No.1『便利屋チェイテの学生所長』
朝の五時半、とあるビルの二階にある事務室のような部屋で一人の茶色の鋭い目つきでありながら、整った顔により世の女性の視線を奪えそうな男性が書類整理を行っている。書類に書かれているのは何か依頼の報告書と思われる内容であり、彼はそれに目を通してから済と判を押してから、側にある紙の束の上に置いてから次の書類を手に取る。
報告書の中にはかなり雑に書かれているものもあり、それに対してはため息を付いてから別の束の上に置くという作業をしていると部屋の扉が開かれ、入ってきたのは鋭利な顎に、充血したかのような赤い瞳、纏う雰囲気は抜き身の刃を思わせる男性。自身が入ってきても視線すら向けない彼に特になにか思うこともなく、向こうも入ってきたのが誰かは分かっているらしく、視線を向けずに
「お疲れ。所長ならまだ起きてこないよ、この感じだと二人が帰ってくるまで寝てるんじゃないかな?」
「だろうな。昨日も遅くまでコウモリで遊んでたらしい」
曰く、昨日の23時回ってるという時間帯にコウモリが『所長』の自室から外へ飛んでいるのを見たらしい。件の人物は唯でさえあまり朝が強いというわけではない、だと言うのに夜更かししてるということには苦言を呈したいらしい。更に言うとすれば、今日は社長にとって大事な日であることも彼が眉間に皺が寄る理由でもあるだろう。
「まぁまぁ、所長だって意味もなく夜更かししてるわけじゃないんだから。それに、いくら彼女でもそこまでは抜けてないと思うよ」
「だと良いが」
男はそう告げてからドカッとソファに座り込み、軽く眉間を揉む。今さっきのことですら頭痛の種なのだが、所長である彼女との付き合いは誰よりも長いと言えてしまう彼としてはもう一つ物申したいことがあり、思わず口にする。
「いい加減、生活リズムを整えさせなければな……学生になってからもこれでは困る」
「何と言うか、その心配の仕方が保護者のそれだよね」
「あ?」
事務作業をしていた男からの言葉に対しての返答はこれでもかと殺気が込められた声と射殺さんばかりの視線。だが向けられた方はおぉ怖い怖いとおちゃらけるような声で全く意に介さずな様子に舌打ちを一つしてから、コーヒーを入れるために事務室から繋がっている台所へと消える。
これだけ見れば仲が悪いと思われそうだが、少ししてコーヒーを淹れ終え、先程と同じようにソファに座ってからは事務作業をしている彼と他愛のない雑談やらを始めるくらいなので、さっきのやり取りは彼ら的には軽いじゃれ合いのようなものだったのだろう。
それから30分が経った頃、事務作業も一段落ついたというタイミングで、二階への階段を会話をしながら上がってくる二人分の音が彼らの耳に届いたと思えば、廊下を走ってくる音に変わり、そして最後には、そこそこの音を立てて扉が開かれ入ってきたのは買い物袋を両手に持った笑みを浮かべた八重歯と茶髪の少女と同じく買い物袋を両手に持っている三白眼が特徴的な男性。
「みんなの分の朝ごはんのパンと飲み物とおやつ買ってきましたよー!」
「……待て、おやつだと? それにその量は何だ、その金はどこから出てきた」
「昨日の寝る前にお嬢から財布を渡されて、二人には話しておくって言ってたぞ。お嬢は言ってないのか?」
三白眼の男からの言葉を聞いた瞬間、質問した赤い瞳の男の眉間に皺が更に深く刻まれ、そして纏う雰囲気が何かを抑え込むようなものに変容したのをその場の全員が感じ取った。
間違いなく怒っている、けどそれを指摘すればどんな言葉が返ってくるか分からないので気付かないふりをする全員。それから男はゆっくりと立ち上がると扉に向かっていくので、とりあえず少女が笑みのまま
「えっと、どこに行くのですか?」
「ウチの阿呆所長を起こしに行ってくるだけだ」
あ、駄目ですねこれは。少女は静かに親友とも言える所長に心の中で手を合わせ、冥福を静かに祈る。その祈りが通じたのだろうか、男が扉に向き合い、ドアノブに手をかけようとしたとき、独りでにノブが降りる。無論、男だってそのことに気付き、ん? と動きを止めたのだが今回はそれが行けなかった。
次に来たのはバンッ! という扉の先に誰か居る可能性を微塵も考えていないという勢いで開かれた扉、それを顔面で受け止めてしまうという悲劇という結果に繋がってしまったのだから。無防備なところへの一撃に、その場で悶絶し、周りもあんまりな光景に苦笑しか浮かばせることが出来ないでいると、衝突したせいで閉じてしまった扉が今度はそっと開かれる。
そこからゆっくりと現れたのは腰まで掛かる真紅の髪に同じくらい真紅の瞳、口から見える鋭く尖った牙、その背中にはコウモリを思わせる大きめの羽根を生やしているのが特徴的な制服姿の少女。彼女は事務室の状況を確認してから、悶絶してる男に対して本気で疑問に思っているという表情と声で
「何やってるの『血染』、そこに居たら危ないじゃないの」
「■■■―――――ッ!!」
危ないも何もお前が原因だと告げようにも痛みから復活できない赤い瞳の男性『赤黒 血染』に本当に大丈夫なの? と心から自分が原因とは思ってない少女が小首を傾げる。
「うわぁ、すっごい痛そう……あ、おはようございますレイミィちゃん!」
「えぇ、おはよう『被身子』、『圧紘』『仁』もね。あら、買い物から帰ってきたの、ジャムサンドとクリームパン貰うわよ」
とりあえず怪我とかしてるわけじゃないしいいかと視線を前に戻した彼女は、自身をレイミィちゃんと呼んだ少女『渡我 被身子』からの挨拶に微笑みながら返し、続けて鋭い目つきの男性『迫 圧紘』、三白眼の男性『分倍河原 仁』にも言葉を掛けてから、袋に詰められているパンを2つ取り出してから『所長』と書かれたネームプレートが置かれている他の机よりも若干立派な机の、革のビジネスチェアーに座る。
「あ~、まぁ良いか。おはよう所長、コーヒー淹れてくるよ。あぁ、砂糖とミルクはいつも通りで良いのかな?」
「えぇ、お願いね」
先ず圧紘がいつもの事だしと苦笑してから、彼女にコーヒーを淹れるために台所へと消える、もとい逃げた。多分数秒もすれば血染が復活して騒がしくなるだろうからと。
「おはようお嬢、今日は少し早めに起きたんだな。いや、少し遅いのか」
「そうね、いつも通りじゃないかしら? って、ちょっと寝すぎたかもしれないわね」
仁も血染には触れないことにして彼女と会話をしてから、食べたいパンを取り出し、自身の机に座って袋を開けて食べ始める、もとい我関せずのスタイルである。
なお、被身子も同じスタイルであり、彼女は二人よりも早くパンを選んで食べ始めている。
「ふぅ、つぅ。おい、阿呆所長」
「何かしら血染、鼻っ面とか額とか赤いわよ」
あまりに酷い呼び方だが当の本人はまるで気にする様子もなく、パンの袋を開けてから血染の鼻っ面を指でさしながら告げて食べ始める。その態度に未だ痛む額を軽く擦りながらため息を吐き出してから視線を彼女に向ける。
彼女のその態度は今に始まったわけではないので、これについてはさほど問題にはしていない。ただそれはそれとして、今回、彼が言いたいのはこれである。
「会社の金を勝手に使うな」
「ん? あぁ朝食のパンとかを被身子たちに財布渡して買わせたって話? 良いじゃない、この間の『公安』からの依頼と通常の依頼を何件か終わらせたおかげで、別段今は資金繰りに困ってるわけじゃないし、パンの備蓄も無くなってたし丁度いいかなって思ったのよ」
「……じゃあ、このおやつの大量購入はなんだ?」
「依頼人とか、来客に出すお茶菓子よ? それとつまむ物も無かったなって。あ、だったら茶葉とコーヒーも買ってもらうべきだったわね」
ここまで聞いて血染は軽い頭痛を覚えた。眼の前の所長少女は一から十まで間違ったことはやってないし言ってないと心の底から思っているくらいににこやかな笑顔を浮かべているのだから、実際そこまで間違っているわけでもないし、出費だけ見たとしても致命的でもなければ、これだけで揺らぐようなものでもない。
だがそれはそれとして所長の一存で会社の資金を使うことが出来てしまうというのはよろしく無いだろう。ならばそれだけはこの少女には分かってもらわなければならないと痛む頭をぐっと抑え込んでから
「だとしてもだ。今後は会社の金を使うなら俺か圧紘に一言かけろ、あとで経費作成の際に面倒になる」
「うっ、それは、そうね。悪かったわ、今度からはそうする、ごめんなさいね」
「分かれば良い、それだけだ」
ついさっきまでの態度とは打って変わり、このように自身に非があると認めれば素直に認め、シュンとなり反省するので血染もそれ以上は言わずにコロッケパンを手に持ち、自身の席に付いて食べ始める。そのやり取りを見ていた被身子は近くの仁に本人的にはと言う枕詞が付くが、小声で
「仁くん、仁くん、なんだかんだ言って、血染くんってレイミィちゃんに甘いですよね~」
「厳しくはあるけどな。だがそれ以上に甘いのは確かにそう思う」
なお、ばっちり彼の耳には届いたらしく態とらしい咳払いをされるも、被身子は彼女らしい笑みを浮かべ、仁は気付いていないという感じにパンを食べ進め、血染も無駄だと分かっているのかため息を一つ付いたところで圧紘が淹れ終えた人数分のコーヒーをそれぞれに配りながら
「ほんと、今朝も話したけど所長と血染のやり取りは保護者と子のそれなんだよね。はい、所長」
「まだ言うかテメェ……」
「ありがと、まぁ付き合いが長いが故ってやつよ。……ん、このコーヒーいつもと違う、いえ、普段のよりも良いの使ったわね?」
受け取り、香りを一度嗅いだだけで看破した彼女に圧紘は流石だなぁと、それだけで女性を落とせるんじゃないのだろうかという穏やかな表情で頷き
「今日は所長の大一番ってやつだからね。少し良い豆で気合を入れてもらおうと思ったのよ」
「まぁでもレイミィちゃんなら雄英高校の入試だって楽勝です!」
信頼が重いわねと微笑みながら呟く少女、だがその声には不安など全く滲ませておらず、寧ろ自信が満ち溢れていると感じることが出来る。本日は高校の入試当日、その中でも今のこの日本では最も難関だと言われる『国立雄英高等学校』へと彼女は挑もうというのだ。
「頼むからヘマしたとかは止めろよ」
「血染、あまりお嬢を脅すなっての。まぁ脅しておいて気を引き締めさせるのは賛成だけど」
「言われるまでもないわ。私はあなた達の首を預かってる身、油断なんて出来るわけ無いじゃない。それに『協会』からの信頼もまだまだ稼がないといけないからね」
所長、そう呼ばれるように彼女はこの事務所の主である。だが今日までの行動、そして諸々の事情で彼女たちはヒーロー協会とは銃口を突きつけ合いながら利用している仲、そんな協会から彼女に出されたこの事務所を続ける条件として雄英高校の入学及び卒業を課せられている。
無論、彼女も今の関係を良しとは思ってはいないのだが、かと言ってまだ動きを起こせるわけでもないので従っているのである。ともかく、その第一歩として今回の受験に失敗は許されない、が所長として所員を不安に、路頭に迷わせることなんて絶対にしないという覚悟を声に上記の言葉を紡げば、それを聞いた四人も笑顔を浮かべ。
「ま、貴様が落ちるとは全く考えてないがな」
「おじさんも同じさ、だから所長もいつも通り暴れてくるといいよ」
「寧ろ今から合格祝いを考えることをトガは進言します!」
「それ良いな、盛大に祝おうぜ。いや、あまり盛大だと予算がないか?」
賑やかになる事務室、だが時計を見ればそろそろ出発しなければ間に合わない。となれば、さっさとパンを平らげ、昨日に準備を済ませ自身の机に置いておいたカバンを手に取って、立ち上がりグッと伸びをしてから事務室の扉に手をかけたところで顔だけ振り向き
「じゃ、行ってくるわ。いつも通り公安や警察とかからの依頼が来た場合はそれを優先、無ければ民間からのを片っ端からお願いするわ。私じゃないと難しいのだけ、机に置いといてくれれば帰ってから片付けるから」
「分かりました~。あ、レイミィちゃん、入口のサインプレートを変えといてください!」
了解と告げてから事務所から出て階段を降りる前に振り返り、扉に掛けてあるサインプレートを『Close』から『Open』に変える。
「これ、所長がやることなのかしらね……まぁ、良いけど」
ボソリと呟きながら、階段を降りてビルを出てから二階の窓、の少し下に建て付けられている看板に視線を向けてから変わりない様子に軽くほほ笑みを浮かべて、目的地の雄英高校へと歩き出す。その足取りはこれから難関高校入試に挑むとは思えないほどに非常に軽いものだった。
これは『便利屋チェイテ』の所長を務める少女『レイミィ・バートリー』のドタバタストーリーである。
ついにやっちゃいましたね……これでもう逃げれないんですね……えへへ……きっと、これから凄く辛い執筆マラソンが始まっちゃうんですね……(アリウスズブトイスナイバー並感
はい、なんか既に原作壊れてるな? という感じの作品です、よろしくお願いします。
便利屋結成とかレイミィと現メンバーの出会いとかもいつか書きたい、てか書かないと駄目だよねこれ……
あとキャラのエミュがコミックをまだ読み込めてないから相当薄いです、なんとか頑張ります。