住宅街から外れた郊外、その中でも更に周りからは気付かれにくい人気のない合流地点、レイミィの指示で先に離脱をしていた血染、火伊那、ジェントルとラブラバ達は待機しつつ会話をしていた。
内容は離脱前のやり取り、レイミィが何かに気付いたのは確かであり、それが何なのかと言うのと情報の整理。
「ホークアイからの報告で動きが早まったってことはそれが理由なんだろうけど」
「私が男の動きを話したらだったな、通報を受けてってのを聞いて何かに気付いた感じだったのは確かだ」
「通報……いや、だとしたらあり得るか?」
「何か気付いたのかな、副所長殿」
奇しくもレイミィと同じ、火伊那の通報という言葉で何かを勘付いた血染の呟きにジェントルが声を掛けるが、直ぐに返事は帰ってこずに推測を整理するように顎に手を当て考え始める。
仮にそうだとしたら、自分たちの想定以上の危ない綱渡りをしていたのかも知れないし、同時にレイミィが突然計画を変更して慌てるように離脱を促した理由にも繋がる。
「いや、奴が帰ってきてから聞いたほうが良いだろう。俺のもあくまで推測でしかない」
「大丈夫でしょうね、あの娘」
「戦闘音やらは聴こえないから、心配は要らないだろ」
恐らくは慎重に慎重を重ねて移動してるんじゃないかと火伊那が答え、血染も同意見だとばかりに頷く姿を見てラブラバは深いため息を吐き出した。
だからって心配しなくていい理由にはならないだろう、と。どうにも便利屋の人間は彼女を一人の大人として見過ぎていて本質を見れなくなってしまっていると。
「あのねぇ、あの娘も子供なのよ? 少しは心配をしてあげるべきじゃないかしら?」
「つってもなぁ、アイツも子供扱いされるのをよく思ってないってのがあるし」
「そもそも、バートリー自身はそういった扱いを嫌う。もっと言えばアイツがこの道を進んでいるんだ、子供扱いなど出来るか」
その反論にラブラバはそうじゃないという感じにため息を吐き出す。された方は何が違うんだという表情になるのを見てラブラバは続けて頭痛を感じるしかない。
確かに二人の言う通りではあるだろうし彼女自身も、レイミィが自分でこの便利屋の所長という子供という立場で甘えられない世界に足を踏み込んだのは知っているし、子供扱いを嫌うことだって。
けれど、だからって何時も何時も彼女をその立ち位置に押し込み続けるのは間違っているだろうラブラバは口を開いた。
「誰も子供扱いしろとは言ってないわよ。ただあの娘自身がいざって時に弱音を吐ける環境じゃなくなりつつあるのがマズいって話をしてるのよ」
「マズいって大袈裟な、嬢ちゃんがそこまで弱い人間じゃねぇと思うんだが」
「はぁ、良いこと? 精神が成熟してようが、大人として長年振る舞っていようが子供は子供なのよ。私達みたいに人生を長々と生きて割り切り方を知ったわけじゃないの、抱え込みすぎて手遅れになるわよ」
「ふむ、そこは確かにラブラバくんの懸念通りかもしれないね。彼女が素を出せる機会というのが最近は少ないのではないのかな?」
ジェントルもラブラバの言葉が全くの唐突だとは思わなかった。自分たちとのファーストコンタクトから始まり、今日までの付き合いでレイミィが年相応の姿をというのを見たのは片手、多くても両手の指で足りる程度。
だからこそ、今回の依頼を話に来た時に学校の事を聞いて話してくれたその姿に二人して優しい表情になったのだ。対してそれを指摘された側、血染と火伊那はラブラバの言葉に思うところがないというわけではないらしく。
「全く、というわけではない。最近じゃ、学校の奴らと遊びにというのは何度かあった」
「あったって言っても二、三度くらいだけどな。私は入って間もないがそれでもここ最近は聞いてた話よりも忙しいってのがあるから嬢ちゃんも常に気張っててってのはあるかもしれねぇ」
血染が言うように素を出せない機会が全く無いというわけではない。だが多いかと言われれば、言葉を濁らせることになる。
特に雄英高校に入学してからは敵連合への策謀を巡らせ、赤霧が現れれば無茶承知で相手取り、今日に至っては危険な綱渡りを、と常に便利屋としての振る舞いをし続けている。
ともすれば、ラブラバの言葉は思うところが全く無いわけではなくなる。寧ろ言われても仕方がないという感情すら生まれてくるのだが。
「ならばどうしろと? これを言ってバートリーが態度を変えてくれるなら俺も苦労はせん」
「ふぅ、そうよね。ごめんなさい、貴方達だって分かってないわけじゃなかったわね」
「どうにかして敵連合周りを落ち着かせることが出来ればってのが理想、なんだけどな」
「それこそ出来たら苦労はしないという案件だろうね。林間合宿でけりを付けるとはバートリー所長も言っているけど」
場に大人たちのどうしたものかという空気が流れ出す。ラブラバとジェントルはもとより灰色に属しておりバートリーからは
染まってはいないのだが、じゃあなにか妙案が浮かぶかというのはまた別の問題。そもそもまともな人生経験を積んだと言えるのはタルタロスに入れられる前の火伊那しか居ないのでなおのことである。
「っと、あれ、どうしたのこの空気」
ふと湧いて出た新たな事に大人たちが頭を悩ませている空間に一人の男性が空から現れる。始めこそ音だけでレイミィが帰ってきたかと思った全員だったがその人物を見てからあぁとそれぞれが。
「なんだ〝色男〟じゃないの」
「んだよ〝色男〟か、嬢ちゃんじゃねぇのか」
「バートリーが呼んでおいたのだろう、すまない〝色男〟あいつはまだ戻ってきてない」
「あぁ、その、お疲れ様ですと言うべきなのだろうかね」
コードネームとして今回は設定しているので仕方がないことなんだけどと思いつつもホークスは思わず、はぁと疲れた息を吐き出してしまう。
と言うか、この場ならもうコードネーム呼びする必要ない。周りは公安の精鋭が警戒に入り、ネズミ一匹だろうと聞き耳が立てられないようにしているのを彼らは知っているはず、だとすれば
「お嬢様にも言ったんだけど、俺だって怒る時は怒る男だからね?」
「ごめんなさい、ちょっと空気の入れ替えがしたかったのよ」
「空気の? 何かあったのかい?」
ホークスから聞かれれば、とりあえずで彼が来るまでの出来事をはラブラバは話していけば、彼はふむと考え込みそれから
「なるほどね。うん、多分だけどお嬢様と副所長の考えは当たってると思うよ」
「と言うと?」
「お嬢様が戻ってから話すと思うけど、あの地域一帯でここ数ヶ月の間に住人の引っ越しによる出入りが激しかったらしい」
「……っ! そういうことか」
ここに来て火伊那とジェントル、ラブラバも二人が何に気付いたのかに勘付いた。確かにそれならば監視の目を完全に欺いたと思っても綻びが出てくると。
同時に敵の強大さにも気付くことになる。それほどの組織力がある相手に今日まで出し抜けていたのは半ば奇跡に使いだろうと。それはそれとして、もう一つの話題に関してはホークスも力になれない様子で両手を上げ降参のポーズをしてから
「お嬢様云々はちょっと俺には荷が重いかな。まぁ、何とかなると思うよ? 彼女だって何でもかんでも抱え込もうって思ってないと思うし」
「誰が何を抱え込もうって話なのかしら?」
「おっと、噂をすれば影って奴だ」
影から出てくるように現れたレイミィにホークスを含めた全員が安堵の息を吐きだす。とりあえず、見た感じではどこかで絡まれたということもない様子であり、その安堵の空気を感じ取ったレイミィだったがまだ作戦は終わってないとばかりの表情のまま、ケースから圧紘が圧縮されてるのを転がす。
転がされたそれは直ぐに解除され、グッと身体を解す圧紘にレイミィは警戒態勢を崩さないまま。
「コンプレス、悪いけど直ぐに全員の圧縮を解除して、それとホークアイ、貴女が着ている光学迷彩マントを青山夫妻のどっちかに」
「了解、すぐに解除するよ」
「あぁ、つか此処だったらもうコードネームじゃなくても大丈夫だろ?」
「……一応の警戒よ。手が回ってるのがあの地区だけなら良いんだけど」
その言葉にホークスも流石に考えすぎだよとフォローする。勿論出任せというわけでもなく、この辺りの住人は白であることは分かっているからこその言葉なのだが、レイミィとしてはそれで納得はしたくないらしい。
もしかしたら先手を打たれても可笑しくないんじゃないかと、自分たちがよくやる手段のように泳がされているのではないかと真剣な眼差しで告げれば。
「お嬢様、肩の力抜いて。公安だってそこまで無能じゃないよ」
「それにだ、流石にこの人気のない所で視線を感じれば俺達だって気付ける。それがないならそういうことだ」
「そう、ね」
まだ納得しきれたというわけではないがとりあえずはという感じの言葉を吐いたタイミングで残りの圧縮状態が解除され、直ぐに青山夫妻の容態を確認しに向かえば、見た感じでは異常はない様子と二人から問題ないという言葉を聞きやっとレイミィは息を吐き出した。
「それではお二人にはこの光学迷彩マントを羽織ってもらいます。その後に彼を筆頭に公安が貴方達を安全な場所まで護送する流れになってます」
「はじめまして、公安所属のホークスです。お二人の身の安全は我々にお任せを」
深々と頭を下げるホークスを見て夫妻も安堵の表情を浮かべる。まだ絶対に安全という訳ではない、それでも今までのように怯えながら過ごさなくてもいいという状況になるというだけでも違ってくる。
だがそれはあくまで夫妻のみ、まだ彼らにとって宝と同等の優雅の存在が残っている。だからだろう、夫妻はマントを羽織りながらレイミィたち便利屋の方を向いて。
「改めてどうか、息子をお願い致します」
「任せてください。必ず守りきってみせますから、お二人も安心してください」
「それでは行きましょう。スカーレット、事が終わったら連絡を入れるから」
「頼んだわよ」
短いやり取りを行ってからホークスは光学迷彩を発動した夫妻を周りから不審に思われない動きで用意した車へと案内していく。その後は何度も車を乗り換えつつ最終的にはI・アイランドへと到着する手筈になっている。
だがそれは公安の仕事、便利屋およびラブラバ達のやれることは此処までであり、それを自覚したのだろうレイミィがやっと警戒態勢を解除するように息を吐き出したのを見て被身子から。
「えっと、とりあえずはお仕事完了ってことでいいんですよね?」
「とりあえずはね。ただ私達も早いところこの場所から去りましょう。長居してても良いことないでしょうし」
「それは良いけど、お嬢。なんで、あの時は急に計画を変更したんだ?」
撤収する準備を行っている間に仁がふと思い出したかのようにレイミィに問いかけ、それを確かに何でですか? と気になるとばかりに作業の手を止めないで被身子も視線を送る。
一方、圧紘は火伊那からの通信を圧縮状態の時に整理していた時にもしかしてという可能性に行き当たっていたのでそこまで気にしていない。ともかく、その質問が飛んでくるのは分かってたという感じにレイミィは作業の手を進めながら端的に伝えた。
「多分だけど、あの地域一帯が夫妻を監視する檻になってたわ。ようは
「考えればすぐに思い至ることだった。ここまでの組織力があるなら、それくらいはやってのけても不思議じゃない」
「そして今回見事にしてやられたってわけね。でも発覚が遅れたのはやっぱりコピー体のお陰かしら?」
「だろうね、端から見ただけじゃ何かがあったとは気付けない。だというのに気付かれたのは不幸の一言だろう」
或いは耳が特別良かったか、音関連の〝個性〟持ちが居たか。どうであれ、少し考えれば思い至ることに気付けなかったことでしなくて良い危険な綱渡りをさせてしまったということがレイミィの心に陰を落としてしまった。
「ごめんなさい、先にその可能性に気付くべきだったわって」
全員に私の責任だと頭を下げたレイミィに血染が何も言わずに頭に手を乗せて軽く撫でるように動かす。これにはレイミィもどうしたのかと聞くが何も返ってこず、しかも顔は自分に向けられていないが纏う雰囲気がどこか優しいことに更に困惑の表情を浮かべる事に。
本当にどうしたんだコイツ、そう思わずにはいられ無いレイミィと彼の唐突な行動に首を傾げる被身子と仁。けれど事情というかついさっきまでの会話を思い出したラブラバ達はあぁとどこか納得の表情をし、それを見た圧紘もなにかやり取りがあったんだろうなと同じような顔で血染とレイミィを見つめる。
「ちょ、ちょっとステイン?」
「何でもかんでも自分の責任だと抱え込むな。お前一人の組織じゃないだろ」
「は? え、本当に何があったのよ……」
「ふっ、そろそろ撤収するぞ」
「ちょっと、ステイン? ステイン!?」
騒ぐなと言いつつ動き始める血染をだったら説明しろと詰め寄るレイミィ、その二人を見て何かあったのです? と被身子が聞いてラブラバが話してから、まるで親子という感じのやり取りをする二人に。
「本当に不器用な父親ねぇ」
それはみんな思ってます。被身子の小さな呟きは夜の闇に溶けていき、便利屋とGeLinc.組は撤収。こうして誰にも気付かれること無く青山夫妻はコピー体と入れ替わり保護に成功。
後日、ホークスから二人はI・アイランドにて保護を完了という連絡を受けたことによりこれで後顧の憂いは消滅。これによりレイミィ達の計画は最終段階へと移行することに。
「くわ~、ねむ」
「大丈夫? バートリー、なんだか朝からずっと眠そうだけどさ」
「色々と仕事がね……」
林間合宿当日、レイミィはバスの窓から外を眺めながら目を細める。いよいよ、運命の日がすぐそこに迫っていると。
何だか色々と端折ったりなんだりしてるけど林間合宿まで進めたからヨシ!!