カポーンなんて効果音が聞こえそうな轟家の風呂場に私は居た。自分で書いておきながら何言ってるのかしらコイツってなるけど変えようのない事実なのである。
勿論ながらと言うべきだろうか、私一人というわけではなくこの場には被身子と冬美さんも目の前で和気藹々と話しながら体を洗っている最中だ。その後ろ姿を見ながら私は状況整理を始めることに。
あれはそう、轟燈矢の話を終えた後、祝いとしてオムライスを振る舞うわというところから始まる。台所にて何時ものように、けれど折角だからと何時もよりは力を入れて調理していた私を見て冬美さんが
「何時も見てもだけど、手際いいよね、レイミィちゃん」
「慣れてるだけよ、それに一時期は作り方とかずっと勉強してたってのもあるし」
「卵が安かったら一ヶ月はこれだった可能性がとか言ってましたね~、流石に皆で止めましたけど」
あの時の私はほら、まだあの人のオムライスがどんなのだったかの探求みたいなものをしてた頃だったから尚の事よね。
まぁお陰で人並みには料理はできるようになったし、オムライスとイワシ料理だけは誰にも負けないとまでは言わないけど、そこらの料理人よりは上手く作れるっていうレベルにまでなっているけど。
「よっと、そう言えばオムライスの種類を個人個人に聞いておくの忘れてたわね。みんな、プレーンでいいかしら?」
「良いと思うけど、他にも作れたりするの?」
「えぇ、一通りは。ただ物によっては時間が多少掛かったりするけど」
「へぇ、じゃあテレビとかでよく見るケチャップライスの上に乗っけてから卵を切って完成っていうのも?」
タンポポオムライスって言われるやつね、血染が好きなやつ。勿論出来るわ、あれはあれで作る方も楽しかったりするのよね、技量が求められるって言う点でも力試しにはちょうどいいと個人的には思っているわ。
あと、最後に一手間入れて完成っていうのも特別感あっていいわよね。
「ならレイミィちゃん、冷さんのはタンポポにしたらどうです?」
「今それを考えたわ。どうかしら、冬美さん」
「いいと思うよ。きっとお母さんも喜ぶと思うから」
よし来た、そうと決まれば冷さんのは最後にして残りを仕上げちゃいましょう。できる限り作り立てを提供したいものもあるけど、あれは出来立てじゃないと成功しにくいっていうのもあるのよね。
とか言いつつも私がそれをしくじる訳なく、人数分を作り終え仕上げとして冷さんの前でタンポポオムライスの卵を切り開けば、なんだか大げさなまでに感動されてちょっと小恥ずかしかったのは秘密よ?
「うぅむ……」
「美味しい、これソースも手作りですよね?」
「えぇ、市販のケチャップは個人的に合わせづらくてケチャップも手作りにしてるわ」
別に市販でも良いし、事務所で作るときなんかはそうしてるけど今日は祝いの席という事でそこから凝ってみたわ。エンデヴァーも唸ってるだけじゃなくて言葉にしなさいよ、ほら、美味いって言ってみなさいよ。
「止めろ、みっともない」
「だけど本当に美味いな、これだけで店開いてもいいと思うレベルだ」
「……いいかもな、バートリー」
「学校を辞めろと?」
流石に便利屋だけじゃなくて飲食店経営までするとなったら学校辞めるわよなんて冗談は置いておくけど、それ抜きにしてもやるつもり無いわよそれは。
と言うか飲食店はまた便利屋とは別の資格とか必要だから直ぐにできないし、出来たとしてあれこれ今以上に計算が必要になるから嫌よ。
「割と真面目な答えが返ってきてトガは非常に困惑してます」
「所長らしいとは思うけどね。実際、便利屋だけでも毎日数字を弾いてるし」
「正直な話、圧紘とお嬢が毎日やってるそれは俺が見ても頭痛しかしねぇんだあれ」
その辺り、エンデヴァーはどうしてるの? やっぱり税理士とか雇ってやってもらってる感じ?
「そうだな、俺自身もやれなくはないがってなんだその顔は」
「いえ、出来ることに驚いただけよ。でもそうよね、じゃないと〝個性〟で自爆しちゃうか」
「ですけど、炎司さんも昔は苦労してたと言ってましたよね?」
「れ、冷!」
ふぅんと誂いたくなったけど、私もそこは人のこと言えないのよね。昔、と言うか便利屋を開いたばかりの頃は頭抱えてばかりだったし、流石に知識があっても実際にやってみると混乱しちゃうのよね。
焦凍も出来るようになったほうが良いわよ、いざって時に役に立つから、まぁ貴方は結構頭の回転も早いとは思うから大丈夫とは思ってるけど。
「なぁ、これって退院祝いの席なんだよな、なんでそんな話をしてんだ?」
「さてな」
火伊那が何か呟いて、血染が答えたようなのだが私は気付くこともなくオムライスを食べながらその後も冷さん達と会話をし、夕食後に食器洗いまで済ませ、居間に戻ったのだが、そう、その時だわ。
食後の休憩もいい感じの時間が過ぎたし、明日は学校は休みだけどラブラバの事務所に顔を出しに行くから帰ろうかと私が言ったタイミングだった。
「あ、レイミィちゃん、ちょっと良いかな?」
「ん、何かしら冬美さん?」
「良かったらさ、今日は久しぶりに一泊していかないかなって。折角だからお母さんももう少し話したいと思ってるみたいだし」
遠慮気味ながらもグイグイという感じの声での提案に、少しばかり悩むがやっぱり明日があるからなぁと思っていると、血染が何かを思い出したかのように私にこう告げた。
「そうだ、ラブラバなんだが午前中にどうしても外せない急用ができたらしく午後からに予定を変えてくれと連絡が来てたぞ」
「何で私の所じゃないのかしらねそれ?」
「お前に言ったら間違いなく煽ってくるだろと思われてんだろ、ともかくそういう事だ」
「丁度、明日は便利屋も定休日だし良いんじゃない所長」
いや、別に悪いとは言わないんだけどさ圧紘、そもそも荷物とか無いじゃない? えぇ、被身子、その荷物は何かしら?
「え、お泊りセットですけど? 勿論、人数分もありますし人工血液も用意してますよ!」
「違う、そうじゃない。なんでこんな事もあろうかとみたいなノリでそれが出てきたのかって話をしてるのよ」
「……あぁ、そういうことか」
何納得してるの火伊那、あぁいやそうよね、えぇ、初めっからそのつもりだったってことかこれ。なら言えば良かったじゃないの、別に断るとかしないんだしさ。
「え、特に深い理由はないですよ? ただこの方がレイミィちゃんの面白い反応が見れるかなって」
「素敵な気遣いに感動しそうだわ私」
「えへへ~」
褒めてないっての。やれやれ、まぁそこまで用意されちゃ断るのも悪いしお言葉に甘えさせてもらうわ、なんか急にって感じでごめんなさいね。
頭を下げて冷さんとついでにエンデヴァーに頭を下げれば、どうやら二人もこの件は聞いていたようで大丈夫だと言葉が返ってくる。なので被身子の脳天にもう一撃チョップを与えてから、ふぅと息を吐き出して座り込む。
「ねぇ、いったいんですけど! しかも結構本気でしたよね、頭凹んじゃいますよ!」
「その程度で人間の頭蓋骨は凹まないっての。大体、貴女が変な気遣いするからでしょうが、夏雄さん、焦凍、騒がしくなるみたいで悪いわね」
「いや、気にしないし、久しぶりに赤黒さん達とのんびり話したいとも思ってたから」
「そもそも俺も夏兄も既に聞いてたからな、てっきり渡我さんから聞いてると思ってて言わなかったが」
三発目行っておくか……その行動に移るよりも先に私の殺気を感じ取ったのだろう、被身子は既に射程外に逃げており溜息を吐き出して振り上げた手をゆっくりと下ろす。
それから被身子が冬美さんを巻き込んで、今に至ると。まぁ長々と語ったけど早い話が押し切られたっていう理由でしか無いわね、えぇ。
「うーむ、何もしてないのに肌のハリも艶も良いっていうのは卑怯だなぁ」
「卑怯って、私はまだ子供ってだけだし冬美さんだって綺麗だと思うけど?」
「私はこれを維持するために色々とやってるから、被身子ちゃんとかもそうでしょ?」
「ですね~、でも〝個性〟のお陰で私もそこまでガチガチじゃないですけど」
被身子の〝個性〟【変身】は言葉の通りな物なのだがその副産物として肌が常に若々しいと言うか瑞々しいと言うべきか、まぁその段階で固定されてるみたいな感じらしい。
らしいっていうのは私にいまいち分からないっていうだけなんだけど、因みに私自身は言うまでもなく【吸血姫】のお陰でもあるし、あと考えられるとすれば……
(この身体の出生の影響でしょうね)
良くも悪くも変化が乏しい身体、だからこそ劣化もしなければ成長もしない身体、その癖して負荷の軽減はされないからずっと消耗し続けていく。
そう言えば、私自身のことについて話すとか言っておきながら燈矢の件で満足して忘れてたわ。もしかして被身子はそれを見越して泊まりって話を裏で進めてたのかしら?
「いや、無いわね」
「ん? 何が無いのレイミィちゃん」
「被身子が謀略を巡らすことは絶対に無いだろうなって」
「何で急にトガに棘をぶっ刺したんですかレイミィちゃん!?」
叫ばないの、浴室は声が響くんだから。それにしても浴槽の大きさはウチとあまり変わらないのに、なんでか轟家のは落ち着くのよね~、何が違うのかしら。
やっぱり材質とかかしら、木だし。こっちはタイル貼りだから雰囲気の差ってやつかしらね。
「ビルのも変えてみますか?」
「費用が幾らになると思ってるのよ、別に困ってるわけじゃないからやらないわって」
「……」
どうしたのかしら冬美さん、私をじっと見つめてるけど。もしかして傷が残ってたりしたかしらと身体を見渡しが特にそんな感じもなく、けれどその視線は何か気になることがあるという感じなのは間違いない。
しかも真剣な表情と眼差しだから尚の事、どうしたのかとなる。と同時に、こうも凝視されると流石にこう思うわけで。
「冬美さん、流石に同性と言えどそこまでマジマジと見られると恥ずかしいわ」
「ごめんごめん、そっか、レイミィちゃんも恥ずかしがったりするんだ」
「羞恥心くらいはあるつもりで生きてるんだけど、もしかして無頓着とか思われてるのかしら私って」
「だって情緒幼稚園児だって響香ちゃんに言われたんですよね?」
何でそれを知ってるのかしらね貴女と思ったけど、そう言えばA組女子とは連絡先を交換してたわね。そう思うと、学校でのやり取りは逐一この娘に情報が流れるってことか、え、じゃあ何、あれも?
「あれって言われてもどれですか、心操くんの情緒を本気で狂わせてるっていう話ですか?」
「いや、別に狂わせてるつもりもないんだけど?」
「レイミィちゃん、もしかして男子にも焦凍みたいな感じに接してたりする?」
してるかしてないかとなるとまぁ、大体そんな感じかしらと答えると冬美さんは困った感じというべきか、あ~みたいな感じの笑みでそっかと答え、被身子に視線を飛ばす。
飛ばされた被身子は深刻そうな顔で首を横に降るのだけど、何かしらそれ、何が言いたいのかしら?
「手遅れって言いたいんですよ、レイミィちゃんの無意識な言動と行動で一人の男の子が犠牲になってしまったことにトガは今からどんな謝罪を彼にすれば良いのかと悩んでしまいます」
「そんな大げさな、と言うか人が犯罪犯したみたいなノリで言われるのは心外なんだけど」
「心外なのはそこまでのことを言っておきながら万一にも脈がないっていうことを突きつけられる心操くんだと思いますよ?」
脈ってなに……あ、また溜息を! 冬美さんもどうしようみたいな感じで見てないで、と言うかあの人がそんな顔するってことはもしかして私が悪いのこれ?
「悪いかどうかってなると、うーん、そうかなぁ」
「ズバって言っていいと思いますよ、レイミィちゃんのノンデリ! って」
にっこり笑顔の被身子の言葉を聞いた直後、浴室に小気味よい音と一人の少女の悲鳴が響いたのはきっと気の所為だろう。別に何もしてないのに被身子が頭を抑えて唸っているけど、まぁ逆上せたんでしょ、そろそろ出ましょうか、冬美さん。
「え、えぇ、そうね……大丈夫、被身子ちゃん」
「訴えたら勝てるくらいには痛いです」
誰が誰に訴えるのかしらね? そんな雰囲気に呑まれてすっかり頭から抜けてしまったが、そう言えばあの時、どうして冬美さんは私の身体を見つめていたのだろうかと着替えている時に思い出し聞いてみた。
聞けば、彼女は気の所為かもしれないけどと前置きをしてから、私にこう聞いてきた。
「レイミィちゃん、なんだかこう、体の線が細くなってないかなって」
「体の線が細く? あまり気にしたこと無いけど、そうかしら?」
線が細く、つまり体の筋肉とかが落ちてきてるってこと? あぁでもリカバリーガールの検査の時に気付いたけど、確か体重は軽くなってたわね。
この時、私はなんてことない感じにそう答えたのだがそれを聞いた冬美さんは何だか痛ましい事実を知ってしまったかのような表情をしたのを今でも忘れられない。
まさかの轟家、三話目突入。こんな書き方してるから話数が無駄に伸びるんやぞお前(他人事