月日は一気に進み、月末。つまりはいよいよ夏休み前の大きな壁である期末試験の日になったということ。
とは言っても筆記の方はなんとかなると思っているわ。この日のためにクラス全員であれこれと勉強会を頻繁に開いたし、まぁ後半の方は私も依頼とかがあって一緒には出来なかった日が多かったけど。
え、私はどうなんだって? 楽勝だったわよ、変に引っ掛けもなかったし寧ろ中学時代の期末試験とかの方が眉を顰めることが多かったわ、文章問題とかあれ悪意でしょ……
不安視してた上鳴と芦戸も今日まで教え込んだから赤点は回避できるでしょ、と言うより筆記試験が終わった直後にさ。
「あぁぁりがとぉぉレミィ!! みんなぁ!!」
「本当にありがとう、ありがとう……!! 過去一番で答え書く手が止まらなかったしこれは赤点回避してるって確信できたわ!」
こんな風にお礼を二人から言われたらまぁ大丈夫だったのねってなるじゃないの。それにしても大袈裟ねぇ、これくらいだったら私が手を貸して無くても期間中にしっかり勉強してれば乗り越えられたわよ。
「その期間中に勉強ってのが一人だけだと難しいんだよバートリー、こう、休憩を長く取りすぎたりして、な?」
「ちょっっとの息抜きで時間が飛んでるんだよね、うんうん」
もしかしてこの二人は今後も試験前に勉強会を開いたほうが良いのではないだろうか。なんだかこのまま今後は頑張りなさいよって伝えるのが怖くなってきたんだけど。
流石に大丈夫よね、今回の試験勉強を今後に活かしてちゃんと乗り切ってくれるわよね……?
「どうしよう、砂藤。この二人が今後三年間、同じタイミングで泣きついてくる未来を幻視したんだけど」
「そこはもう少し信じてやろうぜ……」
信じたいわ、えぇ、でも確信めいた何かがあるのよこの二人、絶対にやらかすって。分からないけど、予知にも似たものを感じるのよ、不思議なことに。
「みんな、筆記試験が終わり浮かれるのも分かるがまだ試験は終わってないのだぞ!」
「っと、確かにそうだ。演習試験が残ってんだったな、でもよ、毎年ロボが相手なんだろ? だったら楽勝だぜ」
「……だと良いわね」
「レイミィちゃん?」
ボソリと呟いたつもりだったけど、どうやら梅雨ちゃんには聴こえてしまったようだが私は、とりあえず何でもないとお茶を濁す。
確かに期末試験一週間前の昼食の時、食堂で面倒くさい絡み方をしてきた物間を鉄拳制裁で黙らせた拳藤が先輩から聞いたという話で演習試験の内容を話してくれた。
けれど今年もそうですという確証が私には持てない。そもそもにして今年は色々とイレギュラーばかりだし、
ともすればロボ相手の生温いものにするだろうか? 私だったらしない、内容を変えてもっとふるいにかける勢いのものにするし私が思いつくんだったら先生たちが閃かないはずがない。
(とは言っても流石に実技の方はいつものメンバーと私が個人的に相談に乗った八百万以外はノータッチだから心配しても仕方がないんだけど)
その八百万も緑谷達と比べると軽いものでしか時間の関係で出来なかったが、それでも悩んでた状態で向かわせるよりも能力を発揮できると思うくらいには持ち直してくれている。
だから彼女の心配はしていない。別に相談に乗った理由は勉強会のときに出された珈琲が一口目でドン引きするくらいに美味しかったとか、思わず聞いてしまった一杯幾らの金額がちょっと真面目にヤバかったからとかじゃない。
無いったら、断じて無い。ついでに私が来てると知った向こうの両親に呼び出された娘を今後も頼めるかとか言われたからとかも関係ない、怖い。
「おーい、バートリー。着替えに行くよー」
「あ、今行くわ」
少々考えに耽りすぎたわね。気付けば教室には私しかおらず、耳郎に呼ばれ慌てて更衣室に向かい、久し振りの
「なんだか、先生多くない?」
「確かに多いわね、なんだか空気も固い気がするわ」
「……これはロボじゃなさそうね」
ズラッと揃っている教師陣に周りが少しだけ騒がしくなる。誰がどう見ても演習試験が今まで通りのロボ相手じゃないというのは悟れるし、これだけ教師陣が集まってるとなればあるとすれば……
(人間相手の演習試験、か)
「えっと、もしかして入試みたいなロボ無双じゃない感じ?」
「その通り! 諸事情があって今回から内容を変更したのさ!!」
淡い希望が捨てられなかった上鳴からの質問に答えたのは相澤先生の捕縛布から出てきた校長。そしてその言葉に固まる芦戸と上鳴、他はなんと無しに悟っていたか、或いは何が来ても乗り切るしか無いと腹を括っているのか冷静である。
それから校長が今回の演習試験の説明を始める。内容は
「先生、それでは一人あぶれてしまいますが?」
「そこも問題はない、バートリーお前だけは別だ」
「バートリーだけが……?」
このクラスで現状唯一私の秘密を知っている轟が何かに気付きそうな表情をしたが私がすぐにジェスチャーで黙っててと伝える。
伝わるか若干不安だったが大丈夫だったようで、そうかという表情に変えてから前を向いたのを確認してから、一歩前に出て全員の方を向いてから。
「と言う訳だから、頑張って頂戴、みんな」
「ではバートリー以外の組み合わせを今から言うからよく聞くように……」
相澤先生が話をしている間に私は向こうが用意したバスに乗り込めば、先に乗車していた人物から声を掛けられ、見ればそこに居たのはB組の担任【ブラドキング】
「久し振り、というべきかしらね。ブラド先生、と言うかB組の演習試験は大丈夫なのかしら?」
「あぁ、君を保護した時以来だな。それとそこは気にしなくても問題ない、ハウンドドッグ先生にあとを任せてあるからな」
果たしてそれは大丈夫と言えるのだろうかと口にしたくなったけど向こうが真面目な空気なので黙っておくことに。その間にA組の面々の振り分けが終わったようで二人と教師一人がそれぞれバスに乗り込んでいくのが見える。
緑谷は……爆豪とで相手はオールマイトか。可もなく不可もなく、向こうだって手加減するだろうけど、どうなるのかしらねと思いつつブラド先生の隣に座れば、私達が乗るバスも走り出す。
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「おい、デク」
「へ、ど、どうしたのかっちゃん?」
これから行われる演習試験、その内容がどんなものなのか、そしてそれを前提にオールマイトとどう立ち回るべきなのかを頭の中でひたすらに考えていた出久だったが唐突に勝己に声を掛けられ中断する。
それから〝隣〟に座っている彼を見れば、自分を見てはいないが窓に映る勝己の表情が何かに気付いたような、引っ掛かりを覚えているというものだということが出久には分かった。
「なんであいつだけ別枠だったんだ?」
「え、それは便利屋所長だから、とかじゃないよね、そう言えば何で……?」
言われれば出久も疑問に思う。筆記試験は同じ空間で行っておきながら演習試験は別、考えられるとすれば一人だけあぶれ、更に便利屋として実戦を自分たち以上に積んでいるからと言う理由が思い浮かばなくもない。
ないのだが理由としては弱い気がしてしまう。そもそもヒーロー科での授業では彼女も普通に受けているし、職場体験だって同じ様に指名を選んでと言う形を取っていた、とそこで出久は気付く。
「そう言えば、職場体験以降、バートリーさんって激しい運動は控えろってリカバリーガールに言われてるって話てたな」
「んなことも言ってたな、じゃあ免除された? いや、この学校がそんな甘いことを言うはずがねぇ、ともすりゃそれ以上のこと?」
「……もしかして、僕達が知らない何かがバートリーさんの体に起きてる、とか? ほら、かっちゃん、放課後の訓練の時もバートリーさんは言葉でのアドバイスしか最近してないし」
思えば今まではレイミィも実戦形式で出久の訓練に付き合っていたというのに、職場体験での1件以降は、リカバリーガールから控えろと言われたとのことで参加してこない。
仮にしてきても響香との軽いもの程度であり、出久もまだ傷が癒えてないとかなんだろうと漠然と当時は思っていたのだが、演習試験まで食い込むとなると話が変わってくる。
「そもそもだ、いくら〝個性〟が強力だとしても大技を使うたびにあんなことになるか? 身体が順応するはずだろ」
「現象だけで言えば僕と同じ、いや、だとしたら」
自分と同じということは彼女は元々〝無個性〟だった? 思わず出てきた言葉、しかも彼自身、レイミィは二歳の頃にと言う話を聞いているので有り得ないはずなのだが出久にはそれが全くの外れではないような気がした。
だとすれば二歳の頃にと言う話は嘘だったのか。とも考えそうになるが、それも違うと脳内で否定する、でなければ便利屋を開けているはず無いからだ。
(なんだ、何かが強く引っ掛かる。合ってるけど合ってない、そんな感じ、正解に近づいてるけど遠ざかってるようにも感じる)
「おい」
「っ!? あ、ご、ごめん、考え込んでた」
「俺が言い出したことだが今ここであれこれ考えても意味がねぇ、それよか目の前のことだ」
少し前なら絶対に出てこない言葉の羅列に思わず笑いそうになるのを堪え出久は勝己の言葉に頷く。レイミィのことは確かに気にはなるけれど今は演習試験の方が大事だ。
特に自分たちの相手はオールマイト、考え事しながらでどうになる相手では決して無い、もっと言えば考え事なんてしていれば瞬殺である。
放課後の訓練でも戦ったことがあるからこそ、そのことは理解できると同時にあの時はここに天哉と焦凍も含め四人で掛かってた相手を今日は二人でやらなくちゃならない。
「かっちゃん、どう攻める?」
「相手がいる前で話すか、アホか」
「あ、ご、ごめん」
何処か抜けているやり取り、それを彼らよりも前の席で座って聞いていたオールマイトはフフッと二人にバレないように微笑みを漏らす。
元々あの二人でチームアップしたのは相澤曰く仲の悪さからだったが、それがレイミィと言う一人が間に挟まり、関係が一気に良好になった。
もしそれがなかったらこの車内の空気は最悪に近い状態になっていただろうと思えば、オールマイトは彼女に感謝しつつ己の不甲斐なさにため息を漏らしたくもなった。
(本来であれば私がしなければならないこと。だと言うのに何から何までバートリー少女に任せてしまっていた……その彼女もリカバリーガールが気に掛けるほどに身体に不調が出ているとのことらしいが)
彼女たち便利屋のお陰で己の活動時間の消耗も抑えられている。何から何まで頼りっぱなしの世話になりっぱなし、だと言うのに彼女の不調には一切気付けなかった自分。
何がNo.1ヒーローだ笑わせる。グッと拳に力が入り、表情も思わず険しくなってしまったのに気付き直ぐにいつもの笑みに戻す。
(今回の演習試験が終わったら彼女と少し話をするべきだろうか、いや、けれど向こうは私を嫌っているようだし、むむむ……)
年頃の少女であるには変わらない、ならば無理に接触するのはストレスになってしまうだろうか? なんてことを考えているオールマイトとその後方で彼に聴こえないようにあれこれと作戦会議をする出久と勝己。
やがてバスは演習試験の会場へと到着、そしてオールマイトから今回の試験の説明が行われる。曰く、格上の
「戦って勝つか、逃げて勝つか」
「勿論、普通に考えれば逃げの一択となりそうだが、この体重の半分の重量がある〝超圧縮おもり〟を装着しハンデを背負うから安心してくれたまえ!」
こうすることで戦うも選択肢の入れ、常に逃げか応戦かの二択を出来るようにする、これによりチームアップした二人の判断力と即席のチームワークが重要な試験ということになっている。
説明を聞いた二人はオールマイトが初期位置へ向かっている最中に情報を整理し、そして
「どうする、かっちゃん。逃げも〝一応〟の選択にあるけど」
「んだ、怖気づきましたってか? 逃げるんだったらてめぇ一人で逃げやがれ」
本来の歴史であれば、このまま二人は言い争いを始めオールマイトからの奇襲と威圧を食らうことになる、だがそうはならない。レイミィ・バートリーと言う特異点のお陰でわだかまりが殆ど無くなった二人、出久は勝己に言葉に不敵とも、攻撃的なとも言える笑みを浮かべてから
「言っただろ〝一応〟って、僕もかっちゃんと同じ、逃げるつもりはないよ。それに逃げの一手を許してくれるわけがない」
「だろうな、だからこそ応戦だ。応戦して押し込んで崩し、抜ける」
「うん、それが唯一の勝ち筋だと思ってる」
『レディイイ……』
言いながら出久はグッと腰を下ろし左で支えながら右手をデコピンの形にし力を込め、対して勝己も右手を広げ、丸を作った左指を手のひらに当てて力を込める。オールマイトなら
「デラウェアスマッシュ……」
「A.P……」
『ゴォオオ!!』
開始の合図と同時に二人の耳が拾ったのは遥か遠方からの拳を振るった風切り音と暴風なんてものじゃない風の音、それに合わせるように
「エアフォース!!!」
「ショットォォオオ!!!」
刹那、試験会場は大爆発に包まれ、それをモニター越しで見ていたレイミィはただ一言、こう呟いた〝あの組み合わせ、本当にやってだいじょうぶなやつなの?〟と
前書き通り、次の話はレイミィちゃんメインでそれぞれの戦闘描写はないですね、はい。