並行世界は魔法の世界でした 作:ホラータイム
「あちら側」の世界は、「こちら側」の世界と、全く同じ星の大きさ、大陸の形をしていた。
同じ植生、同じ動物、同じ人類。
いわゆる平行世界なのだろう。ほかにも様々な点で似たような世界だった。
しかし、人類の歴史の始まりは大きく異なっていた。
人類のもっとも重要な起源は、様々な説があると思うが、ここでは「火」との出会いを挙げよう。
たまたま落ちた落雷による火災で、人類は火の存在を知り、それをきっかけに生活を変化させ、進化し、現在の科学文明を築いてきた。
生物学、化学、物理学、地学、医学。
それが全てとは言わないが、「火」が、人類の科学技術の起源の1つといっても、過言ではないだろう。
しかし、それは「こちら側」の世界でのこと。
「あちら側」の世界での人類発展のきっかけは「魔法」であった。
人類の先祖である類人猿。その中に、まさに奇跡的な突然変異とも呼べる個体が誕生した。
その突然変異体は、生まれつき、大気、大地、海の3界に満ちる、後に魔素と呼ばれるようになる粒子を、感じ取ることができたのだ。
突然変異体は、周りに感じるその魔素で遊んでいた。
すると、あることに気が付いた。自分にまとわりついてきた魔素は、体の中に取り込まれ、自分の思った通りに操作できることに。
突然変異体は、さらに面白がって、それをたくさん集めてみた。そして、魔素を限界まで1ヶ所に集中させ、それ以上集められなくなった魔素を、前に放出してみた。
打ち出された魔素は、重い衝撃となって、数m先に打ち出された。木の幹に激突し、表面が抉れて、大きな破砕音が鳴り響いた。
それが、人類初の魔法となった。
その結果に驚いた、突然変異体は、怖くなり母親の懐へ逃げ込んだ。突然飛び込んできた我が子に、母は戸惑いながら、子を落ち着かせる。
すると、そこにそのコミュニティのリーダーがやってきた。リーダーは、不審な行動をする子供を見つけて、近くで見守っていたのだ。
――この子には、何か不思議な力がある。
そう母に伝えたリーダーは、突然変異体に問う。
――その力を、今度の狩りに使ってみろ。
コミュニティにおいて、リーダーは絶対。子は否応なく頷いた。
その後、魔法を使い、瞬く間に狩りで成果を上げた突然変異体。
時がたち、突然変異体はコミュニティのリーダーとなった。そして、子を成すこととなったが、皆は驚いた。
突然変異体の子も、魔法を使うことができたのだ。
瞬く間に、雄個体だった突然変異体のハーレムが形成され、コミュニティには、魔法が使える子であふれた。
さらに時がたち、そのコミュニティは、様々な魔法を扱うものが現れた。
身体能力を激増させる者、自分体の表面に、強力な盾を作る者、水の上に立つ者、小さいながら、火や水を出すことができるようなった者、魔法で物体を生成するもの。
世代交代のたびに、魔法は研究され、洗練されていった。
そのさらに後、別のコミュニティと争うことになった時も、魔法による圧倒的な力を用いて、連戦連勝。他のコミュニティを併合しながら巨大化していき、いくつかの国に分かれながら、いつしか、その星の上に、魔法を使えない人類はいなくなった。
その頃には、魔法は生活、戦争、ありとあらゆる技術の基盤となり、魔法で全てを生み出す、まさに大魔法文明が構築されていた。
魔法でエネルギーを生み出し、魔法であらゆる道具を作り、魔法で争いを制してきた。
故に、魔素由来以外の自然現象の解明は、遅々として進んでいなかった。
大体のことは、魔法を使うことによって、解決ができたからだ。
そんな折に現れた、あらゆる魔法的手段を用いても、観測できない謎の門。
軍による警備に囲まれつつ、魔法学者達が必死に議論している。そこに、門の方に異変があった。
門から手らしきものが現れたのだ。
手はすぐに引っ込んだが、それを見た魔法学者達は、大いに沸いた。この門ともいうべき物体は、転移魔法の入り口なのではないかと。
転移魔法は、構想こそされど、現実には不可能と一蹴されて久しい技術。その実物が目の前にあるかもしれないと、魔法学者達は、喜び勇んで門に飛び込もうとした。
そこに待ったをかけたのが、警備を任されていた軍の指揮官だった。
門が、仮に転移魔法だとしたら、門の先がどこにつながっているか分からない。我々が先行調査を行うので、皆さんはその後に続いてほしいと。
魔法学者達も、一反冷静になり、軍に門の先の偵察を任せることにした。
指揮官はすぐに、信頼のおける兵士1人を選んだ。
――門の先は、どうなっているか分からない。門に入ったら5分以内に帰還せよ。帰還しなかった場合。危険と見なして、門の破壊を試みる。
そう命じられた兵士は、決死の覚悟を決めて、門に入ろうとした。
兵士が門をくぐろうと歩みを進めたその時。門から、先端が光る、黒い棒状のものが突如出てきた。
それは、あまり見覚えのない物だったが、長年、戦場で戦ってきた指揮官は似たようなものをよく見てきた。なので、咄嗟の指示を、門を囲んでいた兵士に向かって出した。
――それは、魔法補助具かもしれない!すぐに破壊せよ!
門とは距離があったので、身体拡張魔法は届かない。よって、兵士は威力は低いが射程のある火砲魔法を発動した。
鈍い音と伴に、黒い棒に衝撃を与えた火球。
見事に命中し、黒い棒を門の向こうに戻すことに成功した。
そこで、指揮官は間伐いれずに、突入予定の兵士に命じた。
――敵は混乱しているはずだ。今の隙に突入し、門の先がどうなっているか観測してこい!
命令を聞いた兵士は、門に突入した。
…時がたち、約束の5分が迫る。
門の破壊を、指揮官が検討しだしたその時。兵士が勢いよく門から飛び出して叫び始めた。
――敵が門からくるかもしれない。全員警戒体制!
門を囲んでいた兵士たちが、一斉に魔法をいつでも打てる状態に準備した中……いつまでたっても、誰も門から出てこなかった。
兵士はすぐに保護され、身体検査が行われた。結果は、足の軽い打撲があるだけで問題はなかった。
すぐに指揮官は、帰還した兵士に、門の先で何があったのか尋ねた。
――門の先には、我々の国と似たような建築物、人類が存在しました。私を取り押さえようとしてきたので、身体拡張魔法を使用して、反撃したのですが、魔素反応が何もないのに、見えない何かに攻撃され、足を撃たれました。幸い、防御魔法を貫くほどではなかったので、なんとか門にたどり着き、帰還することができした。
指揮官は困惑した。魔素反応のない、つまり魔法ではない攻撃とは、一体なんなのかと。
門の先は、全く違う文明があるらしい。――そして、やはり我々に敵対的らしい。
先に武器のようなものを、門から出してきたのはあちら側である。指揮官は、門の先に未知の野蛮な敵がいることを確信した。
それから、指揮官の指示で、すぐに魔法による結界で門を囲んだ。そして、上層部にはこう報告した。
――かの未知の物体は、別の場所とをつなぐ転移門でした。門の先には魔法のない文明があり、かつ我々に対して、真っ先に武器を突きつけた野蛮な者達でした。
上層部は悩んだ。魔法のない文明など信じられなかったのだ。しかし、指揮官は信頼のおける優秀な人材。その言葉が嘘であるとは、誰しもが思わなかった。
そこで、1人の強欲な者が声を上げる。
――魔法のない未発達な文明など、取るに足らない。門の先を制圧して我が国の領土とするべきではないだろうか。なあに、先に攻撃してきたのはあちらではないか。大義は我らにある。
結果的に言うならば、その言葉を支持する者が多かった。
体から離れるほど、操作性、威力は減衰する。よって、魔法は攻撃魔法より、体の表面近くに展開する防御魔法の方が、基本的には強かった。
この性質から、戦争での戦いは、死者が少なく、負けても魔素不足による気絶で済むことが多かった。
よって、国同士の争いは、戦争で決めることが、歴史的にもに多かった。
戦争への抵抗が非常に薄かったのだ。
このように、2つの世界のすれ違い。価値観の違いが、長きにわたる戦争の引き金となった。