの制御権の確保が無事に確認できました。」
「これからは、連邦生徒会長がいた頃と同じように、行政管理を進められますね。」
「お疲れ様でした、先生。キヴォトスの混乱を防いでくれたことに、連邦生徒会を代表して深く感謝いたします。」
「ここを、攻撃した不良たちと停学中の生徒たちについては、これから追跡して討伐いたしますので、ご心配なく。」
「そ、そうか……なるべく穏やかに頼む。」
「それでは「シッテムの箱」は渡しましたし、私の役目は終わったようですね。」
「……あっ、もう一つありました。」
「……とりあえずついてきてください。連邦捜査部「シャーレ」をご紹介いたします。」
そして彼女について行って数階ほど上がり着いた先は、無機質な廊下だった。
正面には、看板がぶら下がっている扉があった。
「長い間空っぽでしたが、ようやく主人を迎えることになりましたね。」
ガチャ…。
なにやら感傷に耽るように彼女が言うと、ゆっくりとその扉を開けた。
「ここがシャーレの部室です。」
「ここで先生のお仕事を始めると良いでしょう。」
「仕事か…何から始めればいいのやら…。」
そう口から漏らすとリンがこういった。
「……シャーレは、権限だけはありますが目標のない組織なので、特に何かをやらなきゃいけない……という強制力は存在しません。」
「キヴォトスのどんな学園のどんな自治区にも自由に出入りでき、所属に関係なく、先生が希望する生徒たちを部員として加入させることも可能です…。」
「部活というよりアルバイトみたいだな。」
「ええ、面白いですよね。捜査部とは呼んでいますが、その部分に関しては、連邦生徒会長も特に触れていませんでした。」
「つまり、なんでも先生がやりたいことをやって良い……ということですね。」
「そうか、まあ…倫理的に問題のない範囲でやらせてもらおう。」
「……。」
「……本人に聞いてみたくても、連邦生徒会長は相変わらず行方不明のまま。」
「私たちは彼女を探すのに全力を尽くしているため、キヴォトスのあちこちで起きる問題に対応できるほどの余力がありません。」
「こういっては何だが、今あるトラブルの対応よりもその人物の捜索を最優先するべきなのか?」
「それは…その……。」
「いや、踏み込みすぎた。そちらにもやむを得ない事情があるのだろう。」
「今のは忘れてくれ。」
「……お心遣いありがとうございます。」
「それでですが、今も連邦生徒会に寄せられるあらゆる苦情……支援物資の要請、環境の改善、落第生への特別授業、部の支援要請などなど……。」
「……もしかしたら、時間が有り余っている「シャーレ」なら、この面倒な苦情の数々を解決できるかもしれませんね。」
「その辺に関する書類は、先生の机の上にたくさん置いておきました。気が向いたらお読みください。」
「これは……確かに生徒会でも苦労しそうだ。」
「……俺一人でやり切れるかもわからんが…。」
「まあ…すべては先生の自由ですので。」
「それではごゆっくり。必要な時は、またご連絡致します。」
「こちらが、私の連絡先です。」
リンは例のタブレットをさらに小さくしたようなものからのQRコードを表示し、差し出してきたが…どうすればいいか分からずにいた。
「これは……その…なんだこれ?」
「もしかして……」
「その…お察しの通りだ。すまん。」
そう、スマホを持ってないのだ。
「……念の為、職員用のスマホを用意しておいてよかったです…。」
助かった。
そうして改めて連絡先を交換し、スマホの使い方を一通り教えてもらった。
操作方法はタブレットとほとんど同じだった為覚えるのに苦労はしなかった。
そこからしばらくして、やっと建物の前で待機していたユウカたちと合流することになった。
ユウカ達にも問題が片付いたことが伝わっていたらしく、
「ええ。サンクトゥムタワーの制御権を連邦生徒会が取り戻したことを確認したわ。」
と言っていた。
ハスミはワカモのことが気がかりだったようが、あとは他に任せると。
「ワカモは逃がしてしまいましたが……すぐ捕まるでしょう。私たちはここまで。」
「あとは担当者に任せます。」
「お疲れ様でした、先生。先生の活躍はキヴォトス全域に広がるでしょう。すぐにSNSで話題になってしまうかもしれませんね?」
「それって良い事…なんだよな?」
「ええ、勿論。」
「場合によりけりではありますが、今回は大丈夫でしょう。」
「これでお別れですが、近いうちにぜひ、トリニティ総合学園に立ち寄ってください。先生。」
スズミはそれに合わせるように、ぺこりと頭を下げた。妙に口数が少ない辺り……シャイなのだろうか?
俺は目線を彼女に合わせてスタングレネードの礼を言った。
「スズミ、今日は助かった。」
「ありがとう。」
「いえ、そのようなことは……私がやるべきことをやったまでです。」
彼女は照れ屋さんらしい。一見冷静沈着な…クールな子と思ったが、やはり彼女にも女の子らしい一面があるようだ。
「先生、それでは私たちはこれで……」
「また会える日を楽しみにしてます。」
生徒達は別れを告げてそれぞれの学園へと去っていった。こうして俺は、長い一日を終えられた。
これからどうなるんだろうな……。
張り切りすぎて2万文字オーバーしちゃいました…。
それでもここまで読んでくださった方々に深い感謝を。
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