便利屋チェイテと愉快な仲間たち   作:鮪薙

110 / 190
君は吸血姫の重力に耐えられるだろうか……(某機動戦士の予告風)


No.110『期末テストを終えての一幕』

 期末試験が終了し翌日、いつも通りよりも少し遅めに教室に着いたレイミィが見たのはこの世の終わりのような表情をした演習試験を突破できなかった四人の姿だった。

 

 彼女は途中で気付けたが、全身全霊で試験に挑んていた彼らが試験の狙いに気付くというのは難しい話であり彼らの中では合宿に行けずに学園で補習地獄が待っていると思い込んでいるのだろう。

 

「うぅ、レミィ、楽しんできてね……うぅ!」

 

「あ~、うん、そうね。まだ希望を捨てるのは早いんじゃないのかしら?」

 

 ガチ泣きの芦戸にレイミィはどう触れたものかと悩むもどうせ直ぐに相澤先生が種明かしでもするだろうとそんなことを口にすれば、慰めてくれてありがとうとガチ泣きが悪化することに困惑することになる。

 

 どうやら試験に落ちて、楽しみがなくなるということはこういうことらしいと今までそんな経験がなかった事に対して新たな知見を得たと思ったタイミングで予鈴が響くと通夜状態ではありつつも四人も席に座り、他の座ったというところで。

 

「予鈴が鳴ったらって全員座ってるな、よろしい」

 

 相澤の感心した声が響くが生徒たち、もとい演習試験を超えられなかった四人は静まり返る教室、その事に気付きながらも彼はゆっくりと、四人にとっての死刑宣告を……

 

「おはよう。今回の期末テストだが残念ながら赤点が出た、したがって……」

 

 ズンッ! とまた一つ重力が強くなった錯覚を覚える教室。だがレイミィだけはなんとも態とらしい前降りだことと思いながらそっと両耳に何かを仕込み始める。

 

 彼女は考えた、何かあるごとに爆弾が爆発するのならば対策してしまえばいいと、じゃないといい加減に耳が保たないと。

 

「林間合宿は全員行きます」

 

『どんでんがえしだぁ!!!!!』

 

「うるさっ、耳栓しててこれってどんな声量で叫んでるのよ」

 

 などと大袈裟に語ってみたが早い話が耳栓してダメージを抑えたというだけであり、彼女の言葉が正しいのならばその上でも煩いと言えるくらいには教室に爆音が響き渡っているらしい。

 

 これにはレイミィも嘘でしょという表情を隠せない、四人でこれなのだからそりゃクラス全員が騒いだ日には意識が飛んでも不思議でも何でもないわねと納得していれば二度もしてやられたことに震えていた天哉が挙手しつつ席を立ち。

 

「しかし二度も虚偽を重ねられると信頼に揺らぎが生じるかと!!」

 

「わあ、水差す飯田くん」

 

「まぁ彼が言わんとしていることは分かるけどね。私がこれやったら血染に腹パンされると思うし」

 

「結構スパルタだね!!??」

 

 彼女はそう語るが実際にやった場合は腹パンではなく拳骨である。それに加えて淡々と説教が加わりレイミィは二度とするかこんなことと吐き捨てることになるのだが、それは訪れることのない未来なので置いておこう。

 

 だが全員で林間合宿には行けるが赤点が無くなったというわけではなく、相澤もその点について語り始める。曰く、合宿先で別途補習時間を作るとのこと。

 

 つまりは強化合宿で訓練をした夜に補習も行うという内容なのでこれにはレイミィもなんとも過酷なスケジュールだと苦笑いをしつつも。

 

「まぁ私も似たりよったりとは言えばそうなのだけれど」

 

「バートリーさんも……? ですが赤点を取ったりはなさってないですよね?」

 

「便利屋の方の仕事がね。一週間は私が請け負う方の新規の依頼は止めることにはなるけど、他の所員からの依頼の報告書とかは出てくるからその経費やら何やらは目を通さないといけないから」

 

 とは言っても彼女としては慣れたことなので軽い感じに言うが言われた側であり八百万にしてみればハードスケジュールなのには違いなく、同時にそれを軽いものだと言える彼女に尊敬の念すら覚えそうになっていた。

 

 もし自分がその立場だったら出来るだろうかと考えてしまったのだろう。日々の便利屋の仕事に合わせ学業をこなし、どちらも疎かにしないどころかきちんと成績を出す。

 

(私にはとてもではないですが無理ですわ……どこかで綻びが生まれてしまいます)

 

「ん? どうしたのよ八百万、人の顔を見て」

 

「いえ、バートリーさんは凄い人なのですねと思っただけですわ」

 

 唐突なお褒めの言葉にキョトンとした表情をさらすレイミィ、今の会話のどこにそんな要素あったのだろうかと本気で考え込んでいるのが分かる反応、それが何だか面白く思えて八百万は上品に抑えるように笑う。

 

 分かってることだけを書き出せば超人とも言えそうな少女だと言うのに、一つ一つ見せる反応は自分たちと変わらない年相応なものと言うギャップを持ってるからこそ目の前の彼女が自分たちと変わらない存在だと思え、笑いが溢れてしまった。

 

「ねぇ、轟。今のやり取りで笑われる要素あったかしら?」

 

「いや、分からない。つか、八百万がそうやって笑うのは初めて見た気がするな」

 

「そうでしょうか? あ、こちら林間合宿のしおりですわ」

 

「確かに? まぁ良いかっと」

 

 受け取った林間合宿のしおりをパラパラと捲り流し読みしていくレイミィ。ここで彼女が知りたいのは林間合宿が何時からなのか、それが今日からどの程度の時間の猶予があるのかの2つ。

 

 見た感じでは夏休み入って直ぐではないということが分かり、ふむと彼女は脳内で予定を書き出していく、これならば例の作戦、青山夫妻の保護作戦も滞りなく遂行できそうだと結論付けてから相澤の話を聞くことに集中する。

 

 それから時間は進み放課後、レイミィはと言うと今日は別段、直ぐに帰る用事も無ければ、そう言えば何時もはすぐに帰ってしまうので今日は偶には良いかとクラスメイトと会話を楽しんでいた

 

「にしても夏休み、か。なんかこう、実感みたいなのが沸かないのよね」

 

「話してたな、便利屋があるから中学の時も夏休みなんて実質無かったって」

 

「そうそう、数日だけでも致命傷になりかねないのに、一ヶ月も休んだ日には廃業真っしぐらだもの」

 

「聞けば聞くほど苦労してんだねってなるよね。あ、でもそれじゃ今回の林間合宿とかも結構ヤバめだったりする?」

 

 実際、雄英高校からやエンデヴァー、オールマイトの継続依頼が無ければかなり厳しいものがあったかもしれないが、今の便利屋はそこからの依頼に加えて軌道に乗っている部分もあり、まだリカバリーが聞く範囲だと言いつつ。

 

「最悪、奥の手も使えるから私だけがっていうのは何とかなるのよね」

 

「奥の手? っと感じ的にこれは言えないってやつか」

 

「えぇ、出来ればまだ秘密にしておきたいわね。分かってるわよね、轟」

 

「? あぁ、そういうことか、分かってる」

 

 すぐに理解したような表情と声で答えたが一瞬だけ分かってなかったという表情をしていたことを見逃さなかったレイミィは大きくため息を吐き出すことになる。

 

 もし今ここで釘を差さなかったらどっかで漏らしてたなこれと。だが轟も便利屋の所員の〝個性〟は秘匿していると言うことは知っているので迂闊に話したりはしない。

 

 しないが、それが気心知れたクラスメイトとかでは話が変わってしまう。自分が話しても他には漏らさないと分かっているからこそ話してしまう危険性があるのだ。

 

 事実、今日までにレイミィのあれこれはクラスメイトに知れ渡っているのは大体が轟が原因だったりするので彼女の懸念は無理もないことだろうし実際、懸念の通りだったのだが。

 

「なぁ、今の一瞬でツーカーみたいな仲のやり取りを見せられたオイラの怒りはどこにぶつければ良い?」

 

「飲み込むしかないんじゃねぇかなぁ」

 

 クソがと峰田のまるで隠す気のない憎悪むき出しの声と言葉に苦笑しつつ、尾白から場の空気を切り替えるためだろう、林間合宿の話題を切り出される。

 

「まぁ何はともあれ、全員で行けて良かったね」

 

「一週間の強化合宿か!」

 

「けっこうな大荷物になるね」

 

 〝一週間〟〝大荷物〟天哉と出久が出した言葉にあぁそうねと曖昧な笑みを浮かべるしかないレイミィ、内心ではあれやこれやで3日とかそこらで終わっちゃうんじゃないかしらねとか思ってもいる。

 

 無論、敵連合の襲撃云々が確約されており襲撃の日付もこちらで情報を流す際に調整するつもりだからだ。しかしそれを口にすることも出来なければ、分かってるからと荷物を減らすことも出来ない。

 

「(見てくれだけでも一週間分の荷物は用意しなくちゃならないわね)……思えば、林間合宿なんてクラス全体で泊りがけっていうのは初めての体験ね」

 

「なぁおい、軽く出される話題だったか今の? これが噂のあれか、食堂の重力姫の真相ってやつか?」

 

 雑談紛いに出されたレイミィからの悲しさしか感じさせない言葉に砂藤が呟くように声を漏らせば、返ってきたのは耳郎とお茶子の沈痛な表情に彼も全てを悟り事になる。

 

 彼が悟れば他のクラスメイトも悟り事になるし、何だったら雄英体育祭前に心操との会話でもそんなこと言ってたなと思い出して一気に通夜状態になる教室と急激な場の空気の変わりように困惑し始めるレイミィ。

 

「え、なにどうし、あっ、これ分かるわ。私がやらかしたってやつよね」

 

「自覚してくれて嬉しいわレイミィちゃん」

 

「その自覚をもう少し前に持ってくれたら更に嬉しかったかなレミィ!!」

 

「なぁおい、見ろよバートリー!! なんか急激な温度差でグッピーが死にかねないくらいに一気に通夜だよ!!!」

 

 男峰田、迫真のツッコミにレイミィも悪いわと本気で思い頭を下げる。下げたが、多分今後もやらかすと思うからごめんと付け足せば、そっと葉隠に肩を叩かれる。

 

 吸血姫と言えど透明人間である彼女の表情などは見えないが、それでも励ましているような感じに、ありがとう? と言ってみれば。

 

「ならさ、明日休みだしテスト明けだしってことで。A組みんなで買い出しに行かない!?」

 

「買い出し、まぁ確かに職場体験のときとは荷物が違うでしょうから悪くはないかしら?」

 

 形だけとは言え一週間分の荷物となると事務所にあるものだけで補えるかは分からない。なのでレイミィは葉隠の案に頷けば、さっきまで通夜状態だった教室も直ぐに活気を取り戻す。

 

「おお良い! 何気にそういうのは俺達も初じゃね!」

 

「おい、爆豪、お前も来いよ!」

 

「行ってたまるか、かったりぃ」

 

「ふぅん残念。轟、来るわよね」

 

「あぁ、つってもなにか買うものあったか?」

 

「……バートリーさん、まさかだと思うけどかっちゃんをボッチだって煽りたいだけじゃないよね?」

 

 気付いてはいけないことに気付いてしまったという表情の出久が意を決して聞いてみればニッコリと微笑み、レイミィは告げた、分かってるじゃないのと、勿論、勝己はキレた。

 

「クソコウモリ女、随分と舐めたことしようとしてるじゃねぇか、えぇ?」

 

「空気を読まずに、あんなことを口にするほうが悪いのよ、貴方ってどうせ周りには腰巾着しか居なくて緑谷以外は友達居なかったとかでしょ」

 

「んだぁ、てめぇ……!! 舐めんじゃねぇぞコウモリ女、ダチくらいデク以外にも居たわ!」

 

「え、居たの?」

 

 素の声でレイミィが聞いてしまったが全員も同じことを思っていたらしい、ついでに言えば散々嫌っていた筈の出久をしれっと友達だと言外に言ってることにも驚いている。

 

 その出久も目を見開き勝己を見てしまう、確かにわだかまりとかは解消されたけど、まだ棘あるしでも昔からだからどうなんだろうとか考えていたところにまさかの発言、これに驚くなという方が無理だろう。

 

「あ? 何だこの空気」

 

「そりゃお前、緑谷をダチだって言ったからそうなるだろ」

 

「……あ、いや、ちっ、帰る!!」

 

「ま、待って、かっちゃん!!!???」

 

「うっせ、来んじゃねぇよクソナード!!!」

 

 もはや照れ隠しだとしか思えない言葉とともに乱暴に教室の扉を開け放ってから閉めて出ていく勝己と中途半端に手を伸ばして固まる出久、と今の一連の流れを見て微笑ましい表情になるクラスメイト。

 

 それはそれとして、あれは買い出しには来ないということなのだろうかと瀬呂がボソリと呟く。だがそもそもどこで集合とかも言う前に出ていってしまったので不参加ってことでいいんじゃないとレイミィ。

 

「煽った本人がもう興味がないとばかりの言葉なの、どうなのさ」

 

「って言ってもね。彼の連絡先とか知らないし、それにまだ休みまで時間はあるんだから明日にでも場所とかは伝えれば良いんじゃないかしら」

 

「それもそうだね!」

 

 こうしてA組によるテスト打ち上げの買い出しの詳細を話し合い、一応で翌日には勝己に伝えたり、レイミィも便利屋に帰宅後にその日ちょっとA組全員で出掛けると伝えれば被身子にはやっと友人が出来たんですねと泣かれ困惑していると。

 

「そういや、便利屋全員で向かうんだよな。私らも買い出し必要なんじゃねぇか?」

 

「あ、じゃあトガはレイミィちゃんに着いて行きますね!」

 

「いや駄目だからね、被身子ちゃん。俺達は別の曜日に向かうとするから、楽しんでおいで所長」

 

「そもそもだ、3日目にって話だろ。だったら買い出しに出なくても問題ないはずだ」

 

「確かにそうだな、まぁ一応確認はしておいたほうが良いだろうけど」

 

「まぁ、そっちに任せるわ。さて……青山夫妻の件について詰めるわよ」

 

 人命が掛かった大一番の作戦、その決行日は林間合宿の二日前の深夜、便利屋、ラブラバ&ジェントル、そして公安のホークス総出の大作戦の内容を詰めていくのだがそれを書くのはまだ早いのでここでは置いておき買い出し当日にまで時間は進むのであった。




次回から次章、つまりは林間合宿編になりますね。まぁ林間合宿行くのにまた数話使いそうですけど……
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。