便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

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レイミィには一部を除いてボーナスステージ

今更ではありますが評価とかお気に入りとかありがとうございます。お陰様でランキングに居たり、日刊を維持できてます。

今後とも愉快な仲間達をよろしくお願いいたします


No.11『除籍回避の個性把握テスト』

 個性把握テスト、中学からやっている個性禁止の体力テストを個性ありで行うというもの。その際に色々と相澤が言っていたのだが彼女はその辺りは聞き流していた、あまり興味がないというのもあるし、そもそも中学の頃の思い出は薄っぺらいものしか無いので思い出したくないと言うのもある。

 

「それで、爆豪、バートリーでもいい、どっちかソフトボール投げを先にやれ」

 

「五十音順で良いんじゃないかしら。じゃんけんだとか話し合いよりも合理的でしょ?」

 

「あぁ?!……チッ」

 

 出てきた名前から首席にデモンストレーションをやらせるつもりだということを察したレイミィが譲るように答えれば、勝己はこれまら凄まじい形相で睨みつけ文句をつけようとするが、相澤からの早くしろという視線で言葉を飲み込み舌打ちしてからボールを受け取り、円の中心に立つ。

 

「中学のソフトボール投げ、何mだった」

 

「67m」

 

「じゃあ、個性を使ってやってみろ。円から出なきゃ何してもいい、早よ」

 

(素で67、やっぱり才能だけって子じゃないみたいね。努力も出来るってことを考えればあの性格になるのも無理ないか)

 

 レイミィが一人感心してる先でボールの感覚を確認し終えた勝己がグッグッと準備運動をしてから、投げのモーションに入りボールが手から離れるその時、ふと彼女の脳内で一つの閃きが走った、彼ならば投げる時の掛け声は間違いなく。

 

(死ね!ね)

 

「死ねぇぇぇ!!!!」

 

「クックク、フッ、フフ」

 

「ねぇねぇ梅雨ちゃん、レイミィちゃんが凄く笑いを堪えてるんだけど、なんでか分かる?」

 

「ごめんなさい、私もちょっと分からないわ……ただ、レイミィちゃんの笑いのツボはもしかしたら独特なのかもしれないわね

 

 あまりにあんまりな掛け声とともに彼の個性『爆破』によってボールは衝撃波を伴いながら飛んでいき、クラスメイトはその掛け声に困惑する中、それがドンピシャの掛け声だったがためにレイミィだけが笑いを堪えるように口元を抑え、その様子を近くで見てた透明少女こと『葉隠 透』が困惑しながら、隣の蛙少女こと『蛙吹 梅雨』に聞くが彼女も分かるはずがないので首を傾げ、分かる範囲で答えるにとどまる。

 

 そのレイミィはまだ堪えていた。まさか此処までドンピシャになるとは思わなかったとも言うし、単純すぎて笑えてしまったというのもあるがいい加減抑えないと流石に周りの目が痛くなってもおかしくないので深呼吸を数回繰り返して、落ち着きを取り戻す。

 

「ふぅ、で、記録は?」

 

「何もなかったみたいな顔しても駄目だと思うんだが」

 

 知らない聴こえないと大柄な男子生徒『砂藤 力道』の正論を笑顔で黙殺してから、相澤が持っていた手の平サイズの記録を映し出すモニターを見てみればそこに出されていた数字は【705m】

 

 個性無しで行うのとはまさに桁が違う記録にクラスメイトは盛り上がった。盛り上がり、口が軽くなってしまったのだろう、誰かが『面白そう!』と言ってしまった瞬間、場の空気が一気に冷たくなるのを全員が感じた。

 

(あーあ、地雷踏み切ったわねこれは)

 

「面白そう、か。ヒーローになるための三年間、そんな腹づもりで過ごす気でいるのかい?」

 

 ゾワッ。言葉にするならばこうしか表せない冷たさをまとったまま相澤に誰も音一つ出すことも出来ずに、彼からの次の言葉を待つ。

 

「よし、トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し除籍処分としよう」

 

 下された判決にクラスメイトが声を上げ驚愕する。入学初日から除籍されるかもしれないとなれば当然の反応ではある、だが彼の言い分も最もであり、特に今年は間違いなく(ヴィラン)の襲撃が約束されてるとなれば生半可な者は此処でふるい落としたほうが逆に幸せだろう。

 

 自由な校風を真っ向から利用した手段。あまりに上手いやり方に流石プロは考え方が違うわねとレイミィとしても称賛するしかない、これでクラスメイト全員は気を引き締めて個性把握テストを行い、そこから誰にどのような指導をすれば良いのかが分かりやすくもなる。

 

(仮に本当に見込みがない者が居れば容赦なく除籍し『避難』させる。合理的、此処まで徹底されると末恐ろしいわ)

 

 クラスメイトが何やら相澤に言い寄り、それに対して彼も返答しているがやることは変わらないのでと聞き流しつつ、これは私も下手に手を抜いたら除籍させるわねと端からそのつもりはなかったが一応で気合を入れ直して、個性把握テストに挑みに向かう。

 

 先ず向かったのは50m走、五十音順だと彼女が一人で行うことになり注目されるが緊張する素振りも見せずに、クラウチングスタートの構えで準備をし、スタート同時に彼らが見たのは真紅の影と轟音とゴールラインでズシャァ!とブレーキをかけているレイミィの姿、そして【1秒44】という数字。

 

「なっ!?」

 

「悪いけど、速さで負けるつもりはないわよ飯田」

 

 自身の3秒04の記録を大幅に塗り替えられ驚きの表情を晒している天哉にレイミィはしたり顔で言葉をかける。諸事情で彼女の個性【吸血姫】はフルスペックを出せておらず、この後の握力測定では女子の平均は超えるが異形系と見ると低いかな程度の記録しか出せないくらいには筋力関連は影響が出ているが、こと速さという分野では約7割のスペックを出せる。

 

 なので事実、この後の反復横跳びでも大記録を打ち出すが、その際は自身の個性【もぎもぎ】を利用した『峰田 実』に僅差まで迫られたことに彼女が驚かされたのもあるが、自身の目の前でボヨンボヨンと跳ね続ける光景に笑いを堪えるのも辛かったと後に語る。

 

「え、なにそれ、くっつくのよね?」

 

「オイラ自身は反発するんだ。逆に他人や壁とかにはくっついて効果が切れるまで剥がせなくなるぜ」

 

 また速さ以外ではと言うと立ち幅跳びも彼女の独壇場である。言うまでもないが彼女は飛行が可能、だからだろう反復横跳びの前の種目、立ち幅跳びに向かうよりも前に相澤がただ一言。

 

「バートリー、お前、飛ぼうと思ったら何処まで行ける」

 

「何処までも?」

 

「次行け」

 

 計測もせずに∞と記録されるのだが、彼女としては一度はやらせて欲しかったと少しばかり拗ねる。それも分かりやすく頬を膨らませるというあまりに子供っぽい行動に麗日が目撃すると同時に

 

「うわ、すっごい可愛らしい拗ね方しとる。どしたん?」

 

「立ち幅跳びをやらせもせずに∞判定とか、酷いと思わない?」

 

「それで拗ねてるんか! あ~、でも先生ほら合理的ってやつやない?」

 

 このように拗ねていたが、反復横跳びで機嫌が戻ったので女子勢からは割とチョロいのでは疑惑が浮上したとかなんとか。そして第五種目目、ボール投げになるが彼女はこれをどう攻めたものかと悩みつつ、緑谷出久の挑戦を眺めていた。

 

 彼は此処までの種目で個性を使った形跡はない。正確には使おうとして使えないが正しいだろう、その証拠に各種目で覚悟を決めきれない表情を毎回見せるのだ、そこから分かるのは

 

(調整ができないってところかしら。麗日から聞いた話だと一発殴ったら手と足がボロボロだったって話だし)

 

 オールマイトの個性を受け継いだとすれば当然だろうと思いながら始まった一投目は、片腕を犠牲に発動させようとしたのを相澤が自身の個性【抹消】で阻止、結果46m。相澤から説教と忠告が彼に入る。

 

(現場で同じことをしたとすれば腕一本とじゃ釣り合わない。なら、どうするのかしらね、彼)

 

 ここに来て、彼女は出久がこのまま腐るとは露とも思っていない。あの目はそんな安い目ではないと、彼の本性はもっと恐ろしいものだと気付いているからこそ、どのように打開するのだろうかと期待の眼差しを送る。

 

 そして、緑谷出久の二投目。先ほどと同じようなフォームで振り被り、投げる刹那、相澤が見込みゼロと決断する瞬間、彼は目を見開いた。ボールは先程の勝己と同じような衝撃波を伴いながら飛んでいくが、それは彼が腕を一本犠牲にした一投ではなく、見れば変色した指を握り締めて涙を浮かべながらも相澤を見据える出久の姿。

 

(へぇ、とっさの機転は百点満点ってところかしら)

 

「まだ……動けます」

 

「こいつ……!」

 

彼は腕一本から、指一本だけと最小の犠牲に【705.3m】と言う最大の成果を叩き出したのだ。この結果にレイミィは笑みを浮かべ、相澤は驚きと自身の想定を飛び越えてきたことに嬉しさを交えた表情、そして……

 

「……!!!」

 

「ブラッド……」

 

 ボール投げの時に出久を無個性だと罵るように話していた勝己が驚愕の表情で彼を見つめるが纏う気配が個性よろしく爆発する寸前だと感じ取ったレイミィが彼に向けて腕を構え、何時でも捕縛できる体制に入る。

 

「どーいうことだ、こら! ワケを……」

 

「チェーン」

 

「んぐえぇ!」

 

 感情が爆発したと同時に出久に突撃を敢行した勝己が叫びを言い切る前に射出された真紅の鎖が彼を巻き付け、力任せにレイミィの足元へと引っ張り転がされる。当然ながらそんな事をされれば、勝己も睨みつけ文句の一つも言おうとするが迎えたのは絶対零度の瞳に言葉を失う。

 

「あまり、私を失望させないで頂戴。キャンキャン吠えて力を振り回すのなんてそこらのチンピラでも出来るんだから」

 

「ッ!?」

 

 声に、表情に含まれている感情は探るようなこともしないで分かるレベルの失望。そして視線の冷たさに、向けられている本人だけではなく、周りのクラスメイトも言葉を発することが出来ない。

 

 言うなれば先程の相澤の言葉による冷たさはまだ人間を相手に放っているモノだったのに対しレイミィのはそれ以下の存在を仕方無しに視界に収め、言葉を掛けているほどの違い。彼らはここで改めて彼女という存在を知ることになった、これが所長として、便利屋チェイテをこの歳で纏め上げている吸血姫なのだと。

 

「バートリー、離してやれ」

 

「あら良いの? じゃ、はい」

 

 指示を受け、レイミィが軽く手を払う仕草をすれば、身動ぎ一つもできないほどに頑丈に縛られていた鎖が空気に溶けるように消え去る。拘束が解かれ、ゆっくりと立ち上がった勝己は拳を握りしめたまま、ギロッと睨みつけたのもつかの間、その表情は凍りつく。

 

 自身に向けられているそれは、期待していないと告げられているものだった。今日まで一度も向けられたことのない、失望を通り過ぎたそれに彼は何も言えず、苛立ちのまま次の種目へと向かっていく姿を見送ってから表情を少しだけ柔らかいものに崩し、それからボソリと。

 

「これで折れてくれないで頂戴?」

 

 彼に届くことのない言葉は戻っていたクラスメイトの喧騒に消えていくだけだった。因みにソフトボール投げは悩んで結果、もう力任せでいいかになり結果はまぁまぁな記録で留まったということを記しておこう。

 

 こうして残りも記録を出すのだが書くまでもなくパッとしない普通の記録だったので割愛。強いてあげるのならば持久走でバイクを創り出して乗り回すという方法で記録を出してきた百に冗談でしょあれと呆れたくらいである。

 

「んじゃ、パパっと結果発表。トータルは単純に各種目の評点を合計した数だ。口頭で説明するのは時間の無駄なので一括表示する」

 

 ブオンと映し出された投影モニターのランキング、レイミィは50mと立ち幅跳び、反復横跳びが高評価だったのが大きかったようで2位、因みに一位はあらゆる種目を個性【創造】でぶっ壊した百である。そして最下位は緑谷出久、見れば彼は下を俯いており、このまま除籍にされると思いこんでいる様子なのだが、相澤の次の一言で場は本日何度目か分からない絶叫に包まれた。

 

「ちなみに除籍はウソな」

 

『!?』

 

「君らの最大限を引き出す、合理的虚偽」

 

『は────!!!???』

 

 思わずレイミィは耳を塞いだのを誰も責められないだろう。それからそっと手を耳から離し、とりあえずこれで今日はお終いかしらねと息を吐き出す。

 

 初日から中々に疲れることばかりだった。便利屋としての業務とは別の疲れ、だがそれが妙に心地が良い、不思議なものねと体を伸ばしていると締めの挨拶を済ませた相澤から

 

「バートリー、緑谷を保健室に連れてった後、職員室に来い」

 

「……私なにか怒られるようなことしたかしら?」

 

「書類に不備があったらしい」

 

 あら大変、ならすぐに向かいますと答えるが今のは単純にクラスメイトが居る場合など依頼云々だとは言えない時用の会話である。だが出久の件は本当なのでと先ずは彼を保健室にと思い見てみるが、何故か当の本人は

 

「え、あ、いや、着替えてから行こうかなって」

 

「アホなの? すぐに処置しないと面倒になるでしょうが。ほら、行くわよ、ハリーハリー!!」

 

「わわ、あ、ちょ、歩く、歩きます!?」

 

 無事な方の腕を引っ掴み歩き出すレイミィと引っ張られて転けそうになりながらついていく出久。道中での会話こそあまり無かったが、それでも彼に対して聞きたいことがあった、現状で個性は何処まで扱えるのかということを。

 

「え、いやその……0か100です」

 

「両極端しか使えないってことか」

 

 そりゃ、個性把握テストの時は迂闊に使えないわねと納得する。使えば自爆するというのに全種目で個性を使った日には今日ここに居ることすら無いだろうと不便な個性だという感想すら持てる、どうにか調整できないのかと聞けば

 

「まだ出来ないです。一応、その電子レンジに入れた卵が爆発しないようにするイメージはあるんだけど」

 

「今すぐそのイメージを破棄しなさい。どう足掻いても爆発するからそれ」

 

「ええ!?いったた……」

 

 なんで電子レンジに卵入れたのかと呆れてしまい、ついばっさりとした事を言ってしまうレイミィ。出久も唐突なダメ出しに驚き折れてる指を握り締めて痛みに脂汗をかくが、落ち着くように呼吸を整えてから彼女を見て

 

「えっと、じゃあ、バートリーさんならどんなイメージを?」

 

「そうね。水と塩、もっと言えばコーヒーと牛乳かしら」

 

「水と塩、コーヒーと牛乳? ……あっ、溶ける量!! そうか、今の僕は小さなコーヒーで、個性は大量の牛乳、けれど全部を一気に混ぜたら溢れるから出来なくて、だからこそ量を調整する必要があって(ブツブツブツブツ)」

 

 どうやら彼女のアドバイスは彼のスイッチを入れてしまったようでブツブツと呪文を唱え始めた出久を、へぇと興味深そうに見つめるレイミィ。だが保健室に着いたのでと彼の背中を叩けばビクッ!? と跳ね上がる。

 

「へ? え?」

 

「保健室着いたから、さっさと治してもらいなさいな。それじゃ私は職員室に行くから、また明日ね? あぁ、そうね、最後にもう一つイメージトレーニングをずっとしてみるのも良いんじゃない?」

 

「あ、はい! アドバイスありがとう!」

 

 ペコっとそれはもう深いお辞儀にそこまでしなくてもいいってと思いながらレイミィは職員室に向かうのであった。




ここで緑谷の個性の調整へのイメージを変えてみたけど、意味あるかは分からぬ……

便利屋Q&A
Q 吸血鬼って素早いとかの逸話あったっけ?

A 幻想郷に居るのは速いじゃん(論弁
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