機動戦士ガンダムSEED~インペリアル・ガード~   作:国伊都

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第二話 彼女と『彼』の再会【2】

 

 

 ――大地が揺れる――!!

 

 スペースコロニーであるヘリオポリスの地面が揺れた。

 

「隕……石?」

 

 だが、隕石ならばヘリオポリス行政府が前もって警報を発しているはず。

 つまりこの揺れは突発的なもの。

 

「あっ……」

 

 なにがしかの変化がないかを探していたキラは、そこで気付く。

 

「モルゲンレーテが……」

 

 モルゲンレーテの社屋の周辺――最近新設されたコロニー部工場地区からもうもうと黒煙があがっていた。

 事故にしてはその範囲は広く、キラの脳裏にある言葉が浮かんだ。

 

「テロ――?」

「いや、違う!」

 

 思わず呟いた言葉をカガリが上空に鋭い視線を送り否定する。

 つられて見上げた瞬間、キラ達三人を巨大な影が覆い、通り過ぎていく。

 

「えっ……、――!?」

 

 その姿は、古代遺跡の壁画から飛び出してきたようだった。

 翼を模した一対の推進器を背負い、鋼の鎧を身にまとった一つ目の巨人。

 兜の羽根飾りはまるで古代の戦士を彷彿させるも、腰には中世の騎士が持つような両刃剣をさし、武骨な手にはクラシカルなデザインのアサルトライフルを構えていた。

 数は二体。

 向かう先は黒煙を上げるモルゲンレーテの工場区画。

 通常であれば、消防車や救急車等の緊急車両が展開しているのだが、そこにいたのはなぜかミサイルランチャを荷台に積んだ軍用車両。

 巨人たちはそれらにライフルの先を向ける。

 瞬間――!

 

 ――ダダダダダダッ!!

 

 銃声――いや砲声が轟き、砲弾に撃ち抜かれた車両たちがはじけ飛び、爆発する。

 その周辺に飛び散るのは、巨大な空薬きょう。

 

「ザフトの、モビルスーツ……」

 

 目の前で起こった惨劇に呆然としたキラは、そう口にするだけで精いっぱいだった。

 

 ZGMF-1017・ジン。

 L5コロニー群コミュニティ『プラント』の武装組織『ザフト』が投入した人型機動兵器『モビルスーツ』の中で、最も最初期に投入・運用している量産機。

 

 それがなぜ『ヘリオポリス』に……なぜ中立国『オーブ』の企業を攻撃している……?

 

(まさか『アストレイ』を……? いや、あれは――)

 

 しかし、キラはその思考をすぐに否定する。

 『アストレイ』はあくまでもオーブを『護る』モノ……。

 今の今まで敵対していないザフトに攻撃されるいわれなどないはず……。

 ――いや、もしあそこに『アストレイ』とは違うモノがあるとすれば……?

 と、そこでキラの思考は中断する。

 

「くそっ! やはりこうなったか!」

 

 暴れ回るジンの姿を睨みつけ、カガリは激昂し――モルゲンレーテへ向かって駆けだした。

 

「――!? カガリ、さん!?」

 

 この非常事態にもっとも『とるべきではない行動』を選択するカガリの後ろ姿を見て、キラは叫ぶ。

 が、その名前を叫んだところで彼女は止まるはずもなく。

 唯一の救いはキラの声に反応してトリィがカガリの後を追ってくれたことだろうか……。

 

(どうする!? でも……これでもしもがあったら……)

 

 キラは逡巡する。

 自分の出生の秘密につながる『名』を持つ少女。

 今ここで追わなければ、二度と出会えないかもしれない。

 いや、それ以前に、命を失いかねない危険な場所に一人放置することなどできない。

 だが、追えば自分自身もその危険な状況に陥るだけ――!

 

「まあ、そうなるよね、カガリなら……。さて――君はどうする? キラ・ヤマトさん」

 

 小さくなっていくカガリの後ろ姿に、場違いな感想をもらす空は、底の見えない笑みを浮かべキラに問いかける。

 

「えっ……? どうするって――」

「先ほど君も言ってたじゃないか。――『力』がなきゃ、と。薄々気づいてるんじゃないかな? あそこに何があるかを……。『敵』を増やす危険を冒してでもザフトが『ヘリオポリス』を襲う『理由』……それがなんなのか」

「――地球軍のモビルスーツが、あそこに?」

 

 もしそうであれば――。

 

(まさか『アストレイ』の技術が――!?)

 

 『アストレイ』に関わってまだ日の浅いキラは知らない。

 真相はその『逆』だと。

 だが、キラにとってそれは関係ない。

 ――知らぬ間に戦争当事者の一方に肩入れしていた可能性がある――。

 それを考えるだけでキラの身体に悪寒が走る。

 

「うそ……そんな……」

 

 ――これが代償だとでもいうのだろうか。

 自分の事を大切に育ててくれた両親を疑ったことの……。

 愛情あふれるそんな両親が、考え隠していた自分の秘密を暴こうとしたことの……。

 

「呆けている暇はないよ、キラさん。どういう過程だろうと、ことは起こってしまった」

 

 思考が負のスパイラルに陥りかけたキラの耳、空の言葉が刺さる。

 眼前の事実を受け入れろ、と彼は云う。

 それはただの学生でしかない彼女にとって、とてつもない痛みを伴うこと。

 だが、だからこそ、霧のかかる思考に一条の光を差し込むものだった。

 

「ならば、どうするか? 他人事だと思って事の成り行きを見守るか? 流されるままに身を任せるか? ――事の正否は後回しにして、自分が想ったことを成し遂げるか?」

 

「私は――私は知りたい。私の知らない『私』のことを――!」

 

 今までの行いの結果が『惨劇《コレ》』に繋がっているのであれば――今更、投げ出すなんてできない!

 

「カガリさんを追いましょう!」

 

 迷いながらも答えを見出したキラの瞳を見つめ、空も応える。

 

「ああ。急ごう」

 

 

 

 ――――

 

 

 

 『こちらはヘリオポリス行政府です。現在、本コロニーは緊急事項レベル5が発令中です。市民の皆さんは速やかに、近隣のシェルターへと避難してください。繰り返します――』

 

 緊急事項レベル5。

 それは『コロニーの重要ブロック』――コロニーを支えるメインシャフトや外壁、大気循環システム等が破損する危険性が高まった状況を示すもの。

 避難マニュアルに従えば、速やかに付近の避難艇兼用シェルターに避難すか、最低でも宇宙服の着用が義務付けられる状況……。

 

 しかし、そんなヘリオポリスの街中を、キラと空はカガリを追ってモルゲンレーテへと走る。

 

「はっ……はっ……!」

 

 普段、特に身体を鍛えているわけではないキラだったが、やはりそこは『コーディネーター』だからだろうか、さして時間をかけることなくモルゲンレーテの正面社屋へとたどり着く。

 自身に備わった能力に彼女は内心驚くも、それ以上に驚いたのは、それに追従できる空の存在であった。

 

「空さんって、コーディネーターなんですか?」

「いや、ナチュラルだけど?」

「えっ?」

 

 キラの疑問に空は否定の言葉を紡ぐ。

 

「まあ、鍛えてるからね。……ただ、やっぱり革靴は走るに適さないね」

 

 足の裏が痛いのか、優し気な顔を少し歪める空。

 

「鍛えてるって言っても……空さん、サラリーマンですよね?」

「サラリーマンって、結構体力勝負のところがあるからね」

「なんか……違う気がします」

「まあ、冗談はこれくらいにして。――君の『お友達』がお待ちかねだよ?」

 

 ――トリィ――!

 

 空が指さした場所で、トリィが鳴きながら上空で円を描いていた。

 その下には、カガリが二人を見やり、一言――。

 

「遅い」

「いや――君が突っ走りすぎだよ、カガリ。ね、キラさん?」

「えっ……まあ、はい」

「うっ……それは――」

「自覚があるから、ここで止まったんでしょ?」

 

 バラまかれた空薬きょうによって所々破壊されたモルゲンレーテ社正面社屋を空は見やる。

 

「まあ……そうだな、うんっ――って!?」

「成長の証ってとこ、かな?」

 

 そう言って空はカガリの頭を優しく撫でる。それを一瞬カガリも受け入れるも、キラが見ていることに気付き、彼の手を払いのける。

 

「こんな非常事態に、何を呑気なことやってんだ! お前!」

「ふっ……はいはい。――さて、カガリ、キラさん……。準備はいいかい?」

 

 カガリの照れに苦笑する空はネクタイを軽く緩めると、二人に訊ねる。

 

「ああ」

「……はい」

 

 そうして三人はモルゲンレーテ工場地区へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 ――――

 

 

 キラ達三人がモルゲンレーテにたどり着く少し前。

 

 モルゲンレーテ社地上工場地区では、突入してきたザフト軍と、モルゲンレーテ社警備部……に扮した大西洋連邦軍部隊による死闘が繰り広げられていた。

 

「ナチュラル共も中々にやるな……。カウント5で一斉射! 敵を釘付けにする! ジュール!」

 

 コンテナの陰に隠れて連合軍部隊の銃撃を凌ぎつつ、緑のノーマルスーツを身にまとった壮年の隊員――突入支援分隊長――が作戦を組み立てる。

 

「わかっている! その隙にターゲットに取りつく!」

「イザーク! オレとラスティで奥を捜索する」

「いいだろう……ディアッカ、ニコルはオレに続け! 表に出ている三機を押さえる!」

「オーケー!」

「わかりました。アスラン、ラスティ、お気をつけて」

「任せなさいな。な、アスラン?」

「油断するなよ、ラスティ」

「5、4、3……2……1……ゴー!」

 

 分隊長の号令に従い、兵たちがアサルトライフルの引き金を引く。

 フルオートで吐き出される銃弾にすぐさま物陰に隠れる連合軍兵士たち。

 

「いくぞ!」

 

 その隙をついてイザーク達三人は大型トレーラーに走り込み、その勢いを活かして背部スラスターを吹かす。

 コロニーの生み出す重力が1G未満の低重力のおかげもあり、トレーラー上部への着地を成功させる。

 イザーク、ディアッカ、ニコルの足元には灰色の体躯を持った巨人が横たわっていた。

 

 ジンとは違う、細身のシルエットに、より人型に寄せた一対の瞳――光学センサーを備え、特徴的なV字アンテナを備えた頭部が特徴的な、地球軍のモビルスーツ。――通称を『G』と呼ばれる機体。

 三人は素早く腹部中央のコックピットハッチを開放し乗り込む。

 ありがたいことにメインパワーはセーブモードだったらしく、システムの立ち上がりは速かった。

 

「流石にジンを参考にすればナチュラルでもそれなりのモノは造れる、か? もしくはモルゲンレーテの腕前か? ――自爆装置、解除完了。ディアッカ、ニコル! そっちは!」

『こちらディアッカ。自爆装置は解除完了! ――って、クソっ、なんだこのOS!』

『ニコルです! 自爆装置……今、解除完了しました。OSの書き換えを実行します!』

 

 作戦のためNジャマ―が起動しているとはいえ、隣り合った距離であれば通信は届くようで、三人はお互いの状況を把握できた。

 機密保持用の自爆装置を無力化できたのは僥倖だった。これで連合がこいつを破壊するには直接攻撃しかなくなった。が、それも――。

 

「OSは後で構わん! フェイズシフトを展開しろ! そうすれば時間は稼げるっ!」

『了解!』

『了解です!』

 

 コックピット正面に備え付けられた物理ボタンを押す三人。

 瞬間、彼らの乗り込んだ三機に劇的な変化が起こる。

 灰色だった装甲が鮮やかに『色づいて』いくのだ。

 イザークが乗り込んだ機体は、ホワイトとブルーに。ディアッカが乗り込む重武装型はサンドカラーとグリーンに。そしてニコルの乗る機体はブラックとレッドに。

 

 フェイズシフト(PS)装甲――。

 

 特殊加工を施した合金に通電することで、強度をアップして物理攻撃を無力化する技術。

 大戦以前、大西洋連邦の研究機関で開発されていた技術は、ザフトでも研究はされていたが、その完成・量産にはまだ時間がかかると判断され、開発が凍結されていたものだった。

 

「まさか、ナチュラルが先に手に入れるとは――」

 

 コーディネーターであることに誇りを持っているイザークからすると、正直腹立つ状況であった、が――。

 

「こんな、稚拙なOSでMSを動かそうなど――やはりナチュラルはバカだな」

 

 機体の操作を司るOSの出来があまりにもひどいものだった。それも、おそらくだが――。

 

『OS内部で、二系統のシステムがかち合ってやがるぜ、コイツ!』

 

 ディアッカの言う通り、OSの中枢部には『二つ』の基幹システムが根をはり、互いを牽制するようにパイロット側の操作を阻害していた。またこのシステムが『武装』と『挙動』で分かれているというのも不思議で、正直開発側の意図が読めない一因となっていた。

 

『これ、挙動担当の方がまだ完成度が高いですよ!』

 

 今回のメンバーの中で一番のプログラミング能力を持つニコルのその意見は採用するべきものだろう。

 

「俺たちの任務はコイツらを持ち帰ることだ! FCS周りはマニュアルに切り替えて、機体挙動の掌握を優先しろ。それから運べない部品類は破壊せよ!」

『了解! 工場区画はどうする? 爆弾で大体は吹き飛ばしたが、まだ残ってるぜ?』

『ディアッカ。ここは中立コロニーですよ? これ以上の破壊は――』

『なにを今更。連合と組んでモビルスーツ造ってた国が中立か?』

「そこまでにしろ、ディアッカ。お前の意見には賛成だが――スケジュールが少々圧してる」

『――了解っ』

 

 そうして、OSのアジャストを完了した三人は、連合製MS――デュエル、バスター、ブリッツというコードネームらしい――を立ち上がらせると、支援部隊の退避を素早く確認し、周辺に転がった予備パーツ類へ武器である『ビームライフル』を向け引き金を引く。

 

 高出力のビームの奔流がパーツ類を焼き尽くす。

 

『ヒュー! こりゃ、D装備レベルの威力だぜ』

『これが連合の力……』

「だが、これで連合のMS開発は確実に遅れる。俺たちクルーゼ隊によって、な。いくぞ!」

 

 メインスラスターを吹かし、三機は飛び立っていく。

 こうして、地球連合宇宙軍を中心に進められていた『G兵器開発計画』は、その成果であるフラッグシップ機を奪取されるという形で頓挫することとなる。

 

 唯一の救いは、マルチロール機として開発された『GAT-X105』が奪取を免れたことだろうか……。

 

 

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