夏休み初日の午前中。もっと正確に言うのならば10時くらいかしらね、ともかくその割と早い時間帯に私は雄英高校の食堂にて調理時の姿にそこに居た。
目の前には人数分のオムライスの材料とウチにあるのとは比べ物にならないほどに高品質だろうということが分かる調理器具の数々、試しに適当な包丁を持ってみたんだけどこう、流石雄英高校ねと思わず呟いてしまったわ。
何より手入れも行き届いている、数日に一度のメンテじゃないわこれ。一日ごとに一つ一つを丁寧にメンテナンスしてるからこその品質、クックヒーロー【ランチラッシュ】先生の城は伊達じゃないってことね。
「それにしても感謝するわ。まさか城である調理場を貸してもらえるなんて」
「なに、君が作るオムライスが絶品だと噂は聞いていたからね。その腕前を見れるなら喜んで貸すよ」
誰からの噂よそれ。少なくてもA組とかにしかオムライスの話はしてないと思うんだけど、学外ならまぁそれなりに居るっちゃいるけどさ、いやまさかそこかしら。
ホークス、まさかポロッと喋ってないわよね? 確かに何度か便利屋で夕食を食べに来てたしその時にオムライスも作ったことはあったけど、まぁ良いか。
「絶品って、あくまで一般的な腕って話でしか無いんだけど私」
因みにだけど何でオムライスを此処で作ることになったのは言うまでもないだろう。心操への依頼のお礼であり、何時だったか食堂にて話したようにA組の一部もとい男子を除いた昼食のいつメンってやつとどこで聞きつけたか知らないが上鳴と峰田にも振る舞うことになっている。
けれど、じゃあどこで作るってことになって駄目元でランチラッシュ先生に話したら、今のこの状況になっただけという簡単な話でしか無い。
「それでどんなのを作るつもりなんだい?」
「お礼も兼ねてるから、ドレス・ド・オムライスにしようとは思ってるわ。なんか特別感あるでしょ?」
「確かにと思うがあれは中々難しいけど、聞くまでもないようだね」
「問題ないわ、何度か作ったことがあるもの」
ランチラッシュ先生の言うようにドレス・ド・オムライスと呼ばれる作り方のこれは難しいと言えるものではあると個人的に思ってる。
料理初心者の頃は無謀にも挑んで無様なものを作ってしまったのも懐かしい思い出、今では慣れたのもあるから楽勝よ。
その証拠にランチラッシュ先生と話しながらも下準備を終え、ソースとそれを利用したケチャップライスも作り終え、あとはひたすらオムライスを作っていくだけとなってる。
因みに付け合わせやスープはランチラッシュがやってくれてる、なので彼の分も腕によりをかけて作るつもりではある、あるが果たして口に合うかどうか……
「っと、はい一つ目完成よ」
「手際が良い、大人数の分を作るのに慣れてる感じだけど、もしかしてどこかで?」
「えぇ、何度か厨房のヘルプに依頼で入ったことがあるわ。あれはあれで大変だけどいい経験になったわね」
繁忙期なんてバラバラな注文を短時間で手際良くってやらないといけないから大変だったわねと思い出しながらトントンと人数分を作り上げていく。
これでも焦がさないようにとか形が崩れないようにとかで神経は使っているけど、まぁ問題はなさそうね。なんてことを思っている内に人数分のオムライスは完成、丁度そのタイミングでランチラッシュ先生の方も出来上がったとのこと。
ふむ、困ったことに私のオムライスよりもランチラッシュ先生が作った付け合わせのスープやサラダのほうが美味しそうに見えてしまうがそこはプロと一般人の差だということにしておきましょう、えぇ。
「ほら、出来たわよ!」
「っ!」
「待ってました!!ってなんかレストランとかで出てきそうなのが来た!?」
「本格的なやつじゃん、意外と凝り性なのバートリーって」
「やべぇな、まさかこの人生の中で美少女からの手料理を食べれる機会が来るなんてオイラ全く思ってなかったぜ、へへ……」
「あぁ、本当だぜ峰田。つか、もう既にヤバい緊張で手が震えてきた」
峰田と上鳴がなにか言ってるけど主役は心操だからね? 麗日も久しぶりのごちそうだと言わんばかりの反応止めなさい、色々と泣けてくるから。
ほら見なさいよ、優しい眼差しをしている耳郎を。それにしても今更だけれど、良いの心操。なんか思ったよりも人が集まっちゃったけどさ、まぁ貴方が誘ったんだし私も別に文句があるわけじゃないんだけど。
「いや、その、もし俺だけだったら緊張して味が分からなくなったかも知れないから……」
「緊張って、たかが料理を食べるだけでしょうに」
「バートリー、分かってねぇな。お前みたいな美少女の手料理っていうのは男には大きな意味が込められてんだよ」
したり顔で峰田が語り出したけど、そういうものなのかしら? 見れば上鳴も頷いてるから男子という視点からだとそうなのかもしれないと納得してから
「とりあえず冷める前に食べちゃいなさいよ」
「あ、あぁ、えと、いただきます」
お決まりの挨拶をしてから、全員がスプーンをオムライスに入れて口に運ぶ様子を私は黙って見つめる。さて、どうかしらね……
若干の不安を抱えていが私だったが心操から漏れ出るような一言で心配は霧散することになる。
「美味い……」
「え、やば、初めてなんだけどこんなに美味しいの」
「は、はわわ、なんやこれ、うんまー」
「思った数倍も美味いの出されると反応に困るってのは本当なんだな」
「オイラもだぜ。これ食えたの幸運なんじゃねぇの」
口々に出された感想にふぅと息を吐き出したのは悪くないことだろう。自信があるとは言えそれが他人の口に合うかどうかは別問題だもの。でもこの様子なら大丈夫そうね、それでランチラッシュ先生、どうかしら?
見れば彼は顔、顔? え、てかそのマスクでどうやって食べたの今? 機密? あ、そう……えっと、お味は如何かしら?
「正直に言えば、驚いている。どうかな、バートリーちゃん、食堂でヘルプやってみない?」
「依頼として話を通してくれるなら考えるわよ?」
「ふむ、少し本気で考えてみるかな。うん、凄く美味しいオムライスだ、後ででいい、アドバイスとか良いかな?」
「是非とも、プロからのアドバイスなんて中々貰えるものじゃないもの」
ランチラッシュ先生からの称賛に内心ではグッと拳を握っていたりする。ただヘルプ云々の話は断るかも知れないけど、いや、私ってあくまでオムライスとイワシ料理が得意ってだけで他は本当に平凡な腕前なのよ。
仮に入るとしたらひたすらオムライスかイワシ料理を作るだけの存在になるけど、え、それでも良いって? そう……それとさ、さっきから心操は人を直視できないって感じだけど、何か気になることでも?
「へ? あ~、いや、その、別に何かってわけじゃ」
「なら何で視線を逸らしてるのかしら?」
「まぁ待てってバートリー、良いか? ポニテで制服エプロンの学生通い妻スタイルってのは俺等みたいな年頃の男子には劇物なんだ」
「はぁ?」
割と本気で何を言ってるのという感じの声が思わず出てしまった。そもそも制服なのは此処が学校で、エプロンは汚れないようにでポニテにしたのは髪が邪魔にならないようにってだけで深い意味は無いわけなんだけど。
けれどこの姿がそう見えるっていうのは私が思ってないだけで一般的なのだろうかと疑問に思ったので耳郎と麗日に聞いてみれば
「うーん、どうなんやろ」
「まぁ、そうなんじゃない?」
二人の反応がイマイチという所を見るにこれもまた男子特有という奴か、難しいわね男子学生って、大人とかはまだなんか分かりやすいのに。
と言うかこの手の話題にはランチラッシュ先生は入ってこないわねとか思ってたら少し距離を離し、学生だけで楽しんでくれという感じになっていて思わず苦笑していると
「そういやバートリー、一つ聞いていいか?」
「ん、何かしら上鳴」
「【I・アイランド】って知ってるか?」
これまた唐突に出された場所の話題、知ってるか知らないかで言えば知っている。ざっくばらんと言ってしまえば人工島一つが学術研究都市になっている場所であり、内部は最高機密技術の塊、そこでは個性の研究とサポートアイテムの開発を日夜行っているとかなんとか。
そこがどうしたのかと聞けば、二人はプレオープン期間中にアルバイトとして向かうらしく、便利屋にもそういう話は来てないのかという内容だったのだが言ってしまうと。
「あぁ、そこ私達便利屋は出禁食らってるから入れないわ」
「で、出禁!!??」
「それ、え、何したのバートリー」
「待って頂戴」
お前、遂にみたいな空気を醸し出してるのかしら耳郎、私も便利屋も何もしてないわよ。してないけど、公安と協会からめでたく出禁勧告されてるのよ。
まぁ理由は大方予想付くけど、私の〝個性〟を使ったら機密だろうがなんだろうが記憶から読み取って自分のものに出来ちゃうもの。けどこれはまだ彼女たちには言えないので。
「便利屋っていうヒーローでもその関係者でもない組織とその長を入れるわけには行かないってことでしょうね」
「そっか、忘れそうになるがチェイテってグレー寄りなんだったな」
「うーん、だからって出禁にまでされちゃうのはやりすぎなんじゃないかなぁ」
やり過ぎではないと思うわよ麗日、寧ろ妥当だすら私は思ってるわ。それにサポートアイテム云々は興味はあるにはあるけど、今は発目があれこれ持ってきてくれるから別に困ってないし。
「でもI・アイランドが全く気にならないってわけじゃないから、土産話くらいは期待しておくわ」
「ヘヘ、土産話どころか彼女すら連れてきてやるぜ」
「なんたって人がたくさん集まるんだからな、チャンスは有る!」
あぁ、ハイハイ、そこは期待しないでおくわ。と言うかその手の場所に来る女性ってガード固いし、生半可な男じゃ話しかけるどころか近寄ることすら出来ないのが大半なんだけど分かってるのかしら。
「二人があまりに素直すぎて笑えてくる」
「ハハハ……」
「はぁ、こんなのでもヒーロー科入れるのか」
見れば耳郎は呆れ、麗日は乾いた笑いしかせず、心操はそんなことを口にしていた。因みに心操、彼らは彼らで有事の際はヒーローやれるからその辺りは男子学生特有のノリってやつだと思うわ。
「なるほどな。っとごちそうさまでした、本当に美味かった、ありがとう、バートリー」
「おそまつさまでした。言ったでしょ、依頼を手伝ってくれたお礼だって、寧ろこの程度で良いのって話なんだけど」
「良いって、それよりもまた何かあったら言ってくれ、協力するから」
やれやれ、本当に人間が出来てる子だわと思いながら食器を片付けようとしたらこれくらいは自分たちがと耳郎達も手伝い、今は調理器具や食器を洗いつつ先程の会話に出てきたI・アイランドについて考えていた。
警備はタルタロスレベルらしい人工島、外部からの交通手段は飛行機のみで、幾つものセキュリティチェックを超えないと島に入ることすら出来ないと厳重。
(なら、一度入ってしまえば手を出すことはほぼ出来ないとも言えるわよね)
思い浮かべるのは青山夫妻の件。二人を保護するというのは良いがどこにという問題が残っていたがここなら全て解決するのではないかと思い付いたのだ。
勿論、私が思い付くということはホークスたち公安だって思い付かないはずがない、だと言うのに私達に避難場所の話が来ないというのはつまりそういうことなのだろう。
(やれやれ、妙な所で警戒してくるわね。でも今回に限っては当然と言えば当然かしらね)
私と同じ〝個性〟を持っている赤霧が敵連合に居るので記憶を読まれてしまえば一発アウト、だから私達には伝えないというのは理に適ってはいるし最善の手段だろうことは言うまでもない。
(ま、それだって公安の誰かの記憶を読んじゃえば無意味な抵抗なんだけどっと)
これ以上は考えても意味がないと思考を打ち切り洗い物と後片付けに集中する。途中でランチラッシュ先生から今回のオムライスについてのアドバイスも貰ったが、なるほどそれは盲点だったという内容に次作るのが楽しみにもなった。
またこれは後日、麗日からのメッセージで伝えられたのだが八百万がI・アイランドのプレオープンのチケットを貰ったとかで麗日と耳郎も向かうことになったらしい、なので二人にも土産話を楽しみにしてると返信した。
えぇ、確かに返信したわ。だからってね、そういうのを聞かされるのは少し違うんじゃないかしら……
「えっと、もう一度お願いできるかしらホークス?」
《うん、そういう反応になるよね分かるよ。じゃあ、もう一度だけ言うからよく聞いてほしいなお嬢様、I・アイランドが
かなり強めの頭痛が私を襲ったのは言うまでもないし、推定避難先が
でもまぁどうやら公にはならないらしいし、今回の事件は発生原因がそもそもイレギュラーとも言える内容だったので問題ないらしい、そう、問題ないと分かったのならば……
「こちらバートリー、各員状況報告」
深夜の暗闇の中、私は、いえ、私〝たち〟は青山家の周囲に集った。AFOの最後の手札をもぎ取るべく、彼がヒーローをやっていけるようにするべく。
次回、救出作戦。