翌日の轟家、居間。何とか寝れたけど起きる時間は身体が覚えてるからいつもの時間で起きてしまい、低血圧の死んだ目をしながら被身子にあれよあれよと朝の支度をされ朝食を食べて後のこと。
因みに轟家の反応は大体が見慣れたものなので特筆するようなものはない、ついでに便利屋も変わらない。
「その様子じゃ、結局眠れたのは遅かったようだな」
「煩いわよ……くわぁ」
「人前と言うか、同年代の異性の前でそこまで大きなあくびできるのは無頓着過ぎねぇか、嬢ちゃん」
「何時もだぞ、バートリーは」
そもそも何度も寝泊まりしてるんだから、何を今更って話よ。そもそも焦凍をそんなふうに見たことないし、向こうだって同じでしょ?
「まぁ、そうだな。初めて泊まった時にバートリーが上半身裸で風呂場から出てきた時は焦ったが」
「何やってんだお前……」
「別に減るもんじゃないじゃないの。そもそも、そんな魅力的な身体じゃないっての」
「本気で言ってるのかな、レイミィちゃん?」
突如、ひんやりとした空気が居間を、と言うか私を包んだ。考えるまでもなく地雷を踏みきったと分かるのだけれど、あれで? としか思えない。
いや、だってそうでしょ? 言っちゃんだけどこの場の女性陣の中で一番子供っぽい体型だと思うわよ?
「驚いた姉ちゃん、バートリーは本気で言ってるよ」
「正直、お嬢が中学でボッチだったのはある意味で被害が出なくて良かったと思うんだ俺」
「あ、あはは、そうかも」
味方が居ない……!! まさかの全方位からの攻撃にぐぬぬとなりつつ、さっきから静かなエンデヴァーを見るが彼は彼で新聞を読んで我関せずという態度を取っている。
そして被身子は冷さんの手伝いでここには居ないし、帰ってきた所で事情を聞けばあの娘は敵になると確信すら持てる。つまり、私が何とか場をひっくり返さなければならないということだ。
「いやぁ、レイミィちゃんはかなりモデル体型だと思うよ?」
「そうじゃなかったら、一度だけだったけど被身子ちゃんとモデルの撮影の依頼は来ないと思うんだよね」
「でも一度だけだったじゃないの」
「依頼書に一度だけだって明記したのお嬢じゃなかったか? あれがなかったらその後も継続的に依頼したいと向こうは言ってたぞ」
え、そんな事言ってたの? と思ったけど、あの時は終わった終わったでさっさと帰っちゃってたわ、勿論、挨拶はしてるけどその後の話とかは全部、血染とかに任せてちゃったわね。
そもそも今も昔も興味ないのよねってこの話は学校でもした記憶あるわね、まぁでも先方がそう言ってきたってことは、他人からもそう見られてるのか、私。
「赤黒さん、レイミィちゃんの教育はどうなってるのですか?」
「俺は親じゃなくて、あくまで保護者ってだけなんだが」
「だとしても、幼少期からの付き合いならば保護者だとしても教えることは出来ましたよね?」
お~お~、珍しく血染が気圧されてるわよ。けど教わるも何も無いのよね、出会った頃から完成されちゃってるみたいなものだから、彼も何も言わなかっただけなんだけど。
だからあまり彼を責めないで上げてほしいわね。なんて言ったのが間違いだったかもしれない、血染に向かってた視線はまた私に戻り、それから
「つまりレイミィちゃんは大体のことは理解してて、そういう事接し方をしている、と?」
「……まぁ、そうなるかしらね。いや、でも流石に誰にでもってわけじゃないわよ?」
この態度をとるのは大体が信頼できてる相手柄だけ。便利屋は当然として、ホークスだったり、轟家だったり、クラスメイトだったり、学校の数少ない友人みたいな相手だったり、ラブラバ達だったり。
流石の私だって知らない人間にはちゃんと考えて話たりするし、そういう時の態度を取ったりするから問題ないと思ってるんだけど。
「おまたせしました~ってあれ、どうしたんですこの空気」
「いや、ちょっとこう、あれよ」
「あれじゃ分かんないですから、とりあえず朝食運ぶのを手伝うついでに話してください、レイミィちゃん」
今だから言うけど、あの時の被身子は多分、その時点で全てを察してたんだと思う。そのくらいには目がマジだった、嘘は認めないので全てを話せという目だったわ、えぇ。
という事で朝食が並んでの食事を始めた頃には私は被身子にありがたいお言葉を沢山もらっていた、もういいじゃないの。
「良くないです、もう15歳なんですよ? 皆が皆、レイミィちゃんみたいに大人びてるわけじゃないんです、接し方一つで誤解も生まれてしまうんです」
「誤解って、あ~はいはい、私が悪かったわよって」
「本当に分かってるんですか?」
分かっているわよ、分かってるだけとも言うけど。だいたい、今日までそれで過ごしてたっていうのに急に考えろ言われてもすぐには出来ないわよ。
私はそんなにできる人間じゃないんだし、ねぇ、火伊那。
「話を急に振ってくるなっての。にしても久しぶりだな、いかにも朝食って感じの和食は」
「便利屋じゃ、朝ご飯は作らないのか?」
「基本的に菓子パンね。そうね、冷凍の焼きおにぎりとか用意しておこうかしら、朝からご飯も悪くないし」
「お、それいいな。だったらカップ味噌汁とかも備蓄しておくのも悪くないかもしれないし」
ならカップスープとかもありね。別に菓子パンでも全員、不満も言わなかったから気にもしてなかったわ。
それに朝は手早く終えて準備したいし、昼も事務所にいる訳じゃないから夕食の時以外は食事の不満ってほぼ出ないのよね、ここ。
「何だったら朝も昼も菓子パンってのがザラだよな」
「それそれ、朝がクリームパンで昼があんぱんとかね」
「身体よく持つなそれで、依頼次第じゃ動き回ることだってあるんだろ?」
あるけど、慣れちゃうとそうでもないわよ夏雄さん。寧ろ、あまり食べすぎると逆にパフォーマンスが低下したりするし、エンデヴァーも分かるでしょその感覚。
「分からんでもないな、俺も軽いもので済ませたりはよくある」
「でしたら、お弁当もあまり重くない物の方が良いかしら?」
「む、あ、あぁ、そうして貰えるとありがたい」
仲が宜しいことで、は良いんだけどさ。前々から聞こうとは思ってたんだけど、轟家は何時からかかあ天下ってものになったのかしら?
私の記憶が正しかったら、少し前まではエンデヴァー天下だったと思うんだけど。
「何時からって、親父が母さんに土下座した後くらいから、か?」
「そうだね、始めは負い目かなって思ってたけど、多分、コレが本来の形なんじゃないかな」
「母さんは強いからな、うん」
母は強しってことね。良いことじゃないの、それにこれなら燈矢が戻ってきたも何とか形になりそうだもの。っとこれ以上は朝食の空気が悪くなるから止めておきましょうか。
それにのんびりしてるわけにも行かないし、午後にはラブラバのところに行って話をする必要があるもの。
「ラブラバか、確かジェントルと共に偽物によって風評被害を受けてた二人組だったか」
「えぇそうよ、全く二人もいい迷惑だったわよね、私達が〝偶々〟本物と知り合ってなかったら今でも勘違いされたままだったもの」
「ほぉ、随分とピンポイントな〝偶然〟があったものだな」
ちっ、知ってるんだから態とらしい形で話してくるんじゃないっての。一応、世間様にはそういう話で通してるんだから、あと別に嘘はついてないし。
実際に会って話してみれば分かるけど、彼らはただ間が悪くて、ちょっと手段を間違えただけの社会の犠牲者ってやつよ。それを黒に染まり切る前に拾い上げたってだけだし。
「ホークスが言ってたぞ、お嬢様のやることには頻繁に驚かされるとな」
「公安や警察、ヒーローは法にガッチガチに縛られて出来ないだけでしょ。あ、勘違いしないでほしいけど、私達だって法には触れてないからね?」
「そう言い切れる嬢ちゃんのメンタルは素直に感心するわ、うん」
皮肉だってのは私だって分かるからね? まぁそんな訳だから、貴方達もあまりのんびりと食べてないでよ、そもそも昨日の残ってる事務作業だってあるんだし。
「うぐ、そういや、お嬢の放課後からそのままだから手付かずだったな……」
「まぁまぁ、そんな大した量じゃないからすぐに終わるよ。寧ろ所長のほうが大変じゃないかな、ラブラバさんの説得とかで」
「なんつーか、バートリーって休日でも働いてるんだな」
唐突な焦凍の言葉だが言いたいことは分かる。学生もしてるとなれば確かに休み暇が無いんじゃないかって思われても不思議じゃないし実際、休みだからで一日ダラダラ出来る日なんて稀も稀。
大体が突発的な何かが起きたり、休みで便利屋が暇だからこそ片付けなければならないことがあったりと言うのが殆どだもの。
「ま、プロヒーローになれば焦凍も同じになるし、エンデヴァーも、それに教師をしてる冬美さんも似たようなものでしょ」
「あはは、でも流石にレイミィちゃん並にって言うほどじゃないかなぁ」
「バートリーさん、休める時には休んでください。貴女が倒れたと聞けば、私達も心配になりますからね」
やんわりとした形で、されど娘を思うような言葉に私は味噌汁を飲み干す形で気不味そうな表情を隠す。正直に言えば、休める時が欲しいんだけど、出てこないってのが本音なのよ。
いつぞやに連日で便利屋を休みにしたけど、あれも雄英高校っていう確かな収入があるから出来たことであって、それがなかったら2日も休みにしたら経営に火が出てきてもおかしくないし。
「えぇ、肝には命じておくわ。それに全く休めてないってわけじゃないから、そこは安心してほしいわ冷さん」
「そうそう、今や便利屋チェイテも有名ですからね。多少無理にでもレイミィちゃんを休ませることだって出来ますから!」
因みにだけど、被身子の無理にでもというのは過去に何度か執行されたことがあったりする。確か、一年くらい前に二週間ぶっ続けで便利屋の依頼をした時だったわね。
いやぁ、人間って漫画みたいに首への手刀で気絶できるのね、流石に驚いちゃったわあれは。
「それ多分、気絶は気絶でも手刀が原因じゃなくて、過労だと思うよ」
「14歳が過労で気絶って……」
「バートリー、あまりそういう事をして冷を不安がらせるな」
「うぐっ、わ、分かってるっての。それにもうあれ以降はやってない働き方だし」
周りは止めなかったのかってなるけど、その時は血染も圧紘も仁もフル稼働だったので止める人間が被身子しか居なかったと言う話である。
その被身子だって連続稼働中だったのに最終手段の変身からの仁の〝二倍〟で無理やり稼いでくるって手段を取ったし、あの時の私達はヤバかったわね。
「皆が皆、死んだ目をしてたよね」
「うわぁ、今後、そういう時期が来ないことを祈っておくか」
「流石にもうないだろ、大口契約もあることだしな」
なんて懐かしみながら朝食を食べ終えて、その後の後片付けも手伝ったあと朝の分の人工血液を飲んだ時、事件が起こった。
何時ものようにスタンドパウチから吸血衝動を抑えるための人工血液を吸ったのだけれど、その一口目で私は顔を顰める事に、何が起きたかと言えば多々一言で表せる。
「まっず、え、あれ、これいつものやつよね?」
「へ? 勿論そうですけど、もしかして傷んでましたか?」
「いや、それはないでしょ、専用ボックスに入れてたんなら一日で駄目になることなんてありえないし」
そう思いながら改めて吸うのだがやはり不味い、なんて表現するべきなのだろうか、腐ってるとか傷んでて味が悪くなったとかではない。
言うなら無調整の青汁を飲まされているような不味さだろうか、或いは漢方薬を一気に飲まされているような、ともかく純粋に味が不味いと言うタイプ。
「えぇ、どうして急にそんな事に?」
「わか……あっ」
分からない、と言おうとしたが翌々考えれば心当たりしかない。そう、昨日の12年ぶりの吸血行動だ、と言うかそれしか原因が見当たらない。
あの日、生き血の味を舌が覚えてしまって人工血液に拒絶反応みたいなものを示しているのかもしれないと。
「まさかのデメリットが出てきちゃったね」
「かと言って生き血は気軽に用意できるもんじゃない、我慢してそれを飲め」
「嘘でしょ、今後はこれと付き合わなくちゃいけないの……」
チューと何もかもを我慢して残りを飲み干すが正直、吐き出したいくらいである。けれど吸血衝動を抑えるためには飲まなくちゃいけないわけで、今後はコレが薬にしか見えなくなってしまった。
うぅ、今まではこれもこれで楽しみだったのに……などと思いながら圧紘が正門前まで車を回してくるのを待ってる間に冷さんたちに頭を下げてから。
「一日、お世話になったわ。それと、吸血の件も、本当にありがとう」
「いいえ、昨日もいいましたけど貴方達には沢山貰ってますから、それを少しずつ返していきたい、それだけですよ」
「また何時でも来てよレイミィちゃん、歓迎するからさ」
「あぁ、それにその方が母さんも喜ぶしな」
冷さん、冬美さん、夏雄さんの言葉に嬉しいことを言ってくれると答えれば、続いて焦凍とエンデヴァーが私達に。
「バートリー、何時でも俺を頼ってくれ、お前だけに無理はさせたくねぇから。それに、燈矢兄さんのことも」
「俺からも燈矢のこと、よろしく頼む。俺に出来ることがあったら連絡をくれ、何とかしてみるからな」
「任せなさい、便利屋の総力を上げてでも遂行してみるから」
頭を下げてくる轟家に私がそう答えたタイミングで圧紘が運転する車が来たので乗り込み、便利屋へと帰るのだけれど、それを見送ってからの話になるけど。
「……親父、特訓を付けてくれ」
「構わんが、急にどうした焦凍」
「今のままじゃ、バートリーの力になれねぇ、それだけだ」
「そうか、ならば少し厳し目に行こう。俺としても奴に何かがあるのは困るからな」
なんて二人の会話があったらしい。何で知ってるのかって? そりゃまぁ、モスキートって便利よねって話よ。
次回はラブラバとのやり取りとあとは巻きでって感じで話を進めたいね。
便利屋メモ
以降、レイミィは人工血液を飲む時は凄く渋い顔をして飲むようになった。