同日、午後。便利屋に戻ってから圧紘、仁、火伊那の三人に昨日の分の事務処理を頼んでから私は被身子、血染とともにとある雑居ビルに向かっていた。
目的の場所は隠す必要もないから言うけどラブラバとジェントルが経営している事務所【GeLinc.】、ここに来るのも二ヶ月ぶりくらいではあるけど見た目に変化はないわね。
「それ言ったら、ウチもじゃないです?」
「わざわざ変える必要が無いからな」
変えても内装くらいよねと言いながらインターホンを鳴らせば、少ししてから扉が開き、中から出てきたのは実年齢と見た目が噛み合わないと毎度思ってしまうジェントルこと弾柔郎の姿。
別にもうジェントルとして拘らなくても良くないと過去に言ったが彼なりの譲れない信念のようなものだということらしい、と余談はおいておき。
「やぁ、待っていたよバートリー所長。それと久しぶりだね、副所長さんに秘書くん」
「久しぶりジェントル、変わりなさそうで何よりだわ」
「お久しぶりです、相変わらず立派なヒゲですね~」
「突然悪いな、これ菓子折りだ。後で二人で食べてくれ」
ありがたいとジェントルが菓子折りを受け取るのを見つつ、チラッと事務所内を見るが見える範囲でラブラバの姿はない。ついでに内装の変化もあまり見られない、別に稼げてないわけじゃないでしょと言えば。
「それはそうなのだが、現状で十分だから変える必要もないと。従業員が増えてるわけでもないからね」
まぁ、確かに何か変化でもないなら模様替えをする必要もないか。私のところだって、火伊那が来るまで事務所は変わってなかったしって、これ言ったっけ?
「いや、初めて聞いたね。詳しくと言いたいが何時までも立ち話もあれだから、入ってくれたまえ愛美くんも待ってるからね」
「それじゃ、お邪魔するわよ」
事務所内に通され、割と久しぶりだけど覚えている事務所内をジェントルの案内で進み、着いたのは一つの机。
見るからにハイテクを専門してますという機材とハイスペックらしいパソコン、ともすれば扱う人物もその場にはもちろん居るわけである。
「愛美くん、所長達が来たよ」
「……はぁ、来ちゃったのね」
ジェントルの声に作業をしていた手を止め、私を見るや深い深いため息と同時にそんなセリフを吐き出したのが正直に言えば身長だけで見れば年齢詐欺してるでしょと言いたくなるが立派な大人。
そして、ここの所長でもあるラブラバもとい相場愛美、心当たりしか無いけど会う度にこんな態度を取るので多分嫌われているんだと思う。
「久しぶり、電話でも言ったように依頼を持ってきたわ」
「今度はどんな無茶振りをしてくるのかしら? 弾柔郎さん、悪いけど紅茶を頼めるかしら?」
「すぐに淹れてこよう」
「あ、じゃあトガも手伝いますね~」
台所へと消えて行った二人を尻目に今のラブラバの言葉に少し反論をしておく。無茶振りって言うけど貴女が出来ないっていうものは持ってきてないじゃないのと。
きちんと実力から出来るわねこれって言うのしか持ってきてないのに無茶振りだなんだ言われるのはちょっと心外なんだけどと言えば、返ってきたのは深いため息。
「そうじゃないわよ、確かに出来るけどこっちが断れないの知ってて投げてきてるからタチが悪いって話よ」
「別に断ってくれても構わないけど?」
「……ねぇ、副所長さん。お宅の所長はどういう感性してるのかしら、ちょっとまた分からなくなってきてるんだけど」
「すまん」
なんで血染が謝ってるのよ。ていうか、本当に無理だって言うなら断ってもいいのよ? 一応、別プランは何時だって用意してるからここが駄目でも依頼は遂行できるようにしてるし。
因みに今回のもそこは徹底してるから安心して頂戴、公安と警察を動かすことだって最悪辞さないし。
「私が動かなかったらで次の手札が急に権力になるの本当に極端なのよ貴女。まぁいいわ、聞くだけ聞くから、話して」
「ジェントルは待たなくて良いのかしら?」
彼もまた所員なんだし聞くだけ聞いてもらうほうが良いと思うんだけど。それと紅茶は此処じゃないと中々飲まないからそれも楽しみだし。
「お前、それが本音だろ。と言いたいが今回の依頼はラブラバだけというわけでもないのも確かだ」
「となると相当な案件ってことね。今度は何処に喧嘩を売ったのかしら?」
「喧嘩は売ってないし、仮にそうだとしても先に売ってきたのは相手だから私は買った側よ」
「な、何やら相当物騒な話になってきているね。はい、紅茶」
ありがと、ん~やっぱり圧紘が淹れてくれる珈琲とはまた違ったこの匂いの感じが堪らないわね。こう、上品って感じがするわ、珈琲も上品だけど紅茶の葉また違った感じっていうのかしらね?
ただ便利屋は全員が珈琲党の集まりだから紅茶は出てこないんだけど、あ、私もよ? 眠いときとかに飲むとなると珈琲一択だわ。
「常用しすぎてカフェイン中毒とかに将来的になりそうね、貴女」
「あ~、レイミィちゃんもですけどそれは便利屋の皆に言えちゃいますね」
「割とありえなくはなさそうね、気を付けておくわ。ふぅさて、じゃあ仕事の話に戻ろうかしら」
本当ならこのまま雑談でもしたい気持ちはあるけど、こういう話はさっさと終わらせるほうが互いに良いでしょ? と言いながら背筋を伸ばし、ラブラバとジェントルに依頼内容を話し始める。
「依頼内容は至極単純、とある夫妻の救出に手を貸してもらいたいのよ」
「救出ね。その割にはのんびりとした感じだけど、状況が逼迫しているとかじゃないのね?」
「えぇ、確かに人質となってはいるけど誘拐されたとかじゃないわ。ただ監視の目が常にあるってだけ」
「……聞きたいけど、別にその夫妻が犯罪をとかじゃないわよね?」
一応の確認なんでしょうけど、便利屋はそういう依頼は受けないって知ってるわよね? って言いたいけど今回はグレーよ、脅迫されてっていうのが頭に付くけどやってることは内通だもの。
「内通って、もう少し詳細をちょうだい」
「この夫妻の息子が雄英高校に居るんだけど、彼が行事などの情報を夫妻に流し、夫妻から
「相変わらずバートリー所長はどうやってそういう情報を集めてくるのかね?」
「機密よ。ただ何時までもこの状況って訳にも行かない、もし内通がバレてるってことが向こうに知られれば間違いなく夫妻は犠牲になるわ、だから」
「その前に手を打ちたいってこと。はぁ、また断れない依頼じゃないのこれ」
弁明するなら、別に情に訴えてとかは考えてないから。今回の救出作戦だとラブラバのハッキング能力があれば本当にリスク無しに遂行できるからってだけだし。
勿論、今回の依頼はリスクが全く無いわけじゃないし最悪、
「実際のところ、当日になるまでどう転がるかが予測しづらいのが本音だ。何回か現地を圧紘が偵察してはいるが夫妻の自宅の周囲を
しかも何が厄介って巡回ルートやら時間、日時にその日の人数だって決まってるものが何一つ無いってところだと思う。お陰で私が記憶を読み取っての手段でもその日のものが分かるだけっていう。
それでも監視は死角なしに行われてるっていうんだから末恐ろしい組織力よ。そこまで話した所で紅茶を一口のみ口を潤わせる、対して詳細を聞いたラブラバは考え込むように目を閉じ、ジェントルもふむと唸ってから。
「バートリー所長、一つ良いかね?」
「何かしら?」
「この夫妻を脅迫しているのは一体何者なのかな? どう考えてもそこらの組織とかではないと思うのだが」
ま、そう思うのが自然よね。けど、これを話すのはこの依頼を受けると決めてから、下手に存在を知るのも危ないっていうのもあるし、この二人なら名前だけで深入りしちゃう可能性だってあるし。
なのでそう返せば、そうかと納得して引き下がる。額に冷や汗が流れているのでもしかしたら、相手の強大さに勘付いてしまったのかもしれない、がそれでラブラバに手を引くべきだと言わない辺りは精神性はヒーローな部分があるのよね彼って。
「で、どうする?」
「さっきも言ったけど、それを聞かされて断るつもりはないわよ。それに貴女がそこまで動くってことは是が非でも救いたいんでしょ? 手を貸すわ」
「あはは、レイミィちゃんの心の内、思いっ切り読まれちゃってますね~」
「吹っ切れようとも家族という存在への肩入れは変わることはない、か」
「五月蝿いっての、んっん。受けてくれるならありがたいわ、報酬は電話で七割って言ったと思うけど八割にしておくから」
思ったのよね、七割じゃ今回の依頼はちょっと割に合わないんじゃないかなって、だから一割増量させたんだけどまぁ二人の反応が面白いこと面白いこと。
目でも飛び出るんじゃないかってくらいに見開いて私を見てくるので、嘘じゃないと伝えれば
「太っ腹すぎて怖いわ、いやだからってやっぱり止めたとかは言わないけど」
「そっちは大丈夫なのかね? 確かに我々も貰えるなら嬉しいのは確かではあるが……」
「心配しないで頂戴、こっちはこっちで雄英高校と依頼を受けてたんまりと貰ってるから」
話しても良いのかと言われそうだけど、内容は伝えてないのでセーフってことで。だから針のような視線を飛ばさないでもらえるかしら、血染。
「ったく、まぁそういうわけだ。俺達も別に稼げてないわけじゃないからな、そこは安心してくれ」
「それはこっちも同じよ、ここ最近は本当に安定してて困ってなかったわ」
良いことじゃないの。安定してるっていうのは本当に心が安らかになるわよ、不安定の時は荒れるけど、っと今はこれは置いておいて依頼の詳細について話しておきましょうか。
そこからは救出作戦当日の中身を詰めていくだけの会話を淡々としていく、実行日は? 当日の動きは? そしてメンバーは? それらを徹底的にだ。
「雄英高校の林間合宿の二日前ってなるとそんなに日数はないわね。何度か現地でカメラにアクセスできるか試したいんだけど、いい?」
「構わないわ、必要ならこちらからも誰か出すけど」
「だったら部長を頼める? 彼が居てくれるなら万が一でもジェントルと二人で逃げれるでしょうし」
ま、詰めていくとは言ったけど雛形は出来てたし、あとはそこにラブラバとジェントルの二人を追加し動きを考えるだけって話だからそこまで時間もかからずに終わるんだけど。
最終的には便利屋は総出でラブラバとジェントルも同じく、そこに当日はホークスも待機してくれると事前に連絡してあるので万全とも言える状態になった。
動きもラブラバの下見次第ではあるけど、向こうにバレる危険性は極限まで減らせたと思う。あと怖いのは赤霧が私の記憶を読み取って罠を張ってくるパターンではあるけど、現状でも殻木やOFAから姿を眩ませているならばそれはないだろうと思ってる。
「こんなところかしらね、期待してるわよ、ラブラバ、ジェントル」
「はいはい、にしても随分と巨大な組織が相手って思ったけど既に幹部クラスが三人が行方不明にブレインを引き込んでるとか怖い話ね」
「しかも親玉には気付かせてないんだろ? 何と言うか、君たちは敵に回したくないものだよ」
「褒めても何も出ないわよ」
「褒められてはないと思うますよ、はい」
「はぁ……無駄にポジティブなのは見習う方が良さそうだがな」
所員二人の言葉が妙に厳しいんだけど? てか実際、今のは褒められたとかの類じゃないのかしら、敵に回したくないとかそうじゃない?
そんな感じに堅苦しい話も終わってリラックスモードに切り替えつつ伸びをしていると、ふとラブラバから話を振られた。
「そう言えば、学校はどうなのかしら」
「また急ね、楽しんでるわよ。思いの外クラスメイトも気軽で人の出来た子たちだから便利屋のことを悪く言わないし」
素直にそう伝えるとなら良かったと言い、何が嬉しいんだか分からないけど微笑んだ表情で紅茶を飲む、ジェントルを見ればこちらも微笑んでおり、それから
「雄英高校が同じかは分からないが、そろそろ期末試験だと思うが、それは大丈夫なのかい?」
「レイミィちゃんが試験で赤点取るならそれはそれで見てみたいですね、レアですよ、激レア」
「こいつは試験とかはしっかりと抜けてくるからな、中学もそうだった」
厚い信頼だこと、まぁ実際に中学での試験はほぼ満点で学力トップだったりしたし雄英でも流石に八百万と言う本物の天才が居るのでトップではないけどそれなりに上位に居たりするし。
だから期末試験もさほど心配してない、それよりも演習試験ってのが気になるのよね。何やるのかしら……えぇ、この日はそう思ってたわ、まさか。
「へ、演習試験の免除?」
「あぁ、リカバリーガールからの要望でな。日曜の検査でお前に激しい運動はまださせるなと言う判断になったらしい」
聞けば、吸血した分の〝個性〟の上昇幅がちょっと大き過ぎているらしく、演習試験という本気でやる戦闘は念の為、控えろということらしい。
じゃあ、試験中は何してるのかとなるのだけれど、どうやら当日に私というか便利屋に話があるらしいのでそれで時間を潰すとのこと、これは林間合宿で何か頼まれるやつだわ、私知ってる。
次回、多分がっと時間が飛ぶんじゃないかな、多分(未定)