あれ、もしかして私が今さらっと言ったことって相当重要というか自分の体に異常が起きてますって言外に言ったようなものじゃない? と気付いたのは冬美さんのそんな顔を見たときだった。
細くなって軽くなってますなんて言われれば、まぁ確かに何かあったんじゃとなる、私だってなる。
「被身子ちゃん、レイミィちゃん何かあったりした?」
「あ~、そう言えば話してなかったですよね、あれ」
「タイミングを見失ってたからね。冬美さん、着替えてから全員が居る場所で話すわ」
また空気が重くなる、そう考えるだけで気が滅入りそうになるがここまでハッキリと異常がバレてしまっては誤魔化すことも出来ないので覚悟を決めるしか無い。
と言うか現状でも既に重いし、誰も話さないまま着替え終えて居間に戻る。そこでは大人組と焦凍があれこれと話していたが私と冬美さんの空気を感じ取ったのだろう、焦凍からなにかあったのかと聞かれたので。
「あ~、ちょっと話し忘れてたことがあってね」
「……やっとか」
呆れたような呟きをする血染に反論をしたかったが、そもそもがあの場面で私が満足して話さなかったのが原因なので堪えておく、それに今はそういう空気でもないし。
見れば今のやり取りの間に冬美さんから少し話を聞いたのだろう、私を不安そうな目で見つめる轟家の姿、言うまでもないけどエンデヴァーは別よ、あれが不安そうな目とか寒気がする。
「さて、まぁその、燈矢の情報を集める時に出てきたって話なのよ」
どう切り出していいか分からなかったからとそんな感じから、私は自分のことを話し始める。あの日、判明した全てを、一人のとあるプロヒーローによって生み出された私という存在についてを……
何より、私が記憶していた幼い頃の記憶全てがそもそもが勘違いであったということを、何一つ隠さずに。何と言うか、今日まで黙ってたくせにいざ話し始めるとスラスラと口から出てくるもんだから途中で笑いたくなった。
多分、黙ってることにすら限界が来ていたのかもしれない、友人たちではなく長い付き合いがある轟家だからっていうのもあるとは思うけど。
ただまぁ、言われる側は私みたいな気楽さはないでしょうね。なんたって出せる話題が話題だもの。
「そう、だったのですね」
辛うじて声を出したのは冷さんだった。衝撃を受けつつも、それを受け止めた上で彼女は私を見つめ、その言葉を零したのを見てこの人は本当に強い人だと改めて思わされてから、ただこれは勘違いしないでほしいと付け足す。
「私はこの件については引き摺ってないわ、吹っ切れたと言うか、なんというか、そうね、腹が立ってくるが正しい表現かしらね」
「そ、そうか、なら安心したって言うべきなのかこれ?」
「……バートリーの生い立ちを聞いてると、他人事には思えねぇな」
本人はただ感想を述べただけだろう焦凍の言葉に冷さんを除いた全員の視線がエンデヴァーに突き刺さる。まぁそうよね、言われれば確かにそうだわ、とある目的のために生み出しましたとかこの家では他人事でもなんでもないものね。
そんなもはや物理的に存在してるんじゃないだろうかという視線を受けたエンデヴァーは、気不味そうに目だけを動かすしか出来ていない。どう反応して良いのかわからないのだろう、一生そうやってろ。
「ナンバー2が家庭じゃこのざまだって誰が思うよ、私は少なくとも思わねぇぞ」
「うーん、トガ達はしょっちゅう見ちゃってますから何とも思わないんですけどね」
「今や外だけでしか虚勢を張れないのよ、察して上げなさい」
「お嬢、流石に怒られても仕方ないと思うぞそれは」
うっ、確かに冷さんの前であまり失礼なことは言うべきではなかったわごめんなさい。エンデヴァーもまぁ全く駄目だってわけじゃないのは理解してるけどね、それはそれとして煽るけど。
「じゃあさ、レイミィちゃんの身体が段々とその、弱っていってるって言うべきかな。ともかく、そうなってるのも身体がそう調整されてるからってことなの?」
ふと、冬美さんからそんな質問が飛んできた。思えばこの話を切り出すことになってのもお風呂場で彼女が私の身体の異変に気づいたからだったわね、そして結論だけを言えば、これはそこは関係ない。
身体はあくまで〝無個性〟として作られたから【吸血姫】の力に調整されずに負荷がかかってしまって心臓が段々と言うだけ、なので身体が細くなり始めたとかの原因ではない。
では原因は何なのか、それは【吸血姫】そのモノの特性である。早い話が栄養が足りてないから痩せ始めていると言うだけなのよ。
「え、でも普通に食事とかしてるよね?」
「普通の食事でも確かに栄養は補給できるんだけど、どうも【吸血姫】はそれだけじゃ足りないってことらしいわ」
今までは問題なかったのだけれど、雄英に入ってからは戦闘が増えたからカロリー消費が増大、結果として今に至るというわけである。
つまるところ、栄養失調みたいな感じになっているとも言えるわけ。じゃあ、どうすればいいかっていうのも私は知ってる、知ってるんだけど……
「だけど?」
「要は、吸血鬼が好きなものって話よ」
「血ってことか、あれ、でも人工血液を飲んでなかったか?」
夏雄さんの言うように人工血液は確かに飲んでいるがあれはあくまで吸血衝動を抑えるだけのものであり、栄養を取ることが出来ない。しかもこの〝個性〟の何が厄介かと言えば、生き血を牙を使って吸わなければならないという妙な縛りが存在することだろう。
長々と言ってるけど、早い話が〝吸血〟をしろって言うことなのよ。そりゃ、確かに過去のことは吹っ切れたからトラウマも同時に無くなったわけだけど、これはまた別問題と言うかなんというか。
「その、なんせ12年前にしたのが最後で、しかもその時はどんな感じだったかも覚えてないから吸血した時にどの程度の血を吸うのか、吸ったときに私自身の衝動を抑えることが出来るのかとかが分からなくて」
「そう言えば、中学の時にトガで試そうとして結局、首筋に噛むことも出来ずにゲロゲロしちゃってましたね」
あの時はまだあの件を引き摺ってた頃だから出来るはずがないってのにやろうとして部屋が大変なことになったわね。
なら吹っ切れた翌日に被身子で試せばって話をされると私も反論はできない。まぁ、〝吸血〟自体に忌避感があったっていうのもしてこなかった理由ではあるんだけど。
「でも身体が弱ってきてるとなれば、流石にもう忌避感だけでやらないはおじさんとしても止めてほしいかなって」
「分かってるわ、それに【吸血姫】を成長させるにも〝吸血〟は必要だから、覚悟を決めるしかないのよね」
今のままじゃどう足掻いても赤霧に勝てない。ならもう目を逸らせる問題でもない、そこまで頭の中で整理してからはぁと大きなため息を吐き出す。
「ならバートリー、俺の血を吸ってくれ、いざとなれば〝個性〟で止めれるから」
「……出来たら嬉しい言葉だったわ、本当に。と言うか、だったらエンデヴァーから吸うわよ、けど男の血は殆ど意味ないのよこれ」
「そこはとことん吸血鬼なんだ」
もっと言えば〝バートリー〟の血筋みたいなものも関与してる疑惑もあるのよね。もしかしたら血筋を辿ったら本当に本物に行き当たるかもしれないけど、その話は置いておこう。
ともかく、【吸血姫】が認めるのが女の生き血だと言うのを本能の部分が理解している。男でも大丈夫ならエンデヴァーの血液を半分くらい吸いたかったんだけど、いや、やっぱり胃が持たれそうだし要らないわ。
「ん~、じゃあ、私が……」
「バートリーさん、宜しかったら私の血で試してみませんか?」
え? という声を漏らしたのは誰だろうか。私だったかもしれないし、被身子だったかもしれない、或いは冬美さんか、それとも火伊那だったか、ただ分かるのは全員が驚いた顔でその提案をしてきた冷さんを見つめているということ。
勿論、私もその一人であり、思わず理由を聞いてしまったほどのは驚いていたし、返ってきた言葉に私はお人好しすぎると思わずを得なかった。
「貴女から貰ってばかりですから、少しずつでも返していきたいから、では駄目かしら?」
「返していきたいって、既に夕食の招待とかで返してもらってるわよ」
「でも今日までのを考えればまだ些細な返済だわ。まだまだ沢山返したいのよ」
あ、これは駄目なやつだ。決意が硬すぎて私じゃどうしようもない、と言うかこの場の誰でも崩すことは出来ないだろう、轟家の母親はそういう頑固さを持ち合わせているのは分かっている。
ちらっと冬美さんに視線を送ってみるけど向こうも諦めたように首を横に振るだけ、いや、だからってその。
「流石に退院早々にそういう無茶はしないほうが」
「今日までの検査で身体は健康そのものだとお医者様も言ってたから大丈夫よ」
「えっと……」
決意が全く変わらないという表情の冷さんに怯みつつ、あれこれ考えてみるが何も浮かばず、周りも既に諦めと言うか話を進めているしで、結局のところ私が折れる形で冷さんから吸血することに決まる。
一応、安全策として被身子には15秒経ったら私に伝えるように指示し、そこに火伊那が近くで私を引き離せるようにし、更に血染には私の血で作ったコウモリを飛ばし、何時でも【凝血】で動きを止められるように保険をかけ、私と冷さんが向き合っていた。
因みに男連中は部屋から出されている。居ても良かったが被身子いわく、吸血時は絶対に人に見せられない事になるからという事らしい、よくわからないがそういうものなのだろう。
「ふぅ、その、怖くないのかしら?」
「怖くないわよ。それに吸血される時はどんな感じなのかって楽しみでもあるわ」
「楽しみって言えるの中々に肝が座ってませんか、冬美さんのお母さん」
「流石、エンデヴァーの妻だこと」
そういう問題なのかしらそれ? 冬美さんも困った感じに笑みを浮かべてないで、なんて思いながら冷さんの方を見れば、既に準備万端とばかりに肩をはだけさせている姿に同性ながらドキッとしてしまった。
いや、肌白……え、これに牙を立てて血を吸えっていうの? すぅ、いや、怖気付くな私、大丈夫、いざとなったら火伊那と血染が止めてくれるし、何よりいい加減乗り切らなくちゃならないのよ。
「すぅ、はぁ、そ、その、痛かったりしたらごめんなさい」
「ふふ、平気ですよ。さぁ、どうぞ」
「……なんか、すっごいあれ、あれな雰囲気です、火伊那ちゃん、冬美さん」
「黙っててくれ、つかなんで今それを言ったんだよ」
「被身子ちゃん、今すごく真面目な場面だから、ね?」
外野が少しだけ騒がしいけど、緊張してる私が気付くわけもなく、また一つだけ深呼吸してから意を決して冷さんの白い首筋にゆっくりと牙を突き立てた。
刹那、12年前の感覚が全て蘇る、あれだけの年月が経っているというのに本能が吸血の仕方も、相手へ痛みを感じさせない方法も覚えているようで口から血が溢れること無く、ごく自然に飲むことが出来ている。
「んっ」
(うわ、これ、凄い、人工血液とは比べ物にならないくらいに……)
〝美味しい〟。思考がそれに染まりかけるのをグッと抑え込む。けれど、次にもっと欲しいという欲望と夕食後だというのに襲いかかってくる空腹感に脳みそがかき乱されるような感覚を覚える。
ヤバいと思うまで時間は要らなかった。どれも全く抑えられないという訳ではないのだが、かと言って長時間やって良い行為じゃないと理性で結論付け、何とかキリの良い所で止めるべきだと身体に訴えかける。
が、コレが中々離れることが出来ない。もっとこの人の血が欲しいと【吸血姫】の本能が私の理性を壊しに掛かってるのだろう。
「レイミィちゃん! もう、15秒経ちますよ!」
「ぐっ!! がっ! はぁ、はぁ……ありがとう、被身子」
「お母さん、大丈夫? って傷がない」
「えぇ大丈夫よ、それに思ったよりも血は吸われてないのかしら、ぼんやりもないわね」
「嬢ちゃん、実際どの程度の血液を吸ったんだ?」
感覚だけど、人工血液で飲んでる量よりも少なかもしれないってところかしら。でも〝吸血〟の効果は既に出ているのは分かった。
そのタイミングで被身子の声で終わったと判断した男性陣が一言告げてから部屋に戻ってきて、血染が体調を聞いてきたの素直に答えた。
「気持ち悪いくらいに調子が良いわ。なんていうべきかしら、体中から高揚感が収まらないって感じ?」
「思ったよりも効果が出てるね。明日か明後日にリカバリーガールのところで一度診てもらったほうが良いかもよ、所長」
確かにその方が良いかもしれない。それに〝吸血〟したということは〝個性〟も大幅じゃないだろうが成長してるとなれば再検査して負荷を確認し直さないといけないし。
でもやって正解だったわね。あの感じだったら側に誰かが居れば最悪は防げるのは分かったし、冷さんの勇気ある行動に感謝しかないわね。
「そんなお礼を言われるほどじゃないですよ。言ったじゃないですか、貰ったものを少しずつ返したいだけだって」
「それでもよ。あ、でもあれね」
そう言えばという感じに私が困ったことを口にする。この体から溢れてきそうな高揚感ってどの程度で収まるのだろうかと、ともすれば最悪は今日は寝れないかもしれない私と言えば。
「その辺りのコントロールは出来ないのか?」
「12年ぶりの吸血だから分かんないのよ、感覚もまるっきり忘れてるし……」
「ふん、貴様にしては弱気な言葉だな」
「やってやろうじゃないの……!!」
はぁ? 出来ますしー? ちょっと忘れてるだけだからすぐに高揚感もコントロールして寝れるようになるから見てなさい。
「何やってんだ、親父とバートリーは」
「じゃれ合いだろ、ほっとけ」
「何だかんだで、お嬢ってエンデヴァーとのやり取りも嫌ってないと言うか、気に入ってるよな」
「気に入ってるのか、あれで?」
「もし本当に嫌ってたら、あんな煽り合いすらしないからね、所長は」
私がどうにかしようと悪戦苦闘してるのを男性陣が好き勝手言ってるけど、それ以上にコントロールしないと寝れないという事のせいで聴こえてない。
なので、冷さんと冬美さん、火伊那と被身子のこの後の会話も勿論聴こえてなかった。
「なんだか、ああやってみると年相応にしか見えませんね、バートリーさんは」
「嬢ちゃん、仕事以外と結構子供っぽいよな」
「あ~、分かるかも。レイミィちゃん、褒めたりすると割と喜ぶし」
「カアイイですね~、ああやって悪戦苦闘してる姿もカアイイです」
結論から言うと、寝れたには寝れたわ。ただし、落ち着いたのが深夜23時半過ぎだったということに目を瞑ればだけど……
正直、もう少し吸血のシーンとか書きたかったけど能力が足りませんでした。許してヒヤシンス……
便利屋メモ
〝吸血〟のときのレイミィの表情は結構、一生懸命だったと被身子は語る。