機動戦士ガンダムSEED~インペリアル・ガード~   作:国伊都

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第一話 彼女と『彼女』の出会い【3】

 

 

 

 『――父はたぶん、深刻に考えすぎなんだと思う』

 

 キラは――夢を見ていた。昔の……彼との別れの時の……。

 

『〝プラント〟と地球で、戦争になんてならないよ』

 

 そう『あの時』はキラも『彼』もそう思ってた。

 

『でも、避難しろといわれたら、行かないわけにもいかなし』

 

 でも、違った。

 戦争は起こってしまった。最悪の形で……。

 

『キラもそのうち、〝プラント〟に来るんだろ?』

 

 (――あの時、私はどう思っていたのだろう? うれしかった? ――そう、うれしかった。でも『今は』違う。オーブじゃなきゃできないことがあった)

 

 ああ……私はなんて身勝手なのだろう。ごめんね、アスラン――。

 

 まどろみの中で彼女は『彼』に謝った。

 

 「お、新しいニュースか?」

 

 と、そこで『今』が過去を消し去る。

 

「あ、ごめん、キラ。寝てたんだ?」

「いや、いいよ。丁度起きるところだったし」

 

 工業カレッジの中庭に設置されたガゼボ(あずまや)で小休止をと、ノートPCで動画を垂れ流しつつ、ぼーっとしていたキラは、どうやらいつの間にか眠ってしまっていたようだ。

 

「ちょっと、トール! 女の子の寝顔を勝手に覗くなんて、マナー違反。ごめんね、キラ。トールも」

「あっ、ごめんな、キラ。そういうつもりじゃなかったんだよ」

「別に気にしてないよ、ミリィ、トール。こっちも、寝るつもりじゃなかったんだけどね」

 

 ノートPCの時間を見れば、10分も寝てないのだろう。

 動画にしても、最初はバラエティ番組にしていたと思うが、いつの間にかニュースに変わっていた。

 

『――広東戦線の続報です。ザフト軍は先週末、広州宇宙港の手前7キロの地点まで迫り――』

 

 オーブ国営放送のアナウンサーが伝えていたのは、年末から始まっていたザフトによる東アジア共和国への通商破壊作戦の状況だった。

 

 どうやらザフトは地球連合軍を地球に縛り付けるつもりのようだ。

 大出力電磁カタパルトシステム――マスドライバーは地球の重力を振り払い、宇宙へと飛び立つための『天の架け橋』。

 ザフトはそれらを占拠もしくは破壊し、地球軍をプラントに近づけさせないつもりらしい。

 

「うわ、先週でこれじゃ、今ごろはもう陥ちちゃってんじゃねえの、広州?」

 

 画面に映る惨状――商店やオフィス、住宅『だった』残骸に、スクラップと化した民間の自動車や、軍用車。おそらく『誰かが』着ていたであろう布切れ――を見て、トールが軽い口調でコメントする。

 

「かもね……」

 

 無意識に『自分とは関係ない』というニュアンスの混じった彼の言葉に、モヤっとしつつも、キラは軽くいなしてPCを閉じるのだった。

 

 

 

 ――――

 

 

 その後、とりとめのない話を三人はしながら、キャンパスを歩いていたのだが――。

 

「あっ……」

「どうしたの、キラ? あ……フレイ」

「ミリアリア、トール――……キラさん」

 

 軽やかな雰囲気を持つ女子グループの中で、ひときわ『華』を持った赤毛の美少女に気付き、キラは足を止める。

 その美少女も三人に――特に、キラに気付き、顔を強張らせる。

 

 フレイ・アルスター。

 

 元々は大西洋連邦の出身で、情勢の悪化に伴い避難もかねてヘリオポリスに留学してきた、『ナチュラル』の少女。

 

(コーディネーターだったの、あなた?)

 

 無意識だったのはわかっている。

 だがその時、その言葉に混ざった『嫌悪』を無視することは……できなかった。

 

「ごめん、ちょっとバイト先に忘れ物しちゃったから」

「あ、ちょっと、キラッ!」

 

 その場から離れたい。

 その一心でキラは嘘をつき、その場から逃げ出した。

 

「あ……」

 

 駆けだしたその背中に、フレイは声をかけようとするも、結局できずにうつむくのであった。

 

「フレイ……。まだ謝ってなかったの?」

「ミリアリア……だって、今みたいに避けられちゃうから。悪気はなかったのよ。お父様にも言われてたし『オーブのコーディネーターと、ザフトのコーディネーターは違う』って。……でも、つい。ねえ、ミリアリア。今度こそちゃんと謝るから、場所、セッティングして。お願い!」

「しょうがないなぁ」

 

 フレイもミリアリアも、この時は軽く考えていた。

 ここはオーブ。戦争なんて関係ない。謝れば、それで万事解決と。

 まさか、そんな価値観をひっくり返してしまう惨状が、自分たちに降りかかるなんてあるわけない、と。

 

 

 

 ――――

 

 

「はっ……はっ……はっ……」

 

 忘れ物なんて嘘だった。

 だけど、それを悟られたくなかったのか、キラはモルゲンレーテへ向かう道を走っていた。

 どれだけ走っただろう。さすがのキラも息が上がって足を止める。

 空を見上げて足りない空気を目一杯吸い込み、ゆっくりと吐き出す。

 

「はぁっ……はぁっ……なにやってんだろ、私……」

 

 別にフレイの反応がことさらおかしいわけじゃない。

 オーブではナチュラルもコーディネーターも平等……それはあくまでも『法的』なものに過ぎない。

 建前としては、差別をするべきではないといってはいるが。

 法律に違反しなければ、ナチュラルがコーディネーターを嫌おうと、その逆だろうと問題はない。

 

 特に『エイプリルフール・クライシス』以降はその世論が大きくなっている。

 

「どうしよっかな……今日は出勤日ってわけじゃないけど――」

 

 街並みの先に見えるモルゲンレーテ社屋を見つめ、キラは独り言ちる。

 

 そんな時だった。

 

 「ちょっと君に聞きたいことがあるんだが……いいか?」

 

 そう後ろから声を掛けられた。

 女性――それも自分と同じ年ごろに感じる声だった。

 だからだろうか。特に気にすることもなくキラは振り返り――驚愕した。

 

 まるでそこに鏡があるかのように『自分』と瓜二つの顔を持つ少女がいたのだ。

 だが、もちろん鏡ではない。

 キラと同じような動きやすいパンツルックながら、地味なオリーブ色のコートを着込み、ハンチング帽をかぶった少女。

 

 しかし、それでも普段から鏡越しに見慣れている『自分と同じ』顔に気付かないわけがなかった。

 

(うそ――まさか――)

 

「カガ、リ……?」

 

 あの『写真』の裏に書かれた名前をつい呟いてしまうキラ。

 

「えっ?――今なんて……?」

「あっ……いや!? なんでもないですっ! あの……聞きたいことって……?」

 

 キラの呟きは相手には聞こえなかったようで、怪訝な顔をされる。

 それに気づいたキラは誤魔化しにかかる。

 

 (こういう時は相手のいう通りにすれば忘れてくれる――!)

 

 キラの問いに応えたのは、少女の横にいた黒髪の優しげな青年だった。

 仕立てのいい紺のスーツを引き締まった筋肉質の身体に纏った成人男性は、胸ポケットからカードケースを取り出し、慣れた手つきで名刺をキラに差し出す。

 

「わたくし、こういう者で――うぉっ!?」

 

 瞬間、翠の物体が彼の前を横切り名刺を奪いとる。

 

――トリィ――!

 

 電子音の鳴き声を響かせ、鳥型のホビーロボットが三人の周りを旋回するとキラの肩にとまる。

 

「ごめんなさい、トリィが驚かせてしまって……えっと……東雲重工、ホウライコロニー支社人事部、南雲空?」

 

「ずいぶん個性的なホビーロボですね。――はい。お隣りのコロニーから来まして。で、こちらは、ヘリオポリスに詳しいという事で、道案内をしていただいている――」

 

 にこやかに黒髪の青年――『南雲』空はキラに答え、同行する少女を紹介する。

 

「カガリだ。よろしく」

「――!?……よ、よろしく、お願いします」

 

(うそ……ほんとに――ほんとにカガリなのっ!?)

 

 キラは内心の驚きをどうにか抑えながら、カガリと名乗る少女が差し出す手を握る。

 

「どうした? ずいぶん汗をかいてるが……もしかして体調でもわるいのか?」

「いや、さっきまで走ってたから、それで……」

「そうか。あ、立ち話もなんだし、そこのベンチで休憩しないか? ほら、空っ」

「なに?」

「なに? じゃない! 飲み物くらい用意しろよー、男だろう」

「はいはい。そこの自販機のでいい? カガリは――」

「コーク一択!」

「でしたね……君は?」

「あっ、えっと……み、水を……」

「わかった。そこのベンチに座って待ってて」

「あ、はい……」

 

 そうして。

 何故かキラは、自分の過去と関りがあるかもしれない名前を持つ少女と、謎の青年と一緒にベンチで寛ぐこととなった。

 

「はい、カガリ」

「ん。ありがとな」

「はい、君もどーぞ」

「あ、ありがとう、ございます……」

 

 近くのビル沿いに設置されていた自販機から戻ってきた空はカガリにコークを、キラにミネラルウォーターのペットボトルを渡した。ちなみに彼はボトル型の缶コーヒー(ブラック)だった。

 彼はそのボトル缶の蓋を開け一口飲む。

 キラとカガリも彼に倣い各々飲み物の蓋をあけ、口に持っていく。

 

 よく冷えた水が、渇きを覚え始めていたキラの身体を潤おし、先ほどまでの緊張が解けていくようだった。

 

「ぷはーっ! やっぱりコークは《コークジャパン》だな!」

 

 その横でカガリが、赤のラベルに白字で『cola』と書かれた炭酸飲料を美味しそうに飲み、感想を口にする。

 

「まあね。再構築戦争後も『その味』をきっちり保管出来ていたのは日本だけだったからね」

 

 キラは昔聞いた話を思い出す。

 コークの世界的大手メーカー『コークジャパン』はもともと、アメリカ――今の大西洋連邦に本社のあったメーカーの日本支社だったことを。

 しかしその後、再構築戦争によって、本社を含むほとんどの支社が代表商品『コーク』の製造レシピを喪失。

 唯一残ったのが日本支社のものであった、と。

 

「でも、コークの中じゃトップの味じゃなかったそうだよ」

「そうなのか? 飲んでみたかったなぁ……」

「戦争がなければ、残っていたかもしれないね」

 

 ――戦争……。

 

 (もしかしたら、今後そうやって失われるモノがあるのかもしれない)

 

「イヤなものですよね……戦争って……」

 

 ぽつりとキラは呟く。

 

「ああ。イヤなものだ、戦争は……。だからオーブは中立を貫く」

 

 キラの呟きにカガリも頷き、母国の姿勢を誇る。

 戦乱の炎は簡単に消えるものではない。ならば、延焼しないよう中立となることも、鎮火させるための一つの手だ。

 でも――。

 

「『力』がなきゃ、それもままならない……」

 

 カガリの言葉にキラは応える。

 オーブ国軍は確かに、相応の戦力を有してはいる。ちょっかいを掛ければ火傷じゃすまないレベルを。

 だが、それは今回の戦争が『始まる前』まで……。

 

 モビルスーツ。

 

 全長20メートルを有する人型機動兵器。

 

 本来、核反応兵器を無力化するために使用されるザフト軍の戦略兵器『ニュートロン・ジャマ―』。

 それは副次効果として、レーダー波や電波等、長距離無線に使用される技術を無力化し、現代戦争の根底をひっくり返した。

 

 結果として、有視界戦闘において、歩兵に匹敵する汎用性を有した装甲兵器であるモビルスーツが、他の機動兵器を圧倒することとなる。

 戦車や戦闘機……そして地球連合宇宙軍が主力としているモビルアーマーも例外ではなかった。

 

 国家勢力が劣る『プラント』が現在まで地球連合と張り合える原動力――。

 それがモビルスーツである。

 

 それをオーブは所有していない。

 もし戦争に巻き込まれれば、その事実はオーブを『焼く』理由になりかねない。

 

「『力』が必要、か……。だからお前はモビルスーツを造るのを手伝っているのか、キラ・ヤマト?」

 

「――ッ!? えっ……なんで――!?」

 

 なぜ、カガリは自分の名前を――!? 今の今まで名乗ってもいないのに。

 それになぜ、彼女はモビルスーツのことを――!!

 

 驚愕に揺れる心に突き動かされ立ち上がるキラ。

 その瞬間――。

 

「えっ?」

 

 ドオォォォ……ン!!

 

 宇宙に浮かぶ大地が揺れた――!!

 

 

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