機動戦士ガンダムSEED~インペリアル・ガード~ 作:国伊都
「隊長……まもなく時間です」
ザフト宇宙軍が設計、開発した高速宇宙巡洋艦『ナスカ級』ヴェサリウスの艦長席に座ったアデスが、ブリッジメインモニターに映し出されたマイナス表示のカウンターに目をやりクルーゼに伝える。
カウンターはまもなくマイナスから『ゼロ』へと変わろうとしていた。
「そうか……。全艦に通達」
隊長席――地球連合軍であれば司令席にあたる――から立ち上がった仮面の美丈夫、ラウ・ル・クルーゼはヴェサリウスおよび、僚艦であるローラシア級フリゲート艦『ガモス』に作戦概要を伝える。
「作戦に変更はない。スタートと同時に、予定通り『ヘリオポリス』に強襲をかける。この行動は先行して侵入している部隊の掩護、陽動である。ヘリオポリスへの攻撃は必要最小限のものとせよ。侵入部隊による標的兵器の奪取もしくは破壊を確認後、全部隊を回収し速やかに当宙域より離脱する。……これで多少は気が楽か、アデス?」
作戦自体に変更はなかったが『必要最低限の攻撃に徹せよ』という文言が付け加えられたことにより、オーブへの言い訳が『多少』はできることとなった。
それは官僚的思考の強いアデスのストレス緩和になることだろう、とクルーゼは笑ってアデスに問いかける。
「……お気遣いに感謝します、隊長」
「なに、気にするな。今後のことを考えれば、な。――時間だ。作戦を開始せよ」
――――
「大型の艦艇が二隻、急速に接近」
ヘリオポリス宇宙港管制センターのパッシブセンサーが周辺航路から外れた艦影をキャッチする。
「はあっ!? 大型艦の入港なんて予定になかったはずだが? どこの艦だ」
「ライブラリ、確認します。――ッ!! ザフト軍の艦艇です。ローラシア、およびナスカ級!?」
「軍艦だとっ!? 緊急アラート発令! マニュアルに従いオーブ軍パトロール部隊に緊急連絡! 接近中の艦に速やかな停船を勧告!!」
管制センター長は部下の報告を受け、緊急アラートを発令する。
「了解! ――接近中のザフト艦に通告する! 貴艦の行動はわが国との条約に大きく違反するものである。ただちに停船されたし!」
プラントが回線以前から使っている通信周波に乗せて、管制官が強い口調で勧告文を読み上げる。
しかし、その勧告への返答は、ヴェサリウスとガモフのさらなる接近であった。
そして――。
「パッシブ・アクティブセンサーおよび各種通信システム、異常発生! おそらくNJによるものです!」
ニュートロン・ジャマー。
ザフトが開発した戦略妨害装置。
敵の誘導ミサイルの妨害や、部隊間通信を遮断して連携を崩すために多用される電子戦装備。
その装置が作動しているということは――。
「――これは、明らかに戦闘行為です!」
職員の一人が発したその言葉に、室内に冷たい空気が流れる。
「センター長……っ!?」
「――ッ! ……確か昨夜、東雲重工の連絡艇が入港していたな!」
「あ、はい! 一度離れていますが、48時間以内にもう一度入港するとのことでした」
「ということは、ホウライ所属の艦が近くにいるということだ。国際救難条約に基づき、閃光弾による救難要請を!」
「りょ、了解!」
こうして、のちに『ガンダム強奪事件』と呼ばれる出来事の幕はあがった。
――――
緊急アラートのブザー音が鳴り響く、ヘリオポリス宇宙港内ドック。
そこに簡易係留されているマルセイユ3世級宇宙輸送艦内においても、この非常事態に対応するための激論が交わされていた。
「敵は!?」
『二隻だ! ナスカ級ならびにローラシア級。電波干渉直前にモビルスーツの発艦を確認した!』
内線を通してブリッジクルーに状況を確認した金髪の青年は端正な顔を強張らせる。
「ひよっこどもは?」
『もうモルゲンレーテに着いてるころだろ』
「せめてもの救いってところですかね。――ルークとゲイルは『メビウス』にて待機! まだ出すなよ!」
入隊以来、生きるために鍛えた肉体に黒と紫の特注パイロットスーツ――軍上層部からの押し付け品――を着込んだ金髪の男性『ムウ・ラ・フラガ』大尉は部下に指示を出すと、自身も貨物カーゴを改造した格納庫に鎮座する専用モビルアーマー『メビウス・ゼロ』に乗り込む。
そう、彼らはただの貨物船クルーではない。
地球連合軍の正規軍人であり、極秘任務に従事する人員をヘリオポリスに護送した特殊部隊であった。
「最後の最後で仕掛けてくるか……。こっちの油断をつく作戦、まさか奴か?」
『フラガ大尉! 敵モビルスーツを確認! 数は4! 2機が港内に!』
「艦を出してください! 港を制圧される。こっちも出る!」
モビルアーマーにとって宇宙港内はあまりにも狭すぎる。
彼らMA部隊は守るためにもまずは前に出る必要があった。
――――
「ヘリオポリス宇宙港より閃光弾上がります。国際救難条約に基づく救難要請です」
ヘリオポリス周辺宙域に漂う東雲重工所属の高速巡洋艦『ズイウン』ブリッジにてザフト軍の行動を観測していたクルーが光学センサーの捉えた情報を報告する。
これを受け、ブリッジ中央の艦長席に座るウェーブのかかった栗毛の髪の女性――『神宮寺まりも』は通信士し指示をだす。
「やっとか……。量子通信にて『ホウライ』に打電! ザフトによる中立国所有コロニーへの攻撃行動を確認および救援要請を受けた、と!」
「了解!」
「機関部へ! メインパワーをバトルモード!」
『機関部了解!』
「砲雷長! FCS起動! 対MS戦用意!」
「了解! 対MS戦用意!」
まりもの指示を受け熱を帯びたブリッジには民間船に相応しくない物騒な言葉が飛び交う。
と、そこに格納庫で待機していたアムロから連絡が入る。
『神宮寺艦長、こちらアムロ・レイ。アルファ・チーム、全員発進準備完了している』
「レイ主任、ありがとうございます。白銀と篁は問題ありませんか?」
『少々緊張しているようだが……なに、二人とも腕はある。このくらいなら問題ない』
「わかりました。……白銀、篁。レイ主任の指示をよく聞き任務を『完了』させよ。『リタイア』は許さん」
まりもはアムロの部下であり『教え子』の『白銀武』と『篁唯依』に指示を出す。
『了解! 死ぬ気はないよ、まりもちゃん』
『おい、白銀! 任務中だぞ! ……申し訳ありません、神宮寺艦長。了解です!』
「構わん。白銀はいつものことだから。――機関最大! ヘリオポリスへ向け最大船速! 作戦宙域に進入後、アルファ・チームを発進させる!」
――――
「――クルーゼ隊長の言った通りだな」
ヘリオポリス、モルゲンレーテ社工場区画であわただしく動く人々を高性能スコープで捉えながら、銀髪の少年『イザーク・ジュール』は小ばかにしたように呟く。
「つつけば慌てて巣穴から出てくる――って?」
イザークの言葉に同意するように、作戦前にクルーゼが言っていた例えを皮肉気に口にするのは、褐色の肌が特徴の少年『ディアッカ・エルスマン』。
「あの慌てよう、艦のみんなが動いたってことですかね、アスラン」
チーム最年少ながら、チーム内随一のプログラミングの腕を持つ、エメラルド・グリーンの髪が特徴の少年『ニコル・アマルフィ』が、深い紺色の髪を持つ鋭い目つきの少年『アスラン・ザラ』に話を振る。
「おそらくは……アレだな」
ニコルの問いに答えながら、アスランは工場地区を目ざとく観察し、目標と思われるトレーラー群を発見する。
「やっぱり間抜けなもんだ。ナチュラルなんて」
よほど慌てているのか、護衛車両も付けずに大型倉庫から出てくるトレーラーの姿に赤毛の少年『ラスティ・マッケンジー』が嗤う。
「まったくだ」
ラスティの言葉にイザークも同意し、カウンター付き送信機のボタンを押す。
それは、地球連合軍が秘密裏に利用していた区画に彼らが事前に仕掛けた高性能爆薬の起爆スイッチ。
一分間の表示がされていたカウンターは正しく時を刻み――。
「時間だ」
カウンターにゼロが並んだ瞬間、地響きがなり、目の前の工場区画の各地で爆炎が噴き出す。
「行くぞ!」
侵入支援につく歩兵のリーダーが声を上げ、少年たちを守りながら工場へと突入していく。