「選択肢ねぇじゃん、昔のRPGかよ」
私からの選択肢の提示内容に軽口を叩くがその声は驚きに震えているのがよく分かる。そりゃそうよね、間違いなくこの場で私がこうやって絡んでくることなんて想定してないでしょうし。
そして、こうして私が絡んでも周りに動きがあるような気配がないということは……
「近くに赤霧も黒霧も居ないようね?」
「お前が感知できないだけだ」
「ふぅん、まぁそういうことにしてあげる。だけど……」
確かにその可能性は大いに有りえるだろう、それほどまでに私と赤霧の実力差は存在しているのだから。けれど、今この状況下ならそれは関係ない。
それを示すために周りには絶対に見えない位置に手を動かし、死柄木の脇腹に〝個性〟で形成した刃をそっと当てれば彼は分かりやすいくらいに身体を固くする。
「下手な動きはしないことね。ゼロ距離ならアイツより私のほうが速いわ」
「おいおいおい、ヒーローが脅してくんのかよ」
「分かってんでしょ、私はヒーローって質じゃないってのは」
どうやらこの状況下でもある程度の軽口を叩けるくらいには余裕があるらしい。つまりは、居るには居ると判断はできる、まぁどうであれ今の状況なら関係ないわ。
ただその態度にイラッとしたのも事実なので軽く刺せば急な痛みに声を上げそうになる彼に、改めて問いかけるそれよりもどうするのよと、まぁ選択肢なんてあってないようなものだけど。
その事は向こうだって理解しているからなのか、僅かな沈黙なあと大きなため息を吐き出してから。
「構わないけどさ、そっちの奢りな」
「あ? ちっ、良いわよ」
「やりぃ、そこの喫茶店で良いんだろ?」
何でコイツが仕切ってんのよ、確かにそこの喫茶店に入るつもりだったと言うか、そこしか無いんだけどこの辺り。入店して二人だと告げてから奥の方の外からは見えない位置のテーブル席に座り、それぞれ注文をしておく。
その間に彼と会話しておこうかと視線を向けるのだ何か違和感あるのよね……あっ、分かった。
「あの手のアクセサリー着けてないのね」
「あれ付けて歩いてたら不審者で速攻通報されるだろ」
「……その辺りの感性はしっかりしてるのね、驚きだわ」
つまりは日常的な格好じゃないってことか。こっちで言う
そこで何気なく彼が出されたお冷を飲む姿を見て気付く、彼はコップを三本の指でしか触って持ち上げている。あれは指で発動するタイプの〝個性〟持ちがよくやる特有の触り方だ。
「貴方、日常生活が大変そうね。五本で触ったら〝個性〟が発動しちゃうんでしょ」
「なんで……ってあぁ、気付くかそりゃ。まぁな、慣れちまえばそんなんじゃないけどさ、ゲームのコントローラーとかマトモに持てないのが辛いんだわこれ」
ゲームするのこいつ、もしかして私よりもかなり趣味に生きてるんじゃないのかしら。いや、私だって別に趣味がないわけじゃないし、ただちょっと仕事に生きてるだけだし。
自分で言っててちょっと生き方を鑑みたほうが良いかもしれないとか思い始めたけど、それは今考えることじゃないからと思考に蓋をする。
「んで、話に入っていいかしら?」
「待てよ、先に飯を食ってからにしようぜ。昼前で腹減ってんだよ」
「自分の今の立場分かってるのかしら?」
こいつ、人の奢りだからってウキウキしてるわよねと思いドスを聞かせた声で告げるが向こうはヘラヘラと笑ってから、右手でおしぼりを掴み〝崩壊〟していくさまを見せつけてくる。
早い話が脅しだ。このまま自分を大人しく食事させれば話はするが、そうじゃなかったら
これじゃ、時間までに戻るのは難しいかもしれない。けれど目の前でそのことをスマホで伝えれば、彼らがここに来ていることを向こうに知らせることにもなるので出来ないのよね。
「はぁ、分かったわよ。どうりで大量に注文してたわけだわ」
「奢りっていうんだからな。こっちだって贅沢できるほどの余裕はないんだよ」
どうやら割と世知辛い経済状況らしい、それを知れたところでだから何だっていう話でしか無いんだけど。というタイミングで互いに注文したものが運ばれてくる。
私はコーヒーとチョコレートケーキ、に対して死柄木はカルボナーラとラザニア、それにパフェとメロンクリームソーダとガッツリした注文に改めて頼みすぎでしょと口にしてしまう。
「だから腹減ってんだっての。ん、やば、美味いじゃんここ」
「はいはいって……」
向こうからの返答に呆れながらコーヒーを一口飲んで思わず固まった。記憶が確かならばこの味は八百万の所で飲んだのとほぼ同レベルの味の良さ、だがメニューに書かれた値段はそこら辺の喫茶店とかと同じくらいに良心的だったわよね?
まさかと思いながらチョコレートケーキを食べれば驚愕する。値段に対して美味しすぎる、だと言うのに周りに客の姿は殆ど見られない、穴場というやつだったのだろうか。
(確かに立地的には人はあまり来なさそうだとは思うけど、それでもこの値段でこの味の物を出してくる喫茶店が閑古鳥が鳴きそうな状態っていうのは勿体ないわね)
つか死柄木もあまりの美味しさに黙って食べ続けてるんだけど、こうして見ると普通の人間にしか見えないのよね。USJで見たような狂気と言うか圧は全く感じない一般人にしか。
厄介なタイプの
互いに黙っての食事の音だけが喫茶店に流れ数分後、死柄木は量が量だったので私よりも遅く食事を終え、一息ついてから
「で、話に入っていいかしら?」
「せっかちだな、まぁ良いよ。ここの料理がすげー美味かったし」
「そこは喫茶店に感謝するしか無いわね。それじゃ、聞くけど本拠地はどこ」
「言うわけ無いじゃん、馬鹿だろ」
容赦のない切り捨てた言葉にでしょうねと返してから二杯目のコーヒーを飲む、一応で聞いてみただけで答えてくれるとは露とも思ってない。寧ろ本題前の軽いキャッチボールみたいなものだと思ってほしいわ。
「そんなこと聞くために声を掛けたのか? だったら帰るわ」
「待ちなさいっての。本題は貴方の目的よ、何を企んでAFOからも姿を眩ませてるのかしら?」
あれから数度に分けて殻木から話を聞き出しているが死柄木達は現状でもAFOからは姿を眩ませているらしいのは分かっている。
なら考えられるのはもう彼とは手を切るつもりだということ、けれど切る理由がまるでわからないからと聞いてみれば
「あ~、目的ね。言っちゃえば
「これはまた物騒な」
「お前らだって目的は似たりよったりだろ? 便利屋さんよ」
似たりよったり、と言われたら強くは否定できない。白か黒かの社会に灰色という楔を打ち込む、言葉にすれば3つ目の選択肢をと言えるかも知れないがそれはつまり一度は2つだけという常識を壊すということでもあるのだから。
けれど違うと私は告げれる。貴方達のそれはただ壊すだけでその後が続かないと、それはただ混乱を引き起こすだけの無責任な行いであり私達はそれをするつもりはないのだと告げるのだが返ってきたのは態とらしい笑いと。
「良い子ちゃん振るじゃん。本当は復讐だとかあるんだろ、だってお前は赤霧と同じ存在なんだからさ」
「へぇ、全部知ってるの。でも復讐だ何だって言われるのは心外でしか無いんだけど、それよりも赤霧は復讐のために貴方に手を貸してるってことでいいのかしらそれ?」
サラッと出てきたけど、つまりはそういうことよねと思わず聞いてしまえば死柄木は隠す様子もなくその通りだと言う旨を言って頷く。
死にたがりだった奴が今度は復讐? どういう心変わりよそれ、まるで意味が分からないんだけど。
「ハハッ、訳わかんねぇって顔してんな。ま、俺も理由は同じだから手を組んでるってだけなんだが」
「理由は同じ、ね。ぜひとも聞かせてもらえるかしら?」
「はんっ、言うかよって思ったけど奢りだし良いか」
気味が悪いくらいに上機嫌に死柄木は自身の身の上話を始める。曰く、自分の今日までの人生はAFOの敷いたレールの上だったということ、彼のせいで家族は崩壊し自分は孤立したということ。
その状況から拾い上げたのが彼らしいのだがその目的はOFAの継承者への嫌がらせだったということ、けれどそもそも事の始まりが彼の父親がヒーロー嫌いからのようでその理由は祖母にあり、その祖母はなんとびっくりOFAの継承者の一人だったということ。
「待って待って、怒涛の勢いで情報を流さないでくれるかしら流石に整理が追いつかないから」
「知らねぇよ。ま、それを全部さ、赤霧から聞かされてじゃあ全部をぶっ壊そうぜってなったわけ、とりあえず手始めに先生の計画からだけどな」
「……」
ヤバい、急に新情報が来すぎて頭痛がしてきたんだけど。え、じゃあ、なに目の前のコイツってOFAの継承者の関係者ってことになるわよね、あ、そうね、だからAFOが選んだんだもんね。
そう考えれば、目の前の彼と私の境遇は似ているとも言えるかも知れないと思ってしまった。一人の大人に作り上げられたお人形、そして真実を知り己の意志で動き始めた人間。
「じゃあ、赤霧の復讐っていうのは」
「情報一つで人を化け物呼ばわりする民衆に責任を実感させるためだ」
「お、買い物終わったのか赤霧」
もはや驚くことすらしなくなったのは慣れたと言うのが近いかも知れない。気付けば私達が座っているテーブル席の側に私服姿とでも言えば良いのか私から見ても美人の大人の女性という姿の赤霧の姿がそこに居た。
その両手には買い物袋を引っ提げて……引っ提げて!!??
「買い物してたの貴方!!!??」
「喫茶店で騒ぐなよ、便利屋。そもそも此処はそういうところだろ、何か不思議なことでもあるのか」
「いや、その、つか貴方が正論ぶつけてくるなムカつくわね」
でも悪いのは私だからマスターに謝罪の意味を込めて頭を下げてから冷めてしまったコーヒーを飲んでから、彼女に問いかける。
今の話はどういうことなのかと、聞いてみれば赤霧は詳しくは言うつもりはないと前置きしてから
「私もAFOに嵌められた人間ということだ。帰るぞ、弔、外に黒霧を待たせている」
「はいはいっと。じゃあな、吸血姫、次はそうだな……林間合宿か?」
「やっぱり、そこで動きを見せるのね」
「当たり前じゃん、寧ろこのチャンスを逃す理由ないだろ? そっちも、俺達も、な」
「これ以上は言うな、行くぞ」
んじゃ支払い頼むわと告げ死柄木と赤霧は喫茶店を出ていく、その背中にモスキートでも飛ばしておくかと考えたが赤霧が近くに居るのならば悟られるだけかと考え直す。
それから伝票を手に持って会計を済ませ時計を見れば集合の時間になっていたので、急いでそこに向かえば耳郎から心配したという感じに。
「あ、バートリー! なんか轟が急用で少し離れるって聞いたけど、大丈夫だったの?」
「ちょっとね、前に深いところまで解決するのに手伝った依頼人が居てその後の話を聞きに行ってたのよ。まぁアフターケアってやつ?」
「そうだったのですか、何かに巻き込まれたのかと心配しましたわ」
ごめんごめんと謝ってから轟にもフォロー感謝するわと伝えれば問題ないという感じに頷く形で返される。どうやら、他の面々も無事に買い物を済ませたらしいが、そうね、峰田?
「待ってくれ、オイラは何も買ってないぞ!!」
「へぇ、障子確保」
〚あ、あぁ〛
「おい待て、横暴だろ!! まじで何も買ってねぇって!!」
はいはい、犯人はみんなそう言うのよ。ほら、この大量のヘアピンとかは何かしらねぇ? 針金に、これは錐ね、弁明は?
「……い、家で使おうかなって思っただけだぜ?」
「はぁ、頼むから犯罪行為は止めてちょうだいね、流石にクラスメイトをしょっ引くのは私だってあまりやりたくないから」
とりあえず釘だけは刺して彼に袋を返しておく、まぁ危ういところはあるけど結局はやらないでしょコイツは、その辺りはヒーロー科の人間でしょうから。
え、前に更衣室を覗こうとしたって? 彼どうしてヒーロー科に受かったのかしら? って轟、どうしたの?
「いや、林間合宿じゃコイツからは目を離すのはマズいなと思っただけだ」
「最悪の場合は私がどうにかするつもりだったけど、轟が動くならそれはそれで助かるわ」
「うわぁ、すっごい頼もしいわ」
「峰田くん、絶対に駄目だと思うし止めたほうが良いと思うよ?」
「うるせぇ!! そこにロマンがあっ、その視線はちょっとゾクゾクするから止めてもらえるか?」
こいつ本当に何でヒーロー科に入れたのかしら。今日だけで何度目か分からない頭痛を感じながらA組の買い出しは表面的には平和に終えることになる。
勿論、今日の死柄木との接触とそこで得た情報はその日の内にホークスに流しておいたのだけれど、曰く。
《死柄木がOFAの継承者の関係者ね。でもその中に〝死柄木〟って名字は無かったと思うんだけどな》
「じゃあ死柄木が偽名ってなるわね。誰か居なかったの、家族持ちの、或いはだったっていう継承者は」
《ちょっと待ってて、確か資料がこの辺にっとこれだ。えっと……》
ペラペラと電話越しからでも資料を捲る音が聴こえ、少ししてからホークスはコイツか? と微妙そうな声を上げてからその名前を口にした。
その継承者の名前は【志村 菜奈】オールマイトの一つ前、七代目の継承者にして彼の師匠の一人、彼女は既婚者だったが夫は殺害され自身の息子を危険から遠ざけるために里子に出していたと。
けれど、それが逆に心に傷を残してしまったとすれば? その結果が死柄木が言っていたあの内容に繋がるとすれば?
「ヒーロー嫌いだったって言ってた。それが原因だとすれば辻褄が合うかもしれない、ホークス、その家族の息子って調べられる?」
《やってみよう。にしてもさ、流石に驚いたよ、死柄木と今日接触したって話を聞いた時はさ》
「偶々よ。それよりも頼んだわよ、それと青山夫妻の件もね」
《承りましたよお嬢様、それじゃおやすみ》
ふぅと息を吐き出し受話器を置いてベッドに潜り込む。正直に言えば、今日得た情報の詳細を知ってもやることは変わらない、ただ知らないままというのが気持ち悪いだけだ。
寝る直前、喫茶店で死柄木と話した内容が頭を過る。あの時、彼が復讐はお前もだという言葉を否定はした、けれど
(まるで無いかと言われれば、そうじゃないのよね)
でもこれはエルジェーベト・バートリーの復讐心でしかない、だからこれはそこでお終いだと私は眠ることにした。
あとはまぁ前期は何かあるわけでもなく平穏に時は流れていき、そして
「てことで、夏休み初日から集まってもらって悪いわね。オムライスを作るわ」
《いえーい!》
「え、何このノリ、俺もそうしたほうが良いのか?」
私は学校の食堂に集っていた。
次回から夏休みです、それからやっと林間合宿です。
長いよ、そこまで行くのにお前……