並行世界は魔法の世界でした   作:ホラータイム

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今更ですが、矛盾設定してたらすみません。


1話

…今日は風が強いな。

 

 

 塹壕をスコップで掘りながら、ため息をつく。風が強いと、土ぼこりが舞って、目が痛いわ、体が汚れて気持ち悪いわで、ろくなことがない。

 

 しかも、風の音で周りの音が聞こえづらくなる。物音一つとっても、聞こえないと戦場では致命的だ。

 …まあ、奴らは、魔法ですべての音を遮断したまま近づいてくることもあるのだが。

 

 

「センパ~イ、もう疲れたんですけど~。もう休憩にしませんか~」

「アホなこと言ってないで、手を動かせ」

 

 

 ただでさえ、悪天候の中、長時間労働で疲れているのにこいつは。

つい10分前に休憩を終えたばかりの、バカなことをいう後輩にキレそうになる。

 

 

「いやセンパイずっと休憩してないじゃないっスか。私と一緒に休みましょうよ~」

「お前が休みたいだけだろ」

「はあ~センパイは、いたいけな後輩女子の、優しい気遣いも受け取れないんすね。こ~れだから童貞は」

「童貞は関係ない」

 

 

 アカリがやれやれとポーズをとる。

 こいつ!張り倒してやろうか!

 

 

「こら、アカリちゃん!トージに本当のこと言っちゃだめだろ!クールそうに見えて、本人すっごく傷づいているんだぞ!」

「マジっすかユウトさん!すみません先輩…気にしていることを」

「死ね」

 

 

 よし、分かった!そんなにお前らが死にたいなら、望み通り殺してやろうか!

 

 

「お前ら!サボってないで手を動かせ手を!」

「うーす隊長」

「サース隊長!」

「…はい隊長」

 

 ……俺は悪くないのに。

 

 

 

 

 

「よーし、今日の勤務時間はこれで終わりだ。ここで解散とする。明日も朝7時に点呼だから、はめ外して遅刻すんじゃねえぞ」

「よしトージ!慰安所いこうぜ慰安所!」

「バカ、はめ外すなって言われた直後だろ。しかもアカリの前で堂々と言うな」

「最悪っス。ユウトさん」

「…さらば!」

 

 

 気まずくなって逃げるくらいなら、最初から言うな。

 

 

「はあ、ユウトさんは相変わらずっスね。先輩、私達はどうします?」

「飯食って、水浴びして、寝る」

「つまんな!人生もっと楽しみましょうよ!」

「楽しむも何も、今は戦時中で、俺たちは兵士だろうが」

「いつ死ぬか分からないから!今を楽しむんじゃないっスか!」

「…そう…だな」

 

 俺たちが生まれる前から続いている戦争。相手の魔法の威力は、比較的貧弱なことが多いが、それでも、当たり所が悪ければ1撃で死ぬ。ただでさえあらゆる手段で観測ができない魔法。奇襲でもされれば全滅することもある。

 

 俺たちのそばには、常に死が付きまとっている。

 

「どうせなら酒保に行きましょうよ!お酒を2人で飲み交わしましょう!」

「いや、おまえまだ未成年だろ」

「ざんねーん、実は今日、私の誕生日なんですよ!今は成人済みです!後輩の誕生日も知らない、気遣いゼロの童貞先輩は、かわいい後輩に初めてのお酒を奢るべきです!」

 

「…そうか、おまえが来てからもう1年近く経つのか」

 

 この国では、18歳で徴兵される。それから1年の訓練期間を経た後。各隊に配属されるのだ。

 

「しょうがないな。今回は俺の奢りだ」

「やったー!さーすがセンパイ、話が分かる!っさ早く行きましょセンパイ!」

「分かったから落ち着け」

 

 やれやれ。

 

 

 

 

 

 

 「センパーイ、…あれ、センパイが誘拐されてる」

 「こいつ、どんな夢見てやがる」

 

 こいつは、酒保で酒を手に入れるなり、一気飲みしてぶっ倒れやがった。アホだとは思っていたが、ここまでアホだったとは。

 

 今は、寝に入ったこいつを担いで、俺たちの小隊の宿舎にむかっている最中だ。

 こいつのサイドテールがたまに顔に当たってくすぐったい。

 

 

 「…ガチムチにセンパイが誘拐されて、センパイの処女の危機が~」

 

 

 …捨てていこうか。

 

 いや、常に命の危機にある戦場で、男同士の熱い絆(オブラートな表現)が育まれることは珍しくないけれども。

 俺はノーマルだからな!

 

 

 

 

 

 

 

 「…やっとついた」

 

 宿舎にたどり着いた俺は、アカリを、2弾ベッドの上段に放り出すように寝かせた。

 普段の優しい俺は、ゆっくりと寝かせてやる所だが、こいつは、夢で俺の貞操を弄びやがった。その罪は重い。

 

 「ぐへっ!……スース―……」

 「こいつ、幸せそうに寝やがって」

 

 まあ、仮にもこいつは女だ。いくら戦場で男女の差は無視されるとしても、幸せそうに寝ている今ぐらいは、殴ることは勘弁してやろう。

 

 ……俺も酒飲んだし、水浴びして寝るとするか。

 

 

 

 奴らは奇襲することも多い。ステルス魔法で隠れられると、こちら側からは観測できなくなることをわかっているのだ。よって、夜間の緊急出動も多い。それに対応するため、男女関係なく小隊は同じ部屋にまとめられている。

 

 この部屋のもう片方には、ユウトと隊長の2段ベッドがおかれている。2人ともまだ帰ってきていないようだ。まあ、ユウトは夜遅くまで慰安所だろうが。

 

 今日も疲れた、さっさと水浴びに行こう。

 アカリの寝息を背に、水浴びに行き、戻ってきてもまだ寝ていたアカリを眺めて、俺は自分の寝台で寝た。

 

 

 

 

『緊急警報発令。緊急警報発令。直ちに各隊点呼をとり、至急所定の配置へ移動せよ』

 

くそっ!今夜は運が悪いようだ!

宿舎に鳴り響く警報を聞いて、慌てて布団を蹴り上げ飛び起きる。

 

 

「アカリ!起きろ!緊急警報だぞ!」

「ウーっ、マジ勘弁してほしいっス」

 

 

 初めての酒で寝こけていても、さすがに緊急警報では、アカリも起きるようだ。

 文句を言いながらも、自分の寝台から降りてくる。

 

 

「オラッ!ユウト起きろ!」

「んあ~なんだよカオリちゃ~ん、まだ足りないって~?」

「起きろ!!」

「グアッーー!」

 ユウトが隊長に殴られてら。

 夜遅くまで遊んでいるからそうなるんだ。

 

 「よし、全員起きたな!急いで配置に向かうぞ!」

 

 まったく、せっかく気持ちよく寝ていたのに。アカリじゃないが、本当に勘弁してくれ。

 

 

 

 

 『F班、配置につきました』

 『了解、奇襲に備えて周辺警戒せよ』

 

隊長がオペレーターと通信をしている。

 

その声を後ろに聞きながら、俺たちは銃に付属したライトで、辺りを照らしながら俺たち3人は夜闇の中警戒していた。

 

 

「どうやら、夜間警備の連中が、奴らからの奇襲にあったらしい。撃退したそうだが、2人に逃げられたそうだ。まだそこらに潜んでいるかもしれないから、気を付けろ」

「了解。」

 

 

 夜間かつ奇襲ということは、ステルス魔法を使って移動してきた可能性が高い。気が付いたら後ろにいて、攻撃されるかもしれないと考えると、冷や汗が出てくる。

 

 奴らの攻撃は、手の先から出す見えない爪を含めた、近接攻撃をまともに受けると厄介だが、それ以外は、適切に対処できれば問題ない物が多い。やはり一番厄介なのは、ステルス魔法のような、俺たちからではどうしようもない魔法だ。

 

 奴らの捕虜から聞いた話では、魔法は自身の身体から離れると、急激に威力、操作性などの自由度が失われるらしく、遠距離攻撃はあまり得意ではないらしい。

 

 まあ、拠点防衛では、大規模な補助具を何人もの人員で使って、巨大な砲撃を撃つことができるそうだが。

 

 

「やはり、奴らはステルス魔法を使用していたそうだ。対魔法装備を外すなよ」

 

 

 対魔法装備というのは、別に魔法に対して特防があるわけではなく、単に体のほとんどを覆った、分厚く頑丈な防具というだけだ。

 

 遠距離魔法なら問題なく防げるし、爪のような近距離攻撃も、目部分のように露出している箇所を除けば、数発は耐えられる。

 

 奴ら魔法文明との、長い戦争の中で、最終的に結論付けられた、一番効果的な装備だ。

 

 

 

 ……相変わらず、今日は風が強いな。

 

 ステルス魔法はいわゆる結界魔法の1つらしい。自分の周りに結界を張れば、その中は観測できなくなる。

 

 つまり、攻撃する際には、魔法を解かないといけないわけだ。

 奴らがステルス魔法を解いて攻撃するまでの一瞬に出す音や気配を察知しなければならない。

 暗くて視界が制限されており、さらに風が強く音も聞きづらいとなれば、かなり不利な条件だ。これを狙って奴らも襲ってきたのだろう。

 

 

「集中しろよ……、奴らの気配がしたら、すぐに弾を撃ちこめ」

「ハイッス……」

 

 

 ……俺たちの哨戒箇所に出てこないことを祈るばかりだ。

 

 4人で辺りを警戒しながら、慎重に進む。

 

 

 

 

 

 …………後方に気配!

 

「後ろだ‼」

 

 

 俺の声で一斉に4人が振り向く。

 そこには、俺たちの中で一番後ろにいたユウトを、見えない爪で攻撃しようとしている全身黒タイツ野郎と、さらにその後ろから、こちらに何らかの遠距離攻撃を仕掛けようとしているもう1人の全身黒タイツがいた。

 

 

「トージ!アカリ!撃て!」

「「了解!」」

 

 

 見えない爪を、ユウトが腕で受け止める。その隙に俺たちは、爪で攻撃している方を銃で撃つ。

 後ろの奴が撃とうとしている遠距離魔法は、攻撃範囲は広く、行動を阻害されるが、致死的なダメージにはなりにくい。

 おそらく、爪でユウトを倒し。遠距離魔法で俺たち3人の足止めをして、またステルス魔法で逃げるつもりだったのだろう。

 

 

 逃げられる前に、こちらに致死的ダメージを与えかねない爪を使っている奴を、ひとまず倒す!

 

 

「グッ!」

 

 夜闇に、銃のマズルフラッシュが光り輝いて、爪を使ったやつが、ユウトから吹き飛ばされた。

 

 それと同時に、もう1人の遠距離魔法が俺たちに命中する。……今回は水のようだ。体をとられるほどの水量と圧力で、俺たちの身体が押される。

 

「体制を立て直せ!逃げられる前に、近い奴の防御魔法が飽和するまで、撃ち続けろ!」

 

 隊長の命令を聞いて、俺とアカリは爪の奴を撃ち始める。隊長は、遠い奴を撃って牽制しているようだ。攻撃を受けて、一番体制が崩れていたユウトも、一緒になって撃ち始める。

 

 撃ち続けること数秒。遂に爪の奴の体から、血が噴き出し、穴が開いた。

 

「グフッ……」

 

 爪の奴の身体が、数多の銃弾を浴びミンチになる。

 ……悪いな、これは戦争なんだ。

 

「もう1人が消えたぞ!いた方向に向かって弾をばらまけ!」

 

 ステルス魔法は、防御魔法と違って銃弾を何発が受けるだけで壊れてしまう。よって、奴がいた方にあたりをつけて銃を撃ちまくる。

 

 すると、パリンとガラスが割れるような音とともに、もう1人の影が浮かび上がる。

 

「いたぞ!撃てぇ!」

 

 その後、もう1人も、爪の奴と同じ運命をたどった。

 

 

 

「ふう、終わったッスか……。しかし、こいつら撃退されて2人だけになったのに、なんでまだ逃げずに襲ってきたんすかねセンパイ……」

「聞いた話だが、奴らの世界だと、戦争が起こっても、殺しは厳禁だったらしい。防御魔法を崩したのに、まだ攻撃を加える奴は、人間以下のクズだと。それで、容赦なく殺した俺たちを、めちゃくちゃ恨んでいるらしい」

「は~、それで恨みつらみで最後の2人になっても襲ってきたッスか……」

 

 

 奴らの世界では、争いはあれど、殺しはよほどのことがない限りない。

 ……これは、俺たちが野蛮だ野蛮だといわれても仕方ない気はするな。

 

 

「よし、帰還命令が出た。俺たちはついでに2人の死体も持って帰るようにだそうだ」

「え~こっちは敵をしとめた功労者ですよ!他の奴を派遣してもらいましょうよ~」

「ユウトさん。文句言ってないで早くやるッスよ」

「え、アカリちゃんはこっち側後思ったのに……。俺へのあたりきつく無い?」

「日頃の態度をよく思い返せ、このバカ」

「今日のセクハラ、忘れてないですからねユウトさん」

「…隊長。アカリ隊員とトージ隊員が、小官をいじめてくるであります!」

「いいから、早く死体のそっち側をもてバカ」

「隊長まで……」

 

 ユウトのアホを叱咤しながら、俺たちは死体を担いで基地への帰路を急いだ。

 

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