機動戦士ガンダムSEED~インペリアル・ガード~   作:国伊都

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第一話 彼女と『彼女』の出会い【2】

 

 

 

 モルゲンレーテ社・オーブ国立工業カレッジ主催プログラムコンペティション【パワーローダー】部門、特別賞受賞。

 

 

 それが『彼女』――キラ・ヤマトがモルゲンレーテ社との関係を持つキッカケだったのだろう。

 だが、まさか一学生を巻き込むとは……。

 

「ギナの奴め……」

 

 自信に満ち溢れた――いっそ傲慢ともとれる覇気を纏った美丈夫の顔を思い出し、『カガリ・ユラ』は持っていた資料を握りしめる。

 

「まあまあ、落ち着いて。――資料を見る限り、この子の腕は確かだね。正直、うちだってスカウトできるならしたいもんだよ」

 

 苛立ちにこわばるカガリの肩を軽く叩いてなだめるのは、黒髪の東洋人の成人男性。名を『東雲空(シノノメ・ソラ)』という。

 

「冗談じゃない! アストレイは『兵器』だぞ! 10代そこらの子どもに手伝わせるものじゃない! それもこいつと同じコーディネーターを殺すかもしれない――」

 

 「オーブの防衛装備だろう? ならばそこにコーディネーターもナチュラルも関係ない。オーブの平和を脅かすものを排除する『剣(つるぎ)』――それがアストレイ……だろ?」

 

「詭弁だ。第一、それを独自に作っているならともかく、地球軍の技術を流用してなど……」

 

「サハク家は、これ以上オーブに日本皇国が介入するのを良しとはしてなかったからね。そこに来て連合の非主流派であるハルバートン准将たちが共同開発を持ち掛けてきた。……力はないが、一定以上の技術は持ってる。サハク家にとってしてみればこれだけ組みやすい相手もいない」

 

「裏取引でもしなきゃ東雲重工にモルゲンレーテは勝てない、と悟ってか……案外サハクも不甲斐ない」

「特に俺とカガリの見合いが知られてからは、ね」

「お父様はそういうつもりじゃ無いと仰っていたぞ?」

「外から見れば、そうじゃないってことでしょ?」

「そんなものか?」

「そんなもん、だよ。で、どうする? もうすぐヘリオポリスに着くけど。……やっぱり行くかい? モルゲンレーテと、地球軍の秘密工場に」

 

 空の問いに、カガリは迷いなく頷く。

 

「ああ。もちろん! あ、あと。こいつに会ってみたくもあるかな」

 

 そういって持っていた資料に添付されていた写真を見る。

 

「やっぱり居るもんなんだな、似た顔の人間って。こんな偶然滅多にないぞ」

 

 カガリのこの発言に空はつい吹き出してしまう。

 

「なんだよー!」

「いや……そんな感想を持つなんて、カガリらしいと思ってさ」

 

 

 

 ――――

 

 

(他人のそら似って……そんなわけないでしょ)

 

 ヘリオポリスへ向かうため、宇宙連絡艇に乗り込む準備をしながら、空は心の中で嘆息する。

 

(ふたご……なんだよ、君たちは)

 

 本来であれば『物語』の終盤に明かされる秘密を、空は『原作知識』として知っていた。

 端的に言えば彼は『転生者』であった。

 西暦二千年代に生きた日本人男性……と、いうことしかパーソナルな記憶はないが。

 そして熱烈なロボットモノのファンであることぐらいしか。

 

 そんな彼は『本来であれば、東アジア共和国の一部となるはず』だった独立国家・日本皇国の、それも貴族である『東雲家』の子どもとして生まれることとなった。

 

 原作知識を持つ『空』は恐怖した。

 

 このままではこの世界は未曾有の戦乱に見舞われ、人類の愚かさに絶望した者たちによって、人類の尊厳を踏みにじられることとなってしまう。

 

(デスティニープラン……まさしく人類の尊厳を『殺し』、蟻のような思考停止の世界を作り上げる計画……。はっきり言って虫唾がはしる)

 

 『原作』においては多大な犠牲を払いながらも、この計画は阻止される。

 が、それが『この世界』でも達成されるとは思えなかった。

 

(この世界は一種のパラレルワールド。もしくはマルチバースといったところだろう。ならば、この世界に生きる者が何とかするしかない。……『ねだるな、勝ち取れ。さすれば与えられん』だったかな)

 

 その想いから、彼はできうる限りのことをした。

 その中の一つがこの世界の主兵器となっていく『モビルスーツ』の開発。

 本来であれば、この世界に見合ったモノを作り上げるつもりだったのだが、空の中にあったものと、ある出会いから『それ以上のモノ』が出来上がることとなる。

 

「空!」

 

 と、そんなことを思い出しながら宇宙連絡艇のある格納庫にたどり着いた空の名前を呼ぶ者が居た。

 そちらに目を向けると、宇宙パイロット用スーツを着込んだ、栗毛にパーマのかかった青年が近づいてくるところだった。

 

「アムロ! どうした?」

 

 空の『憧れの人物』であり、この世界では彼の『友人兼護衛』を任されている男性……『アムロ・レイ』は空の近くに着地し、真剣な表情で問いかける。

 

「やはり、行くのか?」

「ああ。カガリが行きたいっていう以上は、ね。まあ、運命みたいなものだよ」

「そうか……では、これも想定通りなのか? ……ザフトの軍艦が二隻、付近を浮遊する岩石の陰に隠れている。おそらくヘリオポリス側は捕捉できていない。艦種はおそらく――」

「ローラシア級とナスカ級?」

「――ッ!? そうだ。やはり……」

「予想通り。日付もまもなくC.E71年1月25日を迎えるところ」

 

 左手首につけたスマートウォッチの表示を確認しながら、空は苦笑する。

 

「これから24時間以内にこの宙域で戦闘が起こる。ザフトによる連合の新型兵器奪取作戦の一環として」

「……それも、中立国に対して無許可の、か」

「そ。そしてそんな争いに巻き込まれた少年が、生き残るために『ガンダム』を動かす」

「オレと同じように、か……」

 

 かつての自分を思い出し、アムロが目を瞑る。

 

「この世界じゃ、少年ではなく『少女』みたいだけどね」

 

 その情報を知った時、空は驚き、あらためてこの世界が『原作』通りに進む可能性が低いことを感じた。

 これがいい方向に向かえばよし、悪い方向に向かえば、未来はどんな昏い時代となることやら……。

 

「アムロ。君たちの力、当てにしたいところなんだが」

「わかった。全力を尽くすつもりだ」

 

 と、そんな話をしたところでカガリが格納庫に到着する。

 

「空、そろそろ行くぞ! アムロ『主任』もまたな」

「ええ、カガリ嬢もお気をつけて」

 

 そうして空とカガリは連絡艇に乗って、東雲重工高速巡行艦『ズイウン』を出立。

 ヘリオポリスへと入港するのであった。

 

 

 ――――

 

 

「例の艦からランチ(連絡艇)が離脱。目的地はヘリオポリス宇宙港」

「気づかれてはいないな?」

「大丈夫ですよ、アデス艦長。光学カメラ、それも有線式を使用しての監視です。ニュートロン・ジャマ―(NJ)を起動していないとはいえ、察知される電波はありませんので」

 

 アデスの問いに、観測担当官はつい軽口をたたいてしまう。

 

「私は気づかれていないな? と聞いただけだ。それ以上の情報は必要ない」

「……申し訳ございません」

 

 部下の余裕……というよ慢心からくる発言にいら立つアデスは、固い口調で 責する。

 

「ふっ……」

 

 アデスのその珍しい姿をみて、隊長席に座る仮面の男――ラウ・ル・クルーゼは小さく笑い声をあげる。

 

「なんです、隊長?」

「いや……。やはりアデスは反対か? この作戦」

「反対……とまではありませんが。やはり評議会からの返答を待ってからでも、遅くはなかったのでは?」

「遅いな」

「遅い……ですか?」

「ああ。私の勘が告げている。ここで見過ごさば、その対価、いずれ我らの命で支払わねばならなくなるぞ」

 

 そう言ってクルーゼはあらためて資料をアデスに渡す。

 その資料には地球連合軍の新型兵器。通称『G兵器』についての情報が書かれていた。そしてその一部を捉えた写真も。

 

「連合製モビルスーツ……。しかしどれだけ高性能なハードを造ったところで、所詮ナチュラル。まともなMS用OSを用意するにはまだまだ時間がかかるでしょう」

「だからだよ、アデス。時間を掛ければ造り上げてしまうかもしれない。あの日本皇国のように」

「それは……確かにそうですが」

「それに、今まさにその『日本皇国』の艦がすぐ側まで来ているのだ」

「――っ!? まさか、この期に及んで皇国が連合と手を組むと?」

「それはわからない。が、中立を標榜するあのオーブですら、このザマだ。それにあの艦は東雲重工のもの。政府のあずかり知れぬところで利益を得るのが、企業というものだろう」

 

 クルーゼの言葉にアデスは唾を飲み込む。

 確かにそうなのかもしれない。

 

 地球連合とオーブの秘密協力……。

 

 それだけであれば、まだ脅威とまではいえない。が、そこに日本皇国が出てきたとなると……!

 実戦投入されていないとはいえ、かの国はすでにモビルスーツを『開発』し『量産・配備』しているのだ。

 スパイの情報によれば、その完成度――特に操作性は我がザフト製MSを凌駕している可能性があると示唆されている。

 その技術が地球連合軍に渡ればどうなるか……。

 いや、それこそ先ほどのランチに『ソレ』が積まれているとすれば――!!

 

 すべては憶測でしかない。が、偶然か必然か、状況証拠がそろいつつあった。

 

「我々は繰り返すわけにはいかないのだ、アデス。あの悲劇を……。もうすぐ一年だ」

「そう――ですな。わかりました。作戦の最終チェックを行います」

「開始時間はいつごろとなるかな?」

「問題なければ、予定通り14時間後には開始できます」

「そうか……」

 

 ――運命の時まで、残り14時間。

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