可能性の中で二人がオールマイトに打ち勝つというものは無くはなかった。だがいくら強くなったとは言え、ハンデありのオールマイトは厳しいものだろうとも思ってもいた。
そう考えた理由として、二人のコンビネーションにあった。確かにわだかまりが殆どなくなったが、それでも急に連携が取れるわけもないだろうと思っただけれど。
「勝利条件を2つとも達成しての突破をしてくるとはね、本当に驚いたわ」
「そこは同意するけどね、どうするんだい。マイクを切る前にアンタが騒いだもんだから他の奴らが驚いちまってるよ」
見れば峰田なんかは驚愕というか、なんであいつの声が聴こえるんだよ的な感じに叫びながらミッドナイトから逃げている。と言うか、逃げてるのあいつ……?
瀬呂が居ないってことは早々に眠らされたか、まぁ何とかやるでしょ、峰田もやれないわけじゃないし。それよりも他はどうなってるのやらと言うタイミングで二人を担いだオールマイトが出張保健室にやってきた。
なので視聴をまずは中断して二人を見れば、間違いなく限界まで戦った証拠だろう、ボロボロで一歩も動けませんという感じの二人に労いの言葉を掛けてあげれば
「あ、ありがとうバートリーさん……いっつつ」
「けっ、つかてめぇは何時からここにいんだよ」
「貴方達が突破する少し前くらいよ、放送がなかったのはまぁ私が別枠だったからってのがあるでしょうね」
らしい感じの嘘の理由を話してみるのだが、どうにも二人には通りが悪かったらしい。というのも表情が納得しているという感じではなかった、何かこう自分たちの考えがもしかして当たってたのではという表情。
これは何かに勘付かれてるって思った方が良いかもしれない。特にこの2人、とオールマイトも放課後の訓練で私が最近は戦闘訓練任せっきりなのは知ってるし。
「あ〜、そのバートリー少女、少し話とかいや、はい、なんでもないです」
「目! 目が怖いよバートリーさん!!」
「この娘にここまで嫌われるって、何をすればこうなるんだいオールマイト」
私から貴方に話ならともかく貴方が私に何の用事があるっていうのよ。これ以上なにかを頼んでくるなら次からは億単位で要求するつもりなんだけど?
言っておくけど、ある程度は態度を軟化させたつもりだけど、過去のアレコレとかを許したわけじゃないから、そこは勘違いしないで頂戴。
「本当に何をやらかしたんだいアンタ」
「いや、えっと、その……過去に彼女の仕事を邪魔、のようなことを数度……」
「〝ような〟? 邪魔してたのよ、しかも両手の指を少し超える位の回数を」
「オールマイト……」
私からのカミングアウトに、流石の緑谷でもオールマイトへの視線に冷たさと言うべきか、ともかく何をやってるんですかと言うものが込められる。
また爆豪も冗談だろという視線と表情で彼を見ており、二人からのそれにオールマイトは狼狽えながらも態とらしい咳払いを一つしてから
「ま、待ちたまえ二人共。何も悪意を持ってとかではない、ただ当時はまだ幼い彼女が浮気調査だ、信用調査だで夜でもお構いなく一人で行動してたのを流石に見過ごすというわけにも行かずだね?」
「図体がデカいってのに張り込んでる私の後ろに付いてくるもんだからバレそうになるわ、そうじゃなくても自分が有名人だって自覚がないのか彼が居るだけで騒ぎになるから対象を見失いそうになるわで邪魔でしか無かったのよ」
最終的には私は彼に向かって『邪魔だから帰れ、クソ親父!』とか言い放ったっけ、懐かしいと同時にむかっ腹が立ってくるわ。
なんて感じに当時のことをあれこれと話していけば、段々と二人の視線は呆れが混ざり始めたものになり、リカバリーガールはと言うと大きくため息を吐き出してから
「なるほどね、そりゃここまで嫌われるわけだ。何度か言ったと思うけど、アンタのお節介は美点と同時に誰もが受け取ってくれるものじゃないって自覚しな」
「は、はい、当時の私は少し行き過ぎたと今では思っています。えぇ」
「まぁらしいと言えばそれまでとは思うけどね。嬢ちゃんもオールマイトってのはそういうヒーローだってことで収めてくれないかい?」
「分かってるわよ、流石に深夜に一人ってのはマズいなとは思わなくもなかったし」
何度かあったのよね、浮気調査の対象が深夜にってのが。分かってて動かないわけにも行かないからって出ていくんだけど、どういう訳かオールマイトが声を掛けてくるのよね。
まさか張り込んでるのかコイツって思った回数は覚えてないわ。まぁ、実際は単純に向こうも深夜のパトロールしてて見つけたってだけだったんだけど。
「いや、なんで深夜にパトロールしてんのよ、昼間にもしてたでしょアンタ」
「急に何かな!?」
おっとつい口から出てしまっていたらしい。けどここで止めるものなんだしと今思ったことの説明をしてみれば、各々反応は違って面白かった。
緑谷は流石かまたはオールマイトのあの話って本当だったんだと納得し、爆豪もオールマイトなら不思議じゃないだろ言う感じ、この二人はオールマイトのファンなので妥当の反応だと思うけど真似はしないほうが良いわ、死ぬから。
そう、普通の一般人は当たり前、なんならプロヒーローだとしても昼間にも深夜にパトロールとかは死ぬ、主に寝不足で死ねる、その事実に気付いているリカバリーガールは鋭い目つきで一言。
「オーバーワークは止めておけって言った記憶があるんだがねぇ」
「うぐっ、い、いや、仮眠は取ってますから、ね?」
「仮眠は睡眠じゃないとも言ったと思うんだが、はぁ……」
ん? なんで私を見るのかしらリカバリーガール、あ、もしかして深夜に動いてるなら私もそうじゃないって話かしら? 大丈夫よ、多くても月に二、三度くらいだから。
何故か呆れた表情をされたわ、え、そういう問題じゃないってことかしらこれ、ねぇ爆豪、分かる?
「あ? 普通に考えて二度三度だろうと深夜に出歩くなってことだろ、馬鹿か?」
「依頼だから仕方ないじゃないの、それとも依頼失敗しましたって言って信頼を失えとでも? それこそ馬鹿じゃないの」
「一日でっていうカツカツなスケジュールを立てるなって話になるんじゃねぇかそれ?」
どうしよう、割とド正論な言葉が返ってきちゃったんだけど。言い訳するなら当時はまだ浮気調査の方面でも無名だったから実績が欲しくてっていうのがあったんだけど、どう考えても無理くりしてたのよねあれ。
最終的には当時はまだ被身子も居なかったから、仁で私を増やす方面で解決したけど、あの時は連勤10日目だったかしらね。
「……確かまだ中学上る前とかだよねそれ」
「えぇ、よく覚えてたわね訓練の休憩中に一度だけの話だったのに」
「私が言っても説得力がないとは思うのだが、無理は良くないと思うぞ、うん」
「どっちもどっちだろ」
呆れた感じのまま呟かれた爆豪の言葉は不思議と場に響き、そうねという感情しか生み出さなかった。まぁこれ以上はこの話題はしてもあれだし終わりにしましょう、と言うかそもそもが何でこの話になったのかしら?
「てめぇがオールマイトを過剰に嫌ってる理由からだっただろうが」
「あぁそうだったわね、まぁそんなことよ。それよりも試験はどうなってるのかしら?」
多少強引にだが話題を切り、本来の試験の方に戻してモニターを見れば、あれから何組かは突破していた。えっと、梅雨ちゃんと常闇、田口&耳郎も条件達成してるみたいね。
あとは飯田と尾白ももう確定みたいなものね。うんうん、割と良い感じに条件達成組は出てきてるけど、一部はなんというべきかしらこれは
「えげつないと言うべきかしらね。難易度が明らかに違うじゃないのこれ」
「峰田くん、瀬呂くんが眠らされてからは逃げの一手だけだ」
ミッドナイト相手となると私だって初動で下手を打てば完封されるものね。でもそれさえ乗り切ればまぁ彼ならなんとかなるでしょ、それよりも問題は芦戸と上鳴組よ。
校長が相手と聞いてどんな手段を使ってくるかと思えば、一から十まで計算尽くしの詰将棋をしてくるとか冗談じゃないっての。
「一応、勝ち筋と言うかゴールまでのルートはあるにはあるけど、上から見て気付けるレベル、地上の二人からじゃ見えないわよ」
「パニクり過ぎだっての、冷静になりゃ分かんだろあれくらい。じゃなくても〝個性〟でいくらでも突破できるだろうが」
「校長はそこを狙ってきてるんでしょうね。敢えて重機っていう道具を使って四方八方で建物の倒壊による音と道が塞がれる視覚の2つで追い込んできてる」
もし少しでも冷静になれれば爆豪の言う通り二人は〝個性〟を使っての条件達成も狙えたかもしれない、けれどそこに加えて時間制限もある状況下で学生が冷静になれるかと言われれば難しいだろう。
まぁ、その難しいを超えてみろってのがこの学校なのだけれど。それと今気付いたことがあるのよね、この試験って確かにクリアしないと赤点かもしれないけど、そもそも
「クリアできなくても合宿には行けないって誰も言ってないわよねそう言えば」
「……あっ」
「多分だけどこの試験の本当の狙いって各々の課題を洗い出して合宿に活かすじゃないのかしら、なら切島と砂藤コンビみたいに相性的にも厳しい試験があるのも頷けるわ」
その二人の相手はセメントス、私でも相手はしたくないと思わせるのに今回はセットプレイ状態からのスタートなんてどうしろっていうレベルではある。
一応、二人でも突破は可能なように手加減しているだろうけど、それを差し引いてもクリアさせる気がないと言われたほうが納得できる内容でしか無い。
「じゃあ、もしかした二人はこのまま……」
「ハッキリ言っちゃえば、タイムアップでしょうね。切島も砂藤も短期決戦型だから、持久戦に持ち込まれた時点で厳しいものがあるし」
「だからこそスタートと同時に踏み込むなり、耐えながら別の手段を考えるなりしなくちゃなんねぇ。それが出来なきゃあのザマだ」
「うむ、彼らはただ耐えてしまった。ただ耐えるだけでは状況は変わらないと言うのにね」
そう考えれば、情けなく見えるように叫びながらも動き続けている峰田は偉いと思うわよ私、変態だなんだって言われるけど、あの年頃の少年なら普通でしょと思うし。
「あっ、麗日さんが決めた!」
「ん? あら、本当だわ。あの状況から……あぁ、敢えて飛び込んで怯ませたのか、思い切ったわね」
「いや、敢えて飛び込んだというよりもなんか急に手を離した感じだったな」
どういうこと? え、リアクションを取った拍子に手を柵から離してってこと? なんで? ブラックホールの吸引の音で会話が聴こえなくて分からないけど、青山がなにか言ったのかしら?
うーん、後でモスキートで覗き見してみようかしら、もしなんかの秘密とかそういうのだったら黙ってれば良いし。
「残り時間はまだ少しあるけど、残ってるのは……」
「切島・砂藤ペア。芦戸・上鳴ペア。峰田・瀬呂ペア。っと耳郎・田口ペアが今抜けたわね、虫攻めとはエグいわね」
「虫程度で情けないねぇ」
仕方ないんじゃないかしら、プレゼント・マイク先生って虫嫌いだったと思うし、足元から這い上がられるっていうのは結構、怖いものよ?
え、体験談みたいだって、体験したことあるからよ。その時は黒いアイツだったけど、別に虫は苦手じゃないんだけど不意打ちだとビクってなるわね、その後は直ぐに手に持ってた本で叩き潰したけどって
「やるじゃないの、ミッドナイトを出し抜いちゃったわ彼」
「おお! ゲートから離れたところで張り付けて眠り香が届かないように!!」
「器用な子だね、すっかり騙されちまったよ私ぁ」
「HAHAHA! どうであれ、一つの目的を突き詰めれば力になるということだね!」
「……一つの目的を、か」
峰田のまさかの大逆転に場が盛り上がっている中、ふと爆豪だけはボソリと何かを呟いたのを私は聴き逃さなかった。が聞かなかったことにもした、別に指摘する必要がなかったのもあれば、そうね、言うとすれば。
(もう、彼に必要以上にちょっかいを掛ける必要もないってところかしらね)
今では良い感じに屈折した感情を向けられることも無くなってしまったからと言うのもあるにはある。まぁでもいい変化だし、私もこれ以上は血染にまた説教されるのはゴメンだから良いけどね。
そんなことを思っている間にタイマーが零を知らせる音が部屋に響き、リカバリーガールは締めの一言を無情にも告げた。
「そしてタイムアップ! これにて期末試験終了だよ!!」
結果として条件未達成は芦戸・上鳴チームと切島・砂藤チームの四人。相澤先生からすると初手で無力化された瀬呂も赤点と告げるだろうと考えれば、あの教師陣相手に五人で済んだのだから十分だろう。
こうして期末試験は終わりを告げ、私達も出張保健室から追い出されるのだが、戻る途中で私はオールマイトに、さっき話があるって言ってたわよねと一言伝える。
「内容は何となく分かるけど、何かしら?」
「……無理はしてないかなって話さ」
「それは
どうせ互いに時間は残されてないのだから、そう思いながらオールマイトに背中越しに手を降って教室に戻る、その背中を彼が彼らしくもない無力に打ちひしがれるような表情で見ていたことを気付かぬふりをしつつ。
私事
タグも変更したのですがこの小説は今後は週二更新となります。火曜日は、ちょっと厳しくなってしまったのでまぁだったらいっそと言う形ですね。