機動戦士ガンダムSEED~インペリアル・ガード~   作:国伊都

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第一話 彼女と『彼女』の出会い【1】

 

 

「ちょっと君に聞きたいことがあるんだが……いいか?」

 

 そう声を掛けられ、なんとなしに振り返った少女――キラ・ヤマトは愕然とした。

 まるでそこに鏡があるように、自分と瓜二つの顔を持つ少女が居たのだから。

 

 

 

――――

 

 

 C.E71年1月。

 

 オーブ連合首長国所有の資源衛星付随型コロニー『ヘリオポリス』。

 C.E初頭の宇宙開発事業――大型宇宙ステーション『世界樹』と月面宇宙基地――のちに月面都市となる――『コペルニクス』の建造を主導した日本皇国が次に企画・始動させた火星開拓計画『マーズ・ライン』の一環として建造されたコロニーである。

 地球との重力平衡点――ラグランジュポイントのうち、もっとも遠い場所となるL3に位置するコロニーであり、今行われている戦争に『もっとも遠い』コロニーの一つでもある。

 

 戦争……。

 地球国家のうち、大西洋連邦・ユーラシア連邦・東アジア共和国の三ヶ国が同盟を結び立ち上げた『地球連合』とその軍事組織『地球連合軍』。

 その三ヶ国からの独立と対等貿易を望んだL5コロニー群『プラント』の戦争は国家間戦争であり『ナチュラル』と『コーディネーター』という一種の民族間戦争であった。

 

 その上、歴史書でしか語られなくなった終末戦争『再構築戦争』と同じく『核兵器』がすでに使われているのである。

 そう簡単に止まるものではなかった。

 

 だからこそ、遠いといえどもこの『ヘリオポリス』にも戦争の足音が近づいてきていた。

 

 

「ねえ、キラ。この後みんなでカフェテリアに行こうと思うんだけど……」

 

 ゼミの講義が終わり、帰り支度をしている茶髪の少女に、可愛らしいクセッ毛の少女、ミリアリア・ハウが声を掛ける。

 

「ごめん、ミリィ。この後バイトなんだ」

 

 同期生からの誘いに申し訳なく断りを入れる茶髪の少女、キラ・ヤマト。

 

「最近、毎日だね、キラ。そんなに忙しいの?」

 

 ミリィの横にいる少年――ミリィのボーイフレンドであるトール・ケーニヒが訊ねた。

 

「うん、まぁね。ほら、もうすぐ重機エキスポの時期だから。それに間に合うようにって」

 

 キラは学生の身でありながら、そのプログラム技術を買われ、オーブの半国営企業モルゲンレーテでプログラムサポーター・デバッカーとしてアルバイトをしており、宇宙開発用重機の開発に携わっている……ことになっていた。

 表向きは。

 

「そっか。まあ、無理しない程度に頑張れ!」

 

 そう言ってミリィやトール、他のゼミ生たちは工業カレッジ外縁にある学生割引きのきくカフェテリアへと向かっていった。

 

「……戦争の真っ最中なのに。あるわけないじゃん、そんなの……」

 

 無邪気に笑う彼らの姿に、言い様の無い小さな苛立ちを覚え、キラは独り呟き足早に部屋を出る。

 

 

 

――――

 

 

 

 工業カレッジのキャンパスを出たキラは、ヘリオポリスの『根元』である資源衛星にあるモルゲンレーテ社の工業施設へと電動キックボードを走らせる。

 来客用のロビー施設横の駐輪場にボードを止め、そこから奥に進んだ場所にある従業員用入口を専用IDカードで開け入る。

 すぐそばにあるエレベーターにもIDを読み込ませ、あるボタンを押す。

 

 すると、『通常の』重機開発部門の人間では『絶対に』入れないフロアまで彼女を連れて行ってくれる。

 目的のフロアに降りたキラは、エレベーターエントランスから奥に続く重厚な扉横でまたもIDカードをタッチ。それに反応して装置が動き、装置上部にカメラが現れる。

 そこに向けてキラは眼を見開く。

 2秒ほどして、網膜データが一致したこと表す軽快な音が鳴り、扉が開く。

 そこから徒歩一分ほどの部屋が、キラがアルバイトをする部署である。

 

 ルームプレートには『Project-Astray/OS TEAM』と刻まれていた。

 

「お疲れ様です」

「おう、お疲れ。……とりあえず、コード305から405までのデバッグ頼むわ」

 

 キラの挨拶に顔を向けることなく返す男性――このチームの主任プログラマーであるホバは、キラにそう指示を出す。

 そのコミュニケーション不足の男に、キラは最初のうちは戸惑ったが、慣れたこともあり、

 

「わかりました」

 

 と、返事をし早速作業に取り掛かるのであった。

 

 それからキラは一時間程度でデバッグと、プログラムが正常に動くかのチェックを終わらせる。

 普通は専門スタッフ……それもコーディネーターであっても倍の時間がかかるだろう作業を、だ。

 

 それに対してホバは「相変わらず速いな」と一言呟くのみで、変に仕事を押し付けることなく、業務規則に基づいて休息を与え仕事を振っていく。

 

 周りのスタッフもそんなキラの仕事ぶりを特に気にすることはなかった。

 もちろん、最初のうちは驚かれたし、仕事をテキトーにやっているのかと疑われもした。

 しかしキラの腕が確かであると知ると、同僚たちは彼女を信頼するようになったし、慣れもした。

 

 何より彼らにはキラをことさらに気に留める『余裕』がないのだ。

 彼女がコーディネーターであることも。

 

 彼らの目的を考えれば……。

 

 キラは思い出す。

 ホバに『なぜこんな仕事をしているか?』と訊ねた時のことを。

 

『なぜって? もちろんオーブを守るためさ。それが……あの時守れなかった俺にできる『贖罪』だから』

 

 そう言葉を紡いだ彼の顔は忘れることができないほどの『昏さ』があった。

 ホバはもともと大西洋連邦の生まれで、先祖は日本から移民の日系人であり、第一世代コーディネーター。

 第一世代であるからして、彼の両親はナチュラルである。

 その両親は、あくまでも『健康な身体を我が子に』という想いから、彼に対してのコーディネイトは最小限のものだったらしい。

 だが、副次的効果か技術者のサービスなのか……彼は肉体的強化の他に、学術面での能力開花もあったそうだ。

 そんなこともありモルゲンレーテ社に就職した彼は、世情も鑑み、両親をオーブに呼び寄せようとしていた。

 そんな時に起こったのが『血のバレンタイン』であり『エイプリルフール・クライシス』であった。

 この混乱の中、子どもをコーディネーターとした両親はテロの標的にされ死亡。

 その情報を得たのは事件の一ヶ月後。

 

 彼は恨んだ。

 血のバレンタインを引き起こしたナチュラルを。

 エイプリルフール・クライシスをなんの躊躇もなく実行したプラントのコーディネーターを。

 そばに居てあげられなかった自分自身を。

 

 このプロジェクトに従事する人間たちはみな、似た境遇を抱えていた。

 

 だから彼らは一切の躊躇もなくこの仕事に取り組んでいるのだ。

 『アストレイ』の開発に。

 

 オーブ軍所属パイロット達が、ナチュラル・コーディネーターの違いなど関係なく祖国を守ることのできるように、この部署はアストレイのOS開発を急いでいた。

 

 それに比べれば、キラがこの仕事する動機はあまりにも個人的過ぎた。

 

(――協力したら、教えてもらえますか? 私がどうやって生まれたのかを?)

 

 あの日、自分の才に気付いた美丈夫……この国の武を司る権力者を前にして、キラはそう取引を持ち出した。

 正直、断られるものだと思った。

 真実を知りたい一心とはいえ、国家のデータベースにハッキングをおこなった自分の要求を……。

 

 だが、彼はその取引に応じた。

 

(――貴様がおこなったことなど、オーブの未来を考えれば些末なことよ)

 

 キラのおこなった違法行為と国家の存亡を天秤にかけ、彼は後者を取った。

 ならば、キラもその彼の要求に応えねばならない。

 

(――たとえそれが『コーディネーター』を殺すかもしれない道具だったとしても――)

 

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