Fallout76 -once in a blue archive- 作:egguimen
まあ長い間散々アビドス苦しめてきたし今更か。よし殺そう(無慈悲)
それでは本編をどうぞ。
教室に、アビドスの制服を着た少女が二人。
一方は何やら気難しい様子で、もう一方は何かにはしゃいでいた。
「じゃーん!」
彼女は嬉しそうに一枚のポスターを後輩に広げて見せた。
「ホシノちゃん見て見てー!アビドス砂祭りのポスター!やっと手に入れたよー!」
「この時はまだ、オアシスが湖みたいに広がってたんだよねー。あ、このポスターは記念にあげる!」
「えへへ、すっごく素敵でしょー?もし何か奇跡が起きたら、またこの頃みたいに人がたっくさん集まって――」
奇跡、当時2年のホシノはその希望的観測が気に入らなかった。
現実の無情さを…よく知っていたから。
「奇跡なんて起きっこないですよ、先輩。」
「そんなもの、あるわけないじゃないですか。」
この頃のホシノは生真面目だった。
それが災いし、陽気で楽観的な先輩への態度は厳しかった。
「それよりも現実を見てください!」
「は、はう………。」
「こんな砂漠のド真ん中に、もう大勢の人なんて来るはずがないでしょう!?夢物語もいい加減にしてください!」
「うえぇ、だってホシノちゃーん……ご、ごめんね?」
「……っ。」
「そうやってふわふわと、奇跡だの幸せだの何だの……。」
「もっとしっかりしてください!あなたはアビドスの生徒会長なんですよ!?」
「その肩に乗った責任を自覚したらどうなんですか!」
ビリーッ!
そういうと、彼女は先輩から受け取ったポスターを目の前で引き裂いた。
それが彼女の人生にとても深い後悔を刻み付けるとも知らずに………。
―───────────────────────────────────────────
カイザーの施設から戻った一同……。周囲には重苦しい空気が流れていた。
「……ふぅ。」
「もうっ、一体何なのよ!」
「カイザーコーポレーションは、あそこで何を企んで……?」
「「宝物を探している」、と言っていましたが………。」
結局あの捜査は、「宝」と呼ばれるモノの肝心な詳細を得られずに終わってしまった。
「あの砂漠には何もない筈です。でたらめを言ってるんだと思います。」
「石油や鉱物など、お金になりそうなものは地下資源は何一つ残っていません……はるか昔に、既にそういう調査結果が出ているんです。」
「だとすると、どうして……。」
「何もお金がすべてじゃない。……少なくとも彼らにとって価値のあるモノがあそこには存在している。」
「でなければ、あんな大量の機材と人員を兵器を投入する筈がない。何かまでは分からないが………。」
そう答える先生には、先程から生気がない………。
「いやいや、今はそれよりも借金の方でしょ!3000%とか言ってなかった!?」
「来月までに9130万円の利息なんて……。」
「補償金は…先生のおかげでどうにかなりましたが………。」
「………ごめんなさい。」
アヤネの謝罪にターキンは慌てて言葉をかける。
「い、いいや、いいんだよ!………あの時は、ああするしかなかった…。」
「寧ろ謝るべきなのは………私の方だ……すまない。」
「はぁ!?な、何でターキン先生が?だって先生は……!?」
「私が……私がもっと上手くやれていれば、ああはならなかったかもしれない……。」
「これは……私の責任なんだ…。」
「それは違うよ。」
ホシノは彼の自責を強く否定した。
「……。」
「多分、あの時私たちがどうしようと、アイツがすることは変わらなかった。」
「寧ろ……あの3億円の補償金だけでもどうにかなった分、御の字だよ。」
それは気遣いでも慰めでもない………彼女の本心だ。
「でも、先生のPAがカイザーの手に渡っちゃったのは私も申し訳ないな……。」
「あれに乗ってる時の先生の声…いつも楽しそうだったから。」
「………アイツもきっと分かってくれるよ…ああ見えて、いい奴だから…。」
二人のやり取りを聞いたシロコは何かを覚悟した。ヤバい覚悟だった。
「……行ってくる。あそこで何をしているのか、調べないと。」
「もしかしたらまだ取り返せるかもしれないし……。」
「し、シロコ先輩!?行くってまさか……!!」
アヤネの予感は正しい、そのまさかなのだ。
「……徹底的に準備すれば、何とか潜入できると思う。行って、何をしてるのか確認して……上手くいけば先生のPAも回収できるはず。」
「ま、待ってシロコ先輩!それより今は、借金の話の方が先でしょ!」
「……。」
「……借金はもう、真っ当なやり方じゃ返せない。何か、別の方法を……。」
それを聞いたノノミは何をするか簡単に想像がつき慌てて止めた。
「だ、ダメですよ!それではまた……」
しかし借金に焦りを感じたセリカはこともあろうかシロコの肩を持ってしまった。
「……私はシロコ先輩に賛成!学校がなくなったら全部終わりなんだから、もうなりふり構ってられない!!」
「そんな、セリカちゃん……!?」
「セリカちゃん待って!そんなことしたら、あの時と同じだよ!?」
アヤネが説得を試みるも、セリカには他にどうすべきかなど分からない。
「そ、そういう意味じゃない!そうじゃなくて、でも……!」
「あの時ホシノ先輩が止めてくれたのに、自分から進んで犯罪者になるの!?」
「わ、私は……。」
「……。」
両者ともに徐々に引っ込みがつかなくなり、今にも亀裂が生まれそうな時だった。
「ほらほら、みんな落ち着いて~。」
「頭から湯気が出てるよ~?」
皆の意志を汲み取り、ホシノがその場を収めた。
彼女の言葉で周りは沈黙し、一旦冷静になった。
「ん……。」
「「………。」」
「はい、すみません……。」
「……ごめん、こんな風にしたいわけじゃなかった。」
「うん、みんな分かってるよ。シロコちゃんも、いい子だからね。」
「………。」
「まっ、とりあえず今日はこの辺にしとこ~。」
「うへ~、じゃあ解散解散~。一回頭を冷やして、また明日集まることにしようよ。」
「これは委員長命令ってことで。」
「……そうだな。今日は色々な事が起こった。各々の中で整理する時間も欲しいだろう。」
こうしてノノミ、アヤネ、セリカは家に帰り、ターキンとホシノ、シロコが残った。
なぜこの三人なのか…彼らにはまだ決着がついていない問題があるのだ。
「ん~?シロコちゃんは何かまだやることがある感じ?」
「……先輩、ちょっといい?」
「うへ~、おじさんとお話したいことがあるの?照れるな~。」
「私からもある。」
「先生まで~?うへ、おじさんモテモテだ~。」
「その割には冷や汗をかいてるな。[PER]」
「あ、あはは、そりゃあんな事もあったからね…。」
「おじさんちょっと疲れちゃったし……。」
「だからまた明日話そ?大体どんな話かは分かってるから。」
「……ん、分かった。」
「先生……。」
「………。」グッ
シロコからアイコンタクトを貰うとターキンは彼女に親指を立てた。
「ん、じゃあまた明日……。」
二人はシロコが教室を出ていくのを見送った。
―───────────────────────────────────────────
「うへ~、先生やるねえ?私の可愛いシロコちゃんと、いつの間に目と目で意思疎通ができる仲になったんだ~?」
「いやいや、やっぱり先生は侮れないね~。おじさんは流れについていけなくて何だかさびしいよ。」
ホシノはいつも通りな風に振舞っているが、その芝居も今夜までだ。
「ホシノ……。」スッ
ターキンは徐にガスマスクを外すと、彼女の目線まで腰を落とし……訊ねる。
「聞いてもいいか?」
「ん~、何を?」
「本当は……分かってるんじゃないのか?」
俺はシロコから預かった彼女の退部届を見せる。
「それって……。」
「これは君ので間違いない…だろ?」
「うへ~、いつの間に……!これ、盗ったのはきっとシロコちゃんだよね?」
「全くシロコちゃんったら、いくら何でも先輩のかばんを漁るのはダメでしょ~。」
「…本人も反省していた。」
「うへ、そっか……ならいいんだけど。でもあのままじゃとんでもない大悪党になっちゃってもおかしくないな~。おじさん心配。」
「その時は私がしっかり叱ってあげよう。それなりに得意分野だからな。」
「うへっ……お、お手柔らかにね?」
「勿論。」
「だが今は彼女のことより、君のことが聞きたい。」
ターキンのそのモノの言い方は誤解を生みかねなかった。
「へ………?」////
案の定だった。
「君のこの退部届について……。」スッ
そう言って先生が退部届を指さすのを見てホシノは我に返った。
「え、あっ………そっか。」
何故かちょっと残念そうに見えたのは…きっと気のせいだ。
「……………聞かせてくれ。」
「……うーん。逃がしてくれそうには…「………。(無言の圧)」…ないよね~?」
彼女はため息をついて「仕方ない」というと、俺を廊下に連れ出した。
「面と向かってっていうのも何だしさ、先生。ちょっとその辺一緒に歩かない?」
「………構わない。」
そこから暫くは、コツコツと二人の足音だけが月明かりが照らす教室に響いた。
二人で歩いていると、廊下の突き当りにでた。
「……ここも随分綺麗になったね~。」
「少し前までは、歩いただけで砂埃が舞って咳き込んじゃってたのに。」
「生徒に毒だったからな。セバスチャンと入念に掃除しておいたよ。」
「そうなんだ……ありがとう。」
「気にするな。当然のことだ。」
「うへへ………前までは掃除をしようにも、そもそも人数に対して建物が大きすぎたから全然手が回らなくてさ。いまだに小さい砂嵐とか起きるし……最近は何でかパタリと止んだけど。」
「ああ、天候管理施設を置いたからな。」
「ほら、あの下駄箱の近くの。」
[ロブコ天候管理施設]
かつてロブコ社で開発された周囲の天候をコントロールするための施設。
雨を止ませたり降らせたりするのは勿論のこと。夏に雪を降らせることもできた。
ターキンは将来的に、このアビドスにシェナンドーにあった大規模な「ホークスビル天候管理施設」と同じものを建設しようと考えている。これさえあれば、アビドスで長きにわたり発生した砂嵐も抑制できる上、そのせいでまた膨大な借金を作る必要もなくなる……。そうなれば、いつかきっと………。
「あれそんな凄い装置だったの!?もしかしてアレも…。」
「100%手作り、しかも材料費はタダ!」
「最近のゴミは優秀なものだよ。少し地域のゴミ捨て場を漁れば資源には一切困らなくなった。」
「もしかして今までそうやって物資を調達してたの?」
「ああ。俺に限らず地元のレジデントは皆そうしてた。」
「うへ、凄すぎてもうおじさん言葉が出ないや………。」
「それほどでも。」
「でも、そんな先生のおかげで昔より楽になったんだよね……本当に、感謝してもしきれないなぁ。」
「少しでも力になりたかっただけだ。気にするな。」
「なりすぎだよ~。」
「でも先生も変な人だよね、そんな凄い装置とか機械も作れるのに、あんな砂だらけだった校舎じゃなくて、新しい校舎を建ててようとは思わなかったの?」
「…そうして欲しかったのか?」
「まさか!…そうじゃないよ………。」
少しの静寂の後、彼は自分がこの校舎に持つ気持ちを語った。
「………。」
「……毎朝、この校舎に入って目に映ったのは…皆の笑顔だった。」
「………?」
彼が語るのは、自身がアメリカとアビドスで見て聞いてきたものだ。
「嬉しかったなぁ……。私がアメリカにいた頃見てた景色とは比べ物にもならない。」
「過去の栄華は消え去り、寂れた街、崩れ落ちた建物が辺りに文明の残穢として遺され、血に飢えた変異生物の鳴き声や人々の怒号や悲鳴で目が覚める……。」
「でもここはどうだ?アビドスは寂れた地域だが、まだ色んな人々が暮らしてる。毎朝、市街地や住宅街を通ると、誰かが必ず元気のいい挨拶をしてくれる。出会い頭に銃撃をしてくることもない。」
「少々砂埃が目立つが、それでもなおそこには生活があって、文化があって、何よりその人の居場所がある。」
「そのまま校舎に行けば、そこには生徒達の何気ない日常が繰り広げられている。これの尊さといったら…筆舌に尽くしがたいよ。」
「真面目な会議をすることもあれば、ふざけたことを言って笑い転げたり、それを見たセリカが呆れたり、放課後にロボットと一緒に掃除していたり。」
「私があの世界にまだいたら一生見ることもなかった景色だ。……なんて……なんて大事な光景だろう…。」
「豊かな暮らしではないかもしれないが…そこには確実に…『平和』があった。」
平和、それは彼の故郷にはなかったものだ。
「………。」
「そしていつの間にか私にとってアビドスは失いたくない場所になっていたんだ。だから応えてあげたかった。レスポンダーとして、辛い現実を見てきた大人として、君らの先生として。」
「……先生、そこまでアビドスのこと考えててくれてたんだ…。」
「当然だ。」
「そんな大人、今までどれだけいたんだろうなぁ……。」
「きっとたくさんいたはずだ。」
「………アビドスも砂漠化が進む前は、このキヴォトスでもかなり大きくて力のある学校だったて言われてるけど……そんな記憶も実感も、おじさんには全く無いんだよね~。」
「わかるよ、私も戦前のアメリカの事は授業や両親の話くらいでしか聞いたことがなかった。」
「うん…最初から全部めちゃくちゃで、ちゃんとしたものなんて何一つない学校だった。」
「私が初めてVaultを出た時も同じことを思ったものだ。」
「うへ、おじさんが入学した時のアビドス本館は、今はもう砂漠の中に埋もれちゃったし。当時の先輩たちだって、もうみんないなくなっちゃった。」
「今いるここは、砂漠化を避けて何回も引っ越した結果にたどり着いた、ただの別館。」
「……ま、でもここに来てシロコちゃんやノノミちゃん、アヤネちゃんにセリカちゃんと会えたから……。」
「おじさも、やっぱりこの校舎好きだなぁ。」
「……先生にも会えたし。」
「………。」
世間話も終局を迎え、彼女は本題を話した。
「……ターキン先生、正直に話すよ。」
「私は2年前から、変な奴らから提案を受けてた。」
「提案?」
「カイザーコーポレーション……。」
「提案というかスカウトというか……アビドスに入学した直後からずっと、何回もね。」
「……何だと?」
「そいえば、ついこの間もあったな~……。」
「ゲヘナの風紀委員会が来た時か?」
「うん。」
彼女は当時の黒服とのやり取りを思い出す。
黒服が決して拒めないという提案、それは………。
「アビドス高校を退学し、私共の企業に所属する……その条件を呑んでいただければ、今アビドスが背負っている借金の半分近くをこちらで負担しましょう。」
「ククッ、ククククッ……さあ、答えを聞きましょう。もしイエスならば、こちらにサインを。」
彼は条件を述べ、冷ややかに笑うと一枚の書類と一本のペンを彼女に差し出した。
しかし幸い、彼女はそれらに手をつけなかった。
「……何度も言ったはずだよ、断るって。」
「………。」
彼女の意志は固かった。残念なことに。
(あの時ににそんなやり取りが……。だから退部届を――)
ターキンの胸に激しい感情が込みあがるが、ここで苛立っても仕方がない。
彼はとりあえず、そのままホシノの言葉に耳を傾けた。
「それは誰から見たって破格の条件だった。でも、当時は私がいなくなったらアビドス高校が崩壊するって思ってたからこそ、ずっと断ってた。」
そうだ、それでいいんだ……。
「けど……」
え?
「……あいつら、PMCで使えるヤツを集めてるみたい。」
「………そいつは一体、何者なんだ?」
彼女の答えは少し正確さに欠けていた。
「私もあいつの正体は知らない……ただ、私は黒服って呼んでる。」
「何となくぞっとするやつで……キヴォトス広しといえども、ああいうタイプのやつは見たことなかったし……。」
「怪しいやつだけど、別に特段問題を起こしたりはしなかった。」
「何なんだろうね。あのカイザーの理事ですら、黒服のことは恐れているように見えたけど……。」
「黒服…だな。」
「うん。」
「わかった…。」
(名前は覚えたぞ黒服……ホシノに恐ろしい契約焚き付けやがって、会ったらすぐさまレーザーの灰に………!!)
「……。」
(先生、今とんでもない事考えてそう。(正解))
「……じゃあこの退部届は―。」
「…………うへ。」
「まあ、1ミリも悩んでなかったって言ったら<嘘>だし。」
「ホシノ……。」
「うへっ、ちょっとした気の迷いだよ。」
「……うん、これはもう捨てちゃおっか。」
ビリーッ!!
彼女は先生の目の前でその退部届を破り捨てた。
「うへ~、これでスッキリした。」
「余計な誤解を招いてごめんね。ただ、こんな話を皆にしたところで、心配させるだけで良いことも何もなさそうだったからさ。」
「でもまあ、可愛い後輩たちにいつまでもこんな隠しごとをしたままっていうのも良くないよね。先生だって、今まで隠してた故郷の事を話してくれたわけだし……。」
「明日、皆にちゃんと話すよ。」
「そうか……。」
「うん……………それとね。」
「私、もう一つ先生に謝らないといけないんだ。」
「……どうして?」
「少し、時間貰ってもいいかな?」
「………構わない。」
先生の承諾を得た彼女は昼間に訪れた砂漠まで来た。
「……かなり遠くまで来たな。またあの施設に行くのか?」
「違うよ、先生。今度は向こう、ついてきて。」
「………ああ。」
言われるがままホシノと砂の上を歩いていると、見覚えのある場所に来た。
「ここで前に先生と偶然会ってさ、オアシスの事を話してた場所。」
「ああ、今も覚えてる。祭りの話なんかもしていたな。」
「うへ。」
忘れられる筈もない……君があんな目をしていたのは、アレが最初で最後だったんだ。
「少しだけさ、故郷の事も話したな。」
「そうそう、家族写真なんかも見せて貰ったっけ…。」
最近の事ではあるが、二人は妙に懐かしさを感じながら当時を振り返った。
それもそろそろ閑話休題。
「…本題だけどさ。前に風紀委員会と戦った後に、先生が友達と再会して泣くほど喜んでたでしょ?」
「そ、そうだな…しかし今になると恥ずかしいな…ペスコフに会った途端、あんな年甲斐もなく泣いてしまったのは…。」
「うへへへ、いいじゃん。大人でも泣けることがあって。」
「……。」
「……。」
暫くの沈黙の後、彼女はようやく自身の胸の内を明かした。
「でも、あの時、自分が凄く嫌だった。」
「…自己嫌悪?ってやつだったの………。」
「…それはまたどうして。」
「……あの時…先生の事……
「先生は、大事な人と再会できたから。」
「私は……私は…………ダメだったから…先輩にはもう…会えないから…………うっ…ううぅっ。」
ああ、きっとこの子も……同じなんだ。
「…うっ……ひぐっ……ごめんなさい………っ。」
それは、彼女があの時、あの人にちゃんと言えなかった言葉だった。
彼女が謝罪の言葉を紡ぐ度に、その瞳から色が涙と共に落ちていく。
そのまま彼女すら落ちて、広がる砂の下に消えてしまいそうなくらいに…………。
「……。」
ギュウッ――……。
ターキンは何も言わず、彼女を抱きしめた。
もうこれ以上、零してしまわないように。
このハグはきっと、繋ぎとめてくれる。そう信じてる。
「いいんだ、ホシノ。」
「…話してくれてありがとう。」
「…………。」
「でもねホシノ、私にも…会えなかった人はいるんだ。」
「……?」
「前に、家族写真を見せただろ?」
「私と両親の写真…。」
「………。」コクッ
彼女は涙を拭いながら頷いた。
「二人の名前は、ダニエルとメアリー。」
「私は二人の事が大好きだった。かけがえのない家族だった。」
「二人も、一人息子の私を同じかそれ以上に愛してくれた。」
「……凄く大事にされてたんだね。」
「ああ、あの頃の生活を思い出すと、より実感する。」
「でも………そんなある日、二人はいなくなった。」
どうしてなのか、何故、深く愛していたのに…家族なのに……どうして………。
そんな疑問が彼女の頭を巡った。
「………なんで?」
返ってきた答えは、
「殺された。俺を庇って………ミュータントの手で無惨に殺された。」
「そんな……そんな事って…………。」
あんまりだ。その言葉が出かかった時に、彼は続けた。
「それがあの世界の普通だったんだ。あの時はまだ知らなかったけど…。」
「二人がいなくてとても辛かった……人生で一番辛かった。死んでしまいたいとすら思えた。」
「でも、そんな気持ちも押し殺して……「再建」の為に何が何でも生き延びた。」
「アパラチアで旅を続けていると、自分と似た境遇の人は何人も過去にいた。…皆苦しんでた。」
「その人たちが遺して逝ったモノを見る度に思い出したんだ。」
改めて思い返す、父と母が最愛の息子に遺した…最期の言葉。
「あ………いしてる…………わ………。」
「あい………してい………るぞ………む……す………子よ………………。」
二人が遺したものは、今もなお、ここで生きている。
「二人が私に愛情を注いでくれたこと…。そして、まだここにいてくれる友達の事を。」
「その全てに応えたくて、レスポンダーになった。」
「あの時、あの人たちの痛みがあったから。あの人たちの犠牲があったから…。私は今ここにいる。」
彼の言葉を一通り聞いた時、彼女が抱いた感想は……
「………先生は強いなぁ。」
「?」
「だってそうでしょ?辛くても、苦しくても、どんな目に遭ったって挫けないでさ。」
「大切なものがまだあるなら、何度でも立ち上がっちゃうんだから。」
ホシノの後悔を知って、自分のトラウマと再び向き合って……。
それらを通して先生が彼女に伝えたかったものは……とてもシンプルだ。
「君にも、まだ後輩達がいるだろ?」
「…………。」
ホシノの中で、今いる後輩達の顔が浮かび上がる。
「だから……きっと大丈夫だ。」
とてもシンプルだが…それだけに彼の言葉には、信じられる力があった。
「それに困ったときは私がいる。」
「借金は……まだどうすればいいかわからない。」
「けど…きっと方法はある。」
「うん……。そうだね。きっと……。」
「何か奇跡でも起きてくれればなぁ……。」
「奇跡は起きないさ……。」
「……っ!?」
自分の後悔が脳裏を過った。
「なんたって奇跡は起きるものじゃない……。
と、彼は恥ずかしげもなくドヤ顔で言い切った。
「…………!!!」
その言葉を聞いて、ホシノははっとさせられた。
ずっと曇りだったそらが急に晴れ上がったような気持だった。
彼女は一つの答えを、そこに見ていた。
「なーんて、オズワルドの受け売りだけどな。」
「…先生……。」
彼女は感じていた…希望を。
其れとは別に、ターキンは彼女のある時の言葉を思い出して訊ねてみた。
「なぁホシノ…今度、一緒に出掛けないか?」
「うへっ、そりゃまた急だね!?……でもどこに?」
「アクアリウムさ。ブラックマーケットに来た時に君言ってただろ?行ってみたいって。」
「ああ、そういえば……そうだね。」
「な?」
「うーん……。」
少し考えたあと、彼女はその提案に賛成した。
「……わかった。時間があったら、行こっか。」
「よし、決まりだな。」
「……それじゃ、もう遅いし帰ろう。」
「うん、そうだね。」
俺は彼女を家の前まで送った。
「またね。」
「ああ。」
「…………。」
「…………ホシノ。」
「ん?」
彼は去り際に、今にも砂塵と共に消えてしまいそうな彼女の為に、切り札をそっと忍ばせた。
「何か困ったときは、必ず言ってくれ。」
「「助けて」って。」
「そうすれば……必ず応えるから。」
「私はなんたってレスポンダーだからな!」
「……ははは!うん、わかった。」
「…さよなら。」
「ああ、また明日。」
そうしてターキンは自分のC.A.M.P.へと戻った。
あの言葉が彼女の最後の言葉になる事も知らぬまま……。
そして迎えた翌日。
朝一に学校に来たアヤネは、信じられいものを目にした。
「……嘘っ。」
「何でっ………どうしてっ!!!??」
そう叫ぶ彼女の目の前には、ホシノから皆に宛てられた手紙と記入済みの退部・退学届が残されていた。
その頃ホシノは時を同じくして……黒服のところにいた。
サラサラ…
彼女は黒服から差し出された契約書にサインした。
「……これで良い?」
黒服は契約書に目を通すと満足そうに
「…はい、確かに。」
とだけ言った。そして続けてこう言った。
「契約書にサインも頂いたことですし……これで、ホシノさんがお持ちの生徒としての全権利は、私の元に移譲されました。」
「これで正式に、アビドス高校が背負っている借金の大半は、こちらで負担することにしましょう。」
アヤネは直ぐに生徒と先生を呼び、全員がが集まった時に手紙を開いた……中身は…………
―アビドス対策委員会のみんなへ―
まずは、こうやって手紙で手紙でお別れの挨拶をすることになったこと、許してほしい。
おじさんにはこういう、古いやり方が性に合っててさ。
みんなには、ずっと話してなかったことがあって。
実は私、ずっと前からスカウトを受けてたんだ。カイザーPMCの傭兵として働く、その代わりにアビドスが背負っている借金の大半を肩代わりする。そういう話でね。
うへ、中々いい条件だと思わない?おじさんこう見えて、実は結構能力を買われててさ~。
借金のことは、私がどうにかする。すぐに全部を解決はできないけど、まずはこれでそれなりに負担が減ると思う。ブラックマーケットでは急に生意気なことを言っちゃったけど、あの言葉を私が守れなくてごめんね。
でもこれで対策委員会も、少しは楽になるはず。
アビドス高校からも、キヴォトスからも離れることになったけど、私のことは気にしないで。
勝手なことしてごめんね。でもこれは全部、私が責任を取るべきこと。
私は、アビドス最後の生徒会だから。
だから、ここでお別れ。じゃあね。
「ホシノ…。」
「まって、まだ封筒の中に残ってる…。」
「……先生宛だ。」
「………。」ペラッ
先生が手紙を見る頃には……。
「さあ、乗れ。」
「……どこに行くの?」
「アビドス砂漠だ。」
ホシノを乗せた車は遠く、アビドス砂漠へと向け走り去った。
―先生へ―
実は私、大人が嫌いだった。あんまり信じてなかった。
先生が学校に初めてきて、ヘルメット団を叩き出した時だって、「なんか危険な大人が来たな」って思ってたぐらいだし。
まあでも実際危険なことは色々してたし、あながち間違いじゃなかったかもね?
でも、そんなことする理由は全部私達の為で、その為に自分の辛いことだって隠してた。
どこまでもお人好しで、その上凄く強い。だから、信じてみることにしたんだ、先生のこと。
最後に先生みたいな大人に出会えて、私は
いや、照れくさい言葉はもういいよね。
先生。最後に我がままを言って悪いんだけど、お願い。シロコちゃんは良い子だけど、横で誰かが支えてないと、どうなっちゃうか分からない子で、悪い道に逸れちゃったりしないように、支えてあげて欲しい。
先生なら、きっと、いや絶対に大丈夫だと思うから。
「…………。」
「あれ、この手紙まだ裏に続きが…………。」
少女たちは最初の手紙の裏に書かれている文を読む。
シロコちゃん、ノノミちゃん、セリカちゃん、アヤネちゃん
お願い、私たちの学校を守ってほしい。
砂だらけのこんな場所だけど、私に残された、唯一意味のある場所だから。
それから、もしこの先どこかで万が一、敵として相対することになったら。
その時は、私のヘイローを壊して。
生徒のヘイローが壊れる……それ即ち「死」を意味していた。
これは言ってしまえば…彼女の遺言だった。
「ホシノ先輩っっっ!!!!」
「何なの!?あれだけ偉そうに話しておいて!!切羽詰まったら何でもしちゃうって、自分で分かってたくせにっ!!」
「こんなの、受け入れられる訳ないじゃない!!」
「……助けないと。」
「私が行く。対策委員会に迷惑がかかるし、私一人で…。」
「でも、このまま助けに行っても無意味じゃないでしょうか…。」
「ノノミ先輩!?なんでよ!!?」
「ホシノ先輩は既に退部届をここに出して学校を去りました。」
「その後きっとカイザーとも契約してますし、連れ戻してもまた連れていかれるでは…。」
「……。」
「それじゃあ、ホシノ先輩のことは…もう諦めるしかないの……?」
「…………。」
「くくく……くくっ……。」
「!?」
「ちょっと先生なんでこんな時に笑って――「ガァハハハハハハハッ!!!」……?」
「そうかそうか!!そうなんだなホシノッ!!!」
「……?」
「よぉし後は先生に任せとけ!バッチリと方を付けてやる!」
「先生、一人で盛り上がってるところ悪いけどさっきから何を?」
「まだあるんだよ!あの子のを助ける方法がっ!!」
「え?」
「…詳しく。」
「この退部届……まだ顧問の私はサインしてない。」
「だ・か・ら!彼女はまだここの生徒で部員だ!」
「その上、生徒と企業との契約は生徒会、又は先生の承認がいる。」
更に先生の推理は続いた。
「つまり今なら契約も有効じゃない。それに……この手紙…。」
「微かに所々、繊維が傷ついてる。濡れた跡があるんだ。」
「この手紙を書いていた時には……彼女は泣いていた。」
「それに俺の手紙の右端の余白に何かを書いて消した時に残った溝もある。」
「試しにこの鉛筆で軽くこすってやると……。」
サラサラ……
たすけて
浮かび上がるのは、先生に求められた救いの言葉だった。
「以上を踏まえて……彼女を助けても何の問題もない!」
「ってか助けないとヤバい!!」
「!!」
「なら今すぐ!」
「いいや、まだだ。」
「ええ!?」
「ここまで言っておいて!?」
「まあ聞いてくれ。」
「あのカイザーPMCとかいう組織、何か変だとは思わないか?」
「……?」
「この手紙によれば、ホシノは奴らからスカウトを受けたという。」
「そこがおかしいんだよ。」
「なんで?確かにホシノ先輩の実力なら……」
「力の問題じゃない。思い出してくれ、私たちが昨日奴らの施設を襲った時、何がいた?」
「何ってそれは、カイザーのオートマタ……―ッ!?」
「生徒が…いない?」
「その通りだシロコ。流石は鋭い勘の持ち主だ。」
「そいえばノノミ先輩もそのことを怪しく思っていましたね。」
「ええ。どう考えても、オートマタより生徒の方が戦闘能力はあるはずですから。」
「そう、なのに肝心な生徒の兵士がいなかった…。」
「これはあくまで私の考察だが……。」
「カイザーはホシノの力を裏で何か他のことに悪用しようとしてるかもしれない。」
「例えば…その能力の実態を知るための人体実験だとか……。」
「しかも一兵士である他の生徒達と一緒に……だ。」
「なっ……!?」
「……!!?」
「それって…!!」
「だったら尚更今すぐに!」
「それは無理だろう。あの場所じゃ、生徒の兵士達は姿形すらなかった。」
「恐らくこのアビドスの何処かに隠されている。」
「砂嵐が頻発し、視界が悪いこのアビドスは何かを隠すのにはピッタリだからな……。」
「だから、闇雲に連中のところに乗り込んでも徒労に終わるだろう。」
「それどころか君達すら危うい。」
「確実に居場所を見つけ出さないと……。」
「それで、何か手はある?先生。」
「フフッ……当然だとも…!」
今の彼のモチベーションは最高潮。
人を助ける、それ即ち彼の存在意義とすら言えよう。
「少なくとも居場所を知ってる人間に心当たりがある。」
「そいつを当たってみようと思う。」
「それと、恐らく大規模な戦闘が予想される。ペスコフ達にも応援を頼もう。」
「私の親友は、同じ地獄を生き延びた上澄みも上澄みだ…その実力はキヴォトスでも通用するだろう…必ずな。」
「まあ、通用してる人が現に目の前にいるからね…。」
実際ペスコフ先生はゲヘナ生をタイマンで懲らしめるレベルで強い。
「更に、ここのロボット達を市街地に展開して、防衛体制をより強固にしよう。」
「君達にはもしもの時に備えていつでも動けるように…ある場所で待機していて欲しい。」
「ある場所……?」
「ついてきてくれ。」
ついた場所は、元々存在しなかった地下室。彼が作ったのだ。
「ここって…地下?」
「でもこの場所に地下室なんてありましたっけ?」
「それは私が掘ったからな。」
「掘ったぁ!?……全くモグラじゃないんだから…。」
「実際にモグラみたいに地下生活してる変異した炭鉱夫がアパラチアにはいたぞ。」
「モールマイナーっていうんだ。狂暴だった。しかもガスマスクのせいで何言ってるのかさっぱり。」
「先生がいた場所は生き物ならなんでも変異するのね…。」
「ああ、ゴキブリも変異してた。」
「今その話するのやめて?マジで。」
「はい……。」
よもやま話もこの辺に、彼は地下に来た理由を生徒達に明かす。
「それで、こんな地下に何の用が?」
「これを見せたくて…。ポチっとな!」カチッ
バンッ!!…ピカ――ッ
「うわっ眩しっ……って………!!??」
「えええええええ???」
「んんんんんんんんんんん!?!?!??!」
「わあ☆おっきな歯車ですね!」
生徒達の見つめる先にあったのは、アビドスの校章が記された巨大なVaultの扉だった。
「ただの歯車じゃないぞ?これがこの施設の扉なんだ。」
「こいつは私の故郷にあった物なんだ。その名もVault。」
「へーこれが先生の言っていた地下シェルター、Vault…。」
「凄い重厚感。これなら核戦争も耐えられるわけね……。」
「銀行の金庫じゃなくて良かった。(ボソッ)」
「シロコ先輩…?」
「ん、何でもない。」
「これこそが人類を核の脅威から守る為のシェルターであり、私の元家であり、私のすべてが始まった場所だ…。」
「私はそのVault76の生まれな訳だが……ここを名付けるなら…そう!」
デデン……【ABYDOS VAULT】チーン [XP 0050]
「アビドスVAULT……なんかカッコイイ…。」
「そうかな?」
「なんだかロマンがありますね☆」
「よし、早速この扉を開けよう。」
彼は扉の傍にある操作盤の方に向かうと、ピップボーイのケーブルを対応するポートに刺す。
すると脇にあるケースが開かれ、彼はそこにある大きな赤いボタンを力強く押した。
警告のサイレンと共に、機関部の重厚な駆動音がする。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
暫くすると、Vaultの扉が回転しながら開かれる。
ああ、この懐かしさといったら……
ターキンは友と感じたあの頃の不安、希望、喜び、寂しさ…全てを鮮明に思い出した。
「きっとここから始まる、アビドスの未来も……!!」
「さあ、入って。」
「お、おじゃまします……?」
「そんなにかしこまらなくていい。君達のVaultなんだから。」
「ん、なんだかワクワクする。」
「でもこれと作戦に何の関係が?」
「ここにはすべてが揃ってる。」
「食料に、住居に、服に、風呂に、娯楽に、電力、セキュリティ、武器、弾薬、爆薬……とにかく全部ある。」
「全部が揃ってるからこそ、君達にはここで……準備をしておいて欲しい。」
「準備?」
「カイザーがホシノがいないこの状況を逃すとは思えない、必ず襲撃を仕掛けてくる。」
「それに備えて君達にはこの施設への全てのアクセス権を与える。」
「それさえあれば、アビドスにあるすべての監視システムにこのVaultからアクセスできる。」
「いつの間にそんなことを?」
「なーに、ちょちょいとシステムをいじったらすぐだったよ。」
「それに連邦生徒会から許可も貰ってる。心配ないよ。」
「ああ、もしかして夜中に校舎の電気がついてたのは……。」
「このVaultを運用するのに必要な連邦生徒会への書類を書いてた。」
「やっぱり……。」
「カイザーが街に一歩でも踏み込めば、ロボットがすぐさま迎撃に入るが。」
「敵も軍隊、これに勝利するには……君達が必要だ。」
「……。」
「このVaultで何か気になったり、詳しいことを聞きたかったらセバスチャンに訊いてくれ。」
「後は任せたぞセバスチャン。」
呼ばれた瞬間物陰からヌルッとセバスチャンが現れた。
「はい。生徒達の事はお任せください、旦那様。」ヌルッ
「うわあっ、いつの間に!?」
「それではVaultの中をご案内いたします。学生証をお忘れなく。」
「それがないとアクセスができない場所がありますので……。」
「だからさっき先生がここに来る前に持ってこさせたんですか……。」
「その通りです。さあ、私についてきてください。」
「あれ、先生は?」
「私はやることがある。さあ。」
「……わかった。」
彼女達はセバスチャンに続き、Vaultの奥へと入った。
その後、先程と逆の手順で、Vaultの扉が閉ざされた。
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……
シュ―――ッ……。
「……。」
「人は過ちを繰り返す……か。」
「だったら……準備をしないとな。」
私ずっと出してみたかったんですよ、自治区Vault。
でもやっぱりVault[学校名]が良かったですかね?
LAなんかはロサンゼルス・Vaultとまんまな呼び方だったのでそっちで行こうと思ったんですが。
良ければ感想、お待ちしております。
それではまた次回お会いしましょう。