筋は悪くない。俺が思ったまず初めの感想だ、バートリーもあまり実態を掴めていなかったがなるほど、雄英に受かるだけの実力と精神はあるらしい。
「くっ……そ……」
クラスとしての連携のレベルも中々に舌を巻く物があった。仮にこれが俺一人の襲撃だったのならば一手間違えれば負けも見えていたのは確かだ。
無論、連携が拙いとも言う部分も多々見受けられたがそこは単純に実戦経験のなさが原因だろう、そこらは合宿中でも学校でも鍛えれば勝手に化ける。俺達が手を出すまでもないと考えるべきだ。
だが個人単位で見ると落第ではないが合格でもないというところか。〝個性〟の扱いが悪いとかではない、厳しく言えば動きがどれも粗く、素直過ぎるの一言でしか無い、便利屋として介入するならそこを重点的に鍛えたほうが手っ取り早い、後でバートリーに話しておくか。
連携という形で誤魔化されてはいるのだが、その連携が剥がされたあとになるとそれがよく分かる。〝個性〟に頼りっきりな動きだったり、そもそも
《なぁおい、やりすぎじゃねぇかこれ、どう思うよ部長殿》
《
通信機越しから二人のそんな声が聴こえたような気がするが気の所為だろう。それと小声だろうとあまりそういう事はネタバラシの前に喋るな、耳が良い生徒が居て聴かれたらどうするつもりだ。
そもそもの話、この程度のことでトラウマになってヒーロー活動に支障が出るという程度ならば此処でふるい落としたほうがコイツラのためとも言える。現場はそれだけ過酷だ、寧ろ俺のはまだ手緩いとすら言える。
《うーん、スパルタ。所長が大丈夫だったからって基準にしないほうが良いと思うんだけど》
なんとでも言ってろ。さて、此処からどう事を進めるか、とりあえず三人でB組全員を伸しては見たが倒れてはいるだけで意志は折れてないのは良いことだと思いつつ俺の目の前で倒れている一人の男子、確かコイツは……鉄哲徹鐵とか言ったか、ともかくそいつに向け
「雄英高校のヒーロー科、ヒーローの卵だということを加味してこの程度とは底が知れている。これならA組の方を襲撃したほうがまだ楽しめたとすら思えるな」
「ん、だと……! 舐めんなよ、俺達はまだ、ガッ!?」
「吠えるなよ卵未満。20人も居てたかが
なるほど、まだ啖呵を切れるくらいには戦意は維持しているらしい、実に良い心意気だ。相手が強敵だと分かるや心が折れて戦意を喪失するヒーローも昨今よく目撃されているからな、そこがないのは流石は一流高校に受かる生徒だと内心で称賛を送る。
だが現実は意気込みだけでどうにかなるほど甘いものでもない。実力が伴わなければ、所詮青二才の遠吠えでしかないわけだ。故にこうして頭を足で踏み付け如何にもな
仲間をこうして足蹴にされ、しかも自分たちの教師も救うことも出来ずに一蹴されたということに歯を食いしばりながら、それでもという心意気で立ち上がろうとする姿に思わず笑みを浮かべてしまう。
《おい、何笑ってんだ、怖いぞ》
《嬉しいんだと思うよ、ああやってヒーローらしく立ち向かおうとしてくる姿がさ》
《拗らせてんなぁ》
煩いぞお前ら。さて、立ち上がるというのならばこちらも答えるしかない、とは言えこの獲物もあまり長々とは保たないだろう、ここまでの戦闘で可能な限り受け流すようにはしていたがそれでも受け止めてしまった場面もあり正直に言えば後一度でもまともに受ければ折れる。
一応、バートリーも実戦仕様のものを公安に掛け合って用意してもらえるようにはしたとは言え、今日中に届くかは怪しい、ならばここで折れてしまうのは今後の予定に影響が出るっと。
「何時までも人を踏んでんじゃねぇぞオラァ!!」
「なんだ、眠かったから動かなかったわけじゃなかったのか」
力任せに起き上がりからの攻撃を回避、元気があるのは良いことだ。追撃に来た腕に刃を生やした【鎌切 尖】の攻撃をスタンロッドの側面で受け流したが、感触的にこのレベルの攻撃もあと一撃ってところか。
いい動きではあるが直情的過ぎる。状況的に焦っているからと見るべきだろうがこういう時こそ冷静に対処できなければヒーロー社会では生きていけない、是非ともこの合宿でそこらも鍛えてもらいたいものだ。
《おっと、いやぁ、若いって良いねぇ。動きのキレがおじさんよりも遥かに良い、ステイン、俺ちょっとそろそろキツイかなって》
「ほざけ、数人を圧縮して人質戦法であしらって、息一つ上がってないくせに」
《いやいや、そうしないとあの人数は流石に勝負にならないって》
よく言う、確かに俺たちに比べたら接近戦は苦手かもしれないが、子供相手に負けるほどじゃあるまい。実際、こんなやり取りをしてる最中でも通信機を起動させながら会話ができてるのが何よりの証拠だ。
要はおちょくってるってだけだ、あの調子ならまだもう少しは問題ないだろうっと、悪いが貴様の打撃は受けてやることはできんな【庄田 二連撃】
「僕のは回避する……? こっちの〝個性〟は把握されている?」
「体育祭を見てれば把握なんて容易いだろ、それとも目立ってないから大丈夫だとでも胡座かいてたか?」
《おぉ、煽る煽る。っと、悪いな坊主、お前だけはフリーには出来ねぇんだ》
「っ!?」
「物間!?」
銃声が森に響くと同時に物間寧人の足を火伊那の模擬弾が貫く、模擬弾だから怪我こそしないとは思うがそれでも骨にまで響く威力はあるので足止めには十分だ。
それと味方が撃たれたからと足を止めるなよ、少女。特に狙撃箇所が分かってないのならなおのことだ、スナイパーってのは敢えて殺さずに撒き餌にするらしいからな。
《お、次は誤射をお望みか? いや、何度かやったことはあるけどな》
冗談にもならないことを通信越しに言うな、というかあるのかよ。唐突に掘り起こされた新事実に内心で苦笑しつつ鉄哲を足蹴に後方に一気に跳び距離を稼ぐ、どうやら圧紘も同じように後退してきたが俺の顔を見るや。
「涼しい顔してるねぇ、おじさん本気で辛いんだけど?」
「これでもキツイとは思ってるがな、スタンロッドがそろそろ限界だ、ホークアイ」
《私はまだ余裕だ、頑張れ》
前線に来ないからって他人事だなおい、言っておくが俺も決して楽勝ということは間違っても言えないからな。確かに個々の動きは粗いだなんだと言ったが三人で相手できてるってのが大前提にあっての評価だ。
もし一人だったら初めに言ったかもしれないが負けが見えるレベルには強い、やれやれこうして考えると俺達は本当に初見殺しに特化してると分かるな。
「ハハッ、確かに。こうして腰を据えての戦闘はあまり得意じゃないってのはその通りだ」
「正面戦闘となるとスカーレットが出張ってたしな、俺も自惚れるわけじゃないがそれなりに出来るが……さて、休憩は終わりだ、行くぞ」
「えぇ、もう降参で良いんじゃないかなって、はいはい、やりますよ」
腑抜けたことを言ってるように聴こえるが声はそうじゃない、素直に言えば終了条件を聴いてないからバートリーの介入があるまでは
体感ではそろそろ介入が来そうだとは思うんだが……そう言えば、被身子と仁は上手くやれてるんだろうか、数と変身による撹乱された状態からの対処という建前の訓練らしいが。
「イケー!!」
「っ! ちっ」
「やった! 今だみんな、畳んじまえ!!」
飛んできた角を受け流す形で防いだ瞬間、スタンロッドが嫌な音を立てて中心から折れた。思ったよりも【角取 ポニー】という少女の〝個性〟の角は強かったらしい、見くびっていた。
得物を失ったと見るや一斉に動き出すのも悪くない選択だ、ここまで戦ってれば圧紘が接近戦はそこまでじゃないっていうのは嫌でも分かることだろう。この乱戦中にもそれをしっかりと見てたのは褒めるしかない。
だが、甘いな。得物が無くなったからと言って弱体するほど
「うわわっ、なにコレ鎖……?」
「これはバートリーさんの?」
困惑する声がB組連中から漏れる。そこには深紅の鎖が俺達とB組を仕切るように幾重にも展開されている光景、これを見て一人が気付いたようだが、それよりもと俺は空を見上げる。
見れば予想通り、クスクスと俺を見て笑うバートリーの姿、それから俺達の背後の森の影から出てきたのは先に相澤、いや、イレイザーヘッドと言うべきか?
「相澤先生!!
「安心しろ、お疲れ様です。どうでしたか?」
「へ?」
「悪くない。ただ個々の練度は早急に上げるべきだ、あと奇襲された際の動きもだな」
イレイザーヘッドが出てきたと思えば俺と会話を始めたとなればB組の困惑は更に深まるしかないだろう、その辺りの説明は俺の領分じゃない。
とりあえず圧紘にブラドの解放を指示してから、通信機でまだ上空に居るバートリーに向けて
「降りてこい、お前が説明するんだろ」
《分かってるわよ、それにしても被身子と火伊那、冬美さん、冷さんの四人分だけなのに随分と〝個性〟が強くなってるわね》
確かに今までだったらこれだけのブラッドチェーンを撃ち出すことは出来ないはず、コウモリを使ったと考えても出力が今まで以上に上がっているのは見て分かるほどになっている。
それに強度や威力も言うまでもなく上がっているだろう。よく見なくても一本一本が太くなってる、まさかこれほどまでとは本人もだが俺も驚きを隠せない。
「ふむ、完封とは行かずとも外傷らしい外傷は与えられぬか……」
「そこは彼らもプロです、気に病まないほうが良いでしょう」
「あ、あの、これはその、どういうことで?」
「どういうことで? そうね、
やっと降りてきたバートリーがB組の面々、いや、あの視線の先は物間だな。こいつ、爆豪が落ち着いてきてツマラナイとか言ってたがまさかターゲットを変えやがったのか。
是非とも無駄な火種を生み出すようなことは止めてほしいものだ、コイツのこの悪弊はどうやったら治せるんだろうな……
「
「どうもなにも、物間が言ってたじゃないの。A組は一度だけ本物の
「あ~、あれは所長のスイッチ入り掛けてるね。どうする、副所長」
「いよいよになったら止めるしかないだろ」
止めて治るならすぐにでも止めるがもう半ば手の施しようがない部分がある。なのでマズくなったらぶっ叩いて止めるという方針にしたのは何時からだっただろうか。
まぁ学園じゃ俺が居ないから出来ないがゆえに、イレイザーヘッドに任せてたのだが。そうだな、その辺りは丁度いいから今、頭を下げておくか。
「イレイザーヘッド、ウチの所長が毎度迷惑をかけてるようですまないな」
「気にしなくても問題ないですよ。それにあの程度は正直に言えばまだ可愛げがありますしっと」
ガサガサと遠くから狙撃に徹していた火伊那も森の影から現れ、イレイザーヘッドはその姿を見て固まってから、なるほどと納得しつつ。
「お宅の所長は随分とやることが派手で」
「お陰で毎度のように頭痛を感じる、まぁホークスよりは遥かにマシだとは思うがな」
「アイツ、ここ数ヶ月で胃薬の使用量が増えたらしいぞ。向こうのサイドキックが電話で愚痴ってたのを聞いた」
無理もないだろうな。バートリーが動けば公安に掛け合うことが大半で、その窓口がアイツなんだ。ともすれば胃にダイレクトにダメージが入るのも無理はない、同情する。
さて、見ればバートリーの煽り芸が全開になりつつあるので動き出すか。ったく、物間がいい反応するからって活き活きし始めてるんじゃないっての!
「いったぁあああい!!! 何よ、説明中なのよ!!」
「説明は開始一分で終わってただろうが、すまない物間。こいつの言うことはスルーしてやってくれ」
「え、あ、いや、はぁ」
困惑する物間の姿にコイツ本当はさほど性格は悪くないんだろなと思う。ま、雄英高校に入れるということはつまりはそういう事なので当然なのだろうが。
とりあえず残りの説明はヴラドが行うということで全員で宿泊施設まで向かう最中、通信機越しに絶叫と悲鳴が聞こえたと同時に森の一角が吹っ飛ぶような爆音が響き渡り、事態を大体理解したうえで俺は呟いた。
「……数に対する答えとしては満点だな」
周りに人工物が一切ないのが前提だが。と
試作品のスタンロッドが壊れたという報告を聞いた発目ちゃんは絶叫したとか何とか。