並行世界は魔法の世界でした 作:ホラータイム
「……以上のように、我々は敵を仕留めた次第であります」
「そうか、ご苦労だった」
あれから、死体と一緒に基地に帰還した俺たちは、報告のために司令官室まで訪れていた。
この基地のトップであるトウリ司令は、若干30代にしてその地位についている、優秀な人物だ。立って報告している俺たちを挟んで、トウリ司令が座っている。
司令官室には、過度な装飾はなく。頑丈そうな机と座り心地のよさそうな椅子。その他には書類棚しかないことから、トウリ司令の質実剛健さが伺える。
「……今日は風が強い。その隙を突こうとしたのだろう」
「はっ!小官もそのように考えております」
しかし、隊長になって部下を持つようになると、報告が大変だ。平隊員の俺達は横で立っているだけでいい。
「もうじき夜が明ける。今日の襲撃はもうないだろう。君たちの勤務開始時間は、通常より3時間遅らせてよい」
「はっ!お気遣いに満ちた采配、感謝いたします!」
「いい」
そうして俺たちは、挨拶をした後、司令官室を後にした。
「しっかし、トージ。あの時はありがとな!お前が直前で気づいて声を掛けてくれなかったら、俺はまともに一撃入れられる所だったぜ」
「いやいい、俺もたまたま気づいただけだからな」
「……トージは、今回勘がやたらと良かったな?あれか、大昔のアニメであったニュー○イプってやつに目覚めたのか?」
「……ニュータ○プというのは知りませんが、おそらく違いますよ隊長」
「じゃあ、超能力とか!あっちの世界に魔法があるんだから、こちらにも何かないと不公平ッスよ!それにセンパイが覚醒したとか」
「そうだな。俺が超能力に目覚めたら、真っ先にお前の知能レベルを上げてやるよ」
「……いくらセンパイでも、言っていいことと悪いことがあることを思い知らせてやりますよ!」
飛び掛かってこようとするアカリの顔面を手のひらで押さえつけながら考える。
……別に超能力に目覚めたつもりは無いが、今回は自分でも、やたらと勘が良かったと思う。絶対に解かれるまで察知できないはずのステルス魔法を、解かれる寸前で見破った。
……まあ、今回は運が良かったと思おう。
「まあ、何にせよ、俺たちがそれに助けられたことは確かだ。頼りにしてるぞ」
「はっ!私の力が隊のために役立てるならば、小官も本望です」
「がっはっは!そうか!」
「ヒュー!センパイカッコイイ!私のこともしっかり守ってくださーい!」
「死ね」
「なんで⁉」
アホがアホなことをいっているのを聞き流しつつ、俺達は数時間ぶりの宿舎に戻った。これから司令官から頂いた時間で仮眠をとり、今日の哨戒に行く。
俺達新日本国軍は、奴らからの奇襲に怯えつつ、侵略された土地を奪い返そうと足掻く。いつ、次の瞬間死んでいるか分からない。死が日常に潜む、そんな危険な日々を過ごしていた。
門が開き、奴ら魔法文明の世界と敵対した始まりの日。今では旧日本とされる国は、その後数日、ひたすら議論をして過ごしていたらしい。
例の、初めて向こう側の人間と対峙したという国から情報を貰った政府は、門の向こうの人類に対する対応を、唾を飛ばし、時には揉み合いながら互いを罵倒し、時には政権批判の材料にする。混沌が混沌を呼び、とてもすぐに結論が出る状況ではなかった。
まあ当然だろう。いきなり得体のしれない物が現れ、その向こう側には未知の人類がおり、さらには未知の技術がある?
民主主義という、マニュアルにない緊急事態には非常に弱い政治形態で、対応できるレベルを優に越えていた。
そんな中、すぐに動いたお隣の国があったらしい。
軍の物量にものを言わせ、あちら側の世界を自国の領土とし、その未知の技術、さらには資源を手に入れるために。
最初は順調にいったそうだ。奴らの防御魔法は頑丈だが、銃の飽和攻撃で何とか倒せる。門の先に合った道をたどって、城砦都市近くまでたどり着いたそうだ。
しかし、順調にいったのはそこまでだった。
都市に住んでいる民衆全員の魔力を利用した、当時のいかなる兵器も通さなかった結界。
そして、同様の原理を利用した、対侵略者用大魔力砲。
その威力はさながら、巡航ミサイルの超範囲攻撃。
生存者は数えるほどしかいなかったそうだ。
そして、都市の魔力砲の射程外で睨み合う時期が続いた。
奴らの魔力砲は、大量の人員の他に、巨大な建築物とまで言える魔法補助具が無ければ、機能しなかったため、それを使って攻められることは無かった。
こちらの文明は、大陸間弾道ミサイル、果ては核など、攻撃に大きく偏りがある。
しかし、奴らの文明は、強力な結界に、迎撃する魔力砲と、防御に大きく偏りがあった。
こちらには都市を攻略する力は無いが、奴らにもこちらを門まで追い返す力がない。
このまま、長い膠着状態が続くと思われたが、そうはならなかった。
奴らが、ステルス魔法の有用性に気づいたのだ。
あちらの世界にとっては、ステルス魔法とは気づかれにくくなる程度のものらしい。
姿や音が消せても、魔素反応までは完璧に消せない。
注意していれば簡単に気づかれるし、防御魔法と違ってもろい。あまり使われることのない魔法だったそうだ。
しかし、その使えない魔法も、魔素反応が分からないこちら側にとっては致命的だった。
現在でも魔素を観測できる手段は開発されていない。ましてや、現在よりももっと魔法について未解明だった当時のお隣の軍にとっては、地獄の始まりだった。
会議中、気が付いたら全員の後ろに奴らが現れ、上官全員首を跳ね飛ばされる。
哨戒中だった部隊全てから、いきなり一斉に連絡が取れなくなる。
武器弾薬に引火され、前線基地で大爆発が起きるなど。
まさに敗走といった有様で、門を通ってこちら側の世界に逃げ帰ったらしい。
逃げることに成功した敗残兵は、侵攻作戦の中止を上層部に訴えた。
しかし、訴えは聞き入られなかった。
そして命じられた。さらに3倍の人員を派遣して続行すると。門の近くに大規模な軍事拠点を築き、直ちに周辺地域の占領を開始せよと。
上層部は夢を見ていた。我が国がどこの国よりも先に攻略し、他の国に優位に立ってみせると。いつも世界一の大国気取りで、上から目線で接してくるかの国を、出し抜いてやると。
そうして、次回の進行準備が始められることとなった。しかし、それは無駄となった。
奴らがこちら側の世界に進行してきたのだ。
それは、お隣の国の上層部が、突如皆殺しにされたことから始まった。
ステルス魔法を使い、上層部を一掃した魔法文明は、軍が混乱している隙をついて、門の前に、強力な結界を用いた拠点を構築し始めた。
上層部が総入れ替えされ、一反体裁を保てる程度に落ち着いた頃には、魔法の建築能力を用いた一大拠点を構築された後だった。
新上層部は、結界にミサイルを撃ち込み、果ては核まで投入したが、結界に効果を示すことは無かった。奴等の魔法は、1人でも銃の連射を数秒持たせる頑丈さがある。それが何百人も集まって、一つの結界に力を注ぎ、さらにそれが巨大補助具によって強化されていれば、それは何人も通さない無敵の結界となり得た。
それから始まったのは、まさに虐殺だった。
普段、争いでの殺人がまず起きることのない歴史を積み上げてきた、防御重視の魔法文明。
それに突如自分たちの世界に土足で踏み込んできた、人を殺す、筆舌に尽くしがたい野蛮な者達。
その恨みはもはや、抑えることなど絶対にありえないほど膨れ上がっていた。
そんな生きるバーサーカーが、こちら側の世界にやってきた。そしたら何が起こるか。
虐殺である。
周辺の町、村、都市すべてにゲリラ的に進行し、ステルス魔法、銃を10数発連続で撃たれても壊れることのない防御魔法を駆使して、奴らは目につく人類すべてを殺していった。
それに今まで動けていなかった、門が開いた国は怯えた。
かの世界一の大国は、周辺地域の破壊を構わず、門を直接、核で壊そうとしたそうだ。
結果はもちろん無傷。こちらは結界と違って、そもそも物理的に干渉できるような物では無かったそうだ
その後門が開いた各国上層部は、まもなくしてお隣の国と同じ運命をたどった。
その後の虐殺もだ。
当時の日本は、東京都心ど真ん中に門が開いていた。そして、他の国と同じような虐殺を経て、東日本のほとんどを失った。
自衛隊は、仕組みはわからずとも、魔法の性質を何とかある程度解明し、西日本の境界ほどで一時的に侵攻を止めたそうだ。
その間に、奴らのステルス魔法撃退に特化した都市を構築。
膠着状態まで持ち込むことに成功した。
しかし、その限られた土地だけでは、民衆の数に対して食料生産力、物資生産力が圧倒的に足りない。
さらに、自衛隊も多くの人員が死に、増強が急務となった。
そこで、追い詰められた人々は国名を新日本と改め、徴兵を開始。自衛隊も改め新日本軍となった。
そして、都市範囲を大きくすべく、少しずつ前線に軍を派遣。基地を設置して、都市構築のための整備を進めている。
そのための軍拠点の一つが、我々のいる第13基地である。