Fallout76 -once in a blue archive- 作:egguimen
今回は少し黒服の下りが長くなってしまいましたが…
どうぞ、楽しんで読んでいってください!
それでは本編へ。
ザッ……ザッ……
滴る鮮血が砂を朱に染めていく。
命を削りながら、彼はその斧を引き摺り乍ら猶も進んだ。
「はぁ……はぁ……」
「返せ…………返せ……!!」
「ホシノ達…を……返せええ……カエセエエ……!!!」
この生徒の命を巡るシャーレ達によるこの大規模な戦いはキヴォトスで後にこう呼ばれた。
「アビドス戦争」と……。
それは、連邦捜査部『S.H.C.A.L.E.』顧問達による初の公式交戦記録である。
―───────────────────────────────────────────
ターキンは、メッセージを頼りに某所のビルへと来ていた。
「……ここか、野郎がいやがんのは。」
彼は昂る殺意を抑え、エレベーターに乗り込んだ。
ゴゴゴゴゴゴゴ……
稼働音はまるで彼の腸で煮えたぎる怒りを表しているようだった。
チーン……
エレベーターが目的の階に着き、扉が開かれた。
「……。」
コツ…コツ…コツ……
静かに足音が響く。
「はぁ……。」
深呼吸をし、部屋のドアノブに手をかけると、10㎜ピストルを抜き、構えた。
…突入だ。
ガンッ!!
「てめぇから呼び出すたぁいい度胸だな!今すぐぶちこrー」
「~~~~~……sぅっ!?」
俺はとんでもない存在を目の当たりにした。
やつは……ヤツは……!!
「おやおや……初めてこうして顔を合わせる貴重な機会だというのに、これはこれは随分なごあいさつです……そうでしょう、ターキン先生?」
その存在は一切の動揺なく、ただ穏やかに薄気味悪い好奇心を向けてきた。
「……あなたの事は知っています、連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。」
「あのオーパーツ「シッテムの箱」の主であり、「ピップボーイ」を持つ者の一人。」
「連邦捜査部「シャーレ」の先生でありながら…滅亡を免れた居住者という二つの側面をもった極めて稀有な存在……クククッ、実に…実に興味深い存在です。」
どうやらこいつはかなりの物知りのようだ。どこから仕入れたかは不明だが。
「未だにあなた達を過小評価する者も少なくはないようですが、私たちは違います。」
「物知りみたいだな…なら自己紹介は不要か。」
「だがそういうお前は何だ、スーツ着た変態ミュータントか?」
「悪いがフォトニックレゾナンス・チャンバーは持ってきてないぞ。」*1
「「……。」」
流石にVaultの鉄板ネタまでは知らなかったらしい。
軽口も長々と話してはつまらないので、とりあえずコイツについて問い質す。
「お前は……"ロスト"なのか?」
「……?」
[ロスト]
シェナンドーに現れた電気を纏ったグールの変異体。
V63のグールによって行われた天候管理施設を用いた実験により生まれた。
変異の影響か現実への認識が歪んでおり、フェラル化していないにも拘わらず著しい攻撃性を有し、人間を見境なく襲う危険な生き物だ。
ターキンは黒服をそのロストである事を疑った。
恐らくは、あの忌まわしい元監督官の「ヒューゴ・シュトルツ」と同じ支配種…或いは光し者のような更なる変異種だと……。
その疑いはどこからくるのか、容疑はロストの外見に起因している。
ロストの肌は焦げたように黒く変質し、肌の亀裂に電気が流れ輝いているのだ。
黒服の容姿もまた、黒曜石のような異質な肌の表面に光る亀裂を持っている。
正直、本来のロストのとは所々に差異がありながらも、類似したその姿に、彼は警戒をせざるを得なかった。
黒服はターキンの問いに素直に答える。
「先生がおっしゃるそのロストという存在は…残念ながら存じ上げません。」
「ですが安心してください、私はあなたが懸念するようないわゆる、アボミネーションではありません。これは我々がこの世界を観測するために適切なハードウェアを形成しているにすぎません。」
黒服はどうやら私が想像するよりも難解で奇妙な存在であるようだ。
疑問は深まる一方だが埒が明かないので俺はその説明で渋々納得した。
「……そうかよ。」
「はい。」
「「……。」」
ターキンはゆっくり銃をホルスターにしまった。そして、気味の悪い沈黙が二人の間に流れた。
先にその沈黙を破ったのは黒服だった。
「私からも……はっきりとさせたいことがあります。」
次に、こいつは信じられない事を口にした。
「私たちは、あなた方と敵対するつもりはありません。」
「むしろ、協力したいと考えています。」
ターキンは困惑を禁じえない、奴が口にしたソレは本来まともな思考でたどりつくプロセスから明らかに乖離した回答だった。
「……ふざけてるのか?」
カイザーと共謀し、生徒の人生を奪う度し難きこと極まりない凶行を働いておきながら、おこがましくも「協力」という言葉を口にするとは……
それも生徒の味方である教師を前にして…だ。
「いいえ、私たちは真剣です。」
「私たちの計画において、一番の障害になりうるのはあなただと考えているのです。」
そんな事を言っておきながら、彼が続ける言葉は俺の神経を逆撫でた。
「私たちにとってアビドスなんて小さな学校は、全く持って大した問題ではありません。」
「ですが先生、あなた方の存在は決して些事とは言えません。敵対することは避けたいのです。」
一言一句が自己保身に帰結した発言だった、結局のところ協力というテイで降りかかる火の粉を払いたいだけのようだ。自ら火を放ったくせに図々しいにも程がある。
「エゴイストが…お前は……一体何なんだ。」
「……おっと、そういえば自己紹介をしていませんでしたか?」
「私たちはあなた方「レジデント」と同じ、キヴォトスの外部の者……ですが、あなた方とはまた違った別の領域の存在です。」
そう前置きすると、黒服はは自分達の所属をこう呼んだ。
「適切な名前がありましたので、今はそれを拝借して使っております。」
「私たちのことは「ゲマトリア」、とお呼びください。」
「ゲマトリアか………仰々しいことだ。」
「はい。そして私のことは、「黒服」とでも。この名前が気にってましてね。」
「……。」
「私たちは、観察者であり、探求者であり、研究者です。」
要はマサチューセッツのC.I.T.の生き残りと同じ、イカれた科学者の集団ってわけだ。
はぁ……いつもの事だな…。
「あなた方と同じ、「不可解な存在」だと考えていただいて問題ございません。」
(似て非なるものだろうが、饒舌な割にオツムが弱いのか?)
彼は心の中で悪態をつきながらも、依然と平静を保っている、ギリギリだが。
「一応お聞きしますが、ゲマトリアと協力するつもりはありませんか?」
「断るし、微塵もないし、殺したい。」
「即答ですか…しかも五七五……。」
その殺意の籠った一句で黒服は軽くショックを受けた。
「当然だ。仲間に聞かずとも満場一致だろう。」
「……左様ですか。」
「しかし、この世界の真理と秘儀を手に入れらるこの提案を断ってまで、あなたはキヴォトスで何を追求するおつもりなのですか?」
「生憎だが、そんな大袈裟をほざく奴は五万と見た。まあそれでろくな目に遭ったやつはこれまで見たことがないがな、これからもないだろう。」
「いいからホシノを返せ。」
俺は黒服にホシノの返還を要求する。しかし返ってきたのは、イビツに歪む笑みだった。
「……クックックッ。」
俺の背筋をゾクりと這ったのはまるで懐に仕込んでいたナイフで一突きされるような、不意に走る悪寒だった。
「あなたの行動に正当性が無いことにお気づきですか、先生?」
「今のあなたに一体何の権利があって、そんな要求をされているのでしょう?」
「小鳥遊ホシノはもうアビドスの生徒ではありません。我々の
「届け出を確認されてないんですか?」
黒服は嘲笑するように食って掛かった、これまでの軽口の意趣返しのつもりだろうか。
存在や行動原理に対してやることがいちいちみみっちぃのが癪に障る。
とは言え、こちらもしかるべき対応を取った。
「はぁ………そう言うと思ったよ……。」
「……これを見ろ。」パサッ
彼が机の上に出したのは、彼女が置いて行った退学届けと退会届の二枚の書類。
「顧問の俺がまだここにサインしてないんだよ。」トントンッ
ターキンはそう言って書類の担当顧問の印鑑を押す欄に指を重ねた。
「……馬鹿じゃなけりゃさすがに言ってることはわかるだろ、
「…………。」
黒服はそれを見て不満に満ちたため息を漏らした。
自分が用意したとっておきの手札をあっという間に足蹴にされた。
「……なるほど。」
「あなたが「先生」である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要…そういう事ですか。」
「なるほどなるほど……。」
彼は興味深いとでも言いたげに首を上下させる。
何度も何度も首を振る様には少し恐怖を覚えたが。
「学校の生徒、そして先生……ふむ。中々に厄介な概念ですね。」
「それだけか?」
「……はい?」
「ただの先生じゃない。「レジデント」……その言葉を知ってるなら猶更わかる筈だろ?」
「誰に喧嘩を売ったのか……。」
俺の我慢はもう限界に近い、この際だから言ってしまおう。そうしよう。
「お前は苦しむ生徒の弱みに付け込み、尊厳を踏み躙り、己を満たすため利用した。」
「今すぐここで貴様をぶち殺してやってもいいんだぞ……!!」
もういちいち殺気を我慢するのも疲れた。やめてしまおう。
「……っ!!」
黒服は、ホシノとの長きにわたる「交流」で敵意を向けられることは慣れていると思っていた。
しかし、彼が向けたのは敵意でも嫌悪でも侮蔑でも忌避でもない……
一切の濁りがない純然たる殺意。
……ヤツは彼に「恐怖」した。地獄の悪魔を見ているようで……恐ろしくてたまらなかった。
しかしそれでもなお、黒服は態度を貫いていた。
「え、ええ…確かに仰る通り、私たちは他人の不幸よりも、自分達の利益を優先しました。」
「それを否定する気はありません。私たちの行動は、善か悪かと問われればきっと悪でしょう。」
「しかし、それは全てルールの範疇です。そこは誤解しないで頂きましょうか。」
「…そういうパターンか……。」
ルールの範疇、それがどうしたというのか。
だから子供達を利用しようと、使い潰しても問題ないとでも言いたいのか。
まともに受け止めても仕方ない、どうせ捲し立てているだけに過ぎない。
「アビドスに降りかかった災難は、私たちのせいではありません。」
「アビドスを襲ったあの砂嵐は、大変珍しいとはいえ、一定の確率で起こり得る現象です。誰か明確な悪役がいるわけではない、天変地異とはそういうものでしょう。」
「私たちはあくまで、その機会を利用しただけ。」
そこから続く黒服の言葉はとても聞くに堪えないものだった。
「砂漠で水を求めて死にゆく者に、水を提供する……ただし、一生奴隷として働いても返済できない額で。」
「ただそれだけのことです。」
彼は自らの都合で他人の人生を奪うその行為を「ただそれだけのこと」と言い放った。
彼らは「黄金律」という概念を知らないのだろうか。
もう殺してもいいだろうか。そう思っている間にもこの外道の戯言は続いた。
「さして珍しくもない、世の中にはありふれた話でしょう。何も私たちが特別心を痛め、全ての責任を取るべきことではありません。」
「私たちが初めて作った事例でもなければ、私たちがそれをしなかったところで消えるものでもないのですから。」
「持つ者が、持たざる者から搾取する。知識の多いものが、そうでない者から搾取する。」
「大人なら誰もが知っている、厳然たる世の中の事実ではありませんか?」
はっきり言って、黒服の言葉は微塵も正当性を感じない。
俺にはただの見苦しい言い訳にしか聞こえなかった。
「何もしても変わらない、だれも見向きもしない、だから何をしても自身に非はない」と、まるでそう言っているようで……余りにも陳腐な主張としか思えなかった。
吐き気がする。そんなことを長々と語ってまで子供一人に執着するのが余計に気持ちがわるい、もう飽き飽きだ。
「そういう事ですから……アビドスから手を―「無理だ」……。」
そんなことの為にわざわざそんな
「お前の言っていることは紛れもない事実だ。強者が弱者を虐げるのも、人が人から搾取するのも、そうやって利益の獲得を掲げ犠牲を強いてきたのがこの社会だ。それは何も否定できないし、する気もない…だがな。」
「それは俺が彼女達を見捨てる理由には決してなり得ない。」
俺はコイツの言葉を否定しないが……。
だが…それが我々が同じように非道を働く道理にもならない。
こんな残酷な事が常態化している世界が出来上がってしまったのは、それを許容した我々…
『大人の責任』なのだから。
ならばせめて、それは大人の間で完結すべきだ。子供を巻き込むべきじゃない。
……絶対に。
残酷な世界なんていうのは、我々は嫌という程見てきた。体験してきた。
それを彼女達の未来に、ましてや現在にまで強いるわけにはいかない。
黒服は彼の固い決意を前にして焦りを感じたのか俺に有利な条件を出し始めた。
怪しすぎてあくびすら出てしまいそうだったが。
「……何故です?ホシノさえ諦めていただければ、あの学校については守ってさしあげます。」
「カイザーPMCのことについても、私たちの方で解決いたします。」
「あの子たちもどうにか、アビドス高等学校に通い続けることができるはずです。」
「そしてこれは、他ならぬホシノさんも望んでいることのはずです。」
お前があの子を語るなよ、何がわかる。
「そのホシノを騙したのはどこのどいつだったかな?<皮肉>」
「……。」
「黒服、どんな御託を並べ立てようが俺は絶対にお前の提案に乗るつもりはない。」
「……どうして?」
「どうあっても、私たちと敵対するおつもりですか?」
「お前達自らが撒いた種だ。第一、俺はロリコンじゃない。」
そう言いながら、俺は懐に手を伸ばした。
「…先生。そのカードを使う事は―「勘違いするな。」……は?」
ターキンは懐からレーザーピストルを取り出し、彼に突き付けた。
「……!?!?!?」
「別にお前を金でどうこうできる相手だとは思っちゃいない。」
「だからアメリカ人は銃を持ってるんだぜ?」
ターキン達は「大人のカード」の力をよく理解していない。
ただのクレジットカードだと思っている。だから、これまでそれに頼ってきた事がない。
彼は壊れたロボットのように繰り返した。
目の前の現実を拒むような、哀れにすら思える挙動だった。
「理解できません!なぜ!?なぜ断るのですか!」
「どうして?先生、それは一体何のためなのですか?」
俺はもう呆れかえって殺意すら湧かなくなった。
「はぁ……ほんとどうしようもない奴だな。」
「……?」
ジャラッ……
俺は銃を降ろすと、黒服の背後にある窓のブラインドを上げた。
見せてやりたかった。
「……今夜は晴れか、いいじゃないか。」
満点の星空にサンクトゥムタワーの不思議な光が良く映えてる。
写真に収めたくなるくらい、美しい素敵な空だ。
「……どうして窓を?」
「…外を見てみろ。」
「……この街が何だと言うのですか?」
「綺麗だと思わないか?」
俺が首で街を指すと、彼は冷静に街を見渡す。
「……ええ確かに美しい夜景ですね。今夜は特に…。」
どうやら美しさに共感できる感性はあるようだ。
ならどうしてあんな真似ができるのか余計に理解しかねてしまう。
まあいい、とにかく話を続けよう。
「俺は明日も、明後日も、この景色を見ることができたら幸せだと思う。」
「……だが、それを見ることもできない人間もいる。何人いるだろう?」
「10人?100人?1000人?もっといるかもしれない。」
残念なことに、不幸な人間と言うのは必ず存在する。
あの子達の様に。………必ず。
「……そうですね、確かに残念なことでしょう。しかし私たちには関係のない事です。」
結局こいつは共感できても寄り添えない。
致命的な欠陥が露になって、俺は改めてなすべきことを理解した。
「…
そういうターキンの声は、どこか悲しげだった。
「そんな自分とは一切関係ないどこの馬の骨とも知らない人々を助けるのが、レスポンダーだった私の責任であり使命だった。」
「それはここに来た今も変わることはない。先生になってもな。」
次会うときはコイツに引き金を引く時だと思う、だから話しておこう。最期に。
俺は前置きを済ませて、自身が思う大人の世界についてこう言葉を綴った。
「社会は本来、大人が有する
「しかしこの社会を築き上げた当人である
「資本経済の勝者が行きつく先なんて大概ろくでもない拝金主義だ。」
「爆弾一つで紙切れ同然になるもんをありがたがるイカレた世の中だよ。」
それは、俺がウェイストランドで学んだことでもある。
誰かが犯した過ちの責任は、誰か取らなければならないのだ…。
そうでなければ人は………人は、過ちを繰り返す。
黒服は彼の話を聞いて、彼が思う大人の姿をこう考察したようだ。
「……なるほど。つまりあなたは大人とは「責任を負う者」だと、そう言いたいのですか?」
「…そんなもんは大前提だ。大事なのはこの後さ。」
「この何もかもがいかれ狂ったこの世のその遥か先…「未来」だよ。」
「その未来の為に俺たちが今持ってる時間を全力で使う。」
「少しでも多くの人間が救われて、豊かに生きられるように。」
俺の出した答えを、黒服は否定する。
「先生、その考え方は間違っています。」
「大人とは、望む通りに社会を改造し、法則を決めて、規則を決めて、常識と非常識を決めて、平凡と非凡とを決めるものです。」
「権力によって権力の無い者を、知識によって知識の無い者を、力によって力の無い物を支配する、それが大人なのです。」
「そもそもあなたが語るそれは理想論にほかなりません、人間の愚かさというのは、そのプロセスに適応できないんです。何度も観測してもう結論はでているんです。」
黒服の大人という存在に対する認識は……諦観と自暴自棄もあるようだ。
「自分とは関係の無い話、なんてことは言わせません。」
「…言えないだろうな……。」
実際俺たちは……核爆弾という力をアパラチアで手に入れていた。
だが、黒服が言いたいのはそういったことではないのだろう。
「……あなたは、このキヴォトスの支配者にもなり得た事を覚えていますか?」
「この学園都市における莫大な権力と権限。そしてこの学園都市に存在する神秘。その全てが、その時あなたの掌の上にありました。」
「…そんなこともあったかな。」
「しかし、あなたはそれを迷わず手放した。」
「俺には無用の長物だっただけだ。」
あのサイロの核ミサイルも、我々には過ぎた代物だった。
黒服は頭を抱えていた。
「……理解できません。一体その選択に、何の意味があるのですか?真理と秘儀、権力、お金、力…その全てを捨てるなんていう無意味な選択を、どうして!」
捲し立てる黒服に俺は……
「俺とお前じゃ、見てきたモノが違うんだよ……。」
「同じ壊れた世界に見えて、それでいて全く違うんだ…。」
黒服は惜しむような素振りを最後まで残しつつ、ようやく観念した。
「……良いでしょう。残念ですが交渉は決裂です、先生。」
「私はあなたのことを中でも特に気に入っていたのですが……これは仕方ありませんね。」
はぁ……毎度のことながら、気味が悪いのに好かれたものだ…。
「……先生、ホシノを助けたいですか。」
「この命に代えても。」
黒服はそのやや自己犠牲的な決意には難色を示したが問答が決着した今、今更何を言うこともできないので大人しく彼女の居場所を話した。
「ホシノは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある実験施設にいます。」
「「ミメシス」で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適用することができるのか……そんな実験を始めるつもりです。」
「そう、ホシノを実験体として。」
「……そして、もしホシノが失敗したらあの狼の神が代わりに、と思っていたのですが……ふう、どうやら前提から崩れてしま―ウゴァッ!?
気が付いたころには奴の鳩尾にボディーブローをねじ込んでいた。
チーン…[クリティカルヒット:黒服]
しまった。ホシノでとんでもない実験をしようとしていた上に、シロコまで狙っていたことについ堪忍袋の緒が切れてしまった。
「……すまん、クズの所業過ぎて我慢ができなかった。」
「い、いえ……配慮に欠けていました……うぅっ、じわじわと痛みが…」ビクッ…
「……。」
「と、とにかくそういう事ですのでイタタ…。精々………頑張って……生徒を………助けると………良いでしょうッ…………うッ!」
凄く悶えてるのをただ見ているのも何だか忍びないので、一応スティムパックを一本渡した。
敵に塩を送る時というはこういう気分なのだろうか…。
コイツは徹頭徹尾情けない存在として俺の記憶に刻まれた。
―───────────────────────────────────────────
とにかく、これでホシノの居場所は分かった…が、
「その、殴った手前聞きにくいのだが……」
「……なんでしょうか……まだなにか?」
「『梔子ユメ』の遺体はどこだ?」
そう、彼女の先輩の遺体の在処だ。
「…………知っていたのですか…あの『冥界のオシリス』の事を。」
やっぱりコイツらの仕業だったか。……どこまでも腐った連中だ。
「……ツテがあっただけだ。」
「……彼女を使った研究は、あまり芳しい成果を得られませんでした。」
「生徒のヘイローが消えた状態での実験は、リスクが大きかったのです。」
「得られたのは…キヴォトス人が意識を失った際の身体のデータくらいです。これはこれで中々興味深いですが、我々が求める研究とは乖離があります。」
「なので私たちは彼女を持て余していました。」
「お前、生徒の遺体に何をした?」
私がキレ気味に問い質すと、彼は笑い始めた。
「遺体……ですか……クククッ。」
「何がおかしい?返答によっては鳩尾じゃすまないぞ。」
今にも殴り掛かってきそうなほどの怒気に圧倒され、黒服は弱腰になる。
「まあまあ…しっかりお答えしますので、どうかご容赦ください。……本当に」
「…お前の態度次第だ。」
一呼吸を置いた後に黒服が出した回答は……「意外」だった、そう言うしかない。
この世界の生徒の頑強さには驚いた。
「厳密には、彼女はまだ死んでいません。その分、相当苦しい思いをしたようですが……。」
「どういうことだ?」
「ユメは発見当時、重度の脱水による仮死状態にありました。」
「私たちは彼女の探究をはかるため回収し、彼女を回復させるためあらゆる治療法を試みました。」
「結果、何とか危機的な状態を脱っすることには成功しました…。」
「ですが、目覚めさせる方法は……残念ながら未だ不明です。私たちがこれまで講じてきた手段では、彼女の意識を覚醒させるには至りませんでした。」
「……ですがあなた方なら、もしかしたら彼女を目覚めさせられるかもしれませんね。」
「……それで、彼女を引き渡すつもりは?」
黒服はさもユメを引き渡すような素振りを見せたが、そう簡単に事は運ばなかった。
「条件があります。」
「そうだろうと思ったが……なにが欲しいんだ?」
返答次第では、俺は今すぐにでもゲマトリアの本拠地に乗り込むつもりだった。
「もし彼女が目覚めたら、それまでに行った事、またそれによる結果等の、詳細なデータを渡してください。」
それを条件として提示したのはよっぽどのものではないが、また何か企みがあるのだろうと容易に察せられる内容だった。
でがそんな事を懸念しても今は他に仕方がない。俺はその条件を呑んだ。
「……わかった、条件を吞む。」
「ではこの件に関しては交渉成立ですね……ククククッ。」
「それでは彼女は後日、私たちのデータと共にシャーレに渡すように手配します。」
「わかった…それじゃあ……。」
「ええ、今夜はお互いにとても貴重な時間でした。」
「微力ながら、私もあなたの幸運を祈ります……。」
用が済んだため、俺がそこから出ようとした時だった。
「いえ……やはり待ってください。」
「……まだ何かあるのか?」
「これ以上長居したくはないんだが……。」
「ターキン先生…もし一人でカイザーの基地に乗り込むつもりなら、一つ忠告します。」
「外ならぬあなたの為にです。」
彼がわざわざ引き留めてまで伝えておきたいこと………それは、
「カイザーは今、新兵器を開発しています。」
「……もっと早く言ってくれよ。」
「一つは、あなたから得たPAを基に設計した強力な
「二つ目は、彼らが雇った生徒の兵士を触媒に、オートマタに神秘を持たせる実験により生れました。」
彼が明かす、カイザーの切り札。
それは同時に、恐ろしい事実を秘めていた。
「……もったいぶらずに教えてくれ。」
「この自動兵士達は、ある存在の名を借りてこう呼ばれています。」
「その名も……オートマトン」
ホシノやユメだけでなく、部下の生徒までも毒牙にかけて兵器を生み出した……そんな話を聞かされた彼が、大人しく黙っていられるはずもなく……。
「お前らなぁ……ホシノやユメ飽きたらず……この下衆共が…!!」ググッ
「ど、どうか落ち着いてください!……カイザーからの指示だったのです。」
ターキンは黒服の首を刎ねる寸前のところで我に戻った。
「なんで……そんな物騒でおぞましいモノを作った?」
カイザーがそんなモノに手を染めた理由…黒服が語るそれは、唾棄すべき内容だった。
少ないコストで、より強力な力を兵士に持たせる。
それがカイザーPMCの当時の目的でした。
そこで理事は我々の神秘に関する研究に目をつけたのです……。
神秘の供給元となる
生徒には途轍もない精神的負担が強いられますが、幸い死ぬことはありません。
ただ機械が稼働する限り、流し込まれる恐怖を味わい続けるだけです。
効率を重視していたカイザー理事はこれを容認し、オートマトンを量産させました。
その果てがない悪行に、ターキンは一層カイザーへの憎悪を強めた。
「私も最初は反対しました…そんなものは、私や他のメンバーの美学に反しています。」
「中にはそれを重要と思っていない者もいましたが…。」
「お前らの美学なぞしらん…はぁ。」
彼はもう怒りを通りこし、返って冷静になる段階に突入した。
「それで……その子達は今どこにいる?」
「好都合にも小鳥遊ホシノと同じ場所にいます。」
「わかった。」
「最後にターキン先生。……ゲマトリアはあなた方をずっと見ていますよ。」
「もう好きにしろ、だがシャワーは覗くなよ。」
軽口交じりにインベントリを確認すると、瓶を一つ取り出した。
「……どうかされましたか?」
「いや、貴重な情報を貰ったわけだからな。それに借りを作るなんざまっぴらごめんだ。なにを言い出すかわかったもんじゃない。」
「おやおや…口実にはもってこいだと思っていたんですがね。」
「全く…ほらよ、俺の故郷のバーボンだ。それとRAD-X…栓を開ける前に飲んでおけ。被曝したくなかったらな。」
黒服は意外そうにしながらも、素直にそれを受け取った。
「それはまた貴重な品を……ご丁寧にありがとうございます。」
「しかし……放射能汚染はどうにかなりませんかね?」
「野暮な事を…その為のRAD-Xだ。嫌なら返してくれもいいんだぞ?」
「い、いえとんでもない!ありがたく頂戴します。」
「そうか………じゃあな。」
「はい、今度はきちんとクアンタム・ハーモナイザーを用意しておきますね………ククククッ」
「………知ってるんじゃねえか。」
彼は物々しい雰囲気を放っていた建物を去り、アビドス砂漠へと向かった。
「よぉし、待ってろホシノ…生徒達……必ず助けてやる………!!」
その途中、ターキンはペスコフに電話をかけた。
プルルルル…
『ターキン、どうした?』
「カイザーはもう来たか?」
『…12時の方向、2㎞先…。もうすぐ交戦開始距離だ。』
「そうか……なら頼む、奴らを一体残らず破壊してくれ。」
「あいつらは…生徒の恐怖を糧に動いている。」
「命すら…蝕んでいる。」
『了解。確実に殲滅させるよう、他の者にも通達しておく。』
「ありがとう…。」
『ターキン。』
「なんだ、ペスコフ?」
『無茶はするな。必ず生き延びろ。』
「……わかってる。」
ピッ
電話を切ると、彼は走り出した。
彼女達は…必ず救ってみせる……。
あの子達の未来は…誰にも奪わせない。
―───────────────────────────────────────────
「ぐぬぬ…まさか奴の他にもシャーレがいたとは…!!」
「…引き揚げますか?」
「いや……ここまで来て今更引き下がることなどできん、奴らを徹底的に叩き潰し、我々の強大な軍事力を思い知らせてやるのだ!」
「そしてこのアビドスを必ずこの手に収める。………部隊と通信を繋げろ。」
「はい、直ちに。」
時を同じくして、アビドスは市街地の北の境界にて、カイザー率いるオートマタの大群がペスコフを指令とするシャーレ率いるオートマトロン及び生徒の混成部隊がお互いに睨みあっている。
奴らの兵士の中には、恐らくパワーアーマーを基に開発したであろう人型兵器も見える…。
かなり独自の設計が施されてされているようだが。
特に背後のジェネレーター…恐らくは、フュージョン・コアがない分、アレで電力を賄っているのだろう。
何とお粗末な設計だろうか……。
彼が粗末と評するそれはPAのシャーシをベースに重戦車の装甲を加工して取り付けた模倣品。
ご丁寧にRAL-1002*2で砂漠地帯用の迷彩まで施されている。
セントリーボットに似たモノアイの様な光学センサーが連中の趣味の悪さをこれでもかと知らしめてくる。しかし、あの模倣品にもそれなりの性能はあるらしく、連中はミニガンや20㎜機関砲をはじめとし、多連装ロケットポッド等を片腕に装備させていた。
『我が優秀なPMC諸君!時は来た!』
『今こそ!我々はこのアビドスを占拠するのだ!!』
『行けェ!!』
カイザー理事が無線でPMCに突撃命令を下した。
『パトリオット!*3理事が突撃を命令した、連中まとめて突っ込んでくる気だ!』
オズワルドが敵の無線を傍受し、ペスコフに伝える。
「そうはさせんさ、ガンマン!*4ギアーズ!*5あいつらの出鼻を挫いてやれ!!」
勿論こちらも大人しく敵の突撃を許すつもりはない。
『こちらガンマン了解。』
『同じくギアーズ了解。これより射撃態勢に入る、最低限の安全距離を確保されたし。』
「さぁて、オズんとこの生徒が寄越した
カチッ
エドワードは懐から取り出したリモコンでハルカから拝借した余り物のC4を起爆した。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
「イヤァッホーーーイ!!やっぱり爆発はロマンだぁ!!」
「こりゃあ効果大ありってやつだぜ!ギアーズ!連中に追い打ちかけてやれ!」
「よぉし、待っていたぞ…この瞬間を!!」
エドワードから合図を受け取るとグーンズは嬉々としてドアガンを構えた。
キュィ――ン…
『アド・ヴィクトリアアアアアアアアアアアム!!!』
5㎜ミニガンから換装したガトリング・プラズマの機銃掃射が敵陣の爆炎めがけて炸裂。
ビーム・スプリッター改造から繰り出される緑の光弾の嵐は爆心地を忽ちプラズマ粘液の海に変えた。
結果、彼らはペスコフの命令通りに出鼻をへし折ることに成功した。
「エフェクティブ!概算で見積もっても約2個小隊の壊滅に成功!」
『よくやった。』
『しかし油断はするな。連中はまだまだ大勢やって来るぞ!』
ペスコフの警告も束の間…
ヒュオオオ―――……
ドオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!
敵のMLRSから放たれたミサイルが粘液地帯を目掛けて着弾。
荒業ながらも障害を取り除きPMCが市街地目指して殺到した。
『警告:敵が粘液ゾーンをミサイルで破壊。多数の輸送車両が境界線に接近しています。』
セントリーボットの報告から直後、敵を乗せた何十台ものAPCトラックが砂丘を滑り落ちるように市街地に向け迫ってきた。
つまりカモがネギ背負ってやってきたというわけだ。
「ダイハーズ*6、支援砲撃の準備は?」
オズワルドはいつの間にかのダイハーズの名をターキンから襲名していた。
『あいよパトリオット!』
ペスコフの要請を受けたオズワルドはそのまま無線のチャンネルを変えた。
「ヒフミ、座標T-15に向け砲撃支援を頼む。」
『了解、要請を確認しました!アビドスのお友達の怒りを思い知らせてやります!』
「OK!その意気だ!」
数秒後、空から緑の飛翔体が無数の兵員輸送車を襲った。
熱波を伴った緑に輝く爆発を確認すると、オズワルドはヒフミ達を称えた。
「よし、命中だ。よっくやったなぁでかした!あいつら全部ドロドロだ!!」
『え、えへへ…//』
ペスコフ特製プラズマ弾の威力は凄まじく、APCの装甲は瞬く間に粘液と化し、内部が露出した。
後で生成された核物質を頂戴したいところだが…恐らくそんな余裕はないだろう。
ドゴオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!
付近で激しい爆発音がした後、ブラボー部隊から無線が入る。
『こちら識別番号480ガッツィー軍曹、多数の敵歩兵を乗せたAPCをエリア内に確認!これより徹底的に交戦します!!』
「何っ!?」
直後オズワルドからペスコフに通信が入る。
焦りで声が震える中で伝えた内容、それは先の部隊は罠だったという事だった。
『しまったパトリオット、あの部隊は囮だったんだ!APCは空っぽだ!!』
『カイザーの本隊はもう西側から市街地に入ってきてるんだ!』
ペスコフは勝つ為なら味方すら消耗品の様に扱う姿勢に憤りを覚えた。
「カイザーめ、自分の部下すらも使い捨てるとは……指揮官の風上にも置けん!!」
怒りを再燃させた彼は無線で全体命令を下す。
「…全ユニットに通達、敵が西部から防衛ラインを突破し市街地に侵入した。」
「以降の戦闘による建物への損害はコラテラル・ダメージ*7とする。」
つまりどれだけ派手に暴れようと問題なしという事だ。
民間人の避難が完了していて本当に良かった。
「諸君!ここからが本番だ!」
「このアビドスから始まったありとあらゆる苦しみを!今こそ思い知らせてやれ!!殲滅しろっ!!」
「遊撃戦開始ィッ!」
彼の命令でレジデント達の士気が一気に高まる。
『了解!!』した!』だぜ!』だ。』
ヤる気に満ちているのはなにも彼らだけではない。
「対策委員会。君達も参戦の用意はできてるな?」
彼が振り返るとそこには鋭い目つきをした対策委員会の面々…
シロコ、ノノミ、セリカがいた。
『勿論です!ホシノ先輩の為にも全力を尽くします!』
「これ以上、あいつらにここで好き勝手なんかさせないんだから!」
「ん、私たちの居場所は私たちで守る。」
「必ずこの学校を守り抜きます!」
彼らの意志を見てペスコフは微笑む。
「うむ、意気込み十分で実に結構!存分に戦え!」
ペスコフが彼女達に激を飛ばし見送ると、ヒナが彼の傍に来る。
「…先生?」
ペスコフは彼女の心を察し笑みを保ったまま言う。
「わかってるさ。私も前線に立つ。」
「頼りにしているぞ…ヒナ。」
「……っ!!うん、任せて!先生!」
ペスコフはエンクレイヴの塗装が施された愛銃の『MG42』を脇に抱え、ヒナと共に発った。
ブチギレるターキン、鳩尾を負傷した黒服。生きてるだけありがたいと思え。
そして明らかとなったユメの行方とオートマトンの存在。
とういうわけで遂にアビドス戦争大勃発!ペスコフ達は無事にカイザーを撃退できるのか?カイザー理事は生きて明日の朝を迎えられるのか?(個人的には迎えて欲しくない)
そして、単身基地へと向かったターキンの運命は?
ってことでまた次回をよろしくお願いいたします。
余談ですが察しのいい読者なら気づいたかと思われます。実は作者、最近ヘルダイバー2にハマってるんです。なのでオマージュさせてもらいました。デカグラマトンともかかってて丁度いいと思ったんです。一応、全くの別物なので多重クロスとかじゃないです。他作品ネタではありますが……。
あとペスコフの愛銃は絶対にMG42が良かったんです。
ゲームではライトマシンガンって名前で登場してますが、この武器のエンクレイヴ塗装の存在でヒナとの運命的なサムシングを勝手に感じました。
それでは今回も読んでいただきありがとうございます。
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