ちび先生とゲマトリア会談   作:うろ覚え

1 / 4
ゴルコンダ&デカルコマニー

 

 

 

 暗い秘密の場所だった。家具も生活感も無い、室温と湿度を一定にする為の空調が静かな稼働音を響かせるだけの、それでいて嫌に足音が反響する場所だった。

 

 ただただ広い正方形の室内の中央にアンティークの丸机と簡素な椅子が外から漏れ出る月光に照らされて飴色に光っている。机には砂糖壺とミルクポットを挟んでエスプレッソの小さいカップが1つ。

 

 長時間煮出されたかのように濃縮された苦味を啜りながら、私は彼との初めての出会いを思い出す。

 

「少々故あって、このような形で貴下に挨拶することとなりましたが……背を向けた状態での挨拶となるご無礼、どうかお許しくださいませ。わたくしにはこれ以外の方法がありませんもので……。」

 

「まあそういうこった!」

 

 初めの印象は慇懃な紳士といった口調の人物で、なんと言うか。そう言うことなんだろうなと思った。本人自身もそう言っていたし、そう言うことなんだろう。先生として見れば彼等は生徒達の障害を創り出した大人で打倒すべき困難の一つだが、特別嫌いではなかった。そして、全てが終わったら取り敢えず、話してみようとも。

 

「それで、先生はテキスト。文学的とは何かわかりますか?」

 

 写真に映るシルクハットを被った紳士が私に背を向けて話を切り出した。ざわつく様な暗闇に落ち着いた雰囲気が流れ始める。

 

「見えないものに焦点を当てる記号、と認識しているよ。」

 

 写真の中の紳士が無言で続きを促した。

 

「僕がいた外の世界には『背を焼く様な借金』と言う表現があった。さて、この表現について疑問が出てくる。先ず、背を焼くと言うのは精神的な焦燥感を表した肉体的な反応だ。つまりは落ち着かない、居ても立っても居られないと言う精神・肉体的反応を同時に表している訳だけど、その焦燥感は借金から来ている。では、具体的な借金の金額でコレを表現しないのは何故だろうか。人によって焦燥感を感じる金額は異なるからだ。今、10億円の借金がある子供たちが楽しそうに日常を過ごしている。彼女達にとって10億円の借金は『背を焼く様な借金』では無い。唯の、団結する理由であって解決すべき問題でしか無い。大きい壁であっても乗り越えられる目標でしかない。僕は具体的な金額を敢えて表現しないのは読み手にその焦燥感を強調したいからだと思う。次に、借金は焦燥感を与える絶対的なものか。当然だけど、そんなことは無い。キヴォトス内で経営される店舗のうちで借金が無い店舗は少ない。日常的に店舗は爆破・解体され、それでも経営していける。つまりは利益が出るものだと判断されている事実がある。借金と言うのは表向きでは所謂マイナスのイメージを持たれるが、実際にそれ以上の利益が出ているから経営されてるんだ。つまり、『背を焼く様な借金』と言う言葉はその様に感じている人間の精神・肉体面を表現するだけに留まらず、その人間の幼稚さと不真面目さや孤独感をも説明している。」

 

 多く群れていれば一人あたりで考える事が出来る。それが実際には意味のない計算でもそれに縋る事で精神の安定を図れる。それに、万人での借金と一人での借金では意味や感じ方が違ってくる。人は得てして相対的に判断を下す為に周囲も借金を背負っていると考えればそれ程苦痛に感じなくなるのだ。

 

 私は目の前のエスプレッソに砂糖を山の様に入れて掻き混ぜる。カップの底には溶け切らなかった砂糖が金色のスプーンに当たってジャリジャリと音を立てた。

 

「唯の文字が僕の心を揺さぶるのは何故だろうか。知らない場所を世界を感情を、読み手の胸の奥から湧き出す情報となって伝える。唯の文字を見て傷付き泣いて支えられて笑う。文章を見て作者の胸中が人生が考え方が知識が見える。国語で子供達のテストに作者の考えている事は何かと問いかける問題を出すのはその為だよ。」

 

「ええ、私も同じ考えですよ。しかし、先生。それではテキストで在る必要は無い。絵でも感情や知識を湧き出させ、眼に見えない物の説明出来てしまう。だからこそ、先生にお聞きしたい。貴方の考えるテキストを。」

 

 私は舐める様にエスプレッソを口に運ぶ。濃厚な香気が鼻に抜けて溶け切らない砂糖が舌の上で雪の様に溶けた。

 

「うーん。テキストは脳で考える。文字は物質的では無く、個人の感じ方に偏るが故にどの様にでも変化する。かな。絵画は・・・連続する時間が線とするなら点、だと思うよ。『この様に在れ』って外箱を決める物質的なやり方。テキストは個人の心や精神に、より直接的に作用するが故に、知性から感情を湧き出させる見たいな?上手く言葉にするのは難しいけども。ワインの評価をする時に文字で『花束を目の前に持ってこられた様な複雑で胸がすく様な甘い香りと豊潤な果汁感が熟成されてより厚い熟成感を齎している』って書かれていても経験が無いと想像出来ないからね。テキストは知識が前提に無いと扱えないかなって。」

 

 ちびちびとカップを傾ける。

 

「成程、先生の考えはわかりました。至高を目指す私たちにとっても自分の考えだけに囚われるだけでは高みに至れませんので・・・うん?」

 

 ゴルコンダは先程の言葉を噛み締める様に頷いた後に違和感に気付く。

 

「ちょっと待ってください先生。貴方12歳ですよね?なんでワインの評価なんてしてるんですか!?」

 

「えっ?ベアトが一緒に飲もうって。」

 

 さも当然だと言わんばかりの声で先生が疑問に答えた。

 

「はい?ベアトリーチェが生きていると?」

 

「当たり前じゃん。先生として、生徒に人が死ぬ所なんて見せられないよ。」

 

 彼女の治療をひっじょ〜に渋る生徒達に「医療関係者が人の好き嫌いで命を弄んではいけないよ。」と説得して治療して貰った経緯がある。治療後のベアトはキレ散らかしてたけど負傷している状態で暴れても直ぐに取り押さえられる事は理解していたらしく、適当な場所で放逐する迄は煩いだけだった。実害が無い分ゲヘナよりマシだからヨシっ!

 

「なる、ほど。貴方は何処までも先生なんですね。して、先程の話で気になったのですが先生から見て、我々はどの様に映りますか?」

 

 余り、纏まったことは話せないけどと前置きをして思っている事を言う。

 

「ゴルコンダは非実在なんでしょ?理性が頭脳に宿ると考えるなら、切り替え可能なデカルコマニーの精神がゴルコンダの機能かなって。文字を書く作者として自分よりも作品を見てほしいから後ろを向いてるのかなと。それか、自分の精神だけを見てるから?って事はフランシスは前向き?」

 

 肉体と精神が切り離せない関係で在る為に彼等は相棒で、知性と理性を司る部分のゴルコンダを常に肯定する肉体部で在るデカルコマニー。

 

 喜怒哀楽に人名を付けて自分の意思で取り換え可能ってイメージ。知らんけど(大阪おばちゃん)。

 

「デカルコマニーは自分を虚像って言ってたけど、スクリーンに映せずに実物より大きく見えるって意味なら、実物より背伸びしてるんだと思ったんだよね。後は、不死じゃ無くて実物に攻撃していないから本体に影響を受けないのかなと。」

 

 君達、自分の事を小生って書くタイプでしょ。

 

「ちょっと待ってください先生。私は今混乱しています。」

 

 こうして腰を据えて先生と話すのは今回が初めてであった。今回も悪い大人として自分の情報を秘匿するだけの慎重さは持ち合わせているからこそ、ジャミング等の備えは万全として来た。それでもこの先生は此方の事を丸裸にしようと芯を付くような口撃を与えて自身を動揺させてくる。

 

 普通、大人は思った事をそのまま言わない。ある程度社交性を持った人物ならば明け透けに「貴方の弱点はここでしょ?」と問い掛けないし、知ったらマズイ事だって理解している。12歳とは言え先生の知性はその年齢からは考えられない程に成熟しており、故に生徒を連れて来ていない状態でこうもズカズカと此方に踏み込むその精神性が理解出来ない。コーヒーを啜る先生を横目に見ながらたっぷり10分程の時間を掛けて言葉を紡ぐ。

 

「先生、もう一度お聞きします。貴方から見た私は何でしょうか?」

 

 二度も尋ねる意味は伝わる筈だ。

 

「迷子の子供。」

 

 そして、間も無く答えられた。

 

「ご説明願えますか。」

 

「大人と子供の区別は年齢じゃ無いと思うんだよね。残念な事だけどデカくなっただけの子供も居る。夢を持つのは良い事だけど、だからって他人をどう扱っても良いって事じゃない。自分たちで悪い大人を名乗っている辺り自覚があるみたいだからね。単純に理性と本能のバランスが取れていない。キヴォトスは学生が統治しているせいで抜け道が余りにも多いけど、子供が必死に決めたルールの穴を突くようじゃ大人気ないって思うよ。」

 

 ゲマトリアが取る手法はいつもグレーゾーンだけどさ。

だからセーフって如何なの?

 

「では、迷子とは?」

 

「君達は至高へ至る道が今迄と違って見えてるね。ペロロジラ戦では君達二人の自論を聞いたけど、今はこうして僕の考えを聞いている。自分が正しいなら他人の意見は必要無いし意見を交わす必要も無い。個人で完結しているべきだ。最初はゲマトリアと同じく僕の考えを聞いて自分の考えを補強若しくは別視点で見る事を目的にしてると思ってたけど「それではテキストである必要は無い」と君は言った。自分で自分のした事を否定するのは迷いが出ている証拠だよ。」

 

「私は・・・自身の崇高へ至る道を疑った事はありませんが、それでも迷っていると?」

 

「崇高って要は『何でも出来るようになりたい』って事じゃないの?最強で最高になりたい。カイテンジャーみたいに皆んなにチヤホヤされたい。子供が寝物語として夢想することを本気で叶えようとしてる。

今までのそれは主観的な作品を創るだけで読み手の事を考えていなかった。今は違う。君は少なくとも僕との対話が必要だと思った。世界を主観では無く、客観する為に。

今後の作品は今までと違ったモノになる。だから僕は君を応援したい。子供の夢を大人になっても叶えようとしている君達を応援したい。」

 

 僕は先生だからね。と言って、先生は口を閉じた。

 

 私は、よく考える。今回の会談を噛み締めて、とても良く考えた。そして理解した。彼は、今回の対面に於いて話を重ねる内に、本気で私たちをデカいだけの子供だと考えている。そして、彼にとって子供を助けるのはそれが当たり前のことだった。彼は、このキヴォトスで自分の生徒達だけで無く、大人にとっても先生だったと言うだけの話だったのだ。

 

「・・・そうですか。先生、わたくしの不安の霧は晴れた。本日は助かりました。いずれ、また貴下に見える事となるでしょう。」

 

 「うん、よかった。コーヒーご馳走様。」

 

 先生が席を立つ。革靴が奏でる軽快な音が響いては消えていく。

 暗い部屋には空調の可動音だけが残された。

 

 

 

 




先生設定
・12歳ショタ。
・生徒を助ける信念を持ち合わせるものの、個人に対して好き嫌いはハッキリしている。区別も差別もしないが平等に扱う訳でも無い。
・精神、味覚は大人寄り。
・法を遵守しない。というかキヴォトス内の法がガバガバで機能していないと考える。
・ぶちK◯R◯した方が良いのでは?と思う生徒が数名いる。
・特別好きな生徒は居ない。というか、先生だから相手してるだけであんま好きじゃ無い生徒の方が多い。
・ゲマトリアは敵だけどベアトリーチェ含め嫌いじゃ無い。
・誰かに抱き付かれて居る場合が多く、抱き付かれた際に息が出来ない為に巨乳が嫌い。抱きついて来る奴も基本嫌い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。